執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第161話 間違いは、ない

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「「「「「「「「「「「「ーーーーーーーーーッッ!!!!!」」」」」」」」」」」」

闘技場は……今日一番の熱気に包まれていた。

それは一般席の会場だけではなく、貴族たちが観戦する観客席まで爆発していた。

「そこだッ!!!!! ぶのめせ、ルチア!!!!!!!!!!!」

娘の勝利を願う父の咆哮に感化され、本来は貴族としてのクールで冷静な表情を崩さない者たちまで声を張り上げ、声援を送っていた。

「フンッ!!!」

「ッ、セヤッッッ!!!!!」

両者、共に徒手格闘がメインウェポンではないものの、二人とも似たような考えを有していた。

得意な得物を失うイコール、負けではない。
そうなったとしても、自分には鍛え上げた肉体が残っている。

そんな思いから合間合間に徒手格闘の訓練を行っていた。
その成果もあってか、二人の徒手格闘戦はチンピラ同士の殴り合いではなく、十分素手のみの試合として成り立っていた。

「そこだ、ぶちかませ!!!!!」

「距離を取って……良いぞ、そこだああああ!!!!!」

得物を失おうとも、己の体が動く限り、勝利を諦めない。
二人の闘志の暑さに、観客たちは更に盛り上がる。

(全てを、避ける余裕は、ない!!!!)

(ここで、退いたら、負けるッ!!!!!)

両者、多少の被弾覚悟で拳を振るい、時に脚を振り上げる。

「「ぅおおおおおあああああああああああッッ!!!!!!!」」

負けるかと……負けてたまるかと、全てを出し切ってでも先にある勝利を掴み取ろうと、二人とも最後の雄叫びを上げながら拳を突き出す。

((ここッッッ!!!!!!!!!))

そして、そのタイミング訪れた。
自身のスタミナ、魔力などを考え、ここしかないというタイミングで渾身の右ストレートを放つ。

だが……奇しくも、そのタイミングは同じ。
ルチアとラニエもそれに気付くが、もはや二人の頭に戦略的退避という選択肢はなかった……あり得なかった。

ここで、完全に勝利を掴み取る。

そう決めた二人が放つ、覚悟の一撃。

「「ッッッッッ!!!!!! ッ……ぁ」」

深さにこそ多少あるが、両者の拳が深々と相手の顔面に突き刺さる。

そして……そのまま、二人の体が地面に崩れ落ちた。

「ッッッ………………ルチア、ラニエ、共に戦闘不能!!!!!!!!!!!」

審判は二人の意識が途切れているのを確認し、二人がこれ以上戦えないことを宣言。

両腕で×をつくり、この戦いに勝者がいない事を告げた。

ダブルノックアウト。
その結末に……不満を告げる者は、誰もいなかった。

ある少年が拍手が波紋のように広がり、今日一番の拍手が担架で運ばれていく二人に送られるのだった。







「……負けちゃったね、ルチア様」

「あぁ、そうだな……良い戦いだったけど、結果として負けになったな」

ダブルノックアウトとなると、二人とも決勝戦へ進めず、次の準決勝戦が事実上の決勝戦として扱われる。

「負けて良かったなんてお嬢は思わねぇだろうけど、それでも百パーセント納得のいかねぇ戦いだとは思わないんじゃないか」

「確かに、全て出し切ったって感じだもんね」

「目を覚ましたら、そこからあの時ああしてれば、こうしてれば良かったんじゃないかって色々と考えるだろうけど……それはまぁ、しゃあないって話だろうな」

「ふふ、まるで体験したことがあるような口ぶりだな、バトムス」

「……あんまからかわないでくださいよ、ノウザスさん。子供が勝手にイメージして語ってるだけなんで」

「ふっ、そうか…………まぁ、間違ってはいないとだけ言っておこう」

子供は自分のことを子供だとは言わないぞ、というツッコみは一旦置いておき、ノウザスとしてはそのイメージが間違っているとは思わなかった。

「勝負ごとに負けた後は、どうしてもそういう事を考えてしまうものだ……して、バトムスから見ればどこをどうしていれば、ルチア様は勝利を掴めていた?」

「……………………正直な話、お嬢の戦いっぷりに悪いところはなかったっすよ。細剣の奪い取り方……奪うまでの過程も間違いじゃなかったかと」

バトムスから観て、ルチアの試合運びや要所要所に選択の間違いは見えなかった。

「まぁ……強いてあげるなら、最後の一撃……あれがパンチ以外の選択なら勝機はあったでしょうね。例えば、タックルからの鉄槌とかなら、一方的に終わらせていたでしょう。それか……相手の攻撃を利用する。そういう手もあったかと」

バトムスはルチアとの試合の中で、背負い投げを何度も見せていた。

ルチアは渋々……非常に渋々といった表情をしながらも、バトムスにやり方を尋ね、教わっていた。

「けど、それこそ外野から見ていたからこそ語れる内容でしょう。あの場に立って戦っていれば、俺も同じ選択を取っていたと思いますよ」

「「………………」」

「? どうしたんすか、二人とも」

「いや、バトムスが嘘を付いているとは思っていないぞ、ただなぁ……お前は、そういうのを欺くタイプだろ」

「私も同じ意見なのよね。相手の熱さを利用して、自分も熱くなっていると見せかけて、勝利を奪い取りそうなのよねぇ」

「…………」

見方によっては、褒められている。

終局と思われる場面でも冷静さを失わずに戦えるというのは、戦う者として間違いなく強味である。

(……褒められてる、と受け取っていいんだよな?)

だが、何故か純粋に褒められているとは思えないバトムスだった。
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