異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第106話 元気になる前に

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「………………はぁ~~~~~」

眠りから覚めたアストは、隣から感じる温もりを見て……軽くため息を吐いた。

(覚えては、いる。いるんだが…………向こうが、忘れてるなんて事は、ないよな?)

ある種の覚悟が極まった顔をしていた。
それを見たからこそ、アストはヴァレアの誘いを受けた。

「う、ん…………アス、ト」

「おはよう」

「え、えぇ……おはよう」

眠りから覚めたヴァレアは自身が裸のまま寝ていた事、自分の隣にアストがいる事という現実に対して……悲鳴を上げることなく、ほんの少しだけ頬を赤らめた。

(……さっさと着替えてしまおう)

先日の行為内容を思い出し、再度ばっちり全身を見てしまえば、理性とは無関係に本能が爆発してムスコが元気になってしまう。
それを恐れたアストはささっと普段着を着た。


「それじゃあ、帰るとするか」

「そうね」

元々烈風竜、ブリーゼルを討伐するためだけに訪れた為、これ以上滞在する必要はなく、二人はそのまま王都に向けて出発。

道中は面倒事に絡まれることなく無事に進み、王都に到着。

(さて……これからどうしようか)

王都に戻って来たアスト。
普段であれば、直ぐに別の街へ向かうのだが……まだ王都の全てを観光してはおらず、直ぐに別の街に移ってしまうのは勿体ないという思いもあり、気になる街が見つかるまでこれまで通りの生活を送ることにした。

昼手前から夕方ごろまでは冒険者として活動し、夕食時以降はバーテンダーとして活動。

そんないつも通りの生活を王都に戻って来てから三日ほど行っていると……ある客がミーティアに訪れた。

「ッ!!!!!!!」

「ミーティアというバーは、ここで合ってるかな」

「えぇ、その通りです」

露店のバーという性質上、冒険者や兵士、騎士……もしくは鍛冶師などが訪れることが多い。

元々副業で冒険者として活動していることもあり、アストは人……もしくはモンスターが放つ存在感の強さに対して、ある程度耐性を持っていた。

(なんだ、この人……仕事中じゃなかったら、絶対に顔に出てたぞ)

そんなアストが……接客中のアストが、来客が持つ存在感の強さに圧倒され、思わずその驚きを顔に出してしまいそうになった。

「こちらがメニュー表になります」

「うむ、ありがとう」

強烈な存在感を持って現れた男は……既に五十を越えた初老の男性。
カルダール王国では珍しく、和風な服を着ている。
故に体の大きさは解り辛いが……戦闘経験がそれなりにあるアストは、メニューを持つ指、手からある程度の体格を把握出来る。

(明らかに、武闘派の人だよな。でも、和風な……軽い袴? みたいな服を着てる人なんて、王都にいるんだな)

謎が多過ぎる。
そう思いながらもアストは慣れた動作でお通しの野菜とベーコンのスープを提供。

「この店は、随分と料理も多いのだな」

「はい。食事の方でも満足いただければと思いまして」

「ふむ……では、このベーコンピザとアヒージョを貰おうか。カクテルは……ひとまず、アースクエイクを一杯」

「かしこまりました」

アストは一定の待機タイムになるまでピザとアヒージョの調理を進め、待ち時間でアースクエイクを作り始めた。

ジンを二十、ウィスキーを二十、そしてアブサンというハーブを使用したリキュールを二十。

シェーカーにそれら三種と氷を入れてシェイク。
カクテルグラスに注ぎ……アースクエイクの完成。

「お待たせしました、アースクエイクでございます」

「うむ…………ふっふっふ。この体全身が揺れるような強さ……やはり、吞み始めには丁度良い味だ」

(アースクエイクが吞み初めに丁度良いって……この人、化け物か?)

アストが作ったアースクエイクはアルコール度数が四十程あり、本来は呑み始めてから中盤、もしくは終盤に吞む様なカクテル。

「マスターもそう思わないかい」

「……まるで、ドワーフの様なセリフですね」

「ふふ、以前に言われたことがあるな。これでも、昔は良くドワーフの知り合いと呑み比べをしたものだ」

(…………正真正銘の化け物のようだな)

アストも偶にドワーフの冒険者、もしくは鍛冶師と飲み比べ……と言うよりも純粋に楽し過ぎて限界を無視して呑み過ぎてしまうことはある。

そのため、何度もドワーフと飲み比べをしようとは、まず思わない。

「お待たせしました。こちらがベーコンピザにアヒージョでございます」

「なんとも食欲をそそる匂いだな」

初老の男はベーコンピザを一口食べると、その美味さと……記憶に残っている値段を思い出し、非常に満足気な笑みを浮かべた。
アヒージョの味に対しても同じような反応を浮かべながら、あっという間にアースクエイクを飲み干し……二杯目にカクテルの王様とも呼ばれる一杯、マティーニを頼んだ。

「……お客様。本日は、当店でゆったりとしたお時間を過ごすつもりでしょうか」

「ふむ……明確な意図がある質問だな」

「お客様が体に響くような強さを持つカクテルを楽しみたいのであれば、一度クールダウンを挟む必要があります」

ドワーフにも勝るアルコール耐性を持つ男にとっては有難迷惑と思われるかもしれない。
そう思いながらも、アストは一つの楽しみ方を伝えた。

そんなアストの考えが伝わったのか、男性はその提案を受け入れた。

そして数十分後、複数のカクテルだけではなく、ドリアも食べ終えた頃……初老の男から、いきなり重鈍な圧がアストに向けて放たれた。
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