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第105話 待って
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「いらっしゃいま、せ…………」
夕食を食べ終えた後、翌日には王都に戻るということで、滞在最後の日ということもあり、今日も今日とてミーティアを開店するアスト。
しかし、開店早々客が来店。
その客は……先日、来店してきた男性冒険者、それ以降に来店してくれた客ではない。
新規の客と言えば客だが、アストはその新規客の顔の存在を知っていた。
「どうかしたかしら」
「い、いえ。なんと言うか……予想外だったもので」
訪れた客は、これまで共に行動してきた同業者、ヴァレアだった。
「別に、客として訪れてはダメとは聞いてないけれど?」
「勿論、問題はありません。こちらがメニュー表になります」
一時的にパーティーを組んで活動していた冒険者がミーティアに訪れることは割と珍しくない。
ただ、ヴァレアはなんとなく来ないだろうと予想していたアストにとって、文字通り予想外の来客だった。
「…………凄い数の、メニューね」
「品質は保証いたしますので、ご安心ください」
「そ、そこは別に疑ってないわよ。えっと…………ホワイト・レディをお願いできるかしら」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
お通しを用意した後、アストは直ぐにホワイト・レディの制作に取り掛かる。
ジンを三十、オレンジのリキュールであるコアントローを十五、そしてレモン・ジュースを十五ほど用意。
氷も一緒にシェーカーに入れてシェイク。
カクテルグラスに注ぐと、貴婦人の一杯が完成。
「お待たせしました、ホワイト・レディでございます」
「ありがとう…………」
「? どうかしましたか」
「いえ、こう……いつものあなたと、雰囲気が違うなと思って」
普段のアストは落ち着きがありつつも、気の良い兄ちゃんといった印象。
しかし、目の前でバーテンダーとして振舞う姿…………先に冒険者としての姿を知っていると、良い意味でのギャップを強く感じる。
「…………呑みやすくて美味しいわね」
「ありがとうございます」
呑みやすい。
レモン・ジュースを使用しているため、全体的に吞みやすいと感じる人が多い。
ただ……決してアルコール度数は低くなく、
アストはそこまでアルコール度数が高くないジンを使用しているが、それでも制作したホワイト・レディの度数は三十手前と、呑み慣れている者でなければ強いアルコール味を感じる。
(ん? そういえば……夕食の時、エールを呑んでたよな………………いや、この人もガキじゃないんだ。そこら辺はしっかりしてるだろう)
その後、ヴァレアはローストビーフやドライフルーツなどのつまみを食べながら、ホワイト・レディと同じく、呑みやすくはあるが……決してアルコール度数は低くないカクテルを注文し続けた。
「ヴァレアさん……ヴァレアさん……ヴァレア、大丈夫か」
数時間後、三人ほど同業者の客が訪れ、それまではアストも交えてヴァレアも楽しく
会話をしていたが……本日四人目の客が支払いを終えて帰ったタイミングで、電池切れ寸前となったヴァレア。
「ん、ん~~~……もう、一杯、同じの」
(……こりゃあ、もう駄目だな)
良い時間だと判断し、閉店作業を行い、殆ど酔い潰れた状態のヴァレアを背負って宿に帰還。
(まぁ、一日ぐらい寝間着で寝なくても大丈夫だろう)
別々で取っている部屋のベッドにヴァレアを置き、アストも自分の部屋に戻ろうとするが……不意に手首を掴まれた。
「待って」
「? 言っておくが、今日は呑み過ぎてる。これ以上カクテルの提供、は…………は?」
これ以上アルコールを摂取すると明日に響くぞと注意し終わる前に……その場で服を脱ぎ始めるヴァレアを見て、思わず素っ頓狂な声が零れたアスト。
「待て、待て待て待て」
「もう少し、待って」
「違う、こっちのセリフだ」
当然の事ながら、アストは前世を含めて童貞ではない。
アストも男なので、据え膳食わぬは男の恥的な考えもあるが、相手が相手であるため……さすがに躊躇わざるをえない。
「ヴァレア、あれだ……お前は酔っている」
「そうね、酔ってるでしょうね」
そう言いながらも、自身の服を脱ぐ手が止まらない。
(待ってくれ、本当に待ってくれ……なんでだ?)
アストは必死にヴァレアと出会ってからのこれまでを思い返す。
元々性にお盛んなタイプには見えないため、自惚れなど捨てて自分がその気にさせてしまう言葉を口にしたか否か……ザっと振り返った結果、夕食時に伝えた内容を思い出す。
(あれか……今日だけの縁にするのは勿体ない、あれがトリガーになってしまったのか!!??)
勝手にパニックをなってるアストをよそに、ヴァレアは完全に生まれたままの状態となっていた。
「っ、ヴァレア。酔った勢いで、というのは後悔するケースが多い」
「酔ったのは、力を借りる為よ……その、師匠から言われたのよ。今後の人生を考えれば、いつまでも生娘のままでいるのは良くないと」
(ど……どこのどいつだ、こいつにそんな事を吹き込んだ師匠は!!??)
