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40 生餌の少女
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城砦都市クオーク。
テリーヌ帝国最東部に位置するこの都市は、対魔王軍防衛のための、最前戦基地として機能している。
五千人の精鋭の部隊を養うため、強固な城壁に囲まれた町は、自給自足がぎりぎり可能なだけの農・工・商業施設が、城壁内に整っている。
というのも、この都市周辺には、強くて凶暴な魔物が多数徘徊している。比較的安全な近隣都市と、頻繁に交易を保つことは難しい。
したがって、税が極端に抑えられたこの町に集まる平民は、ただの平民ではない。
ある程度家族や、自分の身が守れるだけの力を持った、冒険者や元冒険者がほとんどだ。
いざ魔王軍が攻めてきた、といった緊急事態には、平民も武器を取り、軍に協力している。
そんな特殊な町の性格上、平均年齢が極端に若い。
クオークで一財産つくり、老後は安全な町や村で余裕を持って暮らす。
そんな野望と活気に満ち溢れているのがこの町だ。
冒険者ギルドに隣接する食堂兼酒場。ケーン達四人は、女性ばかりのパーティ四人と、酒を酌み交わしていた。
「ケーンクンの、ちょっといいとこ見てみたい!」
「ケーン、飲みま~す!」
ケーンは、でっかい陶製カップに入った酒を、豪快に飲み干す。
「スッゲー強い! あっちの方も強い?」
女冒険者たちは、少年に見えるケーンをからかう。
「どんと任せちゃってください!
一晩十発はいけます!」
ケーンは真顔で応える。
「キャー、頼もしい!
おねえさんと…する?」
たくましい肉体美を誇る女冒険者は、ケーンをいっそうからかう。
「四人まとめてでもいいよ!」
酒が入ったケーンは、ますます調子に乗る。
普通の肝臓なら、とっくにパンクするほど彼は飲んでいるが、ほろ酔い程度だ。
「ケーン、ええかげんにせえよ!」
ユリがマジギレする。
ケーンが新たに嫁をとるなら文句は言わない。だが、遊びならとうてい許せるものではない。
この四人は、ケーンの見た目より、かなり年上に見える。女盛りなのはたしかだが、お互い本気だとは思えない。
「冗談だって。ユリちゃんという、ちゃんとした嫁がいるのに、寝取ったりしないさ。
ユリちゃんも飲みなよ」
パーティリーダーが、ユリに酒を勧める。
「冗談、なの?」
ケーンが心外、という顔で言う。
「パーティの和を乱しちゃダメだって。
酒はこのへんにして、嫁をいたわってやりなよ。
強くてかわいい嫁じゃないか」
苦労人のリーダーは、しみじみと言う。
男女関係のもつれで、ばらばらになったパーティを、彼女はいくつも見てきた。
「僭越ながらケーン様、そろそろお開きがよろしいかと」
今日はブラックとホワイトも参戦した。
女冒険者たちは、オーガの群れに囲まれ、大ピンチだったから。
その恩に報いるため、女冒険者たちは四人をもてなしていたのだ。
「まあ、しゃ~ね~か。
ユリ、帰ろう」
ケーンはしぶしぶといった顔で、立ち上がった。
ユリはいそいそと彼に寄り添う。
「おねえさんたち、今日はゴチになりました。
まったね~!」
ケーンはユリに腕を開けた。ユリはにこっと笑い、ケーンに腕を組んだ。
「こっちこそ助かった」
「バイバーイ!」
「若いっていいよね!」
「まったね~!」
女冒険者たちは、軽く手を振って、ケーン達を見送った。
ケーンは酒場を出て、ユリの耳元でささやく。
「ごめんな。見張ってる女がいたから」
「えっ……」
ユリはびっくりした。全然気づかなかった。
それと同時に、自分を恥じた。ケーンは正真正銘のスケベだが、今日はどこか様子が違っていた。
そうか、監視者に軽薄ぶりを装っていただけか……。
「うまくいけば、シックスプレイもアリかと思ってたんだけどな。残念」
カクンとくるユリだった。
もちろんジョークですよ、ジョーク。ケーンは嫁になる女以外、抱く気はない。
ほんとだよ……。
とある宿。四人の女が鳩首会談。
「あの坊や、マジで夜の女王とケンイチの子?
強いことは確かだけど……」
「フツー、だよね?
せいぜいSランク?」
「超軽いし……。
伝説ではケンイチも、超スケベだってことだけど」
「あのヤラシー顔、とても見ていられませんでした!
