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第154話 熱の発信源
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「ッ、その筋肉は飾りかーーーー、お嬢ッ!!!!!!!!!!!!」
声援。
闘技場という場所を考えれば、寧ろ送られて当たり前の場所。
ただ、声を上げた人物が少々意外だった。
(バトムス……)
(あら、これは)
(ふふ……やはり、友人が負ける姿は見たくない、ということか)
シエルたち三人にとっては、あるかもしれないと思いつつも、それはそれとして意外だと思ってしまう展開。
そして、周りの観客たちからしても意外だった。
先程まで冷静に試合を分析し、感想を言い合っていたグループの一人。
歓声を飛ばすことはなく、ただ戦う道に進む者として、エリートたちの戦闘を細かく分析しているのかと思われていたが……ここにきての大声援を送り始めた。
「そんなうふふあははなお嬢様なんざ、一撃でぶっ潰してやれーーーーーーッッッ!!!!! お前の筋肉なら、それが出来るだろっ!!!!!!!」
とはいえ、声援の内容や思ったよりも下品であり、辺境伯家の令嬢に対して贈るものではない……だが、人間というのは不思議なもの。
一見、貴族令嬢に送るには汚い声援内容に思えるが……それでも、周りにいる同じ観客たちにはこの少年が本気で、心の底から声援を送っているという事が解る。
「はは、そうだそうだ!!! アブルシオ辺境伯家の嬢ちゃん、一発良いのをぶち込んじまえ!!!!!!」
「よ~~く狙って!! そうすれば当たるよ!!!!」
「気合いだ!!!! 気合いがあれば当てられるぞ!!! 一撃で決めてしまえ!!!!!」
熱が伝播し、バトムスの周辺にいた客たちが盛り上がり、そんな客たちが生んだ熱が……また周りにいる客たちに熱を与え、ルチアを応援する者たちが増えていく。
当然、最初からウィサーラ・ルナリーズを応援すると決めている者はいるだろう。
そういった者たちまで巻き込むことは出来ないが、それでもここは闘技場であり、出場学生の関係者以外にも多くの者たちが集まっている。
彼らにとって、賭けを行っている者たち以外は、正直どちらが勝っても問題ない。
盛り上がりさえすればそれで良い。
だったら、誰かが生んだ熱に乗っかり、更に自分も熱くなればより盛り上がることが出来る。
「叩き込め!!!!! お嬢っっっ!!!!!!!!!!!!!!」
バトムスは会場に自分の声援が新たな熱を生んだことを知らず、熱の籠った声援を送り続けるのだった。
SIDE ルチア
「ッ、その筋肉は飾りかーーーー、お嬢ッ!!!!!!!!!!!!」
「っ」
絶賛強敵と戦闘中であるルチアの耳に、よく知っている声が届いた。
バトムスが会場に来ていることには気づいていた。
なんで? とは思わない。
バトムスは父親であるギデオンのお気に入りなのを考えれば、会場には同行させていてもおかしくない。
ルチアとしては、別に自分の戦いっぷりをバトムスに観られているからといって、どうこう思うことはなく、恥ずかしさを感じることもない。
彼女としては……ただ、優勝するために目の前の敵を倒し、一歩ずつ進むのみ。
(あいつ、なんて、大きい声でっ!!!)
だがしかし、多くの観客たちが声を上げる中でもハッキリと聞こえるほど、自分に向けて声援? を飛ばしてくるとは思っていなかった。
(この、声は、彼の)
そして、ルチアに向けて送られた声援の主に、ウィサーラも気づいていた。
間違いなく、先程会話した少年……バトムスの声だと。
「羨ましい、ですね」
「っ!!! どういう、事、かしら!!!」
「だって、彼氏、さん! からの声援、でしょう!!!」
「っ!!??」
「フッ!!!」
(くっ!!! しまった!!)
ルチアからすればふざけんなと、何を勘違いしてるんだと、そんなわけないでしょうと、試合を無視して怒りを叫び散らしたいところだが……その行動がどれほど無駄であるかは、ルチア自身が一番解っている。
(どうやら、意外と効くみたいですね)
反応がどういった意味が含まれている反応なのかまでは解らないが、それでもウィサーラからすればほんの少しでもルチアに隙が生まれてくれるのは有難い。
現状、戦況はウィサーラ有利に進んでいる。
それでも割合で言えば六対四といった程度。
圧倒的に有利な戦況とは言い難い。
加えて、ウィサーラにとっては少々予想外な事があった。
それは……ルチアの防御力の高さ。
彼女が振るう大剣の威力が並外れているのは周知の事実。
ウィサーラとしては、是非とも食らいたくない攻撃である。
それでもスピードでは自分の方が上回っているため、速さと連撃を生かして戦えば上手く戦えると思っていた。
だが、予想以上にルチアの防御力が高く、試合が終わらない。
切傷の数は徐々に増えてはいるもののどれも浅く、薄皮一枚程度のものもある。
出血による影響を待つにはあまりにも長い……そんな中、バトムス関連でルチアを揺らせるのは彼女にとって有難い情報だった。
(今後も、使えるかもしれませんね)
一度使った策が二度通用するとは限らないが、使い方を工夫すれば再度通用する可能性は十分にある。
「っ、ーーーーッ!!! 破ッッッ!!!!!」
「ぐっ!!!!!」
思考の油断を付かれ、ルチアの大剣が彼女を捉えたが、ウィサーラは双剣をクロスさせてなんとか耐えて見せた。
「………………」
(っ、けれど……この試合中には、もう使えなさそうですね)
