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七十五話 狙ってはいない
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「……お前、今日は帰って良いぞ」
「「「「はっ!?」」」」
クランドの言葉に、先程まで戦っていた青年たちが、全員声を揃えて首を傾げた。
「い、今なんて」
「? いや、このワイバーンに、帰って良いって言ったんだ」
青年たちが耳にした言葉は、空耳などではなく、自分たちを助けてくれた男は、本当にワイバーンに向かって帰って良いと口にしたのだ。
当たり前だが、四人は何故そんなことを口にしたのか、全くもって意味が解らない。
「な、何でだ!? 絶好のチャンスだろ!!!」
青年の言葉を最もである。
体力のゲージが見えるのであれば、あと体力は二割といったところ。
自分たちはクランドに救われたという事実を、青年たちは認めないつもりはなく、ここからは二人の番だと身を引くつもりだった。
卑しくも、一緒に戦おう! とは口にしない。
そんな彼らだが、ここでワイバーンを見逃すという選択には、疑問を抱かずにはいられない。
「それはそうですが、俺は万全の状態のワイバーンと戦いたいんですよ。あなたがたのせい、というつもりはありません。ですが、見たところ……現在は万全の状態と比べて、三割……せいぜい四割といったところでしょう。万全には程遠い状態です」
だから戦いわないのです。
と言われたところで、青年含めて四人が納得できるわけがなかった。
クランドの為にワイバーンと戦っていた訳ではないが、それでも到底納得出来る理由ではない。
だが、ここで青年の脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
(こ、こういう人間を、戦闘狂と呼ぶのか)
戦いこそ至高、戦いが大好き過ぎる人間、病的なまでに強い敵との戦いを求める者などを、戦闘狂と呼ぶ。
その単語は頭に浮かび、青年は少し落ち着いた。
完全に納得できたわけではないが、それでもクランドがそういう人間なのだと解った。
「そういう訳だ。だから、今日は帰って良いぞ。回復したら、俺と戦ろう」
ジェスチャーで帰って良いぞと意思を伝えるクランド。
人ではなく、言葉が通じずと、ある程度何を考えてるのか理解は出来る……出来てしまう。
だからこそ、ワイバーンは盛大にブチ切れた。
「ギャォォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」
「あれ?」
帰らず、盛大に声を荒げて自分に敵意や殺意を向けてくるワイバーンに、何をやってしまったのか分からず、首を傾げるクランド。
隣で見ていたリーゼは、何故ワイバーンが帰らずにブチ切れたのか、完全に理解していた。
それこそ、クランドが「今日は帰って良いぞ」と言った瞬間から、こうなる未来が見えた。
(亜竜とはいえ、種族の頂点に位置するドラゴンですよ。あんな煽りをすれば、こうなることは目に見えていた筈……)
クランドは全く煽っているつもりはない。
心の底から、戦うのであれば万全な状態のワイバーンと戦いたいという、純粋な戦闘欲を持っている。
(っ! もしや、あえてこの状態の狙ったのでは)
ワイバーンの現状は……逆鱗に触れられた状態。
ドラゴンが完全にブチ切れた状態であり、これは特殊なスキルではない……ではないのだが、逆鱗に触れられたドラゴンは限界値以上の力を引き出し、普段であれば倒せるダメージを与えたとしても、倒れない根性を見せる。
とはいえ、クランドはあえてこの状態を狙える程の計算高さはなく、現状に驚きながらも……凶悪な笑みを浮かべていた。
「なんだよ……さっきまでとは別人みたいじゃないか」
前言撤回し、だらんとした構えを取るクランド。
「四人とも、下がってください」
クランドが戦闘態勢を取ったことで、逆鱗状態のワイバーンはその怒りを撒き散らしながら突貫。
リーゼに避難命令を出された四人は、本能的に走り、後方へ退避。
「カバディ!!!!」
突貫してきたワイバーンに対し、クランドが取った行動は……両手を前に出し、ワイバーンの突進を止める。
その行動にリーゼは思わず、心の中で「バカですか!?」と全力で呟いてしまった。
通常状態のワイバーンが相手でも分が悪い行動なのに、現在は逆鱗状態。
今のクランドではまだ分が悪い、なんて話ではない。
敵の攻撃をガードするのが本職であるタンクでも、死ぬ気でガードするという覚悟が必要な攻撃。
当然だが……受け止めたクランドは勢いまでは止められず、思いっきり後方に押されていく。
(さす、がに! 無理か!!!)
