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第49話 洗脳か、不変の思考か
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「おかえり、ミシェラさん。え、えっと……勝ったん、だよね?」
基本的に試合を終えた選手が控室に戻ってくるということは、その試合に勝利したという事。
戻ってくるのがやや遅かったことを考えると、試合が長引いたのか……治療室に寄っていたのかのどちらか。
「えぇ、勝ちましたわ」
勝った……そう宣言する割には、ややムスッとした表情をしている。
当然、そんな表情を見たフィリップは遠慮なく笑った。
「はっはっは! おいおいどうしたんだよ、そんなふくれっ面してよ~。試合には勝ったんだろ?」
「そうですわね。確かに勝ちましたわ」
「……そんな不機嫌になるほど、苦戦したってことなんか?」
ミシェラの強さをその身で体感しているからこそ、多少の驚きを感じなくもないフィリップ。
「確かに苦戦しましたわ。ですが、そこに関してはどうでも良いのですわ」
イシュドと出会う前から、自分こそが最強だ!!! などと自惚れてはいなかった。
激闘祭のトーナメントに参加すれば、苦戦と言える戦いを何度も経験するだろうと予想していた。
「あの男、絶対にっ!!!!」
試合が終わった後、確かに良い笑顔で拍手をしているイシュドを見た。
その時は無意識に笑みを浮かべてしまっていたミシェラだが……よくよく考えれば、自分が不完全なエアステップを発動し、アイスフロアに激突したところも見られているのは間違いない。
あのクソ性格悪男が自分のあんな姿を見て、爆笑しないわけがない……というミシェラの想像が見事的を得ていた。
試合が終わった時こそ、イシュドはミシェラとフルーラの二人に賞賛を込めた拍手を送っていたが、ミシェラがアイスフロアに激突した時は……一切心配することなく、その間抜けな姿を見て爆笑していた。
「なんとなく予想出来そうだけど、とりあえず次も勝って勝つしかないんじゃねぇの?」
「言われなくても解ってますわ」
「そうですか」
この後、三年生の試合も途中まで区切りが良いところまで終わったタイミングで、昼食を挟む。
そして昼食から三十分後、いよいよ第三試合が始まる。
「……ガルフ」
「ん? どうしたの、フィリップ」
「折れるなよ」
「…………うん。勿論だよ」
フィリップの瞳に、僅かに心配の色が浮かんでいるのを察し、ガルフは再度心のふんどしを締め直す。
「もう問題無いとは思いますが、周囲の声など気にせず挑みなさい」
「ありがとう、ミシェラさん」
ガルフが控室からリングへ向かった後、フィリップは変わらず普段と違った重苦しい雰囲気を零していた。
「あなたにしては、珍しい顔つきですわね」
「……多分だけど、ガルフの第三試合の相手は、ディムナだ」
「っ!! ディムナ・カイス……なるほど。あなたがガルフを心配するのも解りますわ」
サンバル学園所属の一年生、ディムナ・カイス。
ミシェラと同じく、実家は侯爵家であり、サンバル学園の中でも屈指の実力者。
(私もノット紳士たちと訓練を始めてから技量は上がったと思いますが…………四割。いえ、三割五分、といったところでしょうか)
ディムナ・カイスは、ミシェラが同世代の中で、確実に自分より強いと認める人物。
十回戦って十回とも負けることはないが、それでも勝ち越せるイメージが湧かない。
それはミシェラだけではなく、フィリップも同じだった。
(加えて……平民を見下す者たちの中でも、特に見下す傾向が強い)
裏で身寄りのない平民、奴隷などをいたぶっているという話は聞かない。
だが、それでも平民が対峙した瞬間に、自分が目の前の男に見下されている……あるいは、侮蔑されていると感じる。
貴族社会という、ある種の宗教がそうさせたのか……彼自身の心にそういう部分があるのか。
なにはともあれ、今大会においてガルフと最も相性が悪い対戦相手と言えるのは間違いない。
(僕の方が、先だったか)
リングに先に到着したのはガルフ。
もう、観客たちの視線や声には……そこまで感じるものはない。
ただ……ずっと応援し続けてくれている友の声だけは、しっかりと耳に入ってくる。
(この試合に勝てば……準決勝)
絶対に負けられない。
その気持ちは第一試合の時から持ち続けていたが、更に強く膨れ上がる。
(っ!!??)
