執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第151話 話通りの人物

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「…………」

ウィサーラのバトムスに対する引き抜き行為を見て、ライラは表情を変えることはなかった。

何故なら、他の者たちよりもバトムスの事を知っている身からすれば、少年はスカウトされない方がおかしいと断言出来る存在だからである。

(このご令嬢……いったいどこまで知っているのだろうか)

ルチアから話を聞き、興味を持ったからスカウトしようと決めたのか。
それとも……バトムスが隠している諸々の立場を知って引き抜こうとしているのか。

前者か後者かで、ウィサーラがバトムスをスカウトするという行為の意味合いが変わってくる。

「………………大変有難い、光栄なお話なのは理解していますが、遠慮させていただきます」

「……まだ条件を提示していないのに、ですか?」

「はい」

ウィサーラとしては、それなりの好条件を提示しようと思っていた。

ただ、仮にその内容を聞いたとしても、バトムスの気持ちは変わりません。

「お嬢……ルチア様からお話を聞いているのであれば、自分はその通りの人物です。執事候補という立場ではありますが、それらしい活動は一切していません。やりたい事だけをやって生きている自由人です。なので、自分をスカウトしたところで、ウィサーラ様にメリットは一欠片もございません」

どれだけ自分をスカウトするのが意味のない行為なのかを語る。
一見するとおかしい光景だが、バトムスとしては勘弁してほしい引き抜き行為である。

本当に諦めてほしいのであれば、ここでだらしない態度でも取れば良いのだが、バトムスの感覚ではウィサーラはルチアよりも令嬢らしい令嬢に見えるため、本能的に下手な態度を取れなかった。

それが逆効果になってしまうのだが、咄嗟に判断するのは酷であった。

「加えて、自分は今の生活にとても満足しております」

「…………そうなのですね。それでは、どれだけ好条件を提示しても、あなたもスカウトすることは難しそうですね……解りました。私も、バトムスさんに嫌われたいわけではありませんので、無理強いはしません」

「ご寛大な対応、感謝します」

深く頭を下げ、バトムスはそそくさとその場から離れていった。




「…………」

「やはり、変わった方ですね」

ウィサーラの取り巻きの一人が、ポツリと零した。

「えぇ、そうですね……本当に、執事候補という立場でいるのが不思議です」

自分はルチアが語る通りの人物だと口にしながらも、バトムスの言葉は貴族……もしくは目上の者に対するそれ。

そこを理解しているからこそ、取り巻きたちはウィサーラのスカウトを断ったバトムスに対し、毒を吐くこともなかった。

「同意ですわ。それと、あの執事候補の方、魔力量が同世代の平民のそれではありませんでしたわ」

「私も同じ意見です。あれは、明らかに戦闘を経験している者の量」

「ふふふ、私も同じ感想です。バトムスさんは……その佇まいから、経験の差を解らせてくる方でしたね」

彼女たちは、ウィサーラも含めて将来的に戦闘職を目指している面々。

そのため、既に最高レベルの眼が備わっている訳ではないが、視る眼は養われている。
そんな彼女たちから視て、バトムスは明らかに普通の平民とは違った。

(明らかに質の高い訓練を受けていますわね)

(高度な訓練だけではなく、実戦も何度も繰り返している……それを、その身が零す空気だけで感じさせる)

(もし、彼が今回の戦いに参加していたとしたら……)

普通の平民とは違う。
その違いを彼女たちはある程度察していた……そして、数名ほど冷や汗を流していた。

「ウィサーラさん。もし……あり得ない話ではありますが、彼が今回のトーナメントに参加していた場合、どうなるでしょうか」

「「「っ!!!」」」

剣士の様な鋭さを持つ女子生徒の言葉に、他の取り巻きたちに緊張が走る。

「そうですね……………………間違いなく、波乱が起きるでしょう」

波乱。
つまり、トーナメントに参加出来るだけの実力を持つ学生が複数人、負ける可能性があるという事。

「っっ、では……ルチアさんがお茶会の際に話していた内容は、全て……事実だと」

「その可能性が高い…………いえ、確定でしょう」

ルチアとお茶会をしていた際、バトムスの話題になると、彼女は悔し気な表情を浮かべながらも、ハッキリと口にしていた。

自分は、まだバトムスに一度も勝てたことがないと。

(あのルチアさんが一度も勝てたことがない、執事候補の少年……特別枠で彼が参加すれば…………もしかしなくとも、優勝を掻っ攫われるかもしれませんね)

貴族の令嬢として、それはあり得ないと断言しなければならない点ではある。

それでも、ウィサーラはルチアと同じく、自分が感じたことに対して嘘は付けないタイプ。

ただ、本人に伝えた通りバトムスに嫌われたくはないため、もしもの想像の話を他の者たちに伝え、怒りがバトムスに向くような真似はしない。

「……負けていられませんね」

彼女の言葉に、取り巻きの令嬢たちは力強く頷き、既に燃え上がっている闘志の火力を更に上げるのだった。
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