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83 エリックの失踪
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二週間後のこと。
その日は、週一で決めている完全休養日にあたる。
ケーンは、サマンサとレミの薬工房を訪ねた。
アイテムボックスから、道具を取り出す。
彼が現在凝っているのは、マンガの執筆だ。
前に作ったフィギャーは、ユリにばれてひどく叱られた。
マンガも「生産性がない」ということで、禁止されているが、フィギャーほど金がかからないから、見つかってもそれほど叱られない。
「ケーンさん、兄者の様子が変なんです」
薬草をすり鉢でつぶしながらメイが言う。休日だが、ケーンが来ているのでメイは薬工房へ来てしまった。
相談したいこともあったし。
「どう変なの?」
「採集の護衛がない日、どこかへ外出して。
二時間ぐらいで帰ってくるんですけど。
どこへ行ってるか聞いても、はぐらかして。
今日だって出かけてます」
ケーンはぎくり。
ひょっとして病みつきになっちゃった? あいつ、純粋すぎるほど純粋だから。
「もしかしたら、娼館通い? 香水の匂いがするし……」
メイは力なく言う。
「どうも申し訳ない!
先々週俺がお膳立てしました。
メイ、どんどん色っぽくなっているだろ?
実の妹とはいえ、ムラムラしちゃうだろうと思って」
ケーンは素早く土下座し、告白した。
「頭をあげて下さい。
まあ、兄者も男だから、そういう欲求があることは知っています。
最近私と、まともに目を合わせないことにも気づいています。
前は同じ部屋で着替えてたんですが、今は気をつけてます」
メイはうつろな目をして言う。大失敗だった?
ケーンは深く反省。
「よく意見しておくから。
おぼれてしまったら、やっぱりまずいよ」
「ですよね。高いんでしょ?」
「俺は行ったことないから知らない。
でも、安くはないだろうな」
ケーンは土下座解除。
エリックに必要以上の給料を、渡していることも反省する。
メイに渡すことにしようと決めた。
娼婦を買うから金を出せと、妹には言えないだろう。
「兄者が変なのはそれだけじゃないんです。
なんというか、ぼ~っとしてる時が増えて。
もしかしたら、娼婦に恋しちゃったのかも。
いえ、娼婦だからといって、否定するわけではないんですよ。
そんな生き方しか、できない人もいると思います。
私だって、男爵の妾になっていたら、娼婦と同じでした」
「そっか……。
ほんと悪いことした。
エリックにも、メイにも。
エリックによく聞いてみるよ」
メイはうなだれるケーンを見た。ほんといい人だな……。
素直な子供みたいに、なんの悪気もない。
「悪い人じゃないといいんですけどね。
兄者の思い人」
メイのそのつぶやきに、いっそう胸が痛むケーンだった。
「メイ、ポーション作れるようになった?」
雰囲気が気まずい。ケーンは話題をそらした。
「下級ポーションならなんとか。
ケーンさん、私も例の衣装、もらえます?」
メイも気まずい。あのぶっとんだコスプレに着替えたら、少しは気分も晴れるかも。
「お~! その気になってくれた?
どんなのがいい?」
「白ウサ着ぐるみは、ジャンヌさんとかぶりますね。
猫とか、犬とか?」
「着ぐるみ、…なんだ?」
「そうですけど、なにか?」
「いや、なんというか……」
「エッチじゃないからでしょ?」
「うん……」
「着替えるところ、見てもいいですよ?」
「白猫がいい!」
ただちに白猫着ぐるみを取り出す、ケーンだった。
お~~~! なかなか……。
恥じらいがいい!
ボディーラインは……、君には輝かしい未来が待ち受けている!
メイは言葉通り、ケーンの目の前で下着姿となった。それはケーンへのサービスでもあるし、兄への復讐でもある。
白猫着ぐるみに足を通し、ファスナーを上げる。被り物を頭に。
「どう、ですか?」
メイは頬を染め、ケーンの方へ向く。
「かわいいに決まってる!
萌える、っていうんだ」
「モエル?」
「若草や新芽が芽吹く様子だ。
思わず眺めたい、守りたいと思うような。
触れるのはちょっぴり怖い?
