異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第165話 座学

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「ゴブリンとコボルトの違いはなんだ?」

「……体格とランク」

「オーケー、そうだな。それじゃあ、それ以外には何が違う」

「嗅覚」

「良いね、サンドラ。ついでに聴力もゴブリンとは違うから、総じて索敵力が厄介だな。それじゃあ、他には何が違う」

「あれじゃないっすか。コボルトは……せ、戦場? を駆けるのがゴブリンより上手くて、後爪がそのまま武器になる」

「良く解ってるじゃないか、エイモン。そうだ。コボルトは生まれながらに爪という強力な武器を持ってる。何かしらの武器を持っていないコボルト対峙した場合、まず気を付けるべきはそれだ」

まさに、座学。
アストはまずスライム、そして次にゴブリンの特徴などを説明し、時には問いかけて改めて特異な攻撃や嫌なところなどを把握していく。

「なぁ、ヴァーニ。コボルトの中で魔力を纏える個体は、魔力を利用して爪撃波を放ってくるけど、蹴りで斬撃波は放ってこないよな」

「そうだな。そんな芸当をする個体は……コボルトファイターとかだけだな」

「だよな。という訳で、気を付けるの主に爪を使った爪撃。上位種の個体に遭遇すれば……どうすれば戦い易くなる」

「………………脚を潰す、でしょうか」

「そう!!! 一発で当てるのは冴えてるな、オーレリア。俺らにとっても同じことが言えはするが、コボルトにとって脚は爪の次に大事な武器だ。最悪、脚だけ動きを止めさせることが出来れば、勢位を制御できずにすっ転ぶ」

「それってーと、隠密とかが得意な冒険者たちが使ってる、糸とかを使えば良いってことっすか?」

「そういう事だ、エイモン!! オーレリアと同じく冴えまくってるな。糸なんて、使い慣れた斥候系にしか使えないんじゃないかと思うかもしれないが、それは攻撃メインに使用する場合とかだ。先に錨を付け、木や石に突き刺せば即席のトラップになる!! よっぽどの突進力じゃなければ、完全に止めるとはいかずとも、オーガの動きすら邪魔することが出来る!!」

本当か? と首を傾げるアラックやサンドラ。

しかし、そういった事が出来る人物に覚えがあるヴァーニがうんうんと頷いているため、ひとまず誰もそこにツッコまなかった。

「殺し方はゴブリンと殆ど同じだが、コボルトはゴブリン以上に咬みつきも行う。アラックやダリアンの様にそれなりに長い得物を使うなら、カウンターでぶっ刺すのもありだ。ただ、口の中を突き刺しても、最後まで動く場合があるから突いたら直ぐに抜けよ!!」

「……俺に関しては、ゴブリンと同じ方法でも良いのか」

「おぅ、勿論んだ、ダリアン!! Cランクの上位種になれば難しいと思うが、通常種のコボルトまでなら、お前の腕力で脚を掴んでしまえば、そのままぶん投げて叩きつけ、戦いを終わらせることも出来る!!!」

ダリアンにとって、アストから教えられた討伐方法は……決して快く受け入れられるものではなかった。

咬みつこうと襲い掛かるコボルトの口に得物を突き刺す。
これに関してはまだ理解出来るものの、オーガという種族であるにもかかわらず、昔助けられた騎士に憧れてレイピアという武器を使っているダリアンからすれば、相手を掴んでぶん投げ……叩きつけるといった攻撃は、中々受け入れられない。

「牙などの素材は手に入らないかもしれないが、群れと遭遇した場合はそのまま雑ではあるが武器にも使える。消耗を抑えたい時にはベストな攻撃かもな」

「…………」

直接は指摘しない。

しかし、ダンジョンで体力や魔力を……武器を消耗した状態で行う探索が、戦いがどれほど苦しいか、ダリアンは知っている。

アストはそれを見抜いたうえで、サラッと説明の中に「お前は本当にそのままで良いのか」という問いかけを仕込んだ。

「それじゃあ、次はウルフ系のモンスターに関してだが、さっき説明したコボルトに似てるな」

「主な武器が爪、牙というとこでしょうか」

「そうだ!! それじゃあオーレリア、ウルフ系……加えて四足歩行系のモンスター相手に気をつけなきゃいけない攻撃は何だ」

「……………………………………尻尾、でしょうか」

「良いぞ良いぞ!! その通りだ! EランクやDランク系の中にはあまりいないが、Cランクのウルフモンスターの中には割といるんだ。相手が宙に跳んだ際、うっかりその可能性が頭から消えてたら、タイミングズラされてスパッと斬られる可能性もある」

アラックたちにはまだ先の話、などとは思っておらず、アストはCランクモンスターに関する話も混ぜながら座学を続ける。

「コボルトとウルフ系モンスターは似てるって言ったが、二足歩行と四足歩行とかにも違う部分がある。特に爪による攻撃に関しては、コボルトよりも読みやすい……アラック、なんでか解るか」

「………………ちょっと、待ってくれ」

「勿論だ。存分に考えくれ」

急かすことなく、じっくりアラックが答えを出すのを待つ。

「下から爪撃がくることはない、か」

「そうだ!! 良く答えに辿り着いたな。加速力などは侮れないが、動きが読めれば対処も出来る! 完璧に捉えたのなら、防ぐだけじゃなく思いっきりカウンターをぶちかませ。ただ、その際はそのまま命を奪い取るのか、それとも脚に攻撃を加えて機動力を奪うのかハッキリ決めてから攻撃するようにな」

アストの言葉に、五人は揃って首を縦に動かす。

こうして昼食まで、本業バーテンダー、副業冒険者という教職部分が欠片もないアストによる座学が続いた。
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