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55 うらやましい?
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※投稿後、一話落としていることに気づきました。10:30に前話を付け加えます。
長くなりますがごめんなさい!
少し落ち着いたメグから事情を聞き、レミは急いで宿に帰った。
多分お邪魔だろうけど……。レミは少し迷ったが、テントに入った。
「ケーンさん、キキョウさん、ごめんなさい。
相談したいことがあるの。
実は……」
何回戦目かわからないが、ちょうどタイミングよくインターバルだったようだ。
ケーンは腕枕していたキキョウとユリから離れた。ベッドに腰かけ、レミの話を聞いた。
「なるほどね……。父ちゃんにも、責任は多少あるかな。
将棋伝えたの、父ちゃんだし」
レミの話を聞き終え、ケーンは腕組みした。メグの夫は、懸け将棋に負けて、借金を作ったらしい。
ケーンの言葉でお分かりだろうが、将棋はケンイチがこの世界に持ち込んだゲームだ。チェスに似たようなゲームは、この世界にもあったが、将棋というそれより複雑なゲームは、この世界に受け入れられた。
木製の駒と盤があれば、誰にでも楽しめる。そして、取った駒を自分の戦力にできるというゲームの奥深さは、自称強者の自負心をくすぐりまくる。
賭け事を禁ずる国は、この世界のどこにもないので、日本では「真剣師」と呼ばれるプロの棋士が生まれた。
「ケンイチさんの責任ではないですよ!
借金の額は金貨五十枚。
私でも払えない額ではないですけど。
よくルールは知りませんけど、コマ落ち?
負けが込んでいたマックは、相手の『カクオチ』の条件で、大勝負に出たそうなんですが……」
「ギャンブルの沼にはまったわけだ?
だけど、無条件で借金の形代わりするのは、マックによくない。
そう思ったんだろ?」
ケーンの言葉に、レミはうなずく。一度メグを救うのは簡単だ。利子がいくらかわからないそうだが、今のレミの懐事情から言えばお安い御用。
だが、それで夫婦関係が、うまくいくかどうか。
レミはギャンブル狂が、どこまでも落ちていく実例を、いくつか見てきた。
「まあ、レミの大切な友達だ。
俺に任せろ!」
頼もしく胸を叩くケーンだった。
ケーンは、その将棋の真剣師が、泊っているという宿を訪ねた。聞けばその真剣師は、この地の高利貸しに借用書を売ったという。
さっきメグの店に押しかけたのは、その高利貸しの手下だということ。
宿のおばちゃんに乞い、真剣師を呼び出してもらった。
「よう! あんた、将棋強いんだってな?
俺と指してもらえる?」
真剣師は中年のやせた男だった。
「ただでは指さないぞ」
真剣師は鼻で笑った。こんな若造が、俺と指すなんて十年早いわ!
「もちろんいいぜ」
ケーンは宿の食堂へ向かった。
男は苦笑して後に続いた。この町で俺に挑む者はいなくなった。そろそろ他の町に移るかと、考えていたところだった。まあ、旅の小遣いを稼がせてもらおう。
「さてと、掛け金いくらにする?」
ケーンは食堂のテーブルに座ってそう言った。
「いくらでもいいぜ。香車の一枚落なら……」
「平手でいいぜ。先手も譲ろうか?」
「なめるな! 小僧!」
真剣師は荒んだ目を怒らせた。
「おお怖っ!
これで勝負、受けるか!」
ケーンは金貨が詰まった皮袋をテーブルに置く。
「いくら入ってる?」
男は少し気押されて聞いた。
「百枚ぐらいじゃねぇの?
もちろん金貨だ」
こいつ、バカか? 俺は将棋でメシ食ってるんだよ!
真剣師は薄ら笑いを浮かべ、盤と駒を用意した。
先手は振り駒の結果、ケーンとなった。ケーンは飛車先の歩を突く。真剣師は角道を開けた。
ケーンは、こいつ振り飛車党かなと思う。もしくは矢倉?
