あわいの宦官

沖弉 えぬ

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雲朱編

23因縁

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「今日こそ捕まるといいんだがなぁ。これだけ警備に人を立たせているのに一体どういう手口で盗みを働いているんだか」
「さぁな。それこそとっ捕まえて吐かせちまえばいい」
「ははっ、お前のその豪胆さは大人になっても変わらないな、羅清ルオチン!」
 羅清の隣で槍を携え並ぶ男の名を常義チャンイーといって、市井を守護する自警団の隊長である。
 自警団はあくまで禁軍の警備の行き届かない部分を補うための組織に過ぎず、その力が増長しないよう一つ一つの団の構成人数は制限され小規模に抑えられている。禁軍は将軍から始まって、一番下の兵卒まで細かく階級が決まっているが自警団には団長と隊長と一般兵の三つしかない事が組織の簡易さを証明している。
 ちなみに羅清はしがない一兵卒なのだが、若い下っ端たちに慕われており次の隊長候補だと専らの噂だ。
「しかし、お前近頃まともに寝てないだろう?」
 常義の表情には羅清を気遣うような気配があるが羅清は首を縦に振らない。
「俺ぁさっさと犯人捕まえねぇと寝れそうにないんだ」
「そうは言うけどな、休める時に休んでおかないと先に参るのはお前の方だぞ?」
「そんな事にゃならねぇよ。絶対な」
 強盗と一口に言っても、被害は多岐に渡った。
 最初は飴細工の屋台を出す男の家から砂糖が盗まれた。砂糖は貴重で高価だが、西方から来た行商に混ざって売り捌けば疑われる事なく金に変わるだろう。
 次に盗まれたのはなんと家畜の豚だった。一晩のうちに十頭ばかりが姿を消して豚舎の一区画がすっからかんになっていた。
 そして三件目の被害は人だ。人が盗まれたのである。奴隷制度は撤廃されて久しいが、残念ながら人買いは未だ貧困街やあわいの浮民の間では横行している。しかし、さらわれていったのはとある商家の娘で、これが大きな話題となって一気に強盗の噂は広まった。
 おかげで町の人間たちが気を付けるようになりはしたものの、被害は収まる事なくあらゆるものが盗まれていった。
 しめて十三件にも上る盗みの被害がたった一ヶ月のうちに発生して、中には犯人から暴行を加えられた者まで出ていた。暴行の内容は酷いもので男は半死半生の状態にさせられて、女は容赦なく犯されている。
 これを聞いていよいよ禁軍が町の治安維持に動き出すかと思いきや、まだ弱冠であった皇帝が崩御しその喪に服しているとかで、町の事は放ったらかしのままだった。
 皇帝と聞いて羅清が思い出すのはとある皇子の事だ。数年前に起きた大きな嵐によって川が増水し、家が流される災害があった。その時に皇帝の名代で慰問に来た皇帝の弟は、貴い生まれの割には話の分かる男だった。
 ──あいつが次の皇帝になるんだな。
 羅清は武芸には自信があるが政はからきしだ。誰が上に立っても同じだと思うせいでつい先日崩御した皇帝の名前すらも分からない。だが、あの慰問に来た皇弟なら、名は確かそう「戊陽」と名乗った彼なら沈をより良い国にしてくれるかも知れないと思えた。
 しかし──。
「こんな時に暇してる軍を町に向かわせてくれねぇんじゃ、期待は出来ねぇか」
 羅清の独り言に常義が反応する。
「禁軍か。今町に軍を向かわせるとまずい連中が、宮廷で幅を利かせているのかもしれないな」
「あん? 何だそりゃ」
 勝手に反応しておいて、羅清が聞き返しても常義は答えなかった。独り言に独り言で応えたつもりかも知れない。この事を深く探るのはまずいという事だ。
 下級貴族である常義は元は禁軍の兵士だったが、ある時怪我を原因に一線を退いた。その後怪我が回復すると自警団に入り、すぐに隊長に抜擢された。
 その身分のせいで優遇されていると噂されることもあるが、羅清は常義の事を認めている。嘗ては武芸を学ぶ同門の兄弟子であった常義だが、同門のよしみで贔屓している訳ではない。
 常義はなまじ幼少から槍術を学んでおらず、団の中でも一、二を争う剣の使い手である羅清に槍の苦手な間合い、つまり剣優勢の間合いまで詰められてもその動きが鈍らない。常義は歳も上なら禁軍での経験もあり人を纏める手腕も悪くないのだ。所詮は一般人の寄せ集めである自警団にとって、常義のように専門的な訓練と知識を持つ存在は貴重だった。




 日の入りの時刻まで見張りを続けていた二人のもとに、若い兵士が駆け寄ってくる。定時報告の時間だ。内容はやはり芳しくなく、犯人に関する手掛かりは今日も得られそうになかった。
