執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第150話 忘れていた

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「……トイレに行きてぇ」

「丁度良いタイミングだ」

一回戦目が全て終了し、インターバルが挟まれる。
その間、一旦席を外して昼飯を食べに行く者たちもいる。

(速攻で終わる者もあったけど、どれも良い戦いだったな……二回戦目、三回戦目になるにつれて、更に会場のボルテージが上がるんだろうな~~~)

前世では一度もスポーツ観戦などをしたことがなかったバトムス。
スポーツ事態に興味がなかったわけではないが、観戦することの何が楽しいのかと思っていたが……今回の試合を観戦し、その気持ちが何となくではあるが理解出来た。

(良いもんだな。王都まで来るのは面倒だけど、観る価値十分…………けど、あれか。もしかしてだけど、ここまで俺が満足出来てるのって、知り合いが参加してるからか?)

バトムスの知り合いはルチアとアルフォンス。

普段からよく言い合いをしているルチアではあるけど、だからといって今回の様な大舞台で負けてしまえ、なんて思う事はなく、応援する対象に入っているのは間違いない。

アルフォンスは言わずもがな、全身全霊で応援する対象である。

そのため、一部バトムスは認めないかもしれないが、彼にとって今大会に参加する学生の中で、ルチアとアルフォンスは推しと言える存在。

そういった存在が参加しているからこそ、バトムスはトーナメント全体を楽しんで観れていると……と言える要素は、少なからずあった。

(そうなると、熱い想いが懸けられているトーナメントを観たからといって、全部の戦いに満足出来る訳ではないのか?)

「バトムス、何か考え事か?」

「いえ、大した事じゃありません」

「そうか」

「それより、席に戻る前に少し飲み物と軽食を買いませんか」

「うむ、その方が良さそうだな」

バトムスは高性能なアイテムバッグを有しているため、好きな時に冷えた果実水やオークの串焼きなどを保存しておける。

シエルやライラの分も買いに行こうとした時、一人の女性がバトムスに声を掛けた。

「失礼、そこの騎士をお連れの方」

「ん?」

「えぇ、あなたです。バトムスさん……で、よろしいでしょうか」

「はい、バトムスって名前ではありますけど……その、どちらさまで?」

声を掛けて来た同世代の女性のことを、バトムスは知らない。

ただ、身に付けている服装から、王都の学生であることだけは解る。

「ふふ、覚えていませんでしたか」

「うっ……も、申し訳ありません」

声を掛けてきた女子生徒の周りにいる人物の視線がやや鋭く、縮こまってしまう。

女子生徒の口ぶりから、かつて一度だけ参加した社交界で顔合わせした事であろう人物なのは解ったが……それでも数年以上は前のことなので、完全にバトムスの記憶から抜け落ちていた。

「いえいえ、構いませんよ。バトムスさんはあの社交界以降、公の場に出ていませんでしたからね。おっと、もう一度名乗っておいた方がよろしいですね。私はウィサーラ。ウィサーラ・ルナリーズと申します」

「っ」

女子生徒の名を聞き、バトムス……ではなく、ノウザスの表情に緊張が走った。

(バトムス、気付くんだ。彼女は、侯爵家の人間だ)

ルナリーズ侯爵家。
爵位だけ見れば、アブルシオ辺境伯家よりも位が高い家。

ウェーブが掛かった水色の髪はルナリーズ侯爵家の特徴を表す一つ。
貴族の世界に身を置いている者であれば一目で理解して当然だが、バトムスは貴族の世界に身を置いている様で置いてない人間。

その特徴的な髪色を見ても気付かないのは、致し方ないことであった。

「えっと、アブルシオ辺境伯家で執事見習いをしているバトムスで」

「えぇ、勿論知っていますよ。ルチアさんとお茶会をする時によくあなたの話を聞きますので」

(……絶対碌な事言ってねぇな)

眉をへの字に曲げそうになるも、相手がただなる人物であることだけは察し、なんとか不満げな表情を表に出さないように堪えた。

「そ、そうなんですね」

「彼女があなたの事を話す時、それはもう面白い顔をします」

「な、なるほど?」

お茶会と言う場で浮かべるルチアの面白い顔というのが上手くイメージ出来ず、首を傾げるバトムス。

「加えて、私はあの時のあなたの行動をよく覚えています」

「そ、それはどうも……えっと、なんと言いますか」

バトムスも世の摂理は理解しているため、あの時の行動が良いものであることは解りつつも、反面よろしくない部分があることも理解している。

「ふふ。私はあの行動を責めるつもりは全くありません。寧ろ素晴らしい行動だと思いました」

少々険しい顔をしていた取り巻きの令嬢たちも、その内容自体は知っており……概ねウィサーラと同じ考えを持っており、笑みを零しながら何度も頷いた。

「成長するにつれ、あの行動がどれほど素晴らしいのか……どれほどの勇気が籠っていたのか理解させられます。だからこそ、思うのです……バトムスさん、私の元へ来ませんか」

「っ!!!!!?????」

スカウト、もしくは引き抜き行為。

そういった対象として自分が選ばれたことに、バトムスは驚きを隠せなかった。
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