まあ、父ちゃんが将棋を普及したころは、結構振り飛車党が多かったと聞く。現代将棋では少なくなった矢倉も、かつては全盛を誇っていた。
現代将棋で、男性棋士の振り飛車党は少なくなった。なにせ、現代日本では、将棋ソフトが全盛だ。プロの棋士でも、将棋ソフトで勉強しなければ置いて行かれる。
その将棋ソフトで、振り飛車は不利だとされている。飛車を振った瞬間、形勢が数パーセント傾くほど。
ケーンは夜空城で暮らしていた時、「ソータクン」という最強ソフトで研鑽を積んだ。父ちゃんは、すでに敵ではなくなっていたから。
ケーンといい勝負ができたのは、ミレーユだけだった。
ケーンは、再び飛車先の歩を進めた。真剣師は思った通り、角を三3に。
真剣師は、「四間飛車」に振った後「美濃囲い」とよばれる陣形を固める。ケーンは、「左美濃」という囲いに。
「ほ~……」
真剣師は、少しケーンを見直した。こいつ、定石を知っている。
局面は進んで……。
「ぐぬぬぬ……」
青ざめた真剣師は、歯ぎしりした。
「こういうの、詰み、っていうんだよね?」
真剣師の玉の頭には、金が打たれていた。将棋の世界では、頭金と呼ばれる、これ以上ないほど、わかりやすい詰みだった。
真剣師は、ケーンに背中をつつかれながら、とぼとぼと歩く。彼が心ならずも目指しているのは、高利貸しの事務所だ。
やばい、やばい、やばい……。下手したら、殺されるぞ……。俺もこの小僧も。
「ここだ」
真剣師にとって残念なことに、事務所前に着いてしまった。
「そうなんだ?
話をつけろ!」
ケーンはドスを利かせて言う。
「はい……」
真剣師は力なく応え、ドアを開けた。
「これは先生。
また稼ぎましたか?
いや~、先生に挑むバカ、まだいたんだ?
ハハハ!」
肥満した年配の男が、腹を抱えて馬鹿笑い。
「あのな、前に売った、マックの借用書、買い取りたい」
真剣師は、冷や汗を流しながら言う。
「マックの?
どうして?」
「こいつ…、このお方に負けちまったんだ。
金貨五十枚に、利子はいくらだ?」
「先生が、負けた?
将棋で?」
真剣師は、悔しそうにうなずく。
「今さら借証書を買いもどすと言われてもね……。
もうあの店の買い手はついてる。
無理ですね」
金貸しは、眉をひそめて言う。
「借用書の期限は明日だろ?
つべこべ言わず、借用書出せばいいんだよ!」
ケーンはめいっぱいすごむ。相手が手を出してきたら、思う存分暴れられる。
「なん…だと!
おい!
いいからやっちまえ!」
金貸しは手下に命じた。
ドス、ガス、ゲス! ケーンは五人を瞬殺。殺してはいないけど。多分。
「超怖かったんだから!
世の中には慰謝料っていうやつがある。
利子はなしな?」
ケーンは高利貸しの襟をつかんで持ち上げた。
「ひ~~~!
わかりました!」
ドスン! ケーンは、そっとやさしく高利貸しを投げた。
ケーンは借用書を受け取り、火魔法で焼いた。魔法を使ったのは、体術だけじゃないぞというアピール。高利貸より彼の手下を思いやって。
それでもオトシマエを付けに来たら、その根性に拍手してボコボコにする。
「おい! どこへ行くんだ!」
ケーンは真剣師を呼び止めた。借用書が燃えたので、彼はそ~っと逃げようとしていた。
「いや~、もうこの町から出ようと思いまして」
真剣師は冷や汗を流しながら言う。
「借金は借金だろうが!
