65 / 167
第65話 誰が決める?
しおりを挟む
「店主よ、このカクテルを頼む」
「かしこまりました」
既に国王であるラムスと付き添いの近衛騎士が呑んで食って話してを始めてから、既に一時間近くが経過していた。
様々な度数のカクテルを、吞んでおり……中には三十度以上のカクテルもあった。
しかし、二人ともほんの少し頬が赤くなっているだけで、全く酔っている様子は見当たらない。
(……もしかして、わざとか?)
そんなラムスが注文したカクテルは……アレキサンダー。
材料はブランデー二十、クリーム・ド・カカオ二十、生クリーム二十。
そしてナツメグという香辛料を適量。
ブランデー、クリーム・ド・カカオと生クリームの三点と氷をシェーカーに入れ、シェイク。
シェイクを終え、カクテルグラスに全て注ぎ……最後にナツメグをまぶす。
「おまたせしました。アレキサンダーでございます」
「うむ…………ブランデーの芳醇な香り、加えて……甘さが混ざっているか?」
考察を楽しみながらも、呑めば解るという酒飲みの本能に駆られ、まずは一口。
「ふむ、予想以上に甘いな。ただ……重さを感じつつも甘い。しかし、くどくないな…………ふふ、悪くない」
個人的に、ラムスはカクテルに甘さは合わないという考えを持っていたが、アレキサンダーを堪能するうちに、その考えも薄れていった。
「……すまない、私も同じものを」
「かしこまりました」
ラムスが美味そうに呑む姿を見てしまい……近衛騎士の男も思わず注文。
「っ、なるほど。確かに重さはあっても、くどくない甘さがある……呑みやすいカクテルだ」
「ありがとうございます。ただ、呑み過ぎ注意のカクテルではありますが」
「? ……あぁ、なるほど。そういうことか」
吞みやすいということは、ついつい自身の酔い具合など無視して呑んでしまうことが珍しくない。
二人とも既に三十度以上のカクテルを呑んでおり、今更二十度ほどのカクテルで直ぐに酔い潰れることはないが……それでも、そろそろ黄色信号が見えてくる。
「…………生きるというのは、難しいな」
突然の呟きに、アストと近衛騎士も下手にツッコまず、続きを待つ。
「今回の件……身内を疑わなければならない」
「…………」
「王としての務めを果たしてきたつもりだが、やはり手が届かないところがあり、全てを征することは出来ない」
アストは軽くではあるものの、ラムスの武勇伝を耳にしたことがある。
政治、外交に長けているだけではなく、戦闘者としても優れた実力を有し……過去にはBランクのモンスターだけではなく……Aランクという正真正銘の化物を討伐した功績も有している。
まさに、文武共に優れた王である。
本来彼を守る近衛騎士や宮廷魔術師たちの心労は置いておき、見事な活躍を果たしたのは間違いない。
遠に肉体的な意味での全盛期は過ぎているが、未だ強者としての格は衰えてはいない。
「……完璧とは、難しいな」
「そうですね。完璧とは、もうこれ以上ない究極の極致…………言い換えれば、そこに達してしまうと、これ以上の成長はないとも言えます」
「ほぅ……」
アストの言葉に、ラムスだけではなく近衛騎士も一旦アレキサンダーが入ったグラスを置き、真剣に耳を傾けた。
「私も、お客様たちにより良いカクテルを、料理をと研鑽を積んでいますが……完璧という言葉の背中が見えることはなく、正解という答えすら見つからない日々の連続です」
「……まだ二十を越えてない店主にこんな事を言うのは少しおかしいかもしれないが、これほどの腕前を持ちながら、自身のことをまだ未熟だと」
「えぇ、その通りです。勿論、お客様たちが自分が作ったカクテルを、料理を褒めてくれるのは本当に嬉しく、励みになります。しかし……何かを目指し、歩み続ける以上、それが完璧だと……究極だと教えてくれる人はいません」
酒の神や料理の神から「お前の腕前は超一流だ!!!!」と言われれば話は別かもしれないが、そもそもそんな言葉が聞こえた場合……アストは速攻で幻聴だと切り捨ててしまう。
「なるほど。一理ある……どころか、色々と納得させられてしまうな。だが、自分より優れた人物から認められることは、悪くないことではないか?」
「勿論です。確かな目標を持って前に進み続けていたとしても、いつかは限界が来てしまいます。だからこそ、努力を……結果を認め、評価してくれる者は非常に有難い存在です。ただ、人によってはそこで満足してしまい、それ以上前に進むことを諦めてしまうかもしれません。自分の中で、もうこれ以上はない完璧だと認めてしまえば……」
「…………目指したい。目指したくはあるが、そこがゴールだと決めてしまえば、己の限界を決めてしまう、か……店主にも、経験があるのか?」
「改めて伝えておきますが、私はまだまだ若輩者です。副業はともかく、本業の方に
終わりはありません」
完璧……完全無欠。
アレキサンダーの様にそこに到達できればと、一種の甘さを感じさせる言葉ではあるが、それは幻想的であるからかもしれない。
しかし、だからこそ追い求め続ける価値が、ロマンがあると……バカな者たちは口にし……歩むことを止めない。
「かしこまりました」
既に国王であるラムスと付き添いの近衛騎士が呑んで食って話してを始めてから、既に一時間近くが経過していた。
様々な度数のカクテルを、吞んでおり……中には三十度以上のカクテルもあった。
しかし、二人ともほんの少し頬が赤くなっているだけで、全く酔っている様子は見当たらない。
(……もしかして、わざとか?)