リングに続く通路から対戦相手の生徒が見えた。
次の瞬間……位置的には、ガルフが見下ろしている。
にもかかわらず、何故か自分が見下ろされていると感じた。
そしてそれは第三試合の対戦相手、ディムナ・カイスがリングに上がり、面と向かい合い……よりはっきりと感じた。
目の前の人物は間違いなく、自分を見下ろしているのだと。
「…………」
これまでの対戦相手とは違い、リングに上がって目が合うなり、挑発したり罵倒してくることはない。
ただ、それでも本能的に解ってしまう。
目の前の生徒は……自分を生物として見下ろしている、見下しているのだと。
(この感じ……これまで向けられてきた視線とは明らかに違う)
見下すことに信念を感じる、という言葉はおかしいかもしれないと思いながらも、自分を見る眼が明らかにこれまでの眼とは違うと感じたガルフ。
「……ここは、貴様の様な者がくる場所ではない」
「…………」
確かな重み、重圧が含まれていた。
スキルを発動している訳ではない。
だが、発する言葉に対して、向けた相手への重圧が含まれており……見えない何かが両肩にのしかかる。
「僕の友達も他の人に言っていたけど、それはどうか……フラベルト学園に伝えてください。僕はただ……全力で戦い続けてきただけなので」
「…………」
平民という存在を見下し、見下ろす男、ディムナ・カイス。
平民からすればふざけんなクソ坊ちゃん貴族が!!! と怒鳴り散らしたい男。
しかし、彼はガルフが口にした言葉が解らないほど、愚かすぎるに人間ではない。
ただどうしようもなく、他者から何を言われても変わらないであろう思考が宿っていた。
「そうか。では、激闘祭に参加したことを後悔させてやろう」
「それは残念だね。僕は既に第一試合、第二試合を勝ち抜いて第三試合までこれたから、後悔なんて思いは微塵もないよ」
「…………」
言葉で圧されたままではよくないと、咄嗟に機転の利いた言葉が出たガルフ。
強敵を相手に全く物怖じしない態度を見せる友を見て、イシュドはより一層応援の声を高める。
基本的に試合を終えた選手が控室に戻ってくるということは、その試合に勝利したという事。
戻ってくるのがやや遅かったことを考えると、試合が長引いたのか……治療室に寄っていたのかのどちらか。
「えぇ、勝ちましたわ」
勝った……そう宣言する割には、ややムスッとした表情をしている。
当然、そんな表情を見たフィリップは遠慮なく笑った。
「はっはっは! おいおいどうしたんだよ、そんなふくれっ面してよ~。試合には勝ったんだろ?」
「そうですわね。確かに勝ちましたわ」
「……そんな不機嫌になるほど、苦戦したってことなんか?」
ミシェラの強さをその身で体感しているからこそ、多少の驚きを感じなくもないフィリップ。
「確かに苦戦しましたわ。ですが、そこに関してはどうでも良いのですわ」
イシュドと出会う前から、自分こそが最強だ!!! などと自惚れてはいなかった。
激闘祭のトーナメントに参加すれば、苦戦と言える戦いを何度も経験するだろうと予想していた。
「あの男、絶対にっ!!!!」
試合が終わった後、確かに良い笑顔で拍手をしているイシュドを見た。
その時は無意識に笑みを浮かべてしまっていたミシェラだが……よくよく考えれば、自分が不完全なエアステップを発動し、アイスフロアに激突したところも見られているのは間違いない。
あのクソ性格悪男が自分のあんな姿を見て、爆笑しないわけがない……というミシェラの想像が見事的を得ていた。
試合が終わった時こそ、イシュドはミシェラとフルーラの二人に賞賛を込めた拍手を送っていたが、ミシェラがアイスフロアに激突した時は……一切心配することなく、その間抜けな姿を見て爆笑していた。
「なんとなく予想出来そうだけど、とりあえず次も勝って勝つしかないんじゃねぇの?」
「言われなくても解ってますわ」
「そうですか」
この後、三年生の試合も途中まで区切りが良いところまで終わったタイミングで、昼食を挟む。
そして昼食から三十分後、いよいよ第三試合が始まる。
「……ガルフ」
「ん? どうしたの、フィリップ」
「折れるなよ」
「…………うん。勿論だよ」