そんな感じ」
「いいですよ。少しなら」
メイは、いっそう頬を染めて言う。
ケーンはメイに歩みより、着ぐるみ頭をモフる。
「ジャンヌが着ぐるみに執着するのは、ひどく縛られてたからだ。
いわゆる変身願望。
あの着ぐるみは、自由になったことの証。
メイも自由に生きていいよ。
俺は君の自由を守る」
「はい……」
そっとケーンにハグするメイだった。
その日から、エリックは姿を消した。
その日は、週一で決めている完全休養日にあたる。
ケーンは、サマンサとレミの薬工房を訪ねた。
アイテムボックスから、道具を取り出す。
彼が現在凝っているのは、マンガの執筆だ。
前に作ったフィギャーは、ユリにばれてひどく叱られた。
マンガも「生産性がない」ということで、禁止されているが、フィギャーほど金がかからないから、見つかってもそれほど叱られない。
「ケーンさん、兄者の様子が変なんです」
薬草をすり鉢でつぶしながらメイが言う。休日だが、ケーンが来ているのでメイは薬工房へ来てしまった。
相談したいこともあったし。
「どう変なの?」
「採集の護衛がない日、どこかへ外出して。
二時間ぐらいで帰ってくるんですけど。
どこへ行ってるか聞いても、はぐらかして。
今日だって出かけてます」
ケーンはぎくり。
ひょっとして病みつきになっちゃった? あいつ、純粋すぎるほど純粋だから。
「もしかしたら、娼館通い? 香水の匂いがするし……」
メイは力なく言う。
「どうも申し訳ない!
先々週俺がお膳立てしました。
メイ、どんどん色っぽくなっているだろ?
実の妹とはいえ、ムラムラしちゃうだろうと思って」
ケーンは素早く土下座し、告白した。
「頭をあげて下さい。
まあ、兄者も男だから、そういう欲求があることは知っています。
最近私と、まともに目を合わせないことにも気づいています。
前は同じ部屋で着替えてたんですが、今は気をつけてます」
メイはうつろな目をして言う。大失敗だった?
ケーンは深く反省。
「よく意見しておくから。
おぼれてしまったら、やっぱりまずいよ」
「ですよね。高いんでしょ?」
「俺は行ったことないから知らない。
でも、安くはないだろうな」
ケーンは土下座解除。
エリックに必要以上の給料を、渡していることも反省する。
メイに渡すことにしようと決めた。
娼婦を買うから金を出せと、妹には言えないだろう。
「兄者が変なのはそれだけじゃないんです。
なんというか、ぼ~っとしてる時が増えて。
もしかしたら、娼婦に恋しちゃったのかも。
いえ、娼婦だからといって、否定するわけではないんですよ。
そんな生き方しか、できない人もいると思います。
私だって、男爵の妾になっていたら、娼婦と同じでした」
「そっか……。
ほんと悪いことした。
エリックにも、メイにも。
エリックによく聞いてみるよ」
メイはうなだれるケーンを見た。ほんといい人だな……。
素直な子供みたいに、なんの悪気もない。
「悪い人じゃないといいんですけどね。
兄者の思い人」
メイのそのつぶやきに、いっそう胸が痛むケーンだった。
「メイ、ポーション作れるようになった?」
雰囲気が気まずい。ケーンは話題をそらした。
「下級ポーションならなんとか。
ケーンさん、私も例の衣装、もらえます?」
メイも気まずい。あのぶっとんだコスプレに着替えたら、少しは気分も晴れるかも。
「お~! その気になってくれた?
どんなのがいい?」
「白ウサ着ぐるみは、ジャンヌさんとかぶりますね。
猫とか、犬とか?」
「着ぐるみ、…なんだ?」
「そうですけど、なにか?」
「いや、なんというか……」
「エッチじゃないからでしょ?」
「うん……」
「着替えるところ、見てもいいですよ?」
「白猫がいい!」
ただちに白猫着ぐるみを取り出す、ケーンだった。
お~~~! なかなか……。
恥じらいがいい!
ボディーラインは……、君には輝かしい未来が待ち受けている!
メイは言葉通り、ケーンの目の前で下着姿となった。それはケーンへのサービスでもあるし、兄への復讐でもある。
白猫着ぐるみに足を通し、ファスナーを上げる。被り物を頭に。
「どう、ですか?」
メイは頬を染め、ケーンの方へ向く。
「かわいいに決まってる!
萌える、っていうんだ」
「モエル?」
「若草や新芽が芽吹く様子だ。
思わず眺めたい、守りたいと思うような。
触れるのはちょっぴり怖い?
そんな感じ」
「いいですよ。少しなら」
メイは、いっそう頬を染めて言う。
ケーンはメイに歩みより、着ぐるみ頭をモフる。
「ジャンヌが着ぐるみに執着するのは、ひどく縛られてたからだ。
いわゆる変身願望。
あの着ぐるみは、自由になったことの証。
メイも自由に生きていいよ。
俺は君の自由を守る」
「はい……」
そっとケーンにハグするメイだった。
その日から、エリックは姿を消した。
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