金貨何枚で売った?」
ケーンが言う。
「三十枚です……」
「いくら持ってる?」
「五十枚です」
「ホントは?」
「五十一枚?」
「ホントのほんとは?」
「六十枚で許してください!」
「まあいいだろう。お前にも生活がある」
ケーンは妥協することにした。
真剣師は、上着を脱いだ。腹に巻いた布で、金貨が入った皮袋を隠していたようだ。
ケーンは皮袋を受け取り、五十枚を数え、高利貸しの前にばらまいた。
「儲けは出たな? もうあと腐れ、ないよね?」
ケーンの言葉に、高利貸しは高速でうなずく。
ケーンは十枚皮袋から出して、残りを真剣師に返した。
「あこぎな稼ぎ、するんじゃねえぞ!」
真剣師は、ふてくされながらもうなずく。
「まだこりてないみたいだな!」
ケーンは真剣師の胸倉を押した。真剣師は吹き飛ばされた。
「商売のコツ、教えてやる。
客は生かさず殺さず。
ケツの毛まで抜いてどうする!
上限は金貨五枚!
わかったな?」
真剣師は、うなずくしかなかった。まあ、普通の客が金貨五十枚も賭けることなどまずない。
ケーンは真剣師を解放した。これ以上の世話はやけない。真剣師にも、カモとなる客にも。
ケーンは一度宿に帰り、多分あと腐れなく片がついたことをレミに報告。
「で、どうする?」
ケーンは、ほっとした表情のレミに聞く。
「もう仕入れのお金も、ないそうなんですけど……」
レミの言葉に、ケーンはうなずく。
「でも、メグにお金を渡したら……」
「だろうな……。そのメグ? 旦那と別れられそう?」
「愛想は尽き果ててると言いますけど。
あの子、お人よしだから……」
レミの言葉に、ケーンは深くため息をついた。
ここはNeToRi?
ケーンは黙って話を聞いているユリを見た。
「ケーン、切りがないで」
ですよね~!
ケーンはレミと共にメグの店へ。がらんとした店の中で、メグは呆然と立っていた。
確かにお人よしです、という感じの女性だ。ただし、ケーンの触手は動かなかった。
「俺はレミの夫、ケーンだ。
ライラックを本拠地にして、冒険者やってる。
借金の片はきれいにつけた。
黙ってライラックに来いよ。
雑貨店、見繕って経営を任せる」
ケーンは、別れるべきだと判断し、そう提案した。このままなら流されそうだ。
「いくらメイの旦那さんだと言っても、そこまでご迷惑を……」
メグは当然ながらためらう。
「経営を任せるだけだよ。
レミに雇われるという形で」
「それなら……。本当に、いいんですか?
金貨五十枚も、当分返せないですよ?
利子はいくらだったんですか?」
「そっちはあぶく銭で片をつけたから、返さなくていい。
実は金貨十枚儲かってる」
「あぶく銭?」
「将棋で勝ったんだよ。
賭けごとには賭け事で。
勝にしろ負けるにしろ、身につくものじゃない。
引っ越しの支度しろよ。
これ、魔法のバッグだからやる。
なんでも入るよ。
レミ、引っ越しの支度、手伝ってやれよ」
ケーンは魔法のバッグを、アイテム庫から取り出し、店から出て行った。
「いい夫でしょ?
うらやましい?」
レミは幼馴染の肩を抱いた。
「超うらやましいよ!」
そう言って、レミの腕の中で泣きじゃくった。
翌朝、メグは店のドアに大きな張り紙を貼った。その張り紙には……、
バカ亭主 あばよ!
勝手にくたばれ!
メグ
メグは晴れ晴れとした顔で、バッグを手に提げた。
店の前で停まっていた馬車に乗り込む。
どうして馬車の中にテント?
テントの中から、四人の女性が出てきた。レミの顔も見られた。
「紹介する。正妻のキキョウさん。
トリプルSの冒険者よ……」
レミは三人の嫁の、簡単なプロフィールを述べた。
「あの歳で、四人の奥さん!
しかも……」
メグは三人の嫁に圧倒された。
「すごい夫でしょ?
うらやましい?」
「どうだろ……」
誇らしげなレミの言葉に、それ以上、何も言えなくなったメグだった。
レミ、よくこの嫁のたちの中に潜り込めたわね?
テントの中に入り、メグはさらにぶったまげ、ケーンの素性を聞き、腰が抜けそうになったことを付け加えておく。
長くなりますがごめんなさい!