「羅清、お前は今日こそ家に戻れ」
「だから言ったじゃねぇか。俺は犯人をこの手で捕まえなきゃ気が済まねぇってな」
「……。お前の事を知って十年くらいになるか。昔も負けん気の強い子供だとは思っていたけど、特別正義漢という風ではなかった。何がお前をそんなに躍起にさせる?」
「商家の娘が攫われたろ? 妹の知り合いだった」
 実際には知人どころの仲ではない。無二の親友だと妹が言っていた。羅清も顔を知っていて、件の商家に妹を送り迎えした事が何度もあった。
 誰に似たのか気が強くてわがままな妹が、身も世もなく泣いて悲しむ姿は見ていられなかった。そうでなくとも強姦されたという話も出てくれば兄として強盗を見過ごす訳にはいかなかった。
「そう言えば妹は今度結婚すると言っていたか?」
「そうだ。西へ行く。だからそれまでにどうにかして犯人捕まえて、攫った人間の居場所を吐かせんだよ」
 常義は難しい顔をして押し黙ってしまう。彼の言いたい事は羅清でも想像出来た。
 仮に攫われた娘が生きていたとしても、無事だとは到底思えないからだ。いっそ死んだ方が良いとさえ思ってしまうような環境に置かれているかも知れない。しかしだからこそ、一刻も早く助け出してやらねばと思うのだ。
「なら、尚更家に帰った方が良い」
「妹ならもう一緒に住んじゃいねぇよ」
「だったら顔を見せに行ってやれ。お前のその酷い顔を見せるのも可哀想だが、妹さんによく叱ってもらうんだな」
「……えらくしつこいな」
「それくらい今の羅清は見るに堪えないって事だよ」
 随分な言い様だ。羅清は自分はまだまだ疲れなど感じていないと心から思っているが常義は存外真剣なようだ。それにもうすぐ嫁いでいく妹とはそうそう会えなくなる事を考えると、残り僅かな時間を妹と過ごしたいという気持ちは確かにあった。
 逡巡していた羅清に「何かあれば呼びに行ってやる」という常義の言葉が決め手になった。




 羅清が説得されて帰途につく頃には空は暗くなり、足元が見えなくなり始めていた。
 物騒な事件が続いているので火を片手に夜歩きする人間も少なく通りは閑散としている。寂しいというよりいっそ不気味なほど辺りはひっそりと静まり返っていた。
 羅清はふと自分の顔に触れてみる。そんなにも見られない顔をしているのだろうか。妹には実家に行けばすぐに会えるのだが、羅清の足は自警団に入った頃から間借りしている家に向かっていた。
 薄明が空の端から闇に塗り潰されていく。家屋の影に日が沈み、やがて西の夕焼けも濃紺に変わる頃、帰り着いた家の戸に手を掛けようとして妙な気配が周囲に満ちている事に気付いた。
 何かがおかしい。だが、何がおかしい?
 羅清が間借りしている家人は行商を生業にしており家を空ける事が多い。留守の間に羅清が居てくれると助かるというので安く部屋を借りたが、ここ数日は家に居たはずだ。
 あまりにも静か過ぎるのだと気付くと同時に、家の中から小さく物音がした。
 家人の生業を知っている者からすれば、この家は凶悪な物盗りが狙うにはうってつけだ。
 そう考えるやいなや剣を抜き、勢いよく戸を開けた。
「誰だ!!」
 吼えながら剣の切っ先を正面に向けて中へ突入するも、羅清の足はすぐ目の前に転がされていたものを蹴り飛ばしてしまい慌ててその場に踏みとどまる。
「あ、あんたは……っ」
 転がされていたそれは死体だった。暗いせいで真っ黒に見える血の海にぐったりと沈んで事切れている。羅清に間貸ししてくれていた行商の男だった。頭の方に膝をつき呼吸を確認するも既に遅く、驚愕の表情のまま絶命していた。
 せめて男の瞼を閉じてやろうと手を伸ばした時だった。
「んーっ、んーっ!!」
「っ……!?」
 口を塞がれているような女の叫びきれない声が聞こえてきて、羅清の心臓がドッと痛いくらい跳ねる。
 死体を避けて奥の部屋に進むと、そこには暗闇の中で両手両足を縛られ口に布を詰め込まれた妹の姿があった。何故妹がこの家に居るのか分からず俄かに混乱しながらも体は勝手に動く。
春梅チュンメイ!!」
 悲鳴のように妹の名を呼んで駆け寄り、その体を拘束する縄を素早く剣で切ってやる。口に詰められていた布も捨てて、真っ青になってガクガクと震えていた春梅の体を抱きしめた。
 二部屋しかない小さな一軒家には、死体と妹の姿以外に人の気配はなかった。
「落ち着け、もう大丈夫だ」
「に、さん……兄さん……っ」
 兄の姿を見てやっと恐怖に心が追いついたか、ぼろぼろと涙をこぼし始める。あっという間に羅清の肩口が涙でしっとりとしていったが、そんな事も気に留まらないほど羅清もまた動揺していた。
 何があった? 何が起きた?
