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第162話 行き場のない怒り
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「こうなると、確か次の準決勝が事実上の決勝戦になるんでしたっけ」
「あぁ、そうだ」
「ん~~~~…………」
「バトムスの予想では、やはりアルフォンス様の勝利か?」
「……一応、そうですね」
十二歳ながらにして、既に格が備わりつつあるアルフォンス。
だが、準決勝の相手である男子生徒も並の実力ではない。
試合では多少のダメージは負いながらも、準決勝まで大きなダメージを負うことなく駒を進めてきた猛者。
(二振りの戦斧を使って戦う戦士タイプ。スピードではアルの方が上だろうけど、手数なら戦斧使いの学生も負けてない……パワーはおそらく戦斧使いの方が上だ。そうなると……叩き落された瞬間が怖いな)
バトムスとしては、確かにアルフォンスの方が有利だと思っている。
しかし、勝負に絶対はない。
勿論、それは同じ土俵に立ち、ある程度戦力に差がない者同士の間で起こる悪戯や奇跡。
「…………絶対は、ないかと」
「……そうだな。俺も同じ意見だ」
ライラも、シエルも同じ考えを浮かべていた。
そして彼らの周りにいる目の肥えた者たちも、事実上の決勝戦はつまらないものになるとは思っていなかった。
「っっっ……あ、アル?」
だが、アルフォンスと付き合いのあるバトムスは、直ぐに気が付いた。
出入り口から入場してきた彼の様子が……普段と、これまでと違う事に。
「……………」
リングに上がる前……アルフォンスは無言のまま佇んでいた。
(ダブルノックアウト、か……)
どちらかが決勝戦の対戦相手になる。
そんな試合を彼が見逃すわけがなく、最初から最後まで観ていた。
一言で表すなら、最高、であった。
誰が相手であろうと苛烈な攻めで細剣という武器の脆さを感じさせないラニエの激しさ。
強烈なプレッシャーを放ち、ただ対峙するだけで相手の精神力を削り、振るうだけで冷や汗を流せさせるルチアの大斬。
終盤、何が何でも勝利を掴み取ろうと、多少の犠牲などクソ喰らえだといった熱い闘志を爆発させながら、左手が貫かれるのを覚悟で細剣を掴んだルチアの狂気。
得物失っても勝利への意志を失わず、五分の状況まで持ち込んだラニエの手札と冷静な判断力。
そして最後……互いにメインではない武器を使いながら、それでも自分が目の前の強敵を倒し、先へ進むという勝利への執念。
どれも、見る者の心に刺激を、興奮を、熱をくべる最高の試合だった。
(良い試合だった……それは間違いない…………けどっっっ!!!!!!!)
試合の結果は、両者の右ストレートが互いの顔面を捉え……気絶。
ダブルノックアウトである。
つまり……その試合に勝者はおらず、どちらも決勝戦へ上がってこない。
(あの熱い闘争心は、勝利を掴み取ろうとする執念が僕に向けられることはない…………)
アルフォンスは、嫉妬した。
ルチアに、ではない。
ラニエに、ではない。
あの闘争心を、勝利への執念をぶつけ合っていた二人に嫉妬した。
アルフォンスは騎士の道に、戦いの道に進もうとはしているが、決して戦闘大好き戦闘狂というわけではない。
それでも、二人ほどの自分に勝とうと、勝利を奪い取ろうと全身全霊で挑もうとする感情を向けられることに……ある種の嬉しさがある。
だが、それを向けてくれるであろう人物が、いなくなってしまった。
「……………これが、行き場のない感情ってやつ、か」
それは、これまでアルフォンスの心に湧くことのない感情だった。
王族として生まれたが故に得られない自由に不満を感じたことはあるが、世界の事情を……王族や貴族以外の世界を知った以上、そこに不満を口にするのは日々懸命に生きる平民たちへの侮辱だと認識することで、納得できていた。
友人であるバトムスと共に学園に通へたらという思いもあったが……それは、彼の生き方に水を差す願いだと重々承知している。
だからこそ、それらに対する不満が爆発することなどなかった。
「……すうーーーー……はぁーーーー…………すうーーーーー……はぁーーーーー……………………うん、どうやらダメみたいだね」
深呼吸さえすれば、どうしようもない怒りが霧散すると思った。
アルフォンスはアンガーマネジメントという心理トレーニングなど知らない。
それでも、これから戦う……事実上の決勝戦に集中しなければならない理由を探した。
だが……だがしかし!! ……それでも、彼の胸の内から湧き上がる怒りが収まり、消えることはなかった。
(何が、悪いわけじゃない。誰かが、悪いわけじゃない…………悪い事があるとすれば、それは僕が子供なことだけだ)
あの熱い思いを、心、感情を、執念を向けてくれる二人はいない。
それでも、決勝戦を辞退する気はおきない。
アルフォンスは……これから戦う相手に対し、ある種見下すような感情を向けてしまっていた。
それでも、目当ての人物が現れないからといって、対戦を辞退することだけはできない。
それは、ここまで上がってきた対戦相手に対する最悪な侮辱となってしまう。
「………………」
