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第64話 混ざっている可能性
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「将来的には、そういった立場に就こうとも思わないんだったね」
「副業である冒険者を引退した後は、本業であるバーテンダー集中出来るので」
バーテンダーとして働き始める時間は夜からだろ、ツッコまれてしまうとそこまでなのだが、アストは仮に……仮に昼間は教育者として働くことになったとしても、やはり一つの街に留まらない。
故に、どこかの街の冒険者ギルド専属の指導者になることはない。
(本当に惜しい。とはいえ、彼が心の底から望んでいないことを考えれば……おっと、今日はそういう話だけをしに来たんじゃなかったんだった)
既に提供されたアルコール度数二十パーセント以上のカクテルは、相変わらず美味い。
調理台から漂ってくる匂いは、がっつり食欲を刺激してくる。
それらを楽しみながら、アストという不思議で特別な人間と話すのは、非常に楽しい……楽しいのだが、今日はそれ以外にも目標があってラムスと近衛騎士はミーティアに訪れたのだった。
「店主は変わらず権力とか、立場とかには興味がないようだね」
「持っていると、良いと言いますか、便利と言いますか…………非常に多様性のある力だとは理解していますが、私は所詮平民の出です。むやみにそういったものを求めれば、下手に目立って潰されてしまうのがオチです」
現国王の前でそういった話をするのはいかがなものかと思わなくもないが、先に話を振ってきたのは国王であるため、近衛騎士はアストの言葉に特に反応することはなかった。
寧ろ、まだ十八の小僧が既にそこまで理解していることに感心していた。
「ふっふっふ、物事を深く理解しているな……人は、それでも手を伸ばそうとすることが多いが」
「そうかもしれません。ただ、私の場合はそういった野心が、ありません。既に、自分が望んでいた生活が、出来ていますので」
本人の言う通り、アストはこの世界で自分が望む生活レベルを既に手に入れていた。
(自分の事も冷静に把握出来ている…………やはり、どこからか混ざっているか?)
ラムスは、息子である第五王子、マティアスからアストが黒装束の手練れたちの動きを止める際の光景を聞かされていた。
全身に聖光を纏い、その姿はまるで……王の背中だったと。
(既に彼のことは調べ終わっているが、マティアスの話を聞く限り、少なくとも平民の血だけとは思えない)
国王であるラムスは、決して平民をバカにし、見下している訳ではない。
平民の中にも猛者と呼ばれる者、非常に高いカリスマ性を持つ者……英雄と呼ばれるに相応しい器を持つ者たちがいることは理解している。
ただ、息子であるマティアスは……アストの背中が、王である自分の背中と被ったと口にした。
まだ十である子供が見た錯覚と言えば、そこまでかもしれない。
しかし、ラムスは子供たちの中でもマティアスは特に賢い息子だと解っている為、簡単に子供の錯覚と片付けられなかった。
「達観しているなぁ……これといった目標などはもうないのか?」
「今のところは、特にないです、ね。っと、お持たせしました」
頼まれたメニューを次々と皿に乗せていき、ラムスと近衛騎士の前には……明らかにバーで頼む量ではない料理の数々が並べられた。
「ふっふっふ、腹を空かせて来た甲斐があるというものだ。ほれ、遠慮などする必要はないぞ」
「…………お言葉に甘えさせていただきます」
近衛騎士にとって、そもそも王の隣で共に食事を取るという機会がなく、久方ぶりの特大過ぎる緊張感を感じていたものの……やはり彼も人間。
アストが作り上げた料理の数々から漂う匂いに食欲が刺激され、逆らう事が出来なかった。
「うむ! こういった時間に食べるということもあってか……ふふ、笑みが零れてしまうな」
「光栄でございます」
「そう一々かしこまるな。そういえば、お主も男だろ。そういった事に対して燃え上がることはないのか?」
男という種族に関するそういった事。
とりあえず恋愛か下ネタ関係であることは把握し……アストはチラッと変装している近衛騎士に視線を送った。
(良いのですか?)
