執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第98話 本気で勝ちたかったから

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「お、俺は、俺はまだ戦れる!!!」

「君がまだ戦れる状態なのは、こっちの彼が下への正拳突きを寸止めしたからだよ」

結果を不服とするファスラルに対し、審判を務めていた騎士は丁寧な態度で……語気を荒げることはなく、結果を不服だと口にする少年を責めるようなことはせず、事実を伝える。

「ぐっ……て、てめぇ!! 卑怯だぞ!!!」

今度は審判ではなく、対戦相手だったバトムスに不満をぶつける。

「卑怯だって言われても、俺はお前に言われた通り、後で負けた時の言い訳をつくらないように木剣を使っただけだぞ」

一応、間違ってはいない。
そのため、爺ちゃんズは屁理屈に近くも間違っている事は言ってないバトムスの様子に、苦笑いを零していた。

「ぐっ!! ちゃ、ちゃんと使ってねぇだろ!!!」

「まぁ、それは否定しない」

バトムスとしても、木剣をちゃんと使っていないという点に関しては否定しない。
ただ、それでも自分が悪い事をしたという態度は崩さない。

「けど、別に俺は反則行為をしたわけじゃないぞ」

「うぐっ!!」

基本的にバトムスが悪い事をした訳ではなく、本人たちの性格も相まって……ファスラルが口撃対決で勝つのは難しい。

「あ、あんな勝ち方して、卑怯だと思わねぇのかよ!!! それで嬉しいのかよ!!!!」

ファスラルの言い分も……一応間違ってはいない。
正しさを求めるのであれば、寧ろファスラルの言い分の方が正しい。

「嬉しいよ」

「っ!!」

「だって、本気で勝ちたかったからな」

今回の自慢大会は、最初の一戦同士の結果を比べ、勝敗を決める。

これまでの経験や引き出しの多さ、現時点での思考力などを考えれば、正々堂々と戦ってもバトムスが勝つ可能性の方が高い。

だが、バトムスは自分が天才の部類ではない事を知っている。
今はただ、先に進めているだけだと自覚している。
だからこそ……ルールの範囲内で策を弄し、本気で勝利を掴みにいった。

「逆に、お前は本気で勝ちたくなかったのか」

「か、勝ちたいに決まってんだろ!!!」

どこまで考えられているのか……それが二人の言葉の差であった。

「そっか…………でも、今回の勝負は俺の勝ちだから」

「っ、あんなので勝って、恥ずかしくねぇのか!!!!」

それでも尚、少年はバトムスに頭の中に浮かぶ罵詈雑言をぶつける。

「俺は、爺ちゃんの期待に応えられない方が恥ずかしいかな」

「っ!!!!!!!」

爺ちゃんの、祖父の期待に応えられない方が恥ずかしい。
その言葉を聞き……ファスラルは顔が赤くなった。
怒りで、ではない。

自慢の孫として、祖父であるファルトンと共にフィーズにやって来た。
この自慢大会に参加するという事は、期待されているのと同意。

それが解らないバカではないからこそ、遂に言葉を詰まらせた。

「では、次の試合を行いましょうか」

シャルプの声が聞こえ、バトムスは普段通りの様子で祖父の元へ……ファスラルはまだ何か言いたげな顔をしながらも、祖父であるファルトンの元へと戻って行った。




「まずは一勝、よく勝ったな」

「ありがとう」

自分の元へ戻って来た孫に対し、ゼペルはまず労いの言葉を掛けた。

「…………」

「? 何かおかしい事でもあった、爺ちゃん?」

薄っすらと笑みを浮かべているゼペルを見て、首を傾げるバトムス。

「いや、なに……嬉しい事を言ってくれるなと思ってな」

「…………ちょっとカッコつけ過ぎたかな」

「そんな事はない。木剣を投げてからの最後の正拳までの流れは完璧だった」

当然ながら、爺ちゃんズと騎士たちはゼペルに万が一後遺症が残らないよう、ファスラルの高等部が地面に激突しないよう、脚をぶつかるであろう場所に移動したのを見抜いていた。

「そっか……」

祖父からしっかりと褒められれば、バトムスとしても嬉しい。
自分の選択は間違ってなかったと、ホッと一安心する。

「それにしても、少し意外だったな」

「何が?」

「あぁいった態度を取られれば、もう少しこう……いつも通りの態度で反論するかと思ってな」

「あぁ~~~~~……」

いつも通りの態度というのが、誰に対してのいつも通りなのかを察し、納得の表情を浮かべるバトムス。

「その、別に言うほどウザいと感じる存在じゃないと言うか、み……身内? じゃないと言うか」

ファスラルたちは他領で生活してる者たち。
加えって……全員、バトムスやゼペルと同じく、平民出身の者ではない。

一応身内にはなるものの、バトムスからすれば今でも偶に狩りに行き、話し込むことがあるアシェルに近い。

そのため、ファスラルの言い分に対して煽るような態度、表情で返すことはなく、ただ単に反論するだけに留まった。

(……ルチア様が傍にいなくて良かったな)

ルチアからすれば「じゃあ、私にもそれらしい態度を取りなさいよ!!!!」と怒りたくなる言い分。
勿論、ゼペルはここでの会話を他言するつもりはない。

「なるほど……さて、次からは奇襲は通じないと思うが、どうする」

「そうですね…………まぁ、勝つ為に頑張ってきます」

真正面から戦うとも、奇襲を仕掛けるとも口にしなかった。

そして、丁度二戦目に行われていたネルドとノストの試合が終了した。
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