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四十三話 ストレスで生えるかも

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「いやぁ~~、マジで強いな」

「どうも」

「確か、学生最強をぶっ飛ばしたんだっけ?」

「はい。父に誘われて、エキシビションマッチで戦いました」

クランドとリーゼが戦力として戦えるという事実を示す中、その他の冒険者たちもそれなりに働いていた。

「まぁ、内容としては俺が逃げたんですけどね」

「逃げた? 勝負には勝ったんだろ」

「はい、勝ちました。でも……俺自身が望んでいた勝負からは逃げました。試合に勝って、勝負を放棄したってところですね」

「……すまん、分からねぇ」

まだクランドの根っこを知らない為、話しかけた冒険者は言葉の意味が理解出来なかった。

「でもよ、そんだけエキシビションマッチで強い奴倒せたんなら、国からお誘いされなかったのか?」

「あったかもしれませんね。けど、騎士になるつもりはほんの少しもなかったんで」

幼い頃から騎士にはならない、冒険者の道に進むと宣言していたこともあり、めんどくさ過ぎて角が生えそうになることはなかった。

「勿体ねぇな~~。騎士になったら、よっぽどヘマしない限り、将来安泰だろ」

「ん~~~……どうでしょうか? 騎士になった人たちは、多くの場所に派遣されます。派遣される地域によっては、冒険者と変わらないぐらい過酷な日々を送っているところもありますよ」

「えっ、そうなのか」

冒険者としては頼りになる人物だが、騎士や貴族に関する情報はあまり頭になく、クランドから教えられた情報は少々予想外。

男の中で、華やかな騎士生活という幻想は、音を立てて砕け散った。

「それに、騎士団の中でも蹴落とし合いがあるって聞きますし、楽で安定した職場ではないと思いますよ」

「ま、マジかよ……けどよ、クランドは……あれだろ、伯爵家の息子なんだろ。それなら、弱いだけのイキり野郎たちも、そう簡単に手を出せねぇんじゃねぇのか」

男の言葉は割と間違っておらず、クランドの家……ライガー家は、伯爵家の中ではトップクラスの権力を持っている。

武家の中でも名の知れた名家であるため、存在感が薄い侯爵家等と比べても、優位に立てる権力を持つ。

「……かもしれませんね。でも、一切ないとは言えませんし……それに、俺はあまり言葉でそういうのを解決するのは得意じゃないんですよ」

転生前のクランド……大河は、ギリ高校生。
そして転生した現在は十五歳であり、十五歳という枠の中では同じ。

その為、同性代の者たちと比べても、特別精神年齢が高いわけではなくなってきた。

自分の事ならまだしも、リーゼや家族のことを馬鹿にされるようなことがあれば、容赦なく粛清する。

「一応それなりの形には持っていけると思いますけど、その後は……多分、殺しはしませんけど、曖昧な状態になるかと」

「そ、そうか……はは、仲間思いで家族思い。良いことじゃねぇか」

クランドの良心を褒める先輩だが、薄っすらと零れた殺気を感じ取り、思わず肩を震わせた。

(実際に戦うところを見た訳だし、ガチで強いのは解ったつもりだったが……こりゃマジもんだな。あいつら、良くこんな戦神みたいな奴に喧嘩売れたな)

男の脳裏に浮かんだのは、先日クランドにいちゃもんを付けたルーキーたち。
クランドが自分の怒りを抑える様なタイプでなければ、地獄絵図になっていたと断言出来る。

そんなこんなで先輩たちと交流を深めつつ、標的たちが潜んでいる近くに到着。
視力を強化すると……大量のコボルトとウルフ系のモンスターがいた。

(凄いな。数は……五十は超えてるか)

今まで、何度もモンスターの群れと遭遇することはあった。
それでも絶対に十は超えない。

最大で一対七という状況で戦うスポーツを行っていたこともあり、群れとの戦闘に対して、そこまで恐怖心はない。

ただ、五十を超える群れというのは、遠目から見ているだけでも圧倒される。

「一斉に遠距離攻撃をぶち込んで、乱戦に入る……んで、クランド。どっちをやるんだ」

群れの中にはコボルトジェネラルとグレートウルフという、群れのツートップが地面に腰を下ろしている。

「……グレートウルフとやります」

「分かった」

正直、どちらとも戦りたい。
しかし、あまり先輩たちに迷惑を……リーゼに心配かける訳には行かない。

因みにリーゼには、事前に先輩たちやコボルトジェネラルの討伐の方を手伝って欲しいと頼んでいる。

主人からの頼みに、メイドは断らない。
心から心配という気持ちが消えることはないが、主人の強さが本物だと知っている、解っている。

「よし、準備開始」

リーダーが主導で合図を送り、魔法使いや狩人たちが準備を始め……再度合図が行われた。

その瞬間、多数の矢や攻撃魔法がコボルト、ウルフ系のモンスターたちを襲う。

「グルルルゥウアアアアアアッ!!!!!」

「アォォオオオオオオオオッ!!!!!」

ツートップは事前に人間たちの匂いには気付いており、即座に同族たちに迎撃の合図を送り、奇襲が完全に成功することはなかった。

「行くぞっ!!!!!」

だとしても、奇襲が上手くいかなかったからといって、引き返すという選択肢はなかった。
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