 春梅は服を脱がされていない。暴行された様子もないので、目の前で人が殺される状況を見せられたのかもしれない。ではなぜ家人だけが殺されたのか。
「ああ、これは酷いな」
 不意に男の声がして、羅清は咄嗟に春梅の体を自分の背中に隠して剣を構える。
「妹の結婚のために金を用立てる必要でもあったのか?」
 戸口の闇の中から現れた男はその手に松明を持っていた。ぼう、と橙の炎に揺れる顔には心配するような言葉とは裏腹に表情が宿っていない。
「常、義……」
 犯人がまだ近くにいるかもしれないと、すぐに捜索するべきだと常義に言わなくてはならないのに、羅清は言い知れない気配を常義から感じ取って動けなかった。
「だから言ったんだ、早く休めってな」
 常義が右手で合図を出すとぞろぞろと人がなだれ込んでくる。全部、自警団の男たちだ。
「そうすれば、こんな事に手を染めずに済んだだろうに」
 手を、染める?
 まるで家人を殺したのが羅清かのような口ぶりに、羅清は春梅を庇いながら後退る。
「……自分が何をしたか分かっていないような顔だな。──おい、羅清を捕らえろ」
「は?」
 動揺の隙をついて複数の兵士たちが羅清を春梅から引きはがし、後ろ手に身動きを封じられると手早く縄をかけられる。抵抗する隙も与えられないほど熟達した技は、皮肉にも彼らの訓練の賜物だった。
「おい、待て。何の冗談だこれは」
「冗談だと疑いたいのはこちらだよ、羅清」
 ゆら、と玄関から吹き込んだ風に炎が揺られて、常義の顔で影が躍る。
「まさか羅清、お前が殺人を犯していたなんて」
「意味が分かんねぇよ。何言ってんだ常義? あんた頭イカれちまったのか?」
 羅清の中で訴えるものがある。嘘だと言ってくれと、常義を信頼出来る男だと思わせてくれと、悲痛なものが胸を軋ませる。
 常義はもう何も答えなかった。それが、彼の答えだった。
 カッと頭に血が上って、固く結ばれた縄を引きちぎろうと全身でもがく。
「に、兄さんは、違う、ち、違うの……っ」
 春梅の声だ。小さく震えており、舌も回っておらずほとんど聞き取れないような訴えだったが、羅清の耳には確かに届いていた。
『妹の結婚のために金を用立てる必要でもあったのか?』
 怒りでたぎる頭の奥で常義の声がする。
 そうか、そういう事か。だから妹は手を出されなかったのか。
 妹の婚儀のために兄が商人を殺して金を盗もうとしたという脚本を常義が書いたという事だ。
「ふざけ──」
 怒りのまま飛び出そうとした羅清だったが、咄嗟に怒号を引っ込めた。そしてそのまま抵抗するのをやめてしまう。
 常義の手下たちは羅清が抵抗しないように、春梅の後ろから彼女の首に剣を添えていた。羅清にだけ見えるような角度で構えるやり口はあまりに汚く、脅し慣れている証拠だった。
 羅清が悔しげに歯を食いしばるも動こうとしないのを確認し、春梅を囲んでいる男たちの気配が僅かに弛緩するのが分かった。
 この男たちは、いつから常義にくだっていたのだろうか。暗くて分かりづらいが、羅清と親しくしていた顔もちらほら見える。
 その事実は羅清を苦しめた。自分を慕っていたのは見せかけだけだったのか。見せかけの信頼を、自分はまんまと信じていたというのか──。
「連れていけ」
 常義の言葉に従順に従う男たちは、羅清の背中を蹴りつけ無理矢理歩かせる。知った顔をちらとうかがうも、誰一人目を合わせようとしなかった。
 腹の底から黒いものが溢れてくる。自分を取り押さえる男たちを、常義を、殺してやりたいと思った。
「春梅に少しでも何かしてみろ。地獄の底からお前を殺しに来てやる」
 すれ違いざまに呪いを吐いて、羅清は元は仲間だったはずの自警団の兵士たちに連れられ禁軍にその身柄を引き渡された。
 後からついてきた罪状は殺人の他に強姦罪が加わっていた。立て続けに十数件起こった事件のいくつかを羅清に被せる事で犯人逮捕の手柄にでも利用したのだろう。或いは他にも何か理由があったのかも知れないが、ひとつはっきりとしている事は羅清がもう二度と娑婆に出る事は出来ないという事。
 死刑は辛うじて免れたが宮刑となった羅清は性を奪われその名を捨てる事になる。下級宦官のメイとなり、皇城で終身働かされるのだ。
