転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

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第48話 ニヤニヤ、ではない

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「アイスフロア!!!!!!」

フルーラが勢い良く地面に杖先を叩きつけると、氷の床が展開された。

本来のアイスフロアは使用者を始まりの起点として徐々に凍らせていくが、周囲に水がばらまかれていた場合……魔法を発動したタイミングからほんの数瞬で水があった場所は凍り付き、相手の機動力を奪う。

その水も起点になるため、戦場の地面を氷漬けにするタイミングが格段に早い。

(これが、目的でしたか!!!!!!)

だが、ミシェラのここ最近随分と養われた戦闘勘が上手く働いたのか……氷弾の弾幕を掻い潜って距離を縮めるという正常な選択肢を取らず、咄嗟に屈めた脚を上に開放。

氷の弾幕だけではなく、無事アイスフロアによる拘束も回避することに成功。
着地に不安が残るものの、危機を脱することに成功した……とは断言出来なかった。

(不味い、ですわ!!!!!!)

遠距離攻撃が得意な相手と戦う時に一番取ってはいけない行動とは何か。

これまでに対魔法使いとの経験がよくあるミシェラは解っていた。
それは……宙に跳んではいけないこと。

必要最低限の高さであればまだしも、今回のミシェラは氷の弾幕と絨毯を躱すことに意識が向き過ぎてしまい、一番やってはいけない事を忘れてしまっていた。


不覚を取った。


自身も自覚している、一番取ってはいけない行動を取ってしまったミシェラの脳裏に敗北の二文字が過る。
だが、それと同時に……ニヤニヤと笑みを浮かべ、小バカにしてくるイシュドの顔が浮かんだ。

(ふざけるな、ですわ!!!!!!!)

このままでは三つのアイスランスが飛来し、防げたとしても一気に勝負を持っていかれてしまう。

ミシェラは一か八から……自分の足裏に風の魔力を展開……そして固定。

「ッ!!!!!!!!」

エアステップ……と呼ばれる風魔法ではなく、風の魔力操作によって空中でも移動できる高等技術。

「なっ!!??」

これまで一度も狙った通りの方向に飛んだことがなく、強度が足りずに無様な落下をしたこともあった。

しかし……今回実行したエアステップにより、ミシェラは宙に向けてアイスランスを放ったフルーラの視界から消えた。

次の瞬間、何故か視界の下から強烈な激突音が聞こえた。

(い、いったいですわ~~~~~~~~っ!!!???)

咄嗟に行った高等技術、エアステップ。
その選択自体は……間違いなく最良の判断と言えた。

だが、ぶっつけ本番で行った空中散歩は完全に成功したとは言い難く、凍った地面に体の側面から激突。
不完全な移動方法を行えば、それはそうなってしまうのは必然であった。

因みに、意識すれば両選手の表情まで見える眼を持つイシュドは……丁度ミシェラの顔が見え……大爆笑していた。

(~~~~~~~~~~ッ!!!!! 逃が、すなッ!!!!!!!!!)

骨が折れたのではと錯覚するほどの痛み。
まだその余韻が消えていないが……ここで痛みが引くのを待つほど、日和った性格の持ち主ではなかった。

「こ、これで……私の、勝ちですわね」

「っ……………………えぇ、そうですね。私の、負けです」

「そこまで!! 勝者、ミシェラ・マクセラン!!!!!」

無理矢理起き上がろうとしたミシェラは勢いそのまま、フルーラの首元に双剣の剣先を突き立てた。

「随分と、無茶をしましたね」

グッと悔しさを押し込み、変わらずニコニコとした表情を保つ。

実際のところ、フルーラはミシェラを非常に高く評価していた。
イシュドという例外的な異分子にとっては取るに足らない小娘であったとしても、同世代の学生たちからすれば憧れすら抱く存在であり、上級生たちからすれば後ろから驚異的な速度で迫り、追い抜いていく悪魔。

なので、フルーラはもしかしたら何かしらの方法で三つのアイスランスを躱し、反撃して来るのではと予想していた。

即座に魔法を発動、もしくは杖技で防御する準備は出来ていた。

しかし……宙に跳んだミシェラに氷槍を当てることに思った以上に集中していたこともあって、視界から消えたミシェラに対して即座に反応することが出来なかった。

「勝って……あの全く紳士ではない男を、叩き斬るため、ですわ」

「……ふふふ。やはり気になる殿方がいるのですね」

勝ち上がればぶつかる相手。
その中には当然、勝ち上がっていけばフィリップだけではなく……ガルフとも当たる。

そう捉えられてもおかしくない。
おかしくないのだが……ミシェラとしては、完全に怒りのスイッチである。

「そんな方とはまだ出会ってないと、試合前に伝えたと思いますが? まったく…………紳士ではない男を叩き斬るため。それと、あなたがギャンブルを仕掛けなければ倒せない程強かった。それだけですわ」

「っ……そう、でしたか。ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですね」

負けて悔しい。
その気持ちはそう簡単に消えるものではない。

だが、憧れを抱いている相手から、あなたはギャンブルを仕掛けなければ倒せなかった………そんな最高の褒め言葉を貰って、嬉しくない訳がなかった。

(ポーカーフェイスがこれで良かったですわ)

気を抜けばだらしない笑みを浮かべてしまいそうだが、なんとかいつもの笑みで耐えながら舞台から降りて行ったフルーラ。

(骨に異常はないと思いますが、一応治療室に行きませんと)

舞台から降りる途中、視界に映った男の様子を見て…………ミシェラは無意識に笑みを浮かべていた。


(いやぁ~~~~、中々やるじゃねか、あの金髪デカパイ)

ミシェラとフルーラの試合が終わった後、ほんの数秒前まで爆笑していたイシュドは笑みを浮かべながら両者に賞賛の拍手を送っていた。

上から目線の笑みではなく、良い試合を観させてもらったという純粋な笑み。

(ニコニコデカパイの方も上手く金髪デカパイの動きを読んで攻めてたし、最後の一手も良かった。アイスランスを放った後も対応出来るように構えてた……でも、最後は金髪デカパイの機転と根性が勝った形だな)

エアステップを行い……アイスランスを躱すのに夢中になり過ぎた余り、アイスフロアに激突したことに関しては、これからいつ思い出しても爆笑する自信しかないイシュド。

それでも、そこから強烈な痛みに耐えて双剣の剣先をフルーラの首に突き立てた根性は、称賛を送らない理由がなかった。
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