フィリップの瞳に、僅かに心配の色が浮かんでいるのを察し、ガルフは再度心のふんどしを締め直す。
「もう問題無いとは思いますが、周囲の声など気にせず挑みなさい」
「ありがとう、ミシェラさん」
ガルフが控室からリングへ向かった後、フィリップは変わらず普段と違った重苦しい雰囲気を零していた。
「あなたにしては、珍しい顔つきですわね」
「……多分だけど、ガルフの第三試合の相手は、ディムナだ」
「っ!! ディムナ・カイス……なるほど。あなたがガルフを心配するのも解りますわ」
サンバル学園所属の一年生、ディムナ・カイス。
ミシェラと同じく、実家は侯爵家であり、サンバル学園の中でも屈指の実力者。
(私もノット紳士たちと訓練を始めてから技量は上がったと思いますが…………四割。いえ、三割五分、といったところでしょうか)
ディムナ・カイスは、ミシェラが同世代の中で、確実に自分より強いと認める人物。
十回戦って十回とも負けることはないが、それでも勝ち越せるイメージが湧かない。
それはミシェラだけではなく、フィリップも同じだった。
(加えて……平民を見下す者たちの中でも、特に見下す傾向が強い)
裏で身寄りのない平民、奴隷などをいたぶっているという話は聞かない。
だが、それでも平民が対峙した瞬間に、自分が目の前の男に見下されている……あるいは、侮蔑されていると感じる。
貴族社会という、ある種の宗教がそうさせたのか……彼自身の心にそういう部分があるのか。
なにはともあれ、今大会においてガルフと最も相性が悪い対戦相手と言えるのは間違いない。
(僕の方が、先だったか)
リングに先に到着したのはガルフ。
もう、観客たちの視線や声には……そこまで感じるものはない。
ただ……ずっと応援し続けてくれている友の声だけは、しっかりと耳に入ってくる。
(この試合に勝てば……準決勝)
絶対に負けられない。
その気持ちは第一試合の時から持ち続けていたが、更に強く膨れ上がる。
(っ!!??)
リングに続く通路から対戦相手の生徒が見えた。
次の瞬間……位置的には、ガルフが見下ろしている。
にもかかわらず、何故か自分が見下ろされていると感じた。
そしてそれは第三試合の対戦相手、ディムナ・カイスがリングに上がり、面と向かい合い……よりはっきりと感じた。
目の前の人物は間違いなく、自分を見下ろしているのだと。
「…………」
これまでの対戦相手とは違い、リングに上がって目が合うなり、挑発したり罵倒してくることはない。
ただ、それでも本能的に解ってしまう。
目の前の生徒は……自分を生物として見下ろしている、見下しているのだと。
(この感じ……これまで向けられてきた視線とは明らかに違う)
見下すことに信念を感じる、という言葉はおかしいかもしれないと思いながらも、自分を見る眼が明らかにこれまでの眼とは違うと感じたガルフ。
「……ここは、貴様の様な者がくる場所ではない」
「…………」
確かな重み、重圧が含まれていた。
スキルを発動している訳ではない。
だが、発する言葉に対して、向けた相手への重圧が含まれており……見えない何かが両肩にのしかかる。
「僕の友達も他の人に言っていたけど、それはどうか……フラベルト学園に伝えてください。僕はただ……全力で戦い続けてきただけなので」
「…………」
平民という存在を見下し、見下ろす男、ディムナ・カイス。
平民からすればふざけんなクソ坊ちゃん貴族が!!! と怒鳴り散らしたい男。
しかし、彼はガルフが口にした言葉が解らないほど、愚かすぎるに人間ではない。
ただどうしようもなく、他者から何を言われても変わらないであろう思考が宿っていた。
「そうか。では、激闘祭に参加したことを後悔させてやろう」
「それは残念だね。僕は既に第一試合、第二試合を勝ち抜いて第三試合までこれたから、後悔なんて思いは微塵もないよ」
「…………」
言葉で圧されたままではよくないと、咄嗟に機転の利いた言葉が出たガルフ。
強敵を相手に全く物怖じしない態度を見せる友を見て、イシュドはより一層応援の声を高める。
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