 こうして羅清は死んだ。





 もうそろそろ于雨も宿舎に戻ってこられるだろうという頃、玲馨は再び于雨の様子を確かめに向かっていた。
 カビのような臭いのする薄暗い廊下を進んで一番奥の扉を開けると、今日は目が覚めていたようで半身を起こした于雨が玲馨を迎えた。
「随分顔色が良くなった。まだ痛むか?」
「はい。ですが、夜眠れないほどではなくなってきました」
「そうか」
 良かった、と心から思う。
 もはや片手では到底数え切れないほど、助からなかった者たちを玲馨は見てきている。その度に心が磨り減っていくような事はなくなったが、仕方のない事だとすっかり割り切れている訳でもない。
 彼らの死は遠回しにしか伝わらず、遺体がどこでどう扱われているのかも具体的には知らされていない。恐らくは罪人たちと同様の扱いがされているだろう。遺体を棄てるための土地があり、そこへ雑に埋められて終わりだ。墓も無ければ参る墓標も無い。
 いつだったか慰霊碑のようなものを戊陽が建てたいと言っていたが、今はあまりにも他の事で手一杯だ。
 死に目に会えなかったからだろう、玲馨が思い描く友の姿はあの愛嬌たっぷりの幼い姿のままでいる。いつか叶うなら、猿猿ホウホウの事をきちんと弔ってやりたい。
「あの」と下から小さく声を掛けられて、つい考え込んでしまっていた事に気付く。
「今日はお前に話しておきたい事があって来た」
 玲馨はそう言って、一度扉の方まで戻ると廊下側に人気が無いのを確認してから于雨の方へと戻ってくる。
「于雨、私はまたしばらく宿舎を空ける事になる」
「そうなのですね」
 心なしか于雨の眉が下がってしゅんとしたような顔つきになる。
「私が居なくともお前の世話は宿舎の者がしてくれる。心配するな」
「はい。……あの、お気をつけて」
 たどたどしい敬語で先輩を気遣う于雨は純朴でい。玲馨は柔らかく目元を細めながら言葉を続けた。
「ここから宿舎に戻ったら、私のひつを開けなさい」玲馨は続ける。「机の傍に脚のついた櫃がある。その底に、鍵のついた漆塗りの箱が隠してあるから、中を確認しなさい」
「中には……?」
「手紙が入っている。于雨へ宛てたものだ。時間がかかっても良いから、お前の頭で誰にも相談せずじっくりと考えるんだ。それから読んだ後はすぐに燃やしてしまいなさい」
「えっと……」
「大丈夫だ。手紙に書いてある」
 于雨、お前が覚えておくのは一つだ。櫃の底、鍵のついた漆塗りの箱。これを決して忘れてはならない。
「鍵はこれを」そう言って小さな手に硬い金属を握らせた。
 鍵は于雨の手に収まってしまうほど小さな物だった。失くしてしまうかもしれない。もしくは于雨が回復して宿舎に戻る前に、誰かに櫃を暴かれるかも知れない。
 これは賭けだ。箱に隠した手紙が于雨に届くかも、于雨が四郎についていくかどうかを決めるのも──。
 手紙には于雨の力について玲馨が知っている事と四郎から聞かされた事を噛み砕いて洗いざらい書き記してきた。四郎が見せろと言って古語を訳した物はそのまま詰めた。
 それを読んで、于雨は何をどう思うのか。于雨は自己主張が苦手な子供だったから、しばらく寝食を共にした玲馨でも予想がつかなかった。
 玲馨が西から戻ってくる頃には、于雨の心も決まっているだろう。




「よう、おっさん。久しぶりに邪魔するぜ」
「あん? なんつー口の聞きか、た……お前っ!?」
 たばこと呼ばれる舶来の嗜好品を吹かす男が宿の主人というだけで、ここが単なる宿ではないことは一目瞭然だ。港のある北や大国クンと交易を行っている西ならいざ知らず、紫沈で烟はほとんど出回っていない。
 一階は受け付け兼食堂になっており、宿をとった客たちが思い思いに食事をしている……のだが。
 烟独特の苦い匂いが充満する中には他に酒の匂いが混ざり、熱気で蒸したようなじっとりと重い空気が淀んでいる。主人が只者ではないなら、それを頼る客もただの客ではないという事らしい。
 宮中に渦巻く策略や奸計の気配とはまた質の異なる悪い空気にその柳眉をしならせつつ、玲馨は梅と共に護衛を斡旋してくれるという宿を訪ねていた。
「る、羅清か!?」
「こんな色男が世に二人とあってたまるかよ」