(構わない)
一秒以内に目による会話は終了し、アストは改めて言葉遣いに気を付けながら口を開く。
「歳相応にと言いますか、その気を持ってしまった女性に声を掛けたりなどは」
「ほほ~~~ぅ。やることはやってるということだな」
「そうなりますね。単純な話、私も男なので」
野郎たちの遊園地に行くこともあれば、まだ客として店に訪れてない同業者とそういった関係になることはそれなりにあった。
「しかし、特定の相手は作っていないとのだな」
「一か所に留まることはなく、基本的にソロで活動していますので」
(ふむ…………理に適っている。特に、下手な理由はないな)
何かを隠そうとしている様子は見られない。
(昔々、遥か昔まで遡れば、私たちの血に辿り着くことがある、か? もしくは、賢者と呼ばれた者の血の可能性もあるか…………であれば、そこまで気にすることはないか)
疑問が完全に解消されたわけではないがラムスは一旦、アストのもしやの可能性について考えるのを止め……食事と呑み、会話を全力で楽しみ始めた。
「副業である冒険者を引退した後は、本業であるバーテンダー集中出来るので」
バーテンダーとして働き始める時間は夜からだろ、ツッコまれてしまうとそこまでなのだが、アストは仮に……仮に昼間は教育者として働くことになったとしても、やはり一つの街に留まらない。
故に、どこかの街の冒険者ギルド専属の指導者になることはない。
(本当に惜しい。とはいえ、彼が心の底から望んでいないことを考えれば……おっと、今日はそういう話だけをしに来たんじゃなかったんだった)
既に提供されたアルコール度数二十パーセント以上のカクテルは、相変わらず美味い。
調理台から漂ってくる匂いは、がっつり食欲を刺激してくる。
それらを楽しみながら、アストという不思議で特別な人間と話すのは、非常に楽しい……楽しいのだが、今日はそれ以外にも目標があってラムスと近衛騎士はミーティアに訪れたのだった。
「店主は変わらず権力とか、立場とかには興味がないようだね」
「持っていると、良いと言いますか、便利と言いますか…………非常に多様性のある力だとは理解していますが、私は所詮平民の出です。むやみにそういったものを求めれば、下手に目立って潰されてしまうのがオチです」
現国王の前でそういった話をするのはいかがなものかと思わなくもないが、先に話を振ってきたのは国王であるため、近衛騎士はアストの言葉に特に反応することはなかった。
寧ろ、まだ十八の小僧が既にそこまで理解していることに感心していた。
「ふっふっふ、物事を深く理解しているな……人は、それでも手を伸ばそうとすることが多いが」
「そうかもしれません。ただ、私の場合はそういった野心が、ありません。既に、自分が望んでいた生活が、出来ていますので」
本人の言う通り、アストはこの世界で自分が望む生活レベルを既に手に入れていた。
(自分の事も冷静に把握出来ている…………やはり、どこからか混ざっているか?)
ラムスは、息子である第五王子、マティアスからアストが黒装束の手練れたちの動きを止める際の光景を聞かされていた。
全身に聖光を纏い、その姿はまるで……王の背中だったと。
(既に彼のことは調べ終わっているが、マティアスの話を聞く限り、少なくとも平民の血だけとは思えない)
国王であるラムスは、決して平民をバカにし、見下している訳ではない。
平民の中にも猛者と呼ばれる者、非常に高いカリスマ性を持つ者……英雄と呼ばれるに相応しい器を持つ者たちがいることは理解している。
ただ、息子であるマティアスは……アストの背中が、王である自分の背中と被ったと口にした。
まだ十である子供が見た錯覚と言えば、そこまでかもしれない。
しかし、ラムスは子供たちの中でもマティアスは特に賢い息子だと解っている為、簡単に子供の錯覚と片付けられなかった。
「達観しているなぁ……これといった目標などはもうないのか?」
「今のところは、特にないです、ね。っと、お持たせしました」
頼まれたメニューを次々と皿に乗せていき、ラムスと近衛騎士の前には……明らかにバーで頼む量ではない料理の数々が並べられた。
「ふっふっふ、腹を空かせて来た甲斐があるというものだ。ほれ、遠慮などする必要はないぞ」
「…………お言葉に甘えさせていただきます」
近衛騎士にとって、そもそも王の隣で共に食事を取るという機会がなく、久方ぶりの特大過ぎる緊張感を感じていたものの……やはり彼も人間。
アストが作り上げた料理の数々から漂う匂いに食欲が刺激され、逆らう事が出来なかった。
「うむ! こういった時間に食べるということもあってか……ふふ、笑みが零れてしまうな」
「光栄でございます」
「そう一々かしこまるな。そういえば、お主も男だろ。そういった事に対して燃え上がることはないのか?」
男という種族に関するそういった事。
とりあえず恋愛か下ネタ関係であることは把握し……アストはチラッと変装している近衛騎士に視線を送った。
(良いのですか?)
(構わない)
一秒以内に目による会話は終了し、アストは改めて言葉遣いに気を付けながら口を開く。
「歳相応にと言いますか、その気を持ってしまった女性に声を掛けたりなどは」
「ほほ~~~ぅ。やることはやってるということだな」
「そうなりますね。単純な話、私も男なので」
野郎たちの遊園地に行くこともあれば、まだ客として店に訪れてない同業者とそういった関係になることはそれなりにあった。
「しかし、特定の相手は作っていないとのだな」
「一か所に留まることはなく、基本的にソロで活動していますので」
(ふむ…………理に適っている。特に、下手な理由はないな)
何かを隠そうとしている様子は見られない。
(昔々、遥か昔まで遡れば、私たちの血に辿り着くことがある、か? もしくは、賢者と呼ばれた者の血の可能性もあるか…………であれば、そこまで気にすることはないか)
疑問が完全に解消されたわけではないがラムスは一旦、アストのもしやの可能性について考えるのを止め……食事と呑み、会話を全力で楽しみ始めた。
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