163 / 167
第164話 追い付きたいなら
しおりを挟む
「じゃあな」
「えぇ」
翌朝、リーチェと別れたアストは適当に朝食を食べ終え……そのまま煉獄のクランハウスへと向かう。
「よぅ、おはようさん。アス、ト…………ん?」
何事もなく敷地内に入り、訓練場に到着したアストに声を掛けるヴァーニは何かを感じ取った。
「……アスト、お前昨日の夜、もしかして遊んでたのか」
「遊んでたって言うのは、少し人聞きが悪いと思うんだが……まぁ、そうだな。良い夜を過ごしてはいた。というかヴァーニ、そういうの解るようになってきたんだな」
「うっせ。ったく……ハッスルし過ぎて疲れてるとかねぇだろうな」
「安心してくれ。キッチリ仕事はこなすよ」
アストが到着するよりも早く、アラックたちは訓練場に集まって準備運動を行っていた。
「夜も遊べるぐらい、うちらとの訓練には余裕だったってわけね~~」
狼の獣人族であるサンドラは、ヴァーニの様な勘ではなく、その優れた嗅覚からアストが女性と共にいたというだけではなく、交わったことまで解った。
とはいえ、獣人族であるサンドラはそういった面に関しては特に気にしないタイプであり、「不潔です!!!!」といった小娘の様なセリフを吐くことはなかった。
「それはそれ、これはこれという話だ。美味い肉をたくさん食べて腹一杯だとしても、スイーツなら食べられるだろ」
「…………」
「そういった感じだ」
見た目通り肉が好みであるサンドラだが、スイーツもかなり好きであるため、見事に反撃されてしまい、押し黙るしかなかった。
「それじゃあ、とりあえず軽く運動しようか」
軽い運動というのは、連続でのタイマン勝負。
「…………」
夜、遊んでたくせに随分と余裕だな、ふざけるなよ……といった言葉が、アラックたちの口から零れることはなかった。
何故なら、先日……いやという程、解らせられたからである。
「っし、暖まったな」
「「「「…………」」」」
「やぁ~~~、やっぱパないっすね~~~」
タイマン勝負を数周繰り返し、準備運動が終了。
相変わらずエルフのエイモンは明るいが、他四人は本日も思い知らされた差に軽く心を砕かれていた。
「アスト、今日はアラックたちに何を教えるんだ?」
「戦闘を早く終わらせることを学んでもらおうと思ってな」
「あぁ~~~、なるほど。けど、まだ早くねぇか?」
「かもしれないな。でも、この面子で戦うことが多いんだろ? それなら、俺は無理ではないと思う」
「……まぁ、階層によっては無理じゃねぇか」
「何の話をしてるんですか」
「倒すと殺すは違うって話だ」
アストの言葉にアラックたちは首を傾げるが、エイモンだけはなんとなくアストが何を言いたいのか察した。
「上手くモンスターを狩れってことっすかね」
「そういう事だ。解っているメンバーがいるなら、話は早いな。誰にでも限界はあるが、それでもお前たちはまだ限界に達してない筈だ」
「モンスターを狩れば強くなれる……そんな当たり前の事を言いたいんですか」
「正確には上手く、早く、効率的に殺すんだ。このモンスターはこういった動きを得意としている。それなら、誰かがその攻撃を防ぎ、逃げ道を塞いで仕留める。今のは凄く簡単な例だが、そういった動きが出来るようになれば、体力や魔力もあまり消耗せずに一日の間に何度も戦える」
クソスパルタな内容である。
何を無茶な事を言っているんだこの男は、といった眼を向けるアラックやサンドラ。
「疑り深い視線だな」
「そんな事が、本当に可能なのかと疑ってるんです」
「そうか。そうだな……誰でも出来ることではない。ただ、俺はお前たちなら無理ではないと感じた。とはいえ、難しく無茶な事を言っている自覚はある。嫌なら、別の方向でいこう」
アストとしても、口にした通り難しく無茶な方法であることを自覚している。
臨時講師となったアストとしては、ひとまず自分が臨時講師である期間に、彼らを死なせるわけにはいかない。
「ただ、それなら嫌いな俺を一生越えることは出来ないだろうな」
「っ!!!」
「それに、お前らは憧れの先輩たちに、憧れてるだけで良いのか?」
「どういう、意味ですか」
「俺なら、その先輩の隣に立って、共に戦いたい」
「「「「っ!!!」」」」
「お前たちが歩んでいる間にも、ヴァーニたちは前に進み続ける。生半可な歩みで、こいつらに追い付けると思ってるのか」
ヴァーニは、どこまで強くなれば満足……といった指標はない。
現在の目標は、いつも共に行動している面子でダンジョン、暗恐の烈火を完全攻略すること。
そこに到達するまで、走って走って、走り続ける。
「先にいる者たちに追い付きたいなら、それ相応の覚悟を決めろ」
「……やって、やりますよ」
「同じく」
「私にも、覚悟はあります」
「うちもね」
「皆元気だね~~~」
約一名、他四名と比べて闘争心が薄そうに見えるが、心の内はキッチリ燃えていた。
「そりゃ良かった。じゃあ、今日は座学といこうか」
さっきの準備運動はなんだったのかとツッコみたくなったが、五人はなんとか堪え、アストの言葉に耳を傾けた。
「えぇ」