「その軽口、確かに羅清だ」
「男前は事実だろ」
 宿の主人は驚きに瞠っていた目に懐郷の色を宿したが、それは束の間で消えて梅を睨んだ。
「お前は死んだって聞いたがな」
「終身、皇族の皆様方にお仕えするありがたーい極刑になったってだけで、生きてるよ。今は梅って名乗ってる」
「……そうか」
 梅の身に何が起きたのか概ね察したようで、宿の主人は吸った煙をふうと梅の顔に吹きかけた。
「ゴホッ、ふざけっ、何しやがんだおっさん!」
「帰んな。梅なんざ男は知らねぇよ」
「は……はぁ!? おっさんいくらなんでもそれは──」
 食い下がろうとする梅を宿の主人は帳簿のようなものを扇いで出ていけと示す。全く相手にされていないと分かると梅はカッと目を見開き、拳で卓を殴りつけようとする。しかし梅の拳が卓を割るより早く宿の主人が「羅清」と彼を昔の名で呼んだ。
「何で宮城きゅうじょうから出てんのか知らねぇが、もうここには来るな」
 宿の主人は帳簿から顔を動かさずに目だけで食堂側のとある一席を見遣る。視線の先を追った梅は何かを見つけたようで一瞬にして表情を固くさせた。
「どうしても護衛が要るってんなら、裏で掃除やらせてる奴がいる。そいつを連れていけ」
「っ……。分かったよ、出てくよ。クソッ」
 怒り心頭の様子で宿を出ていく梅の後ろを仕方なく玲馨もついていこうとしたが、振り返ったところで呼び止められた。
「あんた、上手く化けてるつもりかも知れねぇが、見る奴が見りゃすぐ分かるぞ。気をつけな」
「……ご忠告、感謝致します」
 玲馨が拱手をすると宿の主人は胡散臭そうに目を細め、もう用事はないと言わんばかりに深く椅子に座り直して後は何も言わなかった。




「あークソッ! 何なんだよおっさん! 昔はあんなんじゃなかったのによ!」
「おい、あの宿は何だ? それにお前は食堂で何を見た?」
「ちぇ、玲馨センパイは俺に同情してくんねぇんだもんな」
「ふざけてないで説明しろ」
 ぶすっと口を尖らせる仕草は大の大人がやるには余りにも幼稚だ。梅は感情表現が豊かな男だが、それにしてもここまではっきりと怒りを見せる事は初めてだったので、宿の主人の対応はよほど想定外だったのだろう。
「あそこは自警団の人間が馴染みにしてる何でも屋みてぇなもんだよ。基本は宿だけど荒事を仕事にしてる奴に顔が利くんで、自警団でも人手が足りねぇ時なんかに頼るんだ。後は、まぁ情報とかな。見りゃ分かるだろうけど」
 話しているうちに少しずつ落ち着いてきた梅は言われた通り宿の裏手に回っていく。
 紫沈の防衛機能について玲馨はさほど精通している訳ではないが、禁軍は恐らく宮城の外の警備についてはあまり積極的に行っていない。その分自警団が組織されているが、非正規でも表向きは禁軍の下部組織である自警団に側《・》の情報は回ってきにくいだろう。そこを補うのが、あの宿のような破落戸ならずものを顧客に持つ店という事のようだ。
「主人の目配せの意味は?」
「はぁ、ったく。センパイは何でも教えろばっかりじゃあ一人になった時に困るぜ?」
「使えるものは馬鹿でも使えというだろう」
「使うのは親な。まぁ……自警団の馴染みなんだから、あそこに居た客が暴れん坊ばっかりじゃねぇって事は、想像つくよな」
「……昔馴染の顔でもあったか」
 梅は首を横に振る。
「けど、雰囲気で分からぁ。俺はちょっとばっかり自警団には借りがある。あんまり知り合いに顔を合わせるのはまずいのよ。けど……おっさんの義理を信じるなら、それだけじゃ無さそうな雰囲気だったな」
 つまり詳しいことは梅にも分からない、という事らしい。
「何故あの宿に行ったんだ」
「あそこ以上に護衛斡旋で良い店なんて知らねぇからなぁ」
 あの一帯に不案内な旅人は、あの宿の戸を叩いて驚く事だろう。まず宿泊しようという気は起きないくらい物々しい空気が流れていた。確かに腕に覚えのありそうな武人が居たようだが、それ以上に怪しさが勝ってしまって普通の客は寄り付かない。
 自警団と協力関係にあるというなら金銭のやり取りもあるに違いない。それが何かしらに障りがあるという事はないが、きな臭い上に度が過ぎれば調査が入る事にはなるだろう。自警団とは町人たちで築く町に根差した組織だと想像していたが、玲馨が思うほど単純な仕組みにはなっていないようだ。