そんなラムスが注文したカクテルは……アレキサンダー。
材料はブランデー二十、クリーム・ド・カカオ二十、生クリーム二十。
そしてナツメグという香辛料を適量。
ブランデー、クリーム・ド・カカオと生クリームの三点と氷をシェーカーに入れ、シェイク。
シェイクを終え、カクテルグラスに全て注ぎ……最後にナツメグをまぶす。
「おまたせしました。アレキサンダーでございます」
「うむ…………ブランデーの芳醇な香り、加えて……甘さが混ざっているか?」
考察を楽しみながらも、呑めば解るという酒飲みの本能に駆られ、まずは一口。
「ふむ、予想以上に甘いな。ただ……重さを感じつつも甘い。しかし、くどくないな…………ふふ、悪くない」
個人的に、ラムスはカクテルに甘さは合わないという考えを持っていたが、アレキサンダーを堪能するうちに、その考えも薄れていった。
「……すまない、私も同じものを」
「かしこまりました」
ラムスが美味そうに呑む姿を見てしまい……近衛騎士の男も思わず注文。
「っ、なるほど。確かに重さはあっても、くどくない甘さがある……呑みやすいカクテルだ」
「ありがとうございます。ただ、呑み過ぎ注意のカクテルではありますが」
「? ……あぁ、なるほど。そういうことか」
吞みやすいということは、ついつい自身の酔い具合など無視して呑んでしまうことが珍しくない。
二人とも既に三十度以上のカクテルを呑んでおり、今更二十度ほどのカクテルで直ぐに酔い潰れることはないが……それでも、そろそろ黄色信号が見えてくる。
「…………生きるというのは、難しいな」
突然の呟きに、アストと近衛騎士も下手にツッコまず、続きを待つ。
「今回の件……身内を疑わなければならない」
「…………」
「王としての務めを果たしてきたつもりだが、やはり手が届かないところがあり、全てを征することは出来ない」
アストは軽くではあるものの、ラムスの武勇伝を耳にしたことがある。
政治、外交に長けているだけではなく、戦闘者としても優れた実力を有し……過去にはBランクのモンスターだけではなく……Aランクという正真正銘の化物を討伐した功績も有している。
まさに、文武共に優れた王である。
本来彼を守る近衛騎士や宮廷魔術師たちの心労は置いておき、見事な活躍を果たしたのは間違いない。
遠に肉体的な意味での全盛期は過ぎているが、未だ強者としての格は衰えてはいない。
「……完璧とは、難しいな」
「そうですね。完璧とは、もうこれ以上ない究極の極致…………言い換えれば、そこに達してしまうと、これ以上の成長はないとも言えます」
「ほぅ……」
アストの言葉に、ラムスだけではなく近衛騎士も一旦アレキサンダーが入ったグラスを置き、真剣に耳を傾けた。
「私も、お客様たちにより良いカクテルを、料理をと研鑽を積んでいますが……完璧という言葉の背中が見えることはなく、正解という答えすら見つからない日々の連続です」
「……まだ二十を越えてない店主にこんな事を言うのは少しおかしいかもしれないが、これほどの腕前を持ちながら、自身のことをまだ未熟だと」
「えぇ、その通りです。勿論、お客様たちが自分が作ったカクテルを、料理を褒めてくれるのは本当に嬉しく、励みになります。しかし……何かを目指し、歩み続ける以上、それが完璧だと……究極だと教えてくれる人はいません」
酒の神や料理の神から「お前の腕前は超一流だ!!!!」と言われれば話は別かもしれないが、そもそもそんな言葉が聞こえた場合……アストは速攻で幻聴だと切り捨ててしまう。
「なるほど。一理ある……どころか、色々と納得させられてしまうな。だが、自分より優れた人物から認められることは、悪くないことではないか?」
「勿論です。確かな目標を持って前に進み続けていたとしても、いつかは限界が来てしまいます。だからこそ、努力を……結果を認め、評価してくれる者は非常に有難い存在です。ただ、人によってはそこで満足してしまい、それ以上前に進むことを諦めてしまうかもしれません。自分の中で、もうこれ以上はない完璧だと認めてしまえば……」
「…………目指したい。目指したくはあるが、そこがゴールだと決めてしまえば、己の限界を決めてしまう、か……店主にも、経験があるのか?」
「改めて伝えておきますが、私はまだまだ若輩者です。副業はともかく、本業の方に
終わりはありません」
完璧……完全無欠。
アレキサンダーの様にそこに到達できればと、一種の甘さを感じさせる言葉ではあるが、それは幻想的であるからかもしれない。
しかし、だからこそ追い求め続ける価値が、ロマンがあると……バカな者たちは口にし……歩むことを止めない。
289
あなたにおすすめの小説
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる