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81 フィギャーをこっそりと

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 ケーンはユリの目を盗み、こっそりとサマンサの薬工房へ。

「ケーンさん、またですか?」
 レミが苦笑して言う。

メイは吹き出しそうになるのを我慢する。

「だってぇ~……」
 ケーンはアイテムボックスから、フィギャーの部品を取り出す。

フィギャーの制作は、ユリの大顰蹙を買うから、キキョウの工房ではいじれないのだ。

超リアリストのユリ曰く。
「これは全く生産性がない」

ユリが目をつぶってくれるのは、コスプレ衣装まで。あれはまだ、かろうじて服としての機能があるから。

古着なのに即売れるし。むしろ嫁たちが着たものだから、売れるのかもしれないが。
サマンサは、誰のお下がりか、こっそり情報を漏らしている。ケーンの助言があってのことだが、サマンサもなかなかのワルよの~。

さすがにレミの分だけは黙っている。やっぱり姪だし。

もちろん、フィギャーも店に出せばすぐ売れるのだが、制作費と販売価格が全くかみ合わない。

特にケーンがフィギャーの体に用いる、フェアリーピッグの皮は、やけどなどで壊死した人間の皮膚に、治癒魔法で移植可能だ。

中級以上の腕がある治癒魔導師なら、健康な皮膚と全く見分けがつかなくなるほど、きれいに治癒させる。

フェアリーピッグを狩ること自体は、そう難しくはない。ただし、狩った後、皮膚組織を生かしたまま運搬することは超難しい。

フェアリーピッグの体重は、生後まもなくでも約一トン。生息域は森林の奥。

普通の方法で生かしたまま運ぶのはまず無理。

したがって、中位以上の転移魔法か、亜空間で保存できる能力が絶対条件だ。

そのため、移植用のフェアリーピッグクエストを達成できる冒険者は、世界中でも数えるほどしかいない。

クエスト達成の報酬は、交渉次第だが平均金貨十枚。ケーンが設定したフィギャーの販売価格は金貨三枚。

リアリストユリが、とても許容できる範囲ではない。


 ケーンは生温かい目で見守る二人の前で、部品を接続させる。

そして、シリコンサボテンの果肉を、ぺたぺたとくっつけていく。シリコンサボテンは、人体の皮下脂肪と極めて近い感触がある。
おっぱいとお尻は、特に丁寧に整形していく。

そして定着と保存の魔法をかける。

次に取り出したのはフェアリーピッグの皮膚。丁寧に貼り付け、治癒魔法をかける。

のっぺらぼうの等身大フィギャーが、ほぼ完成する。

後はウイッグをかぶせ、顔をペインティングするのみ。


「見事なものですね」
 メイは率直な感想を述べる。もちろん「無駄に」という修飾語が省略されている。

「父ちゃんには、まだまだ及ばない。父ちゃんのオートマタ、人間と見分けがつかないからね」
 ケーンはフィギャーの顔に、ペインティングしながら言う。

「ケーンさんのお父さん、どんな人なんですか?」
 メイはなんの気なしに聞いた。

「えっ……。まあ、一種の求道者? 
どこかの世界では、ニートと呼ばれてる。
生産性を完全に放棄し、己の理想をひたすら追い求める、みたいな?」
 ケーンは苦しい言い訳をする。嫁でないメイには、出自を明かせない。

「なるほど。すてきな生き方ですね」

「そうだね……」
 メイの感想は、地球の記憶が生々しい総子なら、間違いなく大爆笑していただろう。

だが、ケーンの母ちゃんや、他の嫁たちも、ケンイチの趣味には常に温かい目を向けている。

生産性はないが、破壊もその活動にはないから。


「さてと……。
どんな服を着せようっかな~。
まずは下着を」
 ケーンはアイテムボックスの中から、ブラとパンティー各種を取り出す。もちろん彼が制作したものだ。

彼の嫁たちは、下着関連の制作に口をはさまない。おおいに役立っているから。

「いつも思うんですけど、ずいぶんきわどいですよね?」
 メイが率直な感想を述べる。ケーンはメイに下着を提供していない。
嫁でないから、自分の趣味を押し付けられない。

「メイがどんな下着つけてるか知らないけど、機能性はこっちの方が上だと思うよ。
通気性、付け心地、体型の補正、男への吸引力。
だよね?」
 ケーンがレミに振る。

「そんなの知りません!」
 レミが思わず頬を赤らめる。事実はケーンの言う通りだから。

なにせこちらの世界の下着はやぼったい。機能性もケーン謹製の下着に比べたら格段に劣る。夏場では特に。

「あの~……。私ももらえません? 
そんな下着」
 メイがおずおずと切り出す。

「どうぞ、どうぞ! 
どれでも試してみてよ。
体型にぴったりフィットする付与をかけてある。
レミ、ブラの付け方指導してあげて」
 レミは苦笑して「はい」と答えた。

メイは上下数点選び、自分の部屋へ向かう。レミは彼女の後に付いていく。


ケーンがフィギャーに、衣装を着せ終えたところ…、

「キャー! 
兄者のエッチ! 
出ていって!」
 メイの悲鳴が聞こえた。

やがてしょんぼりと肩を落としたエリックが、工房に姿を見せた。

「ケーンさん、どうしてなんでしょう? 
メイの着替えなんて、しょっちゅう見てたのに」

「そんなお年頃?」
 ケーンはエリックの肩をポンポンとたたいた。


「エリック、経験はあるの?」
 ケーンは、ガス抜きが必要かもしれないと思った。

エリックはまさにやりたい盛りのはず。実の妹とはいえ、身近にあんなおいしそうな体があったら、たまらないだろう。

「恥ずかしながら……」

「恥ずかしいことなんてないよ。
俺は立場上連れて行けないけど、ギルドで誰かに頼んでやる」

「どこへ、ですか?」
 エリックは目を輝かせ、念のために聞く。

「お前の想像しているところだよ」
 ケーンはエリックを促して、ギルドへ向かった。

後々、ケーンは、自分の思いやりを、ひどく後悔することとなる。
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