アストは会ったこともない人物に苦情を飛ばすも、ヴァレアは無視して再度アストの手首を掴む。
「誰でも良いとは、思ってないわ。アスト、貴方だから、良いと思ったの」
「っ……」
男としては、最上級の褒め言葉と言っても過言ではない内容を伝えられ、ひとまずアストの本能は既にそのつもりになってしまっていた。
「俺は……旅人だぞ」
「安心して。ちゃんと解ってるわ。これは、私にとって一つの経験だから」
「………………分かった」
相手が覚悟を示した。
となれば、それ以上相手に恥をかかせることは……アストには出来なかった。
夕食を食べ終えた後、翌日には王都に戻るということで、滞在最後の日ということもあり、今日も今日とてミーティアを開店するアスト。
しかし、開店早々客が来店。
その客は……先日、来店してきた男性冒険者、それ以降に来店してくれた客ではない。
新規の客と言えば客だが、アストはその新規客の顔の存在を知っていた。
「どうかしたかしら」
「い、いえ。なんと言うか……予想外だったもので」
訪れた客は、これまで共に行動してきた同業者、ヴァレアだった。
「別に、客として訪れてはダメとは聞いてないけれど?」
「勿論、問題はありません。こちらがメニュー表になります」
一時的にパーティーを組んで活動していた冒険者がミーティアに訪れることは割と珍しくない。
ただ、ヴァレアはなんとなく来ないだろうと予想していたアストにとって、文字通り予想外の来客だった。
「…………凄い数の、メニューね」
「品質は保証いたしますので、ご安心ください」
「そ、そこは別に疑ってないわよ。えっと…………ホワイト・レディをお願いできるかしら」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
お通しを用意した後、アストは直ぐにホワイト・レディの制作に取り掛かる。
ジンを三十、オレンジのリキュールであるコアントローを十五、そしてレモン・ジュースを十五ほど用意。
氷も一緒にシェーカーに入れてシェイク。
カクテルグラスに注ぐと、貴婦人の一杯が完成。
「お待たせしました、ホワイト・レディでございます」
「ありがとう…………」
「? どうかしましたか」
「いえ、こう……いつものあなたと、雰囲気が違うなと思って」
普段のアストは落ち着きがありつつも、気の良い兄ちゃんといった印象。
しかし、目の前でバーテンダーとして振舞う姿…………先に冒険者としての姿を知っていると、良い意味でのギャップを強く感じる。
「…………呑みやすくて美味しいわね」
「ありがとうございます」
呑みやすい。
レモン・ジュースを使用しているため、全体的に吞みやすいと感じる人が多い。
ただ……決してアルコール度数は低くなく、
アストはそこまでアルコール度数が高くないジンを使用しているが、それでも制作したホワイト・レディの度数は三十手前と、呑み慣れている者でなければ強いアルコール味を感じる。
(ん? そういえば……夕食の時、エールを呑んでたよな………………いや、この人もガキじゃないんだ。そこら辺はしっかりしてるだろう)
その後、ヴァレアはローストビーフやドライフルーツなどのつまみを食べながら、ホワイト・レディと同じく、呑みやすくはあるが……決してアルコール度数は低くないカクテルを注文し続けた。
「ヴァレアさん……ヴァレアさん……ヴァレア、大丈夫か」
数時間後、三人ほど同業者の客が訪れ、それまではアストも交えてヴァレアも楽しく
会話をしていたが……本日四人目の客が支払いを終えて帰ったタイミングで、電池切れ寸前となったヴァレア。
「ん、ん~~~……もう、一杯、同じの」
(……こりゃあ、もう駄目だな)
良い時間だと判断し、閉店作業を行い、殆ど酔い潰れた状態のヴァレアを背負って宿に帰還。
(まぁ、一日ぐらい寝間着で寝なくても大丈夫だろう)
別々で取っている部屋のベッドにヴァレアを置き、アストも自分の部屋に戻ろうとするが……不意に手首を掴まれた。
「待って」
「? 言っておくが、今日は呑み過ぎてる。これ以上カクテルの提供、は…………は?」
これ以上アルコールを摂取すると明日に響くぞと注意し終わる前に……その場で服を脱ぎ始めるヴァレアを見て、思わず素っ頓狂な声が零れたアスト。
「待て、待て待て待て」
「もう少し、待って」
「違う、こっちのセリフだ」
当然の事ながら、アストは前世を含めて童貞ではない。
アストも男なので、据え膳食わぬは男の恥的な考えもあるが、相手が相手であるため……さすがに躊躇わざるをえない。
「ヴァレア、あれだ……お前は酔っている」
「そうね、酔ってるでしょうね」
そう言いながらも、自身の服を脱ぐ手が止まらない。
(待ってくれ、本当に待ってくれ……なんでだ?)
アストは必死にヴァレアと出会ってからのこれまでを思い返す。
元々性にお盛んなタイプには見えないため、自惚れなど捨てて自分がその気にさせてしまう言葉を口にしたか否か……ザっと振り返った結果、夕食時に伝えた内容を思い出す。
(あれか……今日だけの縁にするのは勿体ない、あれがトリガーになってしまったのか!!??)
勝手にパニックをなってるアストをよそに、ヴァレアは完全に生まれたままの状態となっていた。
「っ、ヴァレア。酔った勢いで、というのは後悔するケースが多い」
「酔ったのは、力を借りる為よ……その、師匠から言われたのよ。今後の人生を考えれば、いつまでも生娘のままでいるのは良くないと」
(ど……どこのどいつだ、こいつにそんな事を吹き込んだ師匠は!!??)
アストは会ったこともない人物に苦情を飛ばすも、ヴァレアは無視して再度アストの手首を掴む。
「誰でも良いとは、思ってないわ。アスト、貴方だから、良いと思ったの」
「っ……」
男としては、最上級の褒め言葉と言っても過言ではない内容を伝えられ、ひとまずアストの本能は既にそのつもりになってしまっていた。
「俺は……旅人だぞ」
「安心して。ちゃんと解ってるわ。これは、私にとって一つの経験だから」
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相手が覚悟を示した。
となれば、それ以上相手に恥をかかせることは……アストには出来なかった。
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