スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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千百九話 ゆっくりと、徐々に心を

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「……アラッド、彼女たちは」

「やはり、混乱していたか」

「…………えぇ。随分と、自身の現状を理解するのに苦しんでいました」

休息中、フローレンスは先程まで戦っていたイリスたちに関して話し始めた。

「あぁ~~、そういえば凄いなんで? って疑問を口にしてたよな……やっぱりさ、あのケプトって男がなんかしてたの?」

「そうだな…………何かしていたかと言えば、何かしていた可能性は高いかもな」

「そういえば、戦闘が始まる前に大爆笑してたよね。それと何か、関係があるの?」

ケプトたちとの戦闘が始まる前、アラッドはケプトのステータスを見て……スキル欄に載っていたヒモというスキルを見て、不覚にも戦場という場所で腹の底から大爆笑をしてしまった。

「可能性は高い。あの男、ケプトはヒモというスキルを持っていた」

「ひ、ヒモ? 紐って……何かと何かを結ぶ紐じゃなくて?」

「あぁ、その紐じゃない」

「紐ではない、ヒモ……………………?????」

アラッドが自分たちをからかってる訳ではないことは解っている為、スティームとフローレンスは真剣にどういう意味なのか……ひもという言葉に、紐以外の意味があるのか考える。

「………………………………あっ!!! えっ、もしかして……そういう、意味?」

同じくガルーレも考えて考えた結果、二人よりも平民の一般常識、歓楽街のあれこれなどに関しても詳しいため、偶に……本当に偶に耳にしていた言葉を思い出した。

「ガルーレ、何か知ってるのですか?」

「えっと、なんか……こう、働いてる女性に養われて、養われてるくせに、何もしない男を……ヒモって誰かが言ってたような?」

アラッドがまだ知らないだけで、この世界にも同じ意味で、ヒモという言葉が一応存在していた。

「それは…………?????」

フローレンスはガルーレが口にした言葉の意味が解らない訳ではない。
解る……何を言ってるのかは解るが、そういった存在が何故いるのか、理解が出来なかった。

貴族の一員であるフローレンスだが、仮定の中で男性が外で働かないことに関して……特に意見することはない。
働いていない訳ではないが、フローレンスの実家であるカルロスト公爵家に仕える男性たちの中に、非常に家庭的なスキルが高い者がいる。

だからこそ、家庭内での仕事が出来るのであれば、そういうのも一つの家庭の形と言える……というのは、解る。

しかし、ガルーレの話を聞く限り、ヒモと呼ばれる男は家庭での仕事を行っていない、と聞こえる。

「あ、アラッド。どう説明すれば良いのかな」

「さっきの説明で間違ってはいないと思うぞ、ガルーレ。俺も別に詳しくはないが、世の中に一定数、異性を養いたいという者がいるらしい」

「養いたい、ですか」

「あぁ。とはいえ、俺たち側の感覚からすれば、養っているというよりは、飼っているという感覚に近いと思うがな」

養うのではなく、飼う。
その言葉を聞いて、ほんの少しだけ……………本当にほんの少しだけ、理解を得たフローレンス。

「…………それが、幸せだと感じている方が、世の中には存在すると……そういう事なのですね」

「理解しがたいかもしれないが、そういう事だ。後は……女性側が惚れた弱みを利用されて、男性側に……ヒモに利用された結果、そういう形になる場合もあるらしい」

アラッドが語る内容が前世で聞いたことがあるものだが、そういった形のヒモ男は、この世界にも存在する。

「っ!!!!! なんて、事を……」

「怒る気持ちは……解らなくもないが、その辺りは個人の問題でもある。俺たちがとやかく言える部分ではない」

「……そうですね。そうなのかも、しれません」

湧き上がった怒りは、そう簡単には消えない。
しかし、アラッドの言う通り自分たちがどうこう出来る部分ではないという言葉を受け、なんとか心を落ち着かせる。

「でも、アラッド。彼女たちはケプトが死んだあと、本当に悲しそうな声を上げたけど、直ぐにさっきフローレンスさんが言った通り、自身の状況を理解するのに苦労してたよね」

「そうだな……俺も詳細を視れた訳じゃないから、これから話す内容は確定ではない。ケプトが有していたスキル、ヒモというのは他者を……女性を洗脳する効果を有している可能性が高い」

「「っ!!!」」

アラッドの予想を聞き、女性二人が激しい怒りを零す。

「ふ、二人とも。その……えっと」

四人プラス三体もいれば、存在を隠しても無駄と言えば無駄かもしれないが、現在ガルーレとフローレンスからは自分たちがここにいると伝えてしまうほど強烈な怒気を零していた。

それはよろしくないと伝えようとしたスティームだが、二人が怒る理由が解るからこそ、無理に零れている怒気を抑えた方が良いとは言えなかった。

「あくまで、俺の予想だ」

「っ、それはそうかもしれないけど! ……っ…………あれ? でもさ、異性を洗脳出来るなら、なんでまず私とフローレンスさんを洗脳しようとしなかったんだろ」

二人を洗脳し、自分側に付かせれば、戦況は大きく変動することになる。
それこそ、クロとヴァジュラも参加しなければならず、アラッドもケプトを引き上げようという私情を優先することもなかった。

「おそらく、その場で直ぐに洗脳することは出来ない筈だ。それが可能なら、ケプトの回りにはもっと多くの女性がいた筈だ」

「……もしや、遅効性のある洗脳……なのですか?」

「ゆっくりとではあるが、傍にいる時間を費やしていけば、その相手を洗脳できる……いや、心を歪めると言った方が正しいか?」

「それって、本当はそういうタイプが好きな訳がないのに、徐々にケプトって男の特徴が好きになっちゃう、ってことだよね」

「俺の予想ではあるけどな」

個人の予想ではあるがと語るアラッドだが、その予想はまさにドンピシャであった。

ヒモというスキルは、持ち主の傍にいる異性を……正確には、一定以上の好意を、気に入ったという感覚を持った存在に効果を発揮する。

そのため、最初にケプトの財布となった女性は、まだ彼が普通に……夢を追いかける若僧の頃にパーティーを組んでいた、一人の女性冒険者だった。
彼女は……既にこの世にはいないが、その彼女から得たスキルが、剣技であった。

「そして、自身の……虜? にした人物が、一番得意なスキルを得られる。それが、ヒモというスキルの真骨頂と言えるだろう」

「最後の、彼女たちから魔力などを吸い取ったのも、効果の一部だと」

「あれは………………いや、そうだな。洗脳をしてた以上、吸い取ってるのと同じだな」

「……ねぇ、アラッド。もしかしてなんだけどさ、あの五人の仲の誰かは……その、上の人間がケプトのスキルを理解した上で、傍に居させたってこと」

「………………ケプトを強くすることを考えれば、それが一番手っ取り早いだろうからな」

「っっっ!!!! …………だから、アラッドは最初に可能なら殺すなって、言ったんだね」

最初から全て解っていた訳ではない。
それでも、最初から違和感を感じずにはいられなかった。

恋愛経験が皆無と言って良いアラッドがそれを言っても説得力はないだろうが、普通の関係には……見えなかったのだった。
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