 いずれにせよあの宿の護衛は自警団からも頼られるお墨付きという訳だ。
 あれこれと話しているうちに宿の裏手で掃除をしているという人間を見つける。しかしその姿を見て玲馨も梅も言葉を失った。
「あ? 何だよジロジロ見やがって」
 男にしてはやや高くて掠れた声に細い手足。背丈も当然玲馨より低く、骨っぽくなく丸い頬には雀斑そばかすが浮いている。
 どこからどう見ても十代半ばの子供を見て
他に掃除をしている者が居ないか見回すも、宿の裏手には少年が一人だけだ。
「他に大人が一緒に掃除をしていなかったか?」
「オレ一人でやってるけど?」
 二人は思わず目を見合わせる。
「この宿の下男か?」
「はぁ? ちげぇよ。こう見えてオレは傭兵だ!」
 本当に「こう見えて」だったので玲馨が思わず嘆息すると少年はムッとして言う。
「どうせ兄さんら、オヤジさんに傭兵頼んで断られた口だろ? 若すぎて金持ってそうには見えねぇもん」
 十代の少年に若すぎてなどと言われてはたまらないが、断られたのは本当の事なので反論が浮かばない。
「裏手で掃除してる奴」は、宿の主人の使う断り文句なのだろう。言葉通り裏手に回ればそこには少年が一人で居て、彼を見て客は諦めて帰っていくに違いない。少年には悪いが、武器を振るうというより武器に振り回されそうなほど頼りない外見だ。宿の主人がどうしても玲馨たちに護衛を出したくないというのであれば仕方がない。
「悪かった。仕事の邪魔をした。私たちはこれで去ろう」
「ちょっと! 待ってよ兄さん方。オレ傭兵だって言ってんじゃん。要るんじゃねぇの? 護衛」
「ああ。だからこれからよそを訪ねてみる。もしどこか良い店を知っていたら教えてくれないか」
「人の話全然聞かないじゃん! オレ、オーレ! オレが兄さん方の護衛をやるってば!」
 傭兵稼業によほど憧れでもあるのか、少年は立ち去ろうとする玲馨を強引に引き止めてくる。相手をするのが面倒になって無視して踵を返すと、「まぁ待て」と今度は梅が引き止めた。
「少年、名は?」
風蘭フーラン
「よし風蘭、お前剣を扱えるか?」
「おい梅、何を」
「手合わせしようぜ、少年」




「おいおい本当にそんなんで戦うつもりか?」
「言ってんじゃん。兄さんがその剣使ってくんなきゃ意味ねぇの」
 好戦的に笑ってくいっと顎をしゃくると、風蘭は手にしたを大きく振り回す。
 梅の挑発に乗った風蘭は、武器を貸してやるという梅の提案を断り掃除に使っていた箒の柄をその場にあった鉈で折って即席の槍に仕立てた。先が尖ってはいるものの、対して梅の持つ剣は本物の剣だ。斬り結べは使い古した箒などあっさり折れるに違いない。
 それはそれとして、玲馨は周囲を見回して焦りを募らせていく。
 宿の裏手では狭いからとわざわざ南門に続く目抜き通りの方に出てきたせいで二人はいらぬ注目を集めていた。
 通りを歩いていた人たちが風蘭が振り回した箒に気付いて慌てて避けると、そこにはぽっかりと人の居ない空間が出現する。風蘭を中心として人だかりが出来ると、何だ喧嘩かと俄かにざわつき始める。
「おいやめろ梅」
「連れの兄さんの方はああ言ってるけどー? やめとく?」
 手合わせしたくてたまらないのだろう、玲馨が止めようとするとすかさず風蘭が梅を挑発した。すると梅は笑って「まさか」と答える。
 今回の旅路は南の地、雲朱ユンジューの調査が主な目的だ。玲馨たちは官吏を伴っておらず、これは戊陽からの密命である事を意味している。であるからには、あくまで玲馨たちは秘密裏に紫沈を発たねばならないのである。
 こんな所で得物を振り回すなんて目立つ真似をしたら色々と面倒な事になってしまう可能性が非常に高い。門衛の詰めている南門までは目と鼻の先で、善良な市民が「喧嘩だ!」と叫べばすぐにでも門衛たちが駆け付けてくるだろう。
 そんな事は梅とて承知しているはずなのだが、玲馨の制止も虚しく梅は風蘭の挑発ににやりと愉し気に唇を歪め、剣を抜いて土俵の中心に進んでいく。
「梅!」
「逃げろって? あんなガキを相手に? 冗談じゃねぇ」
 ──冗談じゃない!!
