執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

文字の大きさ
157 / 166

第157話 初見に限れば

しおりを挟む
「あれだよね。これでルチア様はアドレアス様と戦う壁を越えたんだよね」

「……そうだな。とりあえず一つ目の壁は越えたと言ってもいいと思う」

続く試合を眺めながら、バトムスはまだ残っている学生たちのことを思い出す。

「一つ目……それじゃあ、まだ越えなければならない壁があるの?」

「そうだな。別に明確に上って決まってるわけじゃないから、壁って表現するのはおかしいけど……ほら、あいつだ」

バトムスが指さす先には、赤髪センターパートの鋭い目つきをしたイケメンがいた。

「あっ、あの人ってあれだよね。アルフォンス様とは別方向で細剣が上手い人」

「そうだ」

「……二人とも、先に言っておくがラニエ様はアンドレル侯爵家のご子息だからな」

「「…………」」

ルチアも辺境伯家の令嬢だが、バトムスからすればそういった対応を一切しなくても構わない相手。
シエルも……バトムス以上の敬意は有しているが、ルチア本人が許しているということもあり、フランクに接することが出来る。

ただ、現在リングで二試合目を行っているラニエ・アンドレルは……立場だけなら、ルチアよりも上の人物。

本人に対して直接タメ口で喋っているわけではないが、バトムスたちがいる観客席には貴族の関係者がちらほらといるため、一応言葉遣いには気を付けた方が良い。

「まっ、そんな事で揉めていれば、処理しきれないだろうから気にしすぎるのも確かによくない……それでだ、バトムス」

「俺ならあの方をどのようにして倒すか、でしょう」

「ふふ、話が早いな」

バトムスは軽くため息を吐きながら、現在試合中であるラニエの動きを観察。

まだ試合は終わっていないが一回戦目と同じく、他の学生とは一つレベルが違うという印象を感じられた。

「…………とりあえず、やっぱる強いなって印象を感じますね。ただ……それはそれとして、細剣使いなんで…………初見に限れば、別に勝つことは難しくないかと」

「あら、そんな自信満々に言ってしまうなんて……あの子に、それほど大きな弱点があるのかしら」

ライラは魔法を使う後衛職だが、それでも視る目は持っている。
ある意味らしくない細剣の使い方をしているラニエに、現時点の年齢を考えれば、大きな隙と呼べるものは見当たらない。

「弱点ってわけじゃないですけど……いや、ある意味弱点なんですかね、ノウザスさん」

「……知っている者は知っているだろう。だが、現在の年齢を考えれば知らないのも無理はないだろう」

「やっぱりそうですよね。それなら、所見なら勝つのは難しくない……その考えは変わりませんね」

「そうのね……ノウザス、そんなにあの子には……解りやすい動きとかがあるのかしら」

「年齢を考慮すれば、ないに等しいだろう。ただ、私やバトムスの頭に浮かんでいる考えを、あの年代の子たちが想像できるかというと……無理だろうな」

ノウザスとバトムスの頭の中に浮かんでいる考えが解る数名の戦闘者たちは小さく頷く。
ただ、彼らだけではなく二人が考えている事が解らない者たちも含めて、同じことを思った。

じゃあ、あの年代の子たちが想像できないことを、何故同じ年頃である少年が思いつくのかと。

「……ねぇ、バトムス」

「ん? ………………ふふ。あぁ、そういう事だ」

シエルは小さな声で耳打ちをし、バトムスは彼女に笑みを零しながら頷いた。

「…………」

「なんだよ、その顔は」

「いや、なんて言うか……こう、普通じゃないな~~って思って」

「それはそうだな。確かに普通じゃない方法ではあるけど……絶対に勝ちたい試合、戦い……決闘とかなら、そういった手段を取ってでも勝ちたくなるものだろ」

「ん~~~、そう言われるとそうかもしれないけど……でも、バトムスは怖くないの?」

少なくとも、シエルはバトムスが思いついた初見殺しの方法に関して、恐ろしい方法だと……痛々しい方法だと思った。

「怖くないか怖いかで言えば……怖いな」

「えっ、そうなんだ」

「……シエル、俺をなんだと思ってるんだよ」

「えっと……えっと………………ふ、普通じゃない人?」

戦闘面だけを考えるならば、バトムスの総合力は同世代の中では頭一つか二つ……人によっては三つほど抜けていると考える。

とはいえ、他のエリートたちがかすむ程ぶっ飛んだ強さを持ってはいない。

だが、シエルは普段のバトムスを知っている人間。
人生経験はまだまだだが、アブルシオ辺境伯家の敷地内で暮らしているということもあり、知識はどんどん蓄えられていた。

それらの知識と照らし合わせると……やはり、バトムスは普通ではなかった。

「それは間違いないな」

「間違いないわね~~~~」

「お二人とも……はぁ~~、まぁいいや」

バトムス本人も、そもそも自分が転生者という特異な存在であることを忘れておらず、これまで購入してきた物や……趣味の数などを考えると、その言葉に関しては否定できる気はしなかった。

「とりあえず、お嬢が決勝に上がるには……このまま順当に進めば、準決でラニエ・アンドレルさんに勝つ必要があります」

ルチアなら勝てる、とは口にしない。
壁という表現は適切ではないと口にしたバトムスだが、それでも……一回戦目の時とは違い、二回戦目と同じく打ち破らなければならない強敵である。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...