少し落ち着いたメグから事情を聞き、レミは急いで宿に帰った。
多分お邪魔だろうけど……。レミは少し迷ったが、テントに入った。
「ケーンさん、キキョウさん、ごめんなさい。
相談したいことがあるの。
実は……」
何回戦目かわからないが、ちょうどタイミングよくインターバルだったようだ。
ケーンは腕枕していたキキョウとユリから離れた。ベッドに腰かけ、レミの話を聞いた。
「なるほどね……。父ちゃんにも、責任は多少あるかな。
将棋伝えたの、父ちゃんだし」
レミの話を聞き終え、ケーンは腕組みした。メグの夫は、懸け将棋に負けて、借金を作ったらしい。
ケーンの言葉でお分かりだろうが、将棋はケンイチがこの世界に持ち込んだゲームだ。チェスに似たようなゲームは、この世界にもあったが、将棋というそれより複雑なゲームは、この世界に受け入れられた。
木製の駒と盤があれば、誰にでも楽しめる。そして、取った駒を自分の戦力にできるというゲームの奥深さは、自称強者の自負心をくすぐりまくる。
賭け事を禁ずる国は、この世界のどこにもないので、日本では「真剣師」と呼ばれるプロの棋士が生まれた。
「ケンイチさんの責任ではないですよ!
借金の額は金貨五十枚。
私でも払えない額ではないですけど。
よくルールは知りませんけど、コマ落ち?
負けが込んでいたマックは、相手の『カクオチ』の条件で、大勝負に出たそうなんですが……」
「ギャンブルの沼にはまったわけだ?
だけど、無条件で借金の形代わりするのは、マックによくない。
そう思ったんだろ?」
ケーンの言葉に、レミはうなずく。一度メグを救うのは簡単だ。利子がいくらかわからないそうだが、今のレミの懐事情から言えばお安い御用。
だが、それで夫婦関係が、うまくいくかどうか。
レミはギャンブル狂が、どこまでも落ちていく実例を、いくつか見てきた。
「まあ、レミの大切な友達だ。
俺に任せろ!」
頼もしく胸を叩くケーンだった。
ケーンは、その将棋の真剣師が、泊っているという宿を訪ねた。聞けばその真剣師は、この地の高利貸しに借用書を売ったという。
さっきメグの店に押しかけたのは、その高利貸しの手下だということ。
宿のおばちゃんに乞い、真剣師を呼び出してもらった。
「よう! あんた、将棋強いんだってな?
俺と指してもらえる?」
真剣師は中年のやせた男だった。
「ただでは指さないぞ」
真剣師は鼻で笑った。こんな若造が、俺と指すなんて十年早いわ!
「もちろんいいぜ」
ケーンは宿の食堂へ向かった。
男は苦笑して後に続いた。この町で俺に挑む者はいなくなった。そろそろ他の町に移るかと、考えていたところだった。まあ、旅の小遣いを稼がせてもらおう。
「さてと、掛け金いくらにする?」
ケーンは食堂のテーブルに座ってそう言った。
「いくらでもいいぜ。香車の一枚落なら……」
「平手でいいぜ。先手も譲ろうか?」
「なめるな! 小僧!」
真剣師は荒んだ目を怒らせた。
「おお怖っ!
これで勝負、受けるか!」
ケーンは金貨が詰まった皮袋をテーブルに置く。
「いくら入ってる?」
男は少し気押されて聞いた。
「百枚ぐらいじゃねぇの?
もちろん金貨だ」
こいつ、バカか? 俺は将棋でメシ食ってるんだよ!
真剣師は薄ら笑いを浮かべ、盤と駒を用意した。
先手は振り駒の結果、ケーンとなった。ケーンは飛車先の歩を突く。真剣師は角道を開けた。
ケーンは、こいつ振り飛車党かなと思う。もしくは矢倉?