我ながら馬鹿なことをしたと思いつつも、突貫を止めることが無理だった時の手は用意していた。
「カバディ」
「ッ!?」
右脚に鋼鉄を纏いながら、木に激突する前に、全力で顎を蹴り上げた。
逆鱗に触れた状態では、致命傷に至る攻撃を受けても意識を失わず、襲い掛かってくる。
この情報に偽りはないのだが、受けた攻撃の衝撃を殺せるわけではない。
突進の勢いが完全に止められ、鋭い蹴りの威力は脳を揺らしたが……当然、決定打にはならない。
まだまだクランドに対する怒りは収まらず、即座に地面に視線を向ける。
しかし、その場にクランドの姿はなかった。
「カバディ!!」
次の瞬間……ワイバーンに突然の浮遊感が襲い掛かる。
「「「「はっ!?」」」」
クランドの言葉に、先程まで戦っていた青年たちが、全員声を揃えて首を傾げた。
「い、今なんて」
「? いや、このワイバーンに、帰って良いって言ったんだ」
青年たちが耳にした言葉は、空耳などではなく、自分たちを助けてくれた男は、本当にワイバーンに向かって帰って良いと口にしたのだ。
当たり前だが、四人は何故そんなことを口にしたのか、全くもって意味が解らない。
「な、何でだ!? 絶好のチャンスだろ!!!」
青年の言葉を最もである。
体力のゲージが見えるのであれば、あと体力は二割といったところ。
自分たちはクランドに救われたという事実を、青年たちは認めないつもりはなく、ここからは二人の番だと身を引くつもりだった。
卑しくも、一緒に戦おう! とは口にしない。
そんな彼らだが、ここでワイバーンを見逃すという選択には、疑問を抱かずにはいられない。
「それはそうですが、俺は万全の状態のワイバーンと戦いたいんですよ。あなたがたのせい、というつもりはありません。ですが、見たところ……現在は万全の状態と比べて、三割……せいぜい四割といったところでしょう。万全には程遠い状態です」
だから戦いわないのです。
と言われたところで、青年含めて四人が納得できるわけがなかった。
クランドの為にワイバーンと戦っていた訳ではないが、それでも到底納得出来る理由ではない。
だが、ここで青年の脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
(こ、こういう人間を、戦闘狂と呼ぶのか)
戦いこそ至高、戦いが大好き過ぎる人間、病的なまでに強い敵との戦いを求める者などを、戦闘狂と呼ぶ。
その単語は頭に浮かび、青年は少し落ち着いた。
完全に納得できたわけではないが、それでもクランドがそういう人間なのだと解った。
「そういう訳だ。だから、今日は帰って良いぞ。回復したら、俺と戦ろう」
ジェスチャーで帰って良いぞと意思を伝えるクランド。
人ではなく、言葉が通じずと、ある程度何を考えてるのか理解は出来る……出来てしまう。
だからこそ、ワイバーンは盛大にブチ切れた。
「ギャォォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」
「あれ?」
帰らず、盛大に声を荒げて自分に敵意や殺意を向けてくるワイバーンに、何をやってしまったのか分からず、首を傾げるクランド。
隣で見ていたリーゼは、何故ワイバーンが帰らずにブチ切れたのか、完全に理解していた。
それこそ、クランドが「今日は帰って良いぞ」と言った瞬間から、こうなる未来が見えた。
(亜竜とはいえ、種族の頂点に位置するドラゴンですよ。あんな煽りをすれば、こうなることは目に見えていた筈……)
クランドは全く煽っているつもりはない。
心の底から、戦うのであれば万全な状態のワイバーンと戦いたいという、純粋な戦闘欲を持っている。
(っ! もしや、あえてこの状態の狙ったのでは)
ワイバーンの現状は……逆鱗に触れられた状態。
ドラゴンが完全にブチ切れた状態であり、これは特殊なスキルではない……ではないのだが、逆鱗に触れられたドラゴンは限界値以上の力を引き出し、普段であれば倒せるダメージを与えたとしても、倒れない根性を見せる。
とはいえ、クランドはあえてこの状態を狙える程の計算高さはなく、現状に驚きながらも……凶悪な笑みを浮かべていた。
「なんだよ……さっきまでとは別人みたいじゃないか」
前言撤回し、だらんとした構えを取るクランド。
「四人とも、下がってください」
クランドが戦闘態勢を取ったことで、逆鱗状態のワイバーンはその怒りを撒き散らしながら突貫。
リーゼに避難命令を出された四人は、本能的に走り、後方へ退避。
「カバディ!!!!」
突貫してきたワイバーンに対し、クランドが取った行動は……両手を前に出し、ワイバーンの突進を止める。
その行動にリーゼは思わず、心の中で「バカですか!?」と全力で呟いてしまった。
通常状態のワイバーンが相手でも分が悪い行動なのに、現在は逆鱗状態。
今のクランドではまだ分が悪い、なんて話ではない。
敵の攻撃をガードするのが本職であるタンクでも、死ぬ気でガードするという覚悟が必要な攻撃。
当然だが……受け止めたクランドは勢いまでは止められず、思いっきり後方に押されていく。
(さす、がに! 無理か!!!)
我ながら馬鹿なことをしたと思いつつも、突貫を止めることが無理だった時の手は用意していた。
「カバディ」
「ッ!?」
右脚に鋼鉄を纏いながら、木に激突する前に、全力で顎を蹴り上げた。
逆鱗に触れた状態では、致命傷に至る攻撃を受けても意識を失わず、襲い掛かってくる。
この情報に偽りはないのだが、受けた攻撃の衝撃を殺せるわけではない。
突進の勢いが完全に止められ、鋭い蹴りの威力は脳を揺らしたが……当然、決定打にはならない。
まだまだクランドに対する怒りは収まらず、即座に地面に視線を向ける。
しかし、その場にクランドの姿はなかった。
「カバディ!!」
次の瞬間……ワイバーンに突然の浮遊感が襲い掛かる。
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