執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第160話 武器はまだある

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(絶対に、奪い取るッッッッッ!!!!!!!!!!!)

声でも、心の内でもルチアは猛ていた。

ウィサーラ・ルナリーズとの戦い、途中で聞こえたバトムスの声もあり、致命的なダメージを負うことなく勝利を掴むことができた。

自分のことが嫌いな筈の人間が、品はないがそれでも声を張り上げ……自分の元へ届くほどの声量で応戦してくれたのは……正直、嬉しいと感じたルチア。

だが、試合が終わり、医務室で治癒魔法を受けて回復して際、ある思いが湧いてきた。

(背中を、押されずとも、私は、つかみ取るんだッッッ!!!!!!!!!)

バトムスの声援がなければ、自分はウィサーラに負けていたのではないか。
あの声援がなければ、勝てなかったんじゃないか。

頭に思い浮かぶ可能性に、ルチアは頭が沸騰しかけた。

声援が悪いものなどとは一欠片も思っていない。
それでも、ルチアにとってバトムスの力を借りなければ勝てないというのは……心のどこかで彼のことを認めているからこそ溢れる熱だった。

その思いが気迫へと変わり、確実にラニエという強敵の精神をすり減らしていた。

だが……現状、戦いを優位に進めているのはラニエである。
ルチアの斬撃は当たれば戦況をひっくり返すことが出来るが、攻撃というのは当たらなければ終わりへと近づかない。

しかし、ラニエの炎を纏った刺突は確実にルチアの体を焦がし、切り裂いていた。
幸いにも、手痛いダメージは受けていない。

それでもこの状況がもう二分……三分も続けば、流れる血の量が無視できなくなる。

「ッ、ハッッッ!!!!!」

「っ!!!」

傷に関してはあふれ出るアドレナリンによってなんとかできても、失血によるふらつきまではどうにもできない。

(速さの、持続だけなら……ウィサーラ、よりもっ!!!!)

火と風では、風の方が速さと相性が良い。
しかし、身体能力の差もあってか、火を扱うラニエの速さはウィサーラに劣らない。

加えて既に数分が経過し、ルチアの並々ならぬプレッシャーを受け続け、確実に精神がすり減っているにも関わらず、その速さが緩むことはない。

だからこそ……彼女の本能が、心が認める。
目の前の男は、本当に強いと。

(ここで勝たないと、次なんて、ないッ!!!!!!!!!!)

「っ!?」

その行動は……対アルフォンスの為にとっておいた行動だった。

敢えて、隙を見せることで突きの位置を誘導する。
そこに……左の手のひらを合わせる。

「捕まえ、た!!!!!!!」

そこから繰り出されるは、片手からの斬撃。

(不味いっっっ!!!!!!!)

刃は奥まで進み、細剣は完全に掴まれてしまっていた。

絶体絶命の状況に対し、ラニエは細剣手放し、後方に飛ぶことでなんとか大斬を解することに成功した。

「あああああああああああああアアアアアアアッッッ!!!!!!!!」

まだアドレナリンが零れているとは言え、それでも痛みが手のひらから弾ける。

それでも、ルチアは突き刺さった細剣を薙ぎ払い、両手で大剣を握りしめる。

相手は丸腰であり、自分は武器を有している。
そんな絶対的に有利な状況であるにも関わらず、彼女の頬が緩むことはない。

(まだ、終わっていないッ!!!!!!!)

ラニエは……ルチアの強さを身に染みて知っていた。
だが、同時に彼女もラニエの強さを身に染みて知っており、忘れたことなどなかった。

確実に倒し、勝利宣言がされるその時まで、全く気は抜けない。
この試合で全てを出し切るつもりで挑む。

(負ける……このまま、負けるのか)

得物を失ったラニエの表情からは、先ほど無意識に浮かべていた笑みが、完全に消えていた。

全てを出し切れたのであれば、負けても構わない。
そんな思いは、彼の中に一粒もない。

負けから経験も得られる、寧ろそこに意味を見出さなければならない……そんな言葉や経験を否定するつもりはないラニエ。
それでも……誰しもが好き好んで敗北を選びたいわけがない。

(ふざけるなッッッッッッ!!!!!!!!!!!)

「っ!!!!!????」

寸でのところでルチアの斬撃を躱したラニエは勢いそのまま、彼女の手の甲に左足で蹴りを叩き込んだ。

「シッッ!!!!」

強烈な一撃を叩き込み、握りが緩んだ瞬間に、そのまま体を回転させて大剣の柄に蹴りを叩き込んだ。

これで……互いの手から得物が離れた。

(武器は、まだあるッ!!!!!)

ラニエは即座に駆け出してリングに落ちている細剣を掴み……にはいかなかった。

決して太くはない腕に、拳に力を入れて握りしめる。

「フンッッッッ!!!!!!!」

決して……それは、彼のメインウェポンではない。
だが、その動きは決して見様見真似とも言えないレベルの右ストレート。

ルチアはパワーこそ優れているが、防御力まではまだ高くない。
加えて切傷や火傷も多く、良い一撃が入れば、そのままKOの可能性も十分あり得る。

逆転に次ぐ逆転。

ここで勝負ありか……観客たちがそう思うには、まだ早かった。

「「ッッッッ!!!!!!」」

ゴッッッ!!!! …………っと、鈍い音がリングに響いた。

「気が、合うわね!!!!!!!」

「そのようだ、なッッッ!!!!!!」

ラニエの左ストレートに対し、ルチアが返した行動は頭突きだった。

両者、衝撃を受けて後退。
二人ともリングに転がっている得物を拾うという判断は一切なく、ファイティングポーズを取り……そのまま打撃戦へと移行した。
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