翌朝、リーチェと別れたアストは適当に朝食を食べ終え……そのまま煉獄のクランハウスへと向かう。
「よぅ、おはようさん。アス、ト…………ん?」
何事もなく敷地内に入り、訓練場に到着したアストに声を掛けるヴァーニは何かを感じ取った。
「……アスト、お前昨日の夜、もしかして遊んでたのか」
「遊んでたって言うのは、少し人聞きが悪いと思うんだが……まぁ、そうだな。良い夜を過ごしてはいた。というかヴァーニ、そういうの解るようになってきたんだな」
「うっせ。ったく……ハッスルし過ぎて疲れてるとかねぇだろうな」
「安心してくれ。キッチリ仕事はこなすよ」
アストが到着するよりも早く、アラックたちは訓練場に集まって準備運動を行っていた。
「夜も遊べるぐらい、うちらとの訓練には余裕だったってわけね~~」
狼の獣人族であるサンドラは、ヴァーニの様な勘ではなく、その優れた嗅覚からアストが女性と共にいたというだけではなく、交わったことまで解った。
とはいえ、獣人族であるサンドラはそういった面に関しては特に気にしないタイプであり、「不潔です!!!!」といった小娘の様なセリフを吐くことはなかった。
「それはそれ、これはこれという話だ。美味い肉をたくさん食べて腹一杯だとしても、スイーツなら食べられるだろ」
「…………」
「そういった感じだ」
見た目通り肉が好みであるサンドラだが、スイーツもかなり好きであるため、見事に反撃されてしまい、押し黙るしかなかった。
「それじゃあ、とりあえず軽く運動しようか」
軽い運動というのは、連続でのタイマン勝負。
「…………」
夜、遊んでたくせに随分と余裕だな、ふざけるなよ……といった言葉が、アラックたちの口から零れることはなかった。
何故なら、先日……いやという程、解らせられたからである。
「っし、暖まったな」
「「「「…………」」」」
「やぁ~~~、やっぱパないっすね~~~」
タイマン勝負を数周繰り返し、準備運動が終了。
相変わらずエルフのエイモンは明るいが、他四人は本日も思い知らされた差に軽く心を砕かれていた。
「アスト、今日はアラックたちに何を教えるんだ?」
「戦闘を早く終わらせることを学んでもらおうと思ってな」
「あぁ~~~、なるほど。けど、まだ早くねぇか?」
「かもしれないな。でも、この面子で戦うことが多いんだろ? それなら、俺は無理ではないと思う」
「……まぁ、階層によっては無理じゃねぇか」
「何の話をしてるんですか」
「倒すと殺すは違うって話だ」
アストの言葉にアラックたちは首を傾げるが、エイモンだけはなんとなくアストが何を言いたいのか察した。
「上手くモンスターを狩れってことっすかね」
「そういう事だ。解っているメンバーがいるなら、話は早いな。誰にでも限界はあるが、それでもお前たちはまだ限界に達してない筈だ」
「モンスターを狩れば強くなれる……そんな当たり前の事を言いたいんですか」
「正確には上手く、早く、効率的に殺すんだ。このモンスターはこういった動きを得意としている。それなら、誰かがその攻撃を防ぎ、逃げ道を塞いで仕留める。今のは凄く簡単な例だが、そういった動きが出来るようになれば、体力や魔力もあまり消耗せずに一日の間に何度も戦える」
クソスパルタな内容である。
何を無茶な事を言っているんだこの男は、といった眼を向けるアラックやサンドラ。
「疑り深い視線だな」
「そんな事が、本当に可能なのかと疑ってるんです」
「そうか。そうだな……誰でも出来ることではない。ただ、俺はお前たちなら無理ではないと感じた。とはいえ、難しく無茶な事を言っている自覚はある。嫌なら、別の方向でいこう」
アストとしても、口にした通り難しく無茶な方法であることを自覚している。
臨時講師となったアストとしては、ひとまず自分が臨時講師である期間に、彼らを死なせるわけにはいかない。
「ただ、それなら嫌いな俺を一生越えることは出来ないだろうな」
「っ!!!」
「それに、お前らは憧れの先輩たちに、憧れてるだけで良いのか?」
「どういう、意味ですか」
「俺なら、その先輩の隣に立って、共に戦いたい」
「「「「っ!!!」」」」
「お前たちが歩んでいる間にも、ヴァーニたちは前に進み続ける。生半可な歩みで、こいつらに追い付けると思ってるのか」
ヴァーニは、どこまで強くなれば満足……といった指標はない。
現在の目標は、いつも共に行動している面子でダンジョン、暗恐の烈火を完全攻略すること。
そこに到達するまで、走って走って、走り続ける。
「先にいる者たちに追い付きたいなら、それ相応の覚悟を決めろ」
「……やって、やりますよ」
「同じく」
「私にも、覚悟はあります」
「うちもね」
「皆元気だね~~~」
約一名、他四名と比べて闘争心が薄そうに見えるが、心の内はキッチリ燃えていた。
「そりゃ良かった。じゃあ、今日は座学といこうか」
さっきの準備運動はなんだったのかとツッコみたくなったが、五人はなんとか堪え、アストの言葉に耳を傾けた。
158
あなたにおすすめの小説
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる