異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第164話 追い付きたいなら

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「じゃあな」

「えぇ」

翌朝、リーチェと別れたアストは適当に朝食を食べ終え……そのまま煉獄のクランハウスへと向かう。

「よぅ、おはようさん。アス、ト…………ん?」

何事もなく敷地内に入り、訓練場に到着したアストに声を掛けるヴァーニは何かを感じ取った。

「……アスト、お前昨日の夜、もしかして遊んでたのか」

「遊んでたって言うのは、少し人聞きが悪いと思うんだが……まぁ、そうだな。良い夜を過ごしてはいた。というかヴァーニ、そういうの解るようになってきたんだな」

「うっせ。ったく……ハッスルし過ぎて疲れてるとかねぇだろうな」

「安心してくれ。キッチリ仕事はこなすよ」

アストが到着するよりも早く、アラックたちは訓練場に集まって準備運動を行っていた。

「夜も遊べるぐらい、うちらとの訓練には余裕だったってわけね~~」

狼の獣人族であるサンドラは、ヴァーニの様な勘ではなく、その優れた嗅覚からアストが女性と共にいたというだけではなく、交わったことまで解った。

とはいえ、獣人族であるサンドラはそういった面に関しては特に気にしないタイプであり、「不潔です!!!!」といった小娘の様なセリフを吐くことはなかった。

「それはそれ、これはこれという話だ。美味い肉をたくさん食べて腹一杯だとしても、スイーツなら食べられるだろ」

「…………」

「そういった感じだ」

見た目通り肉が好みであるサンドラだが、スイーツもかなり好きであるため、見事に反撃されてしまい、押し黙るしかなかった。

「それじゃあ、とりあえず軽く運動しようか」

軽い運動というのは、連続でのタイマン勝負。

「…………」

夜、遊んでたくせに随分と余裕だな、ふざけるなよ……といった言葉が、アラックたちの口から零れることはなかった。

何故なら、先日……いやという程、解らせられたからである。



「っし、暖まったな」

「「「「…………」」」」

「やぁ~~~、やっぱパないっすね~~~」

タイマン勝負を数周繰り返し、準備運動が終了。

相変わらずエルフのエイモンは明るいが、他四人は本日も思い知らされた差に軽く心を砕かれていた。

「アスト、今日はアラックたちに何を教えるんだ?」

「戦闘を早く終わらせることを学んでもらおうと思ってな」

「あぁ~~~、なるほど。けど、まだ早くねぇか?」

「かもしれないな。でも、この面子で戦うことが多いんだろ? それなら、俺は無理ではないと思う」

「……まぁ、階層によっては無理じゃねぇか」

「何の話をしてるんですか」

「倒すと殺すは違うって話だ」

アストの言葉にアラックたちは首を傾げるが、エイモンだけはなんとなくアストが何を言いたいのか察した。

「上手くモンスターを狩れってことっすかね」

「そういう事だ。解っているメンバーがいるなら、話は早いな。誰にでも限界はあるが、それでもお前たちはまだ限界に達してない筈だ」

「モンスターを狩れば強くなれる……そんな当たり前の事を言いたいんですか」

「正確には上手く、早く、効率的に殺すんだ。このモンスターはこういった動きを得意としている。それなら、誰かがその攻撃を防ぎ、逃げ道を塞いで仕留める。今のは凄く簡単な例だが、そういった動きが出来るようになれば、体力や魔力もあまり消耗せずに一日の間に何度も戦える」

クソスパルタな内容である。
何を無茶な事を言っているんだこの男は、といった眼を向けるアラックやサンドラ。

「疑り深い視線だな」

「そんな事が、本当に可能なのかと疑ってるんです」

「そうか。そうだな……誰でも出来ることではない。ただ、俺はお前たちなら無理ではないと感じた。とはいえ、難しく無茶な事を言っている自覚はある。嫌なら、別の方向でいこう」

アストとしても、口にした通り難しく無茶な方法であることを自覚している。
臨時講師となったアストとしては、ひとまず自分が臨時講師である期間に、彼らを死なせるわけにはいかない。

「ただ、それなら嫌いな俺を一生越えることは出来ないだろうな」

「っ!!!」

「それに、お前らは憧れの先輩たちに、憧れてるだけで良いのか?」

「どういう、意味ですか」

「俺なら、その先輩の隣に立って、共に戦いたい」

「「「「っ!!!」」」」

「お前たちが歩んでいる間にも、ヴァーニたちは前に進み続ける。生半可な歩みで、こいつらに追い付けると思ってるのか」

ヴァーニは、どこまで強くなれば満足……といった指標はない。
現在の目標は、いつも共に行動している面子でダンジョン、暗恐の烈火を完全攻略すること。

そこに到達するまで、走って走って、走り続ける。

「先にいる者たちに追い付きたいなら、それ相応の覚悟を決めろ」

「……やって、やりますよ」

「同じく」

「私にも、覚悟はあります」

「うちもね」

「皆元気だね~~~」

約一名、他四名と比べて闘争心が薄そうに見えるが、心の内はキッチリ燃えていた。

「そりゃ良かった。じゃあ、今日は座学といこうか」

さっきの準備運動はなんだったのかとツッコみたくなったが、五人はなんとか堪え、アストの言葉に耳を傾けた。
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