私、あのパーティに、潜入調査するなんていやです!」
「新人。お前は若さと美貌だけで、この任務に選ばれたんだ。
体を張ってあの坊やを落とせ。
それが私たちの仕事だ」
「処女膜の一枚や二枚、どうってことない」
「男はバカだから、処女だということだけでも大喜びだ」
先輩の冷厳な言葉に、少女はうなだれた。
処女膜に二枚目なんてないよ。心の中だけで反論する少女だった。
その少女は、とある事情によって、シャドーと呼ばれる組織に拾われたばかりだ。
そんな新人が、この重大な任務に選ばれたのは、聖神女だと言われても納得できるほどの、美貌と神秘的な雰囲気を持っているからだ。
ケンイチの息子がいかにも好みそうな。
素人同然の彼女が、素性を見破られる可能性は低いし、組織の事情もほとんど知らない。
また、食い逃げされても惜しくない実力だ。
つまり、「生餌」として、最適とシャドーの幹部は判断した。
テリーヌ帝国最東部に位置するこの都市は、対魔王軍防衛のための、最前戦基地として機能している。
五千人の精鋭の部隊を養うため、強固な城壁に囲まれた町は、自給自足がぎりぎり可能なだけの農・工・商業施設が、城壁内に整っている。
というのも、この都市周辺には、強くて凶暴な魔物が多数徘徊している。比較的安全な近隣都市と、頻繁に交易を保つことは難しい。
したがって、税が極端に抑えられたこの町に集まる平民は、ただの平民ではない。
ある程度家族や、自分の身が守れるだけの力を持った、冒険者や元冒険者がほとんどだ。
いざ魔王軍が攻めてきた、といった緊急事態には、平民も武器を取り、軍に協力している。
そんな特殊な町の性格上、平均年齢が極端に若い。
クオークで一財産つくり、老後は安全な町や村で余裕を持って暮らす。
そんな野望と活気に満ち溢れているのがこの町だ。
冒険者ギルドに隣接する食堂兼酒場。ケーン達四人は、女性ばかりのパーティ四人と、酒を酌み交わしていた。
「ケーンクンの、ちょっといいとこ見てみたい!」
「ケーン、飲みま~す!」
ケーンは、でっかい陶製カップに入った酒を、豪快に飲み干す。
「スッゲー強い! あっちの方も強い?」
女冒険者たちは、少年に見えるケーンをからかう。
「どんと任せちゃってください!
一晩十発はいけます!」
ケーンは真顔で応える。
「キャー、頼もしい!
おねえさんと…する?」
たくましい肉体美を誇る女冒険者は、ケーンをいっそうからかう。
「四人まとめてでもいいよ!」
酒が入ったケーンは、ますます調子に乗る。
普通の肝臓なら、とっくにパンクするほど彼は飲んでいるが、ほろ酔い程度だ。
「ケーン、ええかげんにせえよ!」
ユリがマジギレする。
ケーンが新たに嫁をとるなら文句は言わない。だが、遊びならとうてい許せるものではない。
この四人は、ケーンの見た目より、かなり年上に見える。女盛りなのはたしかだが、お互い本気だとは思えない。
「冗談だって。ユリちゃんという、ちゃんとした嫁がいるのに、寝取ったりしないさ。
ユリちゃんも飲みなよ」
パーティリーダーが、ユリに酒を勧める。
「冗談、なの?」
ケーンが心外、という顔で言う。
「パーティの和を乱しちゃダメだって。
酒はこのへんにして、嫁をいたわってやりなよ。
強くてかわいい嫁じゃないか」
苦労人のリーダーは、しみじみと言う。
男女関係のもつれで、ばらばらになったパーティを、彼女はいくつも見てきた。
「僭越ながらケーン様、そろそろお開きがよろしいかと」
今日はブラックとホワイトも参戦した。
女冒険者たちは、オーガの群れに囲まれ、大ピンチだったから。
その恩に報いるため、女冒険者たちは四人をもてなしていたのだ。
「まあ、しゃ~ね~か。
ユリ、帰ろう」
ケーンはしぶしぶといった顔で、立ち上がった。
ユリはいそいそと彼に寄り添う。
「おねえさんたち、今日はゴチになりました。
まったね~!」
ケーンはユリに腕を開けた。ユリはにこっと笑い、ケーンに腕を組んだ。
「こっちこそ助かった」
「バイバーイ!」
「若いっていいよね!」
「まったね~!」
女冒険者たちは、軽く手を振って、ケーン達を見送った。
ケーンは酒場を出て、ユリの耳元でささやく。
「ごめんな。見張ってる女がいたから」
「えっ……」
ユリはびっくりした。全然気づかなかった。
それと同時に、自分を恥じた。ケーンは正真正銘のスケベだが、今日はどこか様子が違っていた。
そうか、監視者に軽薄ぶりを装っていただけか……。
「うまくいけば、シックスプレイもアリかと思ってたんだけどな。残念」
カクンとくるユリだった。
もちろんジョークですよ、ジョーク。ケーンは嫁になる女以外、抱く気はない。
ほんとだよ……。
とある宿。四人の女が鳩首会談。
「あの坊や、マジで夜の女王とケンイチの子?
強いことは確かだけど……」
「フツー、だよね?
せいぜいSランク?」
「超軽いし……。
伝説ではケンイチも、超スケベだってことだけど」
「あのヤラシー顔、とても見ていられませんでした!
私、あのパーティに、潜入調査するなんていやです!」
「新人。お前は若さと美貌だけで、この任務に選ばれたんだ。
体を張ってあの坊やを落とせ。
それが私たちの仕事だ」
「処女膜の一枚や二枚、どうってことない」
「男はバカだから、処女だということだけでも大喜びだ」
先輩の冷厳な言葉に、少女はうなだれた。
処女膜に二枚目なんてないよ。心の中だけで反論する少女だった。
その少女は、とある事情によって、シャドーと呼ばれる組織に拾われたばかりだ。
そんな新人が、この重大な任務に選ばれたのは、聖神女だと言われても納得できるほどの、美貌と神秘的な雰囲気を持っているからだ。
ケンイチの息子がいかにも好みそうな。
素人同然の彼女が、素性を見破られる可能性は低いし、組織の事情もほとんど知らない。
また、食い逃げされても惜しくない実力だ。
つまり、「生餌」として、最適とシャドーの幹部は判断した。
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