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第156話 未使用の手札
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「とりあえず、これでお嬢はまだ上にいけそうですね」
「……………」
「……………」
「? どうしたんすか、二人とも」
反応がない二人に首をかしげるバトムス。
反応がないものの……ノウザスとライラはニヤニヤと笑みを零していた。
「ふふ。応援はしているだろうとは思っていたが、まさかあそこまで熱烈な応援をするとはな」
「なっ!!!!????」
「そうね。随分と熱い声援を送ってたわね……本当に驚いたわ」
確かに、バトムスはルチアに大声で声援を何度も送っていた。
バトムス自身、先ほどまでの行動を振り返ると……どう頑張っても否定することは出来ない。
どうせならルチアに勝ってほしいとは思っているため、自身が彼女に声援を送ったことを偶々だと、気の迷いだと否定はしない。
それはそれとして、二人の言葉には別の考えが含まれているような気がした。
「いや、確かにそりゃあ……大きな声で応援はしましたよ。でも、応援しただけでそれ以下もそれ以上もありませんよ」
「そうなのか? だとしても、普段のバトムスからは考えられないほど熱の籠った応援だったと思うが」
「うぐっ!!」
ノウザスの言う通り、普段のバトムスを知っている者であればあるほど、先ほどまでのように腹の底から声を出して熱くルチアを応援している姿は、まさに信じられない光景だった。
「……………俺は別に、負けちまえとは思ってませんからね」
「そうだったな。あまりにも珍しい姿だったからな、すまん」
「まぁ、別に良いですけど」
バトムスは人をからかうのは……割と楽しいと知っている。
だからこそ、自分が大人にからかわれるのも致し方ないと思っていた。
(けど、そうだよな……意外と言えば意外な姿、だったんだろうな)
王都に到着する前から、バトムスは一応ルチアを応援しようとは思っていた。
それでも、バカみたいに大きな声を出して応援するつもりはなかった。
これはバトムスが応援するのは一応という心の持ちだから……という訳ではなく、バトムスの性格上、他の観客たちが大きな声で声援を送っているとはいえ、自分が同じように大きな声で応援することに恥ずかしさを感じるから。
「とりあえず……お嬢はまた似たような相手と戦うことになっても、なんとか出来るでしょう」
「ふむ…………そういう事か」
ノウザスは偶にバトムスたちの訓練風景を見ていたため、ルチアが何を隠し持っているのか知っていた。
(確かに、あれは刺さる。珍しい手とは言えないが、ルチアお嬢様がそういった訓練も積んでいると知らなければ、間違いなく刺さるだろう)
ノウザスとしても、今回のウィサーラ戦……隠していた手札を使う可能性は全然あると思っていた。
だが、結果としてルチアは魔力は多く消耗して分厚い魔力の鎧を纏い、優れた体幹から連続で斬撃波を放つという選択でウィサーラを追い詰め、見事手札を隠したまま乗り越えることが出来た。
「ねぇ、バトムス」
「なんですか、ライラさん」
「バトムスならルナリーズ家のご令嬢、ウィサーラ様をどのようにして倒したかしら」
「俺なら、ですか?」
「えぇ。あなたなら、無理ではないでしょう」
「……………今のところなら、そうかもしれませんね」
まだ、バトムスに成長限界は訪れてはいない。
それでも、成長幅は個人によって異なるため、同世代の学生たちがバトムスと比べて身体能力で大きく劣ってはいないため、そこだけでバトムスは圧勝できない。
「それで、どういった方法で倒すの?」
「……俺なら、魔力操作を上手く活用して倒しますかね」
自分の言葉が、どこから次の試合でルチアと当たる対戦相手に伝わるか解らない。
ルチアがどのような戦術を用意しているか解らないため、口にするには一般的に考えられる内容だけに留めた。
「魔力操作、ね」
「そうえいば…………バトムス、それは……むむ………………」
「? どうしたの、ノウザス」
「そうか、ライラは知らないか」
アブルシオ辺境伯家では、接近戦と遠距離戦で戦う者たちの訓練場が別れている。
ライラはバリバリ遠距離戦で戦う人間であるため、バトムスの戦いっぷりをあまり深くは知らなかった。
だが、同じ訓練場で鍛錬を行う機会が多いノウザスはバトムスの魔力操作の腕をよく知っていた。
「バトムスの魔力操作の腕は、そこらの子供と比べて文字通りレベルが違う」
「っっ……それは、学園に通う子たちと比べても、ということかしら」
「あぁ。そこに、バトムスの頭が加われば……後は言わずとも解るだろう」
「…………えぇ、そうね」
普段の訓練光景を見ているわけではないが、ライラもルチアがバトムスに手玉に取られているという話は何度も聞いたことがある。
そして、バトムスがルチアを守るために貴族の令息たちを手玉に取ったという話も聞いたことがある。
バトムスとしてはそこまで自分を持ち上げないでくれと遠慮したいところだが、学生たちの現段階での強さを考えれば……その腕と頭が使用されると、相手によっては本当に勝負にならない可能性すらある。
(……この子の強さを知っているからこそ、思ってしまうな……もし、バトムスがこのトーナメントに参加する者たちと戦えばどうなるか、と)
