上 下
10 / 170

10 宿の部屋にテント?

しおりを挟む
ケーンは借りた宿の、部屋の中に張ったテントから出てきた。

なぜなら、テントの中の方が、はるかに快適だからだ。
空間拡張魔法でテントの中は広々。
複数プレイ可能なキングサイズベッドにゆったりソファー。

冷暖房完備でバス・シャワートイレ・キッチン付き。

宿は中クラスのようだが、共同トイレにもちろん風呂なし。
おぼっちゃま育ちのケーンにとって、ゴミだめに等しい。


「ケーン様、おはようございます。
朝の光も悪くないですな」
 ブラックは、宿備え付けのベッドから立ち上がった。

彼は普通に宿のベッドで休んでいた。

「おかしい。宿の娘とのフラグが立たなかった」
 ケーンは相変わらずご機嫌斜め。

この宿は、おっちゃんとおばちゃんが経営していた。

快活美少女や、可憐ロリ美少女はいなかった。今夜は宿をチェンジしよう。

「今日もペンペンソウですか? 
素材持ち込みでは、ランクが上がりませんでしたし」
 ブラックは王宮のシェフが腕を振るった朝食を、ケーンのためにとり出す。

小さいテーブルの上に、ほかほかご飯、豆腐とわかめの味噌汁、焼き魚、卵焼き、納豆、焼き海苔が並べられた。

ケーンの母ちゃんが、夫のために地球から取り寄せた素材を元にして、夜空城で生産したものだ。

ケンイチの食の好みは和食。

ケンイチが夜空城から離れられない原因の一つは、妻に餌付けされたこともある。

ケーン的には食事なんてどうでもいいのだが。

夜空城で和食を食べるのは、ケンイチとケーンだけだ。
いわば父ちゃん孝行のため、ケーンは食事につきあっていた。

「ペンペンソウね……。超つまんない」
 ケーンはぶすっとした顔で、ぼそぼそと朝食をとり始めた。

「いっそ上級冒険者と、パーティを組みますか? 
構成員の平均で、クエストは受注できるようですから」

「それもいいんだけど、なんかさ、ブラック、注目されすぎじゃない? 
巨乳の受付嬢、目がハートマークだったぞ」
 ケーンは箸で納豆をかきまぜる。

「そうでしょうか?」
 ブラックはきょとんとして言う。無駄なデカ乳なんて彼にはお呼びでない。

「アイテムバック、あれ、まずかったんじゃない? 
よくわかんないけど、下々にとっては、多分超高級品だよ。
あれって量だけはたんまり入るし」

「そうでしょうか? 
オートソートされないし、防腐機能だけ。
容量制限も無限ではありませんから、大丈夫だと思ったのですが」

「まあいいんだけどさ、男の冒険者は、みんなバッグ見てたぞ。
女の冒険者は、お前のもっこりに釘付けだったけど」

「まあ、馬ですから、もっこりだけはケーン様に……、いや、なんでもありません! 
なんでもありませんてばぁ~!」
 ケーンは糸引き納豆を、ブラックの頭に垂らした。 
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:22,912pt お気に入り:29,342

不死王はスローライフを希望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:39,070pt お気に入り:17,435

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:55,770pt お気に入り:53,829

処理中です...