まあ、父ちゃんが将棋を普及したころは、結構振り飛車党が多かったと聞く。現代将棋では少なくなった矢倉も、かつては全盛を誇っていた。
現代将棋で、男性棋士の振り飛車党は少なくなった。なにせ、現代日本では、将棋ソフトが全盛だ。プロの棋士でも、将棋ソフトで勉強しなければ置いて行かれる。
その将棋ソフトで、振り飛車は不利だとされている。飛車を振った瞬間、形勢が数パーセント傾くほど。
ケーンは夜空城で暮らしていた時、「ソータクン」という最強ソフトで研鑽を積んだ。父ちゃんは、すでに敵ではなくなっていたから。
ケーンといい勝負ができたのは、ミレーユだけだった。
ケーンは、再び飛車先の歩を進めた。真剣師は思った通り、角を三3に。
真剣師は、「四間飛車」に振った後「美濃囲い」とよばれる陣形を固める。ケーンは、「左美濃」という囲いに。
「ほ~……」
真剣師は、少しケーンを見直した。こいつ、定石を知っている。
局面は進んで……。
「ぐぬぬぬ……」
青ざめた真剣師は、歯ぎしりした。
「こういうの、詰み、っていうんだよね?」
真剣師の玉の頭には、金が打たれていた。将棋の世界では、頭金と呼ばれる、これ以上ないほど、わかりやすい詰みだった。
真剣師は、ケーンに背中をつつかれながら、とぼとぼと歩く。彼が心ならずも目指しているのは、高利貸しの事務所だ。
やばい、やばい、やばい……。下手したら、殺されるぞ……。俺もこの小僧も。
「ここだ」
真剣師にとって残念なことに、事務所前に着いてしまった。
「そうなんだ?
話をつけろ!」
ケーンはドスを利かせて言う。
「はい……」
真剣師は力なく応え、ドアを開けた。
「これは先生。
また稼ぎましたか?
いや~、先生に挑むバカ、まだいたんだ?
ハハハ!」
肥満した年配の男が、腹を抱えて馬鹿笑い。
「あのな、前に売った、マックの借用書、買い取りたい」
真剣師は、冷や汗を流しながら言う。
「マックの?
どうして?」
「こいつ…、このお方に負けちまったんだ。
金貨五十枚に、利子はいくらだ?」
「先生が、負けた?
将棋で?」
真剣師は、悔しそうにうなずく。
「今さら借証書を買いもどすと言われてもね……。
もうあの店の買い手はついてる。
無理ですね」
金貸しは、眉をひそめて言う。
「借用書の期限は明日だろ?
つべこべ言わず、借用書出せばいいんだよ!」
ケーンはめいっぱいすごむ。相手が手を出してきたら、思う存分暴れられる。
「なん…だと!
おい!
いいからやっちまえ!」
金貸しは手下に命じた。
ドス、ガス、ゲス! ケーンは五人を瞬殺。殺してはいないけど。多分。
「超怖かったんだから!
世の中には慰謝料っていうやつがある。
利子はなしな?」
ケーンは高利貸しの襟をつかんで持ち上げた。
「ひ~~~!
わかりました!」
ドスン! ケーンは、そっとやさしく高利貸しを投げた。
ケーンは借用書を受け取り、火魔法で焼いた。魔法を使ったのは、体術だけじゃないぞというアピール。高利貸より彼の手下を思いやって。
それでもオトシマエを付けに来たら、その根性に拍手してボコボコにする。
「おい! どこへ行くんだ!」
ケーンは真剣師を呼び止めた。借用書が燃えたので、彼はそ~っと逃げようとしていた。
「いや~、もうこの町から出ようと思いまして」
真剣師は冷や汗を流しながら言う。
「借金は借金だろうが!
