異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第155話 悪いと思っていない

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「ヴァーニ。先に聞いておきたいんだが、多少の物理指導はあっても良いんだよな?」

「おぅ。勿論構わねぇよ。お前みたいにこう……言葉で解らせてくれるのは、それはそれで有難いんだけど、やっぱ……あれだろ。お前みたいな例外を除いて、冒険者はまず物理指導で差を解らせるのが一番だろ」

「……そうだな。文字通り、言葉で解ってもらえば苦労しない」

これまで何度もバカや人生経験が少ない者たちに絡まれてきたアスト。

最初から暴力を振るうのは良くないと思い、元が二十二歳だったこともあり、諭すように……相手をあまり気付けないように言葉を選んで対応していた。

だが、大前提として、そんなアストが選びに選んだ諭す様な正論を受け、自分が間違っていたと反省して改心するのであれば、そもそもバカな絡み方をしない。

「はは、耳が痛いぜ」

「…………そういうところに関しては、仕方ないところがあると、諦めている部分もあるけどな」

「仕方ない、と思えるのか?」

今でこそ改心し、頼れる良き冒険者へと成長しているヴァーニであるが、当時……アストにバカ絡みしてしまった自分を思い出すと、なんてバカなことをしたんだと後悔しかない。

ただ、あの頃の自分は全くバカな事をしている自覚がなかったと……断言出来てしまう。

「あぁ、そうだ。周囲に人生の酸いも甘いも経験している人がいて、その人が物理的な強さだけでなく……人間的な強さというべきか。そういった者まで教えてくれるのであればともかく、ヴァーニ……お前の傍に、そういった大人はいたか?」

「い…………なかったな」

「あいつらの周りに、そういった大人がいたって話を聞いたことはあるか?」

「ねぇな」

「だろ。俺からすれば、まぁ良くないことだとは思う。ただ、昔のお前とかはそもそもバカ絡みすることを悪いと思ってなかったんだ」

冒険者という職業上、実力こそ正義といった部分がゼロではないからこそ、その考えがまかり通ってしまうところもある。

だからこそ、バカ絡みしてしまう者たちは、それがよろしくない……悪い行為だと解らない。

「そう、だな……けど、お前風に言うなら、考える力が足りな過ぎる。まず、考えてないのが悪いって感じじゃないのか?」

「そうだな。正直、俺の中でそう思ってる俺もいる。けど、冒険者として活動を始めてまだ卵……ケツに殻が付いているヒヨコに、仮に誰か……良識のある先輩が説明したとしても、納得してじゃあそういう風に生きていこう! ってなると思うか」

「う、ぐ………………多分、なれねぇ、な」

「だろ。冒険者といえば、まずは強い。そこに目が行ってしまうだろう。それは事実ではあるから、間違ってはいない。ただ、多くのルーキーはそこで頭が一杯になる」

「一杯になって、他のことを考える余裕がない……考えようとしても、考える……余力? がねぇってことか」

ヴァーニの言葉に、アストは小さな笑みを浮かべながら頷く。

「そうだ」

「…………つまり、最初から上手い事そういうやらかしをしてしまわないように教えることは出来ないのか?」

「ヴァーニ、俺は本業がバーテンダーで、副業が冒険者だ。教師ではないんだよ」

「嘘付け。一つの街に長く滞在しなくても、俺みたいにクランに所属してなくても、どうせちょいちょいギルドから指導依頼を受けてくれって頼まれてるんだろ」

「それは否定出来ないな。ただ、本当に教師ではないんだが…………強いて言えば、その行為がどれだけダサいのか、カッコ良くないのか、カッコ悪いのか。その辺りを教えてやれば、もしかしたら物理的指導が無くても、そういうやらかしを行わなくなるかもな」

「ほ~~~~~ん…………………………その話、参考にさせてもらっても良いか」

「あぁ、勿論構わないぞ」

「ありがとよ。けど、依頼の方は明日にはギルドを通して、依頼させてもらうからな」

わざわざギルドを通すことに、アストはほんの少し驚いた。

「指名依頼をするのか?」

「当然だろ。そうすれば、お前の評価アップにも繋がるだろ」

「それはそうだが……」

「俺も、あいつらもマジでお前に世話になった。それに、マスターも同じ事を考えてたしな」

「そうか…………解った。それじゃあ、明日昼前にはギルドに向かうよ」

その後もミーティアでヴァーニはカクテルを呑み続け、丁度二人の共通の知人が店に来たこともあり、更に呑み続けた。

結果、元々弱くはないため、ミーティアで酔い潰れてしまうことはなかったが、千鳥足状態は避けられなかった。

それでもなんとか無事にクランが所有する物件、クランハウスに戻り、クランマスターにアストが受けてくれることを報告。

そして翌日……アストはヴァーニに伝えた通り、昼前には冒険者ギルドへと向かった。
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