もう、目の前の強敵は完全に集中状態に入っていることを察知。
ウィサーラも小細工に頼る思考を捨て、終幕へと試合を進める。
声援。
闘技場という場所を考えれば、寧ろ送られて当たり前の場所。
ただ、声を上げた人物が少々意外だった。
(バトムス……)
(あら、これは)
(ふふ……やはり、友人が負ける姿は見たくない、ということか)
シエルたち三人にとっては、あるかもしれないと思いつつも、それはそれとして意外だと思ってしまう展開。
そして、周りの観客たちからしても意外だった。
先程まで冷静に試合を分析し、感想を言い合っていたグループの一人。
歓声を飛ばすことはなく、ただ戦う道に進む者として、エリートたちの戦闘を細かく分析しているのかと思われていたが……ここにきての大声援を送り始めた。
「そんなうふふあははなお嬢様なんざ、一撃でぶっ潰してやれーーーーーーッッッ!!!!! お前の筋肉なら、それが出来るだろっ!!!!!!!」
とはいえ、声援の内容や思ったよりも下品であり、辺境伯家の令嬢に対して贈るものではない……だが、人間というのは不思議なもの。
一見、貴族令嬢に送るには汚い声援内容に思えるが……それでも、周りにいる同じ観客たちにはこの少年が本気で、心の底から声援を送っているという事が解る。
「はは、そうだそうだ!!! アブルシオ辺境伯家の嬢ちゃん、一発良いのをぶち込んじまえ!!!!!!」
「よ~~く狙って!! そうすれば当たるよ!!!!」
「気合いだ!!!! 気合いがあれば当てられるぞ!!! 一撃で決めてしまえ!!!!!」
熱が伝播し、バトムスの周辺にいた客たちが盛り上がり、そんな客たちが生んだ熱が……また周りにいる客たちに熱を与え、ルチアを応援する者たちが増えていく。
当然、最初からウィサーラ・ルナリーズを応援すると決めている者はいるだろう。
そういった者たちまで巻き込むことは出来ないが、それでもここは闘技場であり、出場学生の関係者以外にも多くの者たちが集まっている。
彼らにとって、賭けを行っている者たち以外は、正直どちらが勝っても問題ない。
盛り上がりさえすればそれで良い。
だったら、誰かが生んだ熱に乗っかり、更に自分も熱くなればより盛り上がることが出来る。
「叩き込め!!!!! お嬢っっっ!!!!!!!!!!!!!!」
バトムスは会場に自分の声援が新たな熱を生んだことを知らず、熱の籠った声援を送り続けるのだった。
SIDE ルチア
「ッ、その筋肉は飾りかーーーー、お嬢ッ!!!!!!!!!!!!」
「っ」
絶賛強敵と戦闘中であるルチアの耳に、よく知っている声が届いた。
バトムスが会場に来ていることには気づいていた。
なんで? とは思わない。
バトムスは父親であるギデオンのお気に入りなのを考えれば、会場には同行させていてもおかしくない。
ルチアとしては、別に自分の戦いっぷりをバトムスに観られているからといって、どうこう思うことはなく、恥ずかしさを感じることもない。
彼女としては……ただ、優勝するために目の前の敵を倒し、一歩ずつ進むのみ。
(あいつ、なんて、大きい声でっ!!!)
だがしかし、多くの観客たちが声を上げる中でもハッキリと聞こえるほど、自分に向けて声援? を飛ばしてくるとは思っていなかった。
(この、声は、彼の)
そして、ルチアに向けて送られた声援の主に、ウィサーラも気づいていた。
間違いなく、先程会話した少年……バトムスの声だと。
「羨ましい、ですね」
「っ!!! どういう、事、かしら!!!」
「だって、彼氏、さん! からの声援、でしょう!!!」
「っ!!??」
「フッ!!!」
(くっ!!! しまった!!)
ルチアからすればふざけんなと、何を勘違いしてるんだと、そんなわけないでしょうと、試合を無視して怒りを叫び散らしたいところだが……その行動がどれほど無駄であるかは、ルチア自身が一番解っている。
(どうやら、意外と効くみたいですね)
反応がどういった意味が含まれている反応なのかまでは解らないが、それでもウィサーラからすればほんの少しでもルチアに隙が生まれてくれるのは有難い。
現状、戦況はウィサーラ有利に進んでいる。
それでも割合で言えば六対四といった程度。
圧倒的に有利な戦況とは言い難い。
加えて、ウィサーラにとっては少々予想外な事があった。
それは……ルチアの防御力の高さ。
彼女が振るう大剣の威力が並外れているのは周知の事実。
ウィサーラとしては、是非とも食らいたくない攻撃である。
それでもスピードでは自分の方が上回っているため、速さと連撃を生かして戦えば上手く戦えると思っていた。
だが、予想以上にルチアの防御力が高く、試合が終わらない。
切傷の数は徐々に増えてはいるもののどれも浅く、薄皮一枚程度のものもある。
出血による影響を待つにはあまりにも長い……そんな中、バトムス関連でルチアを揺らせるのは彼女にとって有難い情報だった。
(今後も、使えるかもしれませんね)
一度使った策が二度通用するとは限らないが、使い方を工夫すれば再度通用する可能性は十分にある。
「っ、ーーーーッ!!! 破ッッッ!!!!!」
「ぐっ!!!!!」
思考の油断を付かれ、ルチアの大剣が彼女を捉えたが、ウィサーラは双剣をクロスさせてなんとか耐えて見せた。
「………………」
(っ、けれど……この試合中には、もう使えなさそうですね)
もう、目の前の強敵は完全に集中状態に入っていることを察知。
ウィサーラも小細工に頼る思考を捨て、終幕へと試合を進める。
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