金貨何枚で売った?」
ケーンが言う。
「三十枚です……」
「いくら持ってる?」
「五十枚です」
「ホントは?」
「五十一枚?」
「ホントのほんとは?」
「六十枚で許してください!」
「まあいいだろう。お前にも生活がある」
ケーンは妥協することにした。
真剣師は、上着を脱いだ。腹に巻いた布で、金貨が入った皮袋を隠していたようだ。
ケーンは皮袋を受け取り、五十枚を数え、高利貸しの前にばらまいた。
「儲けは出たな? もうあと腐れ、ないよね?」
ケーンの言葉に、高利貸しは高速でうなずく。
ケーンは十枚皮袋から出して、残りを真剣師に返した。
「あこぎな稼ぎ、するんじゃねえぞ!」
真剣師は、ふてくされながらもうなずく。
「まだこりてないみたいだな!」
ケーンは真剣師の胸倉を押した。真剣師は吹き飛ばされた。
「商売のコツ、教えてやる。
客は生かさず殺さず。
ケツの毛まで抜いてどうする!
上限は金貨五枚!
わかったな?」
真剣師は、うなずくしかなかった。まあ、普通の客が金貨五十枚も賭けることなどまずない。
ケーンは真剣師を解放した。これ以上の世話はやけない。真剣師にも、カモとなる客にも。
ケーンは一度宿に帰り、多分あと腐れなく片がついたことをレミに報告。
「で、どうする?」
ケーンは、ほっとした表情のレミに聞く。
「もう仕入れのお金も、ないそうなんですけど……」
レミの言葉に、ケーンはうなずく。
「でも、メグにお金を渡したら……」
「だろうな……。そのメグ? 旦那と別れられそう?」
「愛想は尽き果ててると言いますけど。
あの子、お人よしだから……」
レミの言葉に、ケーンは深くため息をついた。
ここはNeToRi?
ケーンは黙って話を聞いているユリを見た。
「ケーン、切りがないで」
ですよね~!
ケーンはレミと共にメグの店へ。がらんとした店の中で、メグは呆然と立っていた。
確かにお人よしです、という感じの女性だ。ただし、ケーンの触手は動かなかった。
「俺はレミの夫、ケーンだ。
ライラックを本拠地にして、冒険者やってる。
借金の片はきれいにつけた。
黙ってライラックに来いよ。
雑貨店、見繕って経営を任せる」
ケーンは、別れるべきだと判断し、そう提案した。このままなら流されそうだ。
「いくらメイの旦那さんだと言っても、そこまでご迷惑を……」
メグは当然ながらためらう。
「経営を任せるだけだよ。
レミに雇われるという形で」
「それなら……。本当に、いいんですか?
金貨五十枚も、当分返せないですよ?
利子はいくらだったんですか?」
「そっちはあぶく銭で片をつけたから、返さなくていい。
実は金貨十枚儲かってる」
「あぶく銭?」
「将棋で勝ったんだよ。
賭けごとには賭け事で。
勝にしろ負けるにしろ、身につくものじゃない。
引っ越しの支度しろよ。
これ、魔法のバッグだからやる。
なんでも入るよ。
レミ、引っ越しの支度、手伝ってやれよ」
ケーンは魔法のバッグを、アイテム庫から取り出し、店から出て行った。
「いい夫でしょ?
うらやましい?」
レミは幼馴染の肩を抱いた。
「超うらやましいよ!」
そう言って、レミの腕の中で泣きじゃくった。
翌朝、メグは店のドアに大きな張り紙を貼った。その張り紙には……、
バカ亭主 あばよ!
勝手にくたばれ!
メグ
メグは晴れ晴れとした顔で、バッグを手に提げた。
店の前で停まっていた馬車に乗り込む。
どうして馬車の中にテント?
テントの中から、四人の女性が出てきた。レミの顔も見られた。
「紹介する。正妻のキキョウさん。
トリプルSの冒険者よ……」
レミは三人の嫁の、簡単なプロフィールを述べた。
「あの歳で、四人の奥さん!
しかも……」
メグは三人の嫁に圧倒された。
「すごい夫でしょ?
うらやましい?」
「どうだろ……」
誇らしげなレミの言葉に、それ以上、何も言えなくなったメグだった。
レミ、よくこの嫁のたちの中に潜り込めたわね?
テントの中に入り、メグはさらにぶったまげ、ケーンの素性を聞き、腰が抜けそうになったことを付け加えておく。
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ファンタジー
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でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
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