カバディ男の異世界転生。狩られたい奴はかかってこい!!

Gai

文字の大きさ
22 / 92

二十二話 それだけは年季がある

しおりを挟む
「あの人、なんかカッコつけてたけど、あんまり強くなかったね」

「っ!!!!」

メイナがトボトボと観客列に向かっていると、アルネがまたもや悪意のない槍をぶん投げた。

周囲の騎士たちには、メイナに無数の矢が突き刺さる幻影が見えた。

「……アルネ、ちょっと黙っておこう」

「? 分かりました」

アスクの言うことを素直に聞き、口を閉じた。

普段なら、自分たちが仕える当主の悪口など、悪気がなくとも言われたら怒る騎士たち。
しかし……今回に限っては、アルネが口にした言葉は、中々否定し辛かった。

(アルネの奴、悪気がないからって、何でも許される訳じゃないんだぞ)

アスクと同様に、アルネの毒を含み過ぎている言動に頭を悩ませながらも、自分の前にやってきた女性騎士に目を向ける。

(……綺麗だな)

ジルやメイナと色は若干違うが、美しさのレベルは同じ朱色の髪を持つ女性騎士、フェリス・ホルアーク。
髪は動きやすいように後ろで結んでおり、顔は凛とした美しさを持つ、健全な大人のお姉さん。

軽い鎧を身に付けていても解る、スタイルの良さ。
元が高校生ということもあり、フェリスくらいの女性に惹かれるクランド。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

クランドからの視線に気付いたフェリスだが、思い違いだろうと思い、丁寧な挨拶を行い……直ぐに構えを取った。

(当たり前だけど、超強いな)

相手が所有しているスキルや、本人のレベルを視る鑑定を持っていなくとも、雰囲気や構えだけで格上だと解る。

オークやワイルドボアと対峙している時よりも圧迫感があると感じ、自然と……笑みが零れる。

そんなクランドに対して、フェリスは冷静な思考を持ち、どんな攻撃が来ても対処出来るように構えていた。
メイナとの一戦を見れば、ただの令息でないことは一目瞭然。

嘗めてかかるのは良くないと判断。

「それでは、始め!!!」

騎士が開始の合図を行った瞬間、クランドは手と肘、膝、足に薄い岩を纏った。

「カバディ」

「っ!!??」

前傾姿勢から一気に加速し、槍という武器に物怖じすることなく距離を詰める。

即座に迎撃しようとするフェリスだが、牽制攻撃を全て回避。

(この子は、修羅なのですか!?)

メイナとの戦いでは一ミリも現れなかった、強烈な戦意と殺気を露わにしながら攻めるクランド。

当然、フェリスを殺すつもりなど一寸もない。
ただ……フェリスクラスの相手に挑むのであれば、自分の全てをぶつけるぐらいの熱意を持たなければ、攻撃を掠らせることすら出来ない……という思いを持っていた。

単語レイダー攻撃手をメインとして動いていたクランド……大河は、全身を武器だと認識して試合に臨んでいた。
体の何処かにさえ触れ、自陣に指の第一関節さえ戻ることが出来れば、単語タマ点を取った……という認識で動いていた。

なので、戦意や殺気を放つことに関しては、文字通り年季が違う。
その点に限れば、この世界に転生してからの年数も含めれば、フェリスを上回っていてもおかしくない。

(認識を改める、必要がありますね!!)

目の前の相手は、絶対に負けられないライバル的な相手ではないが、大人で騎士である自分が、まだまだ才能豊かで色々異常であっても……子供に負けるわけにはいかない。

かといって、うっかり本気を出してしまえば、誤って殺ってしまう可能性がある。

そんな制限がある状況でも……今までの経験を活かし、しっかりと人生の……戦闘者の先輩としてクランドの攻撃に対応しつつ、反撃を行う。

(くそ、全然当たらないな!!)

始める前から解っていた結果だが、自分の攻撃が全くと言っていいほど当たらない。
内容的には遊ばれているに近い……が、そんな状況でも笑顔が消えることはない。

寧ろ、バーサーカー的な笑みが止まらない。

「はっ!!!」

パワーではどう足掻いても敵わないと解っているので、不規則的な動きからの打撃。
時には身に纏っている箇所の岩を飛ばし、動きを崩してから重い打撃を加える……などなど、色々考えて動いているが、どれも躱されてしまう。

当ったかと思えば、槍を間に挟まれ、防御。

(この子の身体能力は、どうなってるのでしょうか!?)

戦況的にはフェリスの優勢であることに変わりはないが、年齢に似つかわしくない身体能力には何度も驚かされる。

クランドは要所要所で腕力強化などの強化スキルも使用しており、一瞬だけではあれど、身体能力を三重に強化していた。

「はぁ、はぁ、はぁ……参り、ました」

結果、模擬戦が始まってから六分ほどが過ぎた頃、クランドが降参を宣言。

時折死角から攻撃をぶち込もうとするが、フェリスはクランドの足運びに驚きながらも、鍛え上げてきた肉体、反応速度や経験によって対応。

全ての攻撃を対応され、尚且つ全力で動き続けたため、スタミナをかなり消費。
どう考えてもベストパフォーマンスを出せるラインを下回ったと感じ、もうこれ以上の戦闘は無意味だと判断。

「ありがとう、ございました」

「いえ、こちらこそありがとうございます。良い経験になりました」

試合後の握手を交わす二人に……メイナだけが嫉妬していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...