王子の瞳に、光がない。
それでも彼は目指していた筈の勝利を掴むために、リングへと歩を進めた。
「あぁ、そうだ」
「ん~~~~…………」
「バトムスの予想では、やはりアルフォンス様の勝利か?」
「……一応、そうですね」
十二歳ながらにして、既に格が備わりつつあるアルフォンス。
だが、準決勝の相手である男子生徒も並の実力ではない。
試合では多少のダメージは負いながらも、準決勝まで大きなダメージを負うことなく駒を進めてきた猛者。
(二振りの戦斧を使って戦う戦士タイプ。スピードではアルの方が上だろうけど、手数なら戦斧使いの学生も負けてない……パワーはおそらく戦斧使いの方が上だ。そうなると……叩き落された瞬間が怖いな)
バトムスとしては、確かにアルフォンスの方が有利だと思っている。
しかし、勝負に絶対はない。
勿論、それは同じ土俵に立ち、ある程度戦力に差がない者同士の間で起こる悪戯や奇跡。
「…………絶対は、ないかと」
「……そうだな。俺も同じ意見だ」
ライラも、シエルも同じ考えを浮かべていた。
そして彼らの周りにいる目の肥えた者たちも、事実上の決勝戦はつまらないものになるとは思っていなかった。
「っっっ……あ、アル?」
だが、アルフォンスと付き合いのあるバトムスは、直ぐに気が付いた。
出入り口から入場してきた彼の様子が……普段と、これまでと違う事に。
「……………」
リングに上がる前……アルフォンスは無言のまま佇んでいた。
(ダブルノックアウト、か……)
どちらかが決勝戦の対戦相手になる。
そんな試合を彼が見逃すわけがなく、最初から最後まで観ていた。
一言で表すなら、最高、であった。
誰が相手であろうと苛烈な攻めで細剣という武器の脆さを感じさせないラニエの激しさ。
強烈なプレッシャーを放ち、ただ対峙するだけで相手の精神力を削り、振るうだけで冷や汗を流せさせるルチアの大斬。
終盤、何が何でも勝利を掴み取ろうと、多少の犠牲などクソ喰らえだといった熱い闘志を爆発させながら、左手が貫かれるのを覚悟で細剣を掴んだルチアの狂気。
得物失っても勝利への意志を失わず、五分の状況まで持ち込んだラニエの手札と冷静な判断力。
そして最後……互いにメインではない武器を使いながら、それでも自分が目の前の強敵を倒し、先へ進むという勝利への執念。
どれも、見る者の心に刺激を、興奮を、熱をくべる最高の試合だった。
(良い試合だった……それは間違いない…………けどっっっ!!!!!!!)
試合の結果は、両者の右ストレートが互いの顔面を捉え……気絶。
ダブルノックアウトである。
つまり……その試合に勝者はおらず、どちらも決勝戦へ上がってこない。
(あの熱い闘争心は、勝利を掴み取ろうとする執念が僕に向けられることはない…………)
アルフォンスは、嫉妬した。
ルチアに、ではない。
ラニエに、ではない。
あの闘争心を、勝利への執念をぶつけ合っていた二人に嫉妬した。
アルフォンスは騎士の道に、戦いの道に進もうとはしているが、決して戦闘大好き戦闘狂というわけではない。
それでも、二人ほどの自分に勝とうと、勝利を奪い取ろうと全身全霊で挑もうとする感情を向けられることに……ある種の嬉しさがある。
だが、それを向けてくれるであろう人物が、いなくなってしまった。
「……………これが、行き場のない感情ってやつ、か」
それは、これまでアルフォンスの心に湧くことのない感情だった。
王族として生まれたが故に得られない自由に不満を感じたことはあるが、世界の事情を……王族や貴族以外の世界を知った以上、そこに不満を口にするのは日々懸命に生きる平民たちへの侮辱だと認識することで、納得できていた。
友人であるバトムスと共に学園に通へたらという思いもあったが……それは、彼の生き方に水を差す願いだと重々承知している。
だからこそ、それらに対する不満が爆発することなどなかった。
「……すうーーーー……はぁーーーー…………すうーーーーー……はぁーーーーー……………………うん、どうやらダメみたいだね」
深呼吸さえすれば、どうしようもない怒りが霧散すると思った。
アルフォンスはアンガーマネジメントという心理トレーニングなど知らない。
それでも、これから戦う……事実上の決勝戦に集中しなければならない理由を探した。
だが……だがしかし!! ……それでも、彼の胸の内から湧き上がる怒りが収まり、消えることはなかった。
(何が、悪いわけじゃない。誰かが、悪いわけじゃない…………悪い事があるとすれば、それは僕が子供なことだけだ)
あの熱い思いを、心、感情を、執念を向けてくれる二人はいない。
それでも、決勝戦を辞退する気はおきない。
アルフォンスは……これから戦う相手に対し、ある種見下すような感情を向けてしまっていた。
それでも、目当ての人物が現れないからといって、対戦を辞退することだけはできない。
それは、ここまで上がってきた対戦相手に対する最悪な侮辱となってしまう。
「………………」
王子の瞳に、光がない。
それでも彼は目指していた筈の勝利を掴むために、リングへと歩を進めた。
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