カバディ男の異世界転生。狩られたい奴はかかってこい!!

Gai

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七十八話 一度だけで十分

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下級のドラゴン、亜竜であってもその状態になれば、街を一つ滅ぼしかねない狂暴な状態。

決してドラゴンをその状態にさせてはならない。
先輩冒険者が後輩に教える内容の一つ。

手負いとはいえ、その状態になったワイバーンを一人で倒した。

本当にそうなのか? そもそも逆鱗状態になったという話は本当なのか?
同業者たちはそういった疑問で頭が一杯になる。

「……っ、その話。どうやら本当みたいね」

後輩に頼まれてワイバーンの魔石をもう一度鑑定した受付嬢は、青年の言葉が本当だと宣言した。

鑑定のスキルレベルが上がれば、素材からモンスターが死ぬ前の情報も得ることが出来る。

「マジかよ、一人で倒しただけじゃなくて、逆鱗状態のワイバーンを……」

「お前、倒せる自信あるか?」

「いや、一人じゃさすがに……てか、パーティーで挑んでも逆鱗状態の相手に勝てるわけなくないか?」

「ワイバーンって元々Cランクでしょ。逆鱗状態になったら、少なくともBランククラスって話だけど……」

青年、受付嬢たちの言葉が事実であれば、既にBランク相当の実力を有していることになる。

戦闘力だけを考慮するのであれば、現時点でBランク冒険者の中でトップクラスに位置すると言っても過言ではない。

(あのクランド様なのですから、既に戦闘力だけであればBランク相当……戦い方次第であれば、Aランククラスでもおかしくありません)

従者であるリーゼにとって、周囲の反応は特に驚く内容ではなく、至極当然だった。

「クランドさん、こちらの魔石を買い取らせていただくことは」

「すいません、今回は遠慮させていただきます」

「か、畏まりました」

逆鱗状態の魔石ともなれば、同じモンスターの魔石であっても、買取値段が跳ね上がる。
錬金術の素材等として扱うには難易度が高いが、それでも高品質な素材であることに変わりはない。

「クランドさん。こちらがワイバーンを討伐して頂いた特別報酬になります」

「どうも」

冒険者ギルドとしては、なるべく早く冒険者たちに討伐してほしいと思っていた個体。

故に、討伐した者……パーティーには特別報酬を用意していた。

そして他の内臓や骨、鱗などを売却した後、青年はクランドとリーゼを夕食に誘った。
儲けの金額的にはクランドが奢る流れではあるが、命の恩人である二人にそんな真似をさせるわけがなく、青年は自分たちが奢ると譲らない。

二人もその変わらない意志に折れ、奢られることにした。

だが、クランドたちが冒険者ギルドを出る前に、一人の男とパーティーメンバーの者たちから立ちふさがった。

「ふざけんなよ!!! てめぇみたいな嘗め腐ったガキが、ワイバーンに一人で勝てるわけねぇだろ!!!!」

そう……以前クランドに名指しではないが、詐欺師と言われた男。
運良く、もしくは運悪くワイバーンに遭遇し、結果的に左腕を失った。

冒険者として完全に機能しなくなったわけではないが、戦力は半減。
青年と同じくCランクであはあるが……現時点では、そのランクに相応しい実力を持っているかは怪しいところ。

「クランドが一人でワイバーンを倒した。俺たち全員が証人だ」

クランドとリーゼを守る様に、青年たちが一歩前に出た壁の様に立ちふさがる。

「どけ。俺は後ろのクソガキに用があるんだよ」

「どかない。お前らは用があっても、クランドがそれに応える義理はないだろ。一度負けたくせに、そんなデカい態度でイキってもダサいだけだぞ」

「んだと!! てめぇから潰されてぇか!!!!」

青年はわざと挑発し、男たちの意識を自分たちに向けた。

実力では下でも、先輩として面倒な輩から守る。
そんな良い意味な意地を見せる青年。

当然、他三人も同じ気持ちでクランドとリーゼの前に、二人を守る様に立つ。

(……良い先輩だな)

(こういった方々たちだけであれば、先輩という相手を無条件に尊敬できそうですが……)

青年たちと相対する男たちも、一応二人の先輩にあたる。

(にしても、そろそろウザいな)

仏の顔も三度まで。
前世が日本人であったクランドには、馴染みのある言葉。

三度以上怒らせれば、鉄拳制裁が下る。
仏だからこそ、三度まで我慢する……であれば、ただの人間である自分が、三度も我慢する必要はあるのか?
そう思ったことが過去にあったクランド。

前回の一件は、クランドの中で鉄拳制裁には入っておらず、忠告の枠に定まっている。

「ありがとう、先輩。でも、こいつの相手は自分がします」

「く、クランド」

自分を守ろうとしてくれた青年に敬意を持ちながらも、一歩前に出て右腕だけ詐欺師の間に出た。

「俺に喧嘩売ってくるなら、それ相応の実力を身に付けてからにしてくれ」

それだけ言うと、クランドは八割ほどの力を込めて、右腕だけ詐欺師の胸骨や肋骨を砕いた。

「ぐっ、ぼぁっ!!!???」

突然の鉄拳制裁に反応出来ず、文字通り鉄拳を食らった右腕だけ詐欺師は、その場から膝を付き、地面に血を吐き出した。

「り、リーダー!!! て、てめぇこのクソガキ!!! いきなり何しやがんだ!!!」

「先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだろ。先にゴングを慣らしたのは、お前らの方なんだよ」

「ひっ!!!???」

そこには、珍しく苛立ち百パーセントの修羅が怒りを撒き散らしていた。

当然、愚かな先輩たちがその圧に耐えられるわけがなく、右腕だけ詐欺師も含めて失禁してしまった。
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