執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第159話 山場

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「……山場、だな」

試合は進み、準決勝戦。
残る試合もあと三つ。

「…………ふぅーーー。私は、信じるよ」

「……そうだな」

決勝戦へ進むためには、いくつかの山場を越えなければならなかった。

その山場の一つが双剣使いのウィサーラ・ルナリーズ。
ルチアは見事、その山を越えた。

そしてもう一つの山場……それは、これから斬り結ぶ令息、ラニエ・アンドレル。

(……貴族の生まれってのがよく解る面してるな)

赤髪センターパートに鋭い目つき。
アルフォンスなどと同じくイケメンに分類される顔を持つ彼だが、その体からはある種の風格すら零れていた。

「バトムスから見て、どうだ」

「…………この先へ向かうなら、寧ろ確実に越えなければならない相手でしょう。俺が言えるのは、それだけです」

ラニエが使用する武器はアルフォンスと同じ細剣。
型は違うものの、使用する武器は同じであり、この戦いに勝てなければ、アルフォンスに勝利するのは不可能。

(決勝戦にいくだけじゃねぇだろ……アルに勝つんだろ、お嬢)

ただ思い人と同じ舞台に上がるだけではない。
その先へ……勝利を掴み取る。

ルチアにその思いがあると、バトムスは気付いていた。

「位置に付いて………………準決勝、第一試合……始め!!!!!!!!」

「「ッッッッ!!!!!!!!!」」

上へあがるための最後の壁へ激突。

(っ…………チっ! やはり、最初はそうなるか)

序盤、試合の主導権を握るのはラニエ。

彼の得意な属性は炎。
本来、炎と細剣の組み合わせはあまり相性が良くないと言われている。

それは情報としてある程度証明されているのだが……ラニエはその情報を覆すほどの苛烈な攻めを魅せていた。

(細剣は基本的に攻めなきゃならねぇ。半身の構えに肩まで入れて伸ばす突きのリーチ。攻めが特徴の大剣と比べれば回転数が違う。それでも、お嬢の速さと勘があればと思っていたけど……機微が半端じゃねぇ)

攻めっ毛が強すぎれば、逆にカウンターを貰ってしまう。

大剣のカウンターともなれば、一撃でも食らえば大ダメージへと繋がる。
実際にルチアも隙を見つけて大剣を振り回すが、ラニエはその攻めを本能的に感じ取り、刃が空を切る時には下がっていた。

「ッ、ァアアアアアアアッッッ!!!!」

「セェエエエエアアアアアアッッッ!!!!!」

猛るルチアに対し、負けじと吼えるラニエ。

対する武器の相性だけを考えれば自分の方が有利。
そんな考えは、ラニエの中から消え去っていた。

ルチアは学園に入学する前から将来騎士を目指す者たちの集まりに参加しており、その実力はよく知っていた。

なんなら、過去の模擬戦では普通に負けたことがある。
そして今大会の試合も全て見ており、入学してから更に成長していると感じた。

(お前を、侮れるわけが、ないッッッ!!!!!!!)

今大会、一年生の部で唯一準決勝まで勝ち上がった女傑。

彼女を妬む者はまぐれの辺りで勝ち上がってきたと口にするが、解る者は解っていた。
絶え間ない研鑽と培った経験によって、全てを破壊する一撃を叩き込んでいるのだと。

「ッ!!! っ!? ~~~~ッ、ァアアアアアアッ!!!!!!」

「っっっっ!!!!! ーーーーーーーーッッッ!!!!!!」

攻められているのは、間違いなくルチアである。

外から見れば、それは事実として映る。
だが、実際に対峙しているラニエの感想は異なるものだった。

(これほどの、緊張感……ッ、少なくとも、対モンスターでは、味わったことは、ないっっっ!!!!!!)

ラニエは、ルチアよりも実力が上である人物とは何度も戦ってきた。
しかし、その相手の目的はラニエを鍛えるためであり、勝つために刃を振るってはいない。

対してモンスターは目の前の敵を食らうために、生き残る為に殺そうとしてくる。

ルチアはさすがに殺気を零すことはないものの、勝利をもぎ取ろうとする気迫はモンスターが発する圧となんら変わりない。

加えて……相手が女であろうと男であろうと、やはりルチアの斬撃は一撃で戦況をひっくり返す威力を秘めていることに変わりはない。

ラニエのカウンターが狙われていることを察する勘も優れているが、ルチアの隙を見つける勘もずば抜けている。

(猛獣がいる、檻に入れられる感覚、か…………それがどうしたッッッ!!!!!!!!!)

震えさせる圧も、何度も届きそうになる致命傷の刃も、全て貫き潰す。

逃げ場がない空間に猛獣と共にいる……その状況に、ラニエは薄っすらと笑みを零していた。

気でも触れたか、体力の限界なのか、それとも勝ちを確信した慢心か。

その……どれも違う。

観客たちの中の一部だけが気付いていた。
あれは、首に、心臓に刃が届くかもしれない状況を楽しんでいる……負けるかもしれない激闘を心の底から楽しんでいるからこそ、無意識に零しててしまう笑みだと。

「疾ッッッッッ!!!!!!!!」

「ッ、っ!!! ぐっ!? っ、れが、どうしたあああああああああああッ!!!!!!!!!」

「っっっ!!!!!!!!!!」

このまま止まらないと思われたラニエの苛烈な攻めを、見事な足捌きと大斬によってぶった斬り、中断させたルチア。

「破ァアアアアアアア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!!!」

この激戦の中、笑みを零しているのは……一人だけではなかった。
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