ノウザスの予想は……もちろん、バトムスの全勝だった。
「……………」
「……………」
「? どうしたんすか、二人とも」
反応がない二人に首をかしげるバトムス。
反応がないものの……ノウザスとライラはニヤニヤと笑みを零していた。
「ふふ。応援はしているだろうとは思っていたが、まさかあそこまで熱烈な応援をするとはな」
「なっ!!!!????」
「そうね。随分と熱い声援を送ってたわね……本当に驚いたわ」
確かに、バトムスはルチアに大声で声援を何度も送っていた。
バトムス自身、先ほどまでの行動を振り返ると……どう頑張っても否定することは出来ない。
どうせならルチアに勝ってほしいとは思っているため、自身が彼女に声援を送ったことを偶々だと、気の迷いだと否定はしない。
それはそれとして、二人の言葉には別の考えが含まれているような気がした。
「いや、確かにそりゃあ……大きな声で応援はしましたよ。でも、応援しただけでそれ以下もそれ以上もありませんよ」
「そうなのか? だとしても、普段のバトムスからは考えられないほど熱の籠った応援だったと思うが」
「うぐっ!!」
ノウザスの言う通り、普段のバトムスを知っている者であればあるほど、先ほどまでのように腹の底から声を出して熱くルチアを応援している姿は、まさに信じられない光景だった。
「……………俺は別に、負けちまえとは思ってませんからね」
「そうだったな。あまりにも珍しい姿だったからな、すまん」
「まぁ、別に良いですけど」
バトムスは人をからかうのは……割と楽しいと知っている。
だからこそ、自分が大人にからかわれるのも致し方ないと思っていた。
(けど、そうだよな……意外と言えば意外な姿、だったんだろうな)
王都に到着する前から、バトムスは一応ルチアを応援しようとは思っていた。
それでも、バカみたいに大きな声を出して応援するつもりはなかった。
これはバトムスが応援するのは一応という心の持ちだから……という訳ではなく、バトムスの性格上、他の観客たちが大きな声で声援を送っているとはいえ、自分が同じように大きな声で応援することに恥ずかしさを感じるから。
「とりあえず……お嬢はまた似たような相手と戦うことになっても、なんとか出来るでしょう」
「ふむ…………そういう事か」
ノウザスは偶にバトムスたちの訓練風景を見ていたため、ルチアが何を隠し持っているのか知っていた。
(確かに、あれは刺さる。珍しい手とは言えないが、ルチアお嬢様がそういった訓練も積んでいると知らなければ、間違いなく刺さるだろう)
ノウザスとしても、今回のウィサーラ戦……隠していた手札を使う可能性は全然あると思っていた。
だが、結果としてルチアは魔力は多く消耗して分厚い魔力の鎧を纏い、優れた体幹から連続で斬撃波を放つという選択でウィサーラを追い詰め、見事手札を隠したまま乗り越えることが出来た。
「ねぇ、バトムス」
「なんですか、ライラさん」
「バトムスならルナリーズ家のご令嬢、ウィサーラ様をどのようにして倒したかしら」
「俺なら、ですか?」
「えぇ。あなたなら、無理ではないでしょう」
「……………今のところなら、そうかもしれませんね」
まだ、バトムスに成長限界は訪れてはいない。
それでも、成長幅は個人によって異なるため、同世代の学生たちがバトムスと比べて身体能力で大きく劣ってはいないため、そこだけでバトムスは圧勝できない。
「それで、どういった方法で倒すの?」
「……俺なら、魔力操作を上手く活用して倒しますかね」
自分の言葉が、どこから次の試合でルチアと当たる対戦相手に伝わるか解らない。
ルチアがどのような戦術を用意しているか解らないため、口にするには一般的に考えられる内容だけに留めた。
「魔力操作、ね」
「そうえいば…………バトムス、それは……むむ………………」
「? どうしたの、ノウザス」
「そうか、ライラは知らないか」
アブルシオ辺境伯家では、接近戦と遠距離戦で戦う者たちの訓練場が別れている。
ライラはバリバリ遠距離戦で戦う人間であるため、バトムスの戦いっぷりをあまり深くは知らなかった。
だが、同じ訓練場で鍛錬を行う機会が多いノウザスはバトムスの魔力操作の腕をよく知っていた。
「バトムスの魔力操作の腕は、そこらの子供と比べて文字通りレベルが違う」
「っっ……それは、学園に通う子たちと比べても、ということかしら」
「あぁ。そこに、バトムスの頭が加われば……後は言わずとも解るだろう」
「…………えぇ、そうね」
普段の訓練光景を見ているわけではないが、ライラもルチアがバトムスに手玉に取られているという話は何度も聞いたことがある。
そして、バトムスがルチアを守るために貴族の令息たちを手玉に取ったという話も聞いたことがある。
バトムスとしてはそこまで自分を持ち上げないでくれと遠慮したいところだが、学生たちの現段階での強さを考えれば……その腕と頭が使用されると、相手によっては本当に勝負にならない可能性すらある。
(……この子の強さを知っているからこそ、思ってしまうな……もし、バトムスがこのトーナメントに参加する者たちと戦えばどうなるか、と)
ノウザスの予想は……もちろん、バトムスの全勝だった。
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