 逃げるも何もそもそも手合わせだ何だと言い出したのは梅だ。
 ふざけるなと玲馨は慌てて梅を引き留めようとするも一歩遅く、梅は手にした剣で思い切り風蘭に斬りかかっていってしまう。
 ガツッという決して金属同士では立たないような鈍い音の後、玲馨は盛大な溜息を吐いた。
 一体誰だ、こんなろくでもない男を玲馨の護衛に命じたのは。そうだ戊陽だ、よく知っている。玲馨は戊陽を誰よりも信頼しているし、梅の性格はさておき能力は評価している。だが、それこそ子供相手に見え透いた挑発に乗るなど言語道断である。
「やっぱ兄さん強いな!」
「御託は言い。かかって来いよ、風蘭」
 いっそ梅を置いて行こうかなどと考え始める玲馨をよそに、二人の仕合の剣戟は少しずつ激しさを増していく。少しも経たないうちに野次馬で通りが混み始め、梅と風蘭をはやしたてるような声も聞こえ始めた。
 なんて野蛮なんだ。
 取り巻く観客たちだって危険だというのに、やんやと声を張り上げそれぞれを応援しているではないか。
 いっそそういう催しかのように見える梅と風蘭の戦いは、思いのほか力が拮抗しているのかなかなか決着がつかない。
 やがて玲馨が焦れ始める頃「おい、禁軍兵に知られちまったぞ」「こっちに門衛が来るってよ!」という観客の声が聞こえ始め、輪を作っていた野次馬たちが一人また一人と減り始めた。
 連れだと思われたくなくて遠巻きに二人のやり取りを眺めていた玲馨だったが、通りの向こうに甲冑を来た禁軍兵の姿を見つけると、咄嗟に小石を拾って梅の頭めがけて投げつけた。
「いっでぇッ!? 何だ!?」
 驚き振り返った梅と目が合うと、口の動きで「逃げるぞ」と伝える。と、少しは冷静になったのか、人だかりが薄くなっている事に気付いて突きを入れてくる風蘭の箒槍を片腕で払いその場に留まらせた。
「何だよ! 怖気づいたのか?」
「周り見ろ。人が減ってるだろ。兵が来る」
「へ?」
「ぼさっとしてねぇで走れ風蘭!」
「あ、おい!」
 風蘭なぞ置いてくればいいと玲馨は思うのだが、面倒見がいいのか何なのか梅は状況を理解していない風蘭の腕を引いて門とは逆の方向へと走り始める。祭りの主催が居なくなったおかげで残っていた観客たちも三々五々に散っていった。




 騒ぎの張本人である事を悟られないため散っていく人々に交じって目抜き通りから何度か角を曲がって細い路地に入る。暫くそうして逃走を続けたあと風蘭がバテて音を上げた事で漸く三人は足を止めた。
「はぁ、もう走れねぇ……っ」
「まぁこんだけ門から離れたら十分だろ」
 梅も荒く呼吸を繰り返しながら周囲を見回す。
 玲馨は残念ながら市井には不案内で、滅茶苦茶に走るうちここがどこだか分からなくなっていた。
 周辺の雰囲気はさほど悪いようには見えないが、建ち並ぶ家屋は山芒の薬師である卓珍ジュオジェンの家があった通りとどことなく似ている。生活用水のための堀があり、こじんまりとした家ばかりひしめきあう様子は貧困が滲む。
「で? 坊主、どこの出身だ?」
 藪から棒に梅が訊ねると、風蘭は驚いたように目を瞬いた。
「東江の端っこだよ。すげぇ田舎。けど、何で紫沈の人間じゃないって分かったの?」
「多少なり武を嗜んでりゃ立ち回りや型で分かるもんだろ」
 なぁ、と梅に水を向けられたが、玲馨は二人の戦いをろくに見ていなかったので答えなかった。見たところで玲馨には武術の細かな違いなどは分からない。それも剣と箒でそれぞれ得物が違うのでますます難しかっただろう。同じ剣使いなら型の違いくらいは見抜けたろうか。
「それと、インチキの種も白状しやがれ」
「インチキ?」
 武術の話題に似つかわしくない単語に思わず玲馨が口を挟むと、風蘭が今度は「えっと」と言い淀む。「インチキ」に心当たりがあるようだが、その割には悪びれる様子はない。
「話さなきゃダメ?」
「突っ込まれたくねぇなら、分からないように使わねぇとな」
 梅に見逃すつもりはないらしい。風蘭が困ったように玲馨を見上げる。
 人気のない細い路地で大人二人が少年を囲んで詰問する絵面は些か見苦しいだろうが、玲馨も風蘭の答えが気になった。
