執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第152話 何があっても

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「おかえりな、さい……な、何かあったの、バトムス?」

観客席に戻って来たバトムスの顔からは、ハッキリと疲れが感じられた。

「まぁ、ちょっとな」

何があったのかを話すと、シエルは「流石バトムス!!」といった誇らしげな表情を浮かべるが、ライラはクールな表情が崩れるほど大きく口を開けて固まった。

「…………それは、本当に?」

「あぁ、事実だ」

「そ、そうなのね。それは……けど…………そう、ね」

驚きを隠せなかったライラだが、彼女もバトムスの詳細を知る人物であり、ウィサーラ・ルナリーズほどの人物がバトムスをスカウトしようとした事に、一応納得は出来た。

「でも、断ったんだよね」

「あぁ、断ったよ。俺は今の生活が一番良いからな」

執事候補らしい態度、行動を取れないわけではない。

ただ、バトムスにとってそれはあまりにも息苦しい生活。
せっかく夢の様な生活を維持できる状態が整ったというのにも関わらず、みすみすそれを捨てるような真似など、出来るわけがない。

「今後、更に増えるかもしれないわね」

「そうなったら、守ってもらいますよ」

バトムスは、確かに金を持っている。
大金を持っているが、決して権力を持っていはいない。

そのため、権力者から守ってもらう為には、同じ権力者を頼るのが一番。

彼にとって一番身近な権力者は、勿論辺境伯家当主であるギデオン。

いくら侯爵家の令嬢がバトムスを欲したとしても、辺境伯家の令息や令嬢ではなく当主が出てきたとなれば、引き抜きは困難を極める。

(ギデオン様であれば、全力でバトムスを守るだろう。油断は禁物とはいえ、大事になることはない筈)

侯爵家の令嬢ではなく、侯爵家の当主が出てきてしまったらどうなるのかという心配もあるが……大概の侯爵家の場合、そもそもアブルシオ辺境伯家と事を構えたくない。

そのため、一応娘の意見を伝えはするものの、侯爵家の権力を使って無理矢理引き抜こうという行動に出ることはない。

「…………彼に頼むことは、出来ないのかしら」

「彼って……あぁ……なんとかしてくれるかもしれないっすけど、あいつには……あんまりそういう事で頼りたくないっすかね」

バトムスの知り合いの権力者と言えば、勿論この国の第五王子であるアルフォンス。

第五王子と、王位継承権から離れているとはいえ、それでも彼が王族というのはゆるぎない事実。
アルフォンスがいたって真面目な性格で優秀ということもあって、彼の機嫌を損ねた、不快にさせてしまったという話が出ればその家の評判に大きく関わる。

なので、もしそういった問題が起こってしまった場合、アルフォンスに頼るというのは一番の解決手段でもある。

アルフォンスが今回の話を聞けば、寧ろ喜んで協力する。
なんなら、彼としてはそういった問題が起これば、是非とも自分を頼ってほしいとすら思っている。

だが、バトムスとしてはアルフォンスのことを本気で友人だと思っているからこそ、友達のそういった部分を利用したくなかった。

「あなたらしいわね」

「どうも……あっ、これ飯っす」

二人に串焼きなどを渡し、誰が優勝するかを話し合うこと十数分、インターバルが終了。
ようやく二回戦目が始まる。

(さて……お嬢とアルは決勝でぶつかれるかねぇ)

バトムスが先程出会った令嬢たちの中に、このまま上がればルチアとぶつかる者がいた。
その者は、エリートたちの中の上澄みに入る人物。

(実際に対面して思ったけど、あれは強い。攻撃力ではお嬢の方が勝ってるだろうけど、他の部分ではどうなんだろうな……少なくとも一回戦目の時みたいに無傷で圧勝っていうのは無理だろう)

ルチアが決勝戦まで上がれる可能性はあると思っているバトムス。
だが、それは楽に上がれるという訳ではない。

(……正直、トーナメント表を整理すると……アルフォンスが上に上がり易くなってるか?)

バトムスは貴族の世界では本当に末席も末席。
ただ、その世界の端っこに身を置いているだけの人間。

どういった方法でトーナメントの抽選を行っているかは解らない。
偶々運良くアルフォンスが上に上がり易い位置になっているのかもしれない。

「…………」

「どうしたの? 肉が固かった?」

「違ぇ……どうやって決めてんだろうと思ってな」

「トーナメントの抽選の事ね。基本的にランダム……完全に運任せになってるらしいわ」

「そうなんすね」

ライラも、あくまでそうだと聞いているだけの話。
それが本当なのか、裏で仕組まれているのかは解らない。

(……傷と魔力は回復させてもらえるなら、成長出来るチャンスが増えると捉えるか…………まっ、そこら辺どう考えるかは、それこそお嬢次第か)

仮に仕組まれたトーナメント表だとしても、たかが執事候補のバトムスにどうこう出来る問題ではない。

であれば……彼女が出来ることは、その剛剣で全てを叩き伏せ、決勝戦で敬愛する人物さえもぶった斬るだけである。
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