執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第114話 大人になって……る?

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「っし…………そろそろ、昼飯にするか」

本日も一般的な鉱石をメインに使い、短剣製作を行うバトムス。。

滝の様に流した汗をぬぐいながら時間を確認し、昼食を食べる為に一旦家へと戻る。

「…………食っとかないとあれだよな」

朝から昼までの作業より、昼から夕方までの作業の方が長い。
だからこそ、イシュドは簡単な軽食で済ませようと思ったが、冷凍と冷蔵のマジックアイテムから取り出した肉や野菜、卵を使ってそれなりにしっかりとした昼食を作り始めた。

「いただきます」

この世界に食事前、食事後の挨拶は基本的にないものの、前世の習慣が残っているバトムスは「いただきます」と「ごちそうさま」を口にしていた。

(……感覚は、良い感じに研ぎ澄まされてる、かな。今日じゃないけど、昨日最後に
造った短剣は、それなりに良かった)

新人が造れる範囲内での話ではあるが、バトムスの中ではこれまでで一番の出来、もしくはそれに近い短剣が造れたという感覚があった。

そして昼食前に造った一本も、その短剣に近い品質を保つことが出来ていた。

バトムスの現在の目標は、短剣を造る感覚を研ぎ澄ませ、平均値を上げること。
ただ一本だけずば抜けた品質を持つ短剣を造れても意味がない。

(もっと研ぎ澄ませて……そこから属性を含む素材を使った短剣造りだ)

まだ足を踏み入れたことがない領域に、数日以内に足を踏み入れる。

興奮と不安が同時に湧き上がる中……ドアがノックされた。

「シエル……じゃねぇよな」

シエルには専用のカギを渡しているため、ノックせずとも中に入ることが出来る。

「アル…………でもねぇか」

バトムスにとっても友人ではあるが、同時に客人でもある。
そのため、この時間帯にバトムスに会いにくるのであれば、鍵を持っているシエルと共に来れば良いだけの話。

「……チッ!! お嬢かよ」

カーテンの隙間から来客の姿を確認し、盛大に舌打ちをかます。

放っておきたい。
さっさと昼食を食べて、また鍛冶に戻りたい。
だが……どうせまた訪れてくる。
そう思うと面倒だと思い、バトムスは渋々ドアを開けることにした。

「遅いわよ」

「勝手に来といて何言ってんだ、アホ嬢」

「アホっ!!?? ~~~~~っ!!!!! …………まぁ、今それは一旦置いておくわ」

「?」

アホと言われたことに関して一旦置いておくと告げ、ソファーへと腰を下ろした。

「……ったく。人が昼飯食ってる時になんの用なんだよ、お嬢」

「どうこうも、なんでアルフォンス様の対応を少しもしてないのよ」

「…………あん?」

ルチアが言いたい事は、解らなくもない。
しかし、何故ルチアがそれを言ってくるのかが、少々理解出来なかった。

(お嬢にとっちゃ、その方が良いんじゃねぇのかよ)

バトムスがアルフォンスの傍にいなければ、それだけルチアがアルフォンスと共に行動出来る時間が、会話が出来る時間が増えるというもの。

メリットこそあれど、デメリットはない……というのがバトムスの考えだった。

実際のところ、それはルチアからすれば、まさにその通りである。
しかし、それはあくまでルチア個人としての感想。
辺境伯家の令嬢としては……アルフォンスが目当ての人物と行動出来ていないというのは、色々とよろしくないと思っていた。

「アルフォンス様は、その…………~~~~~っっ、あなたと会うのが目的で来たのでしょう」

「…………へぇ~~~~~~」

「な、なによ」

「お嬢もちっとは大人になったんだな~~って思ってよ」

「うるさいですわ!! それで、どうしてあなたはアルフォンス様の傍に居ないのよ
!!!」

「……アルから、短剣を造ってほしいって頼まれたんだよ」

ルチアなら周囲に言いふらすことはないだろうと、そういった部分に関しては信用しているバトムスは、アルフォンスからの頼み、依頼に関して説明し始めた。

「…………って感じよ。だから、今俺は感覚を研ぎ澄ませるので忙しいから、アルの傍にいないんだよ」

「……そう、なのね」

そんなの、ちゃっちゃと造れば良いじゃない!!!!! と、ルチアは口を滑らせなかった。

心の内では、ほんの少しだけそういった思いが湧かなくもなかったが、鍛冶に関しては全くもって自分が知らない世界。

バトムスの言う通り、ちっとは大人になったルチアは、そういった部分に関して冷静に考えられるようになっていた。

(アルフォンス様に、頼まれて………………う、羨ましいっ!!!!!!)

ただ、アルフォンスから頼まれごとを受けたバトムスに対して、普通に嫉妬の炎を燃やしていた。

「おい、話を聞くだけ聞いて睨むって、どういう了見だよ」

「うるさいわね。別にそれぐらい良いでしょ」

「……俺じゃなかったら卒倒するぞ」

からかっているのではなく、冗談でもない。

ルチアが辺境伯家の令嬢だと知っている者からすれば、それ相応の地位に就いていなければ、彼女から睨まれるというのは直ぐ目の前に罰が迫っているのかと錯覚してしまう。

「………………そういうのって、才能がないと出来ないものなの」

「はっ? そういうのって……何を造ることか?」

「そ、そうよ」

「…………知らん」

「なっ!!??」

これも、全くからかってはいない。
将来の道にしようと考えていないとはいえ、本気で何かを造ることに対して取り組み始めたのは今世になってから。

才能や努力が結果にどれだけ影響出るかなど語れるほど、経験を積んではいない。

「ただ、戦いと一緒だろ。始めてみて、本気で続けてみなけりゃ解らんって話だろ」

「っ!!!! ………………そう。解ったわ」

それだけ言うと、ルチアは静かに家から出て行った。

「……せっかく答えてやったんだから、礼の一つぐらい言えないのかっての」

そんな文句を零しながら、バトムスは昼食が冷めてしまう前に胃袋へ流し込んでいった。
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