 玲馨からは助け舟が出ないと分かると諦めたように息を吐いて、梅に剣を抜くよう言う。
「一回しかやんないからな。剣先見てて」
 言われた通り梅が持つ剣の切っ先を凝視していると不意に剣先がカタカタと震え出した。梅の仕業ではないのは彼の顔を見ていれば分かるので、つまりこれが「インチキ」らしい。
 渋った割には案外あっさり種明かしを始めるので、ややもすると本当は知ってほしくてわざと分かりやすくインチキをしたのかも知れない。
「おしまい」と風蘭が言うと同時に震えは収まって、玲馨は思わず梅の顔を見つめた。まさかこんな事くらいで梅は子供を相手に手こずったというのだろうか。
「まぁセンパイの言いたい事は大体想像がつくけどな、さっきはこんなもんじゃなかったぜ。もっとこう、自在に剣の方向を変えられてたっつーかよ」
 どうにも言い訳がましく聞こえたが、視線を風蘭に向けると分かりやすく彼の視線が逃げていくので梅の主張に嘘はないようだ。
「風蘭」
「……何さ」
「少し気になる事をいくつかはっきりさせよう」
「ええー? タネなら話さないぜ。オレをちゃんと傭兵にしてくれるってんなら考えてやるけどなー」
 この期に及んでまだ傭兵をする気があるというのには驚いたが、よく考えなくても梅や玲馨のようにまともに相手をしてくれる大人はそうはいなかっただろう。風蘭は客を逃したくないのだ。インチキも玲馨たちに興味を持たせるための策のつもりか。
 梅は玲馨に任せるとでも言いたげに肩を竦めるだけだ。元はといえば梅が積極的に風蘭に構ったせいで期待を持たせてしまったというのに勝手な男だ。
 結局折れたのは玲馨で「分かった」と答えると、風蘭はその場で八重歯を見せて喜びはしゃいだ。
「だが危険だと私が判断したら、すぐに紫沈に帰す。それでいいな、風蘭」
「はいはい、分かりました」
 ツンと顎を持ち上げて答える風蘭には自信が見える。その自信の根拠は「インチキのタネ」だろうか。
「それで、はっきりさせたい事って何?」
「まず一つ。お前はあの宿に傭兵として雇われていたのか?」
「まぁ一応。でもオヤジさんがオレの腕信用してないからずっと雑用ばっかさせられてたけど」
「次に風蘭、その名は本名か? 姓はないのか?」
「姓なんてないよ。オレ、浮民だもん」
 姓とは一つの氏族を示すもので古くは貴族だけが名乗るものだったが、やがて支配地域の民に戸籍を与えて管理し始めると、領民は士農工商の身分を問わずに性を名乗るようになっていった。
 その仕組みから貧しさ故にあぶれているのが浮民だ。彼らは町の端に住み着いているので、得てしてあわいの発生によって一番の被害を被る事になった。
 玲馨は眉を顰める。彼の身分を卑しいと思ったからではない。玲馨とて明杰だった頃は自分がどんな身分だったかをよくは知らない。朧気になりつつある記憶の中で母が間借りしていた家の家主から「マー」と呼ばれていたからきっと明杰にも姓はあっただろう。だが、自分や母の暮らしを思えば浮民との違いを説明する事は難しい。
 玲馨が気にしているのは、風蘭が手にした箒の柄だ。梅と手合わせした割に損傷は少ない。
「東江では浮民に武術を習わせるのか?」
「まさか。こっちよりも東江の方が貧乏に厳しいぜ。オレは一応元々……」
 風蘭が視線を上げて不自然に言葉を切ったのとほぼ同時に玲馨と梅は後ろを振り返っていた。
 いつの間にか後ろに人が立っていた。その事に全く気付かず突然現れた男の姿に驚く。玲馨の隣から息を呑む音がした。
「お前は……っ」
 梅が驚愕に目を見開き男を凝視している。何かを言葉にしようとして上手く形にならず、梅はきつく歯を食いしばった。
 知り合いだろうか。だが、何であれ梅にとって出会いたくない人物のようだ。
「ん……? どこかで見た顔だと思ったらお前、羅清か」
 槍を装備したその男が口にした名は、梅の昔の名だった。
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