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84 エリックの最期
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エリックが失踪した二日後、ケーンはキキョウの報告を聞く。
「エリックが通っていたのは『花の館』という娼館でした。
彼の相手をしていたのは、ジョディーという娼婦です。
ジョディーもエリックと同じ日に失踪しています。
ジョディーは花の館一番の売れっ子。
たいそう美人で、ひどくセクシーな女だそうです。
妖艶という形容がふさわしい。
そう聞きました。
二人の行方は、全くてがかりもありません。
明らかにおかしいです」
「キキョウでもつかめなかったの?」
ケーンは驚いて聞く。
キキョウはニンジャスキルを持っている。人探しなどはお手の物のはず。
「ジョディーという女、普通ではないと思います。
娼館には見張りが付いています。
エリックと二人で、見つからずに抜け出すことは難しい。
それに、エリックと駆け落ちする理由もありません。
彼女は店に借金をしていないから、辞めようと思ったらいつでも辞められます」
ケーンの頭に、一つの答えが浮かんだ。
「どこかの密偵?」
「私もそう思います。
調査対象は多分ケーン様。
ジョディーは客に、ケーン様や嫁のことを、さりげなく聞いていたそうです。
そして、エリックが初めて店に訪れたとき、彼女は他の娼婦を押しのけてエリックについたそうです」
キキョウの調査には抜かりがなかった。
ジョディーが密偵だということは、ほぼ間違いない。
どこの国から送られた?
どうして身を隠した?
残る疑問はその二点だった。
そのころジョディーは、魔王領を目指し、ひたすら馬をとばしていた。
光の神殿関係者が彼女の姿を見たら、こう気づくはずだ。
神殿から指名手配されているジャニスだ。先の聖神女を暗殺した犯人。
彼女が慌てて身を隠したことには理由がある。
ケーンを探った結果、彼はどうも夜の女王の息子らしい。うわさ話とエリックの話を総合したら、そうとしか考えられない。
夜の女王だけはまずい。不死身のジャニスを、殺す方法を知っているから。
彼女のような下級バンパイア族は、月一程度人族の血液を補給する必要がある。
普通は数パーセント程度。
その場合は血を吸われた人間に、軽い貧血以外、ほとんど影響はない。
かみ痕も魔法できれいに消せるし、被害者も被害にあったことには気づかない。
だから、娼婦の仕事はうってつけだった。
夜の女王も、その行為には目をつぶっている。
バンパイアが眷族として、他者を使役するには三割以上、自分の血液と混ぜる必要がある。
新しい体に入れ替わるには、百パーセント血液を吸収する。
ジャニスの体を乗っ取ったときも、その方法を使った。
ただし、その二つの禁呪を使ったことが、夜の女王に知れたら、ジョディーは絶体絶命のピンチに陥る。
夜の王宮から「狩人」が派遣され、身を滅ぼされる。
夜の女王と光の女神は仲が悪い。神殿内の出来事が、夜の女王にばれる可能性は低いはず。
そう考え、彼女は魔王から、聖神女暗殺の依頼を受けた。
また、夜の女王に息子がいるなどと知らなかったから、ケーンを調査する依頼も受けた。
ケーンが保護していたエリックに手を出した。そのことが知られたら、魔王領内でも安全とは言えない。
藪をつついて、とんでもない蛇を出してしまった彼女は、証拠を消すしかなかった。
エリックは、すべての血液を彼女に吸われ、灰になっていた。
ジョディーの行く手を、真っ黒なローブを羽織った五人の女性が遮った。
ジョディーは天を仰いだ。ばれちゃったか……。
もう終わりだね。
「取引をしましょう。エリックをどうしました?
想像はついていますが、素直に答えたら、安らかな死が待っています。
答えなかった場合は、あなたの魂をブラッドソードに封印します。
ご存知ですね?
ブラッドソードに封印された魂は、永遠の苦痛を味わい続けます」
ローブの女性の一人が冷ややかに言った。
「想像通りよ。血を全部吸って灰にした」
ジョディーは固く目を閉じ、死を待った。
ケーンは重い気持ちをひきずって、メイの部屋を訪ねた。
「メイ、エリックのことについて話がある」
ケーンはそう切り出した。
「死んだのですか?」
メイはケーンの様子から、兄の死を直感していた。
「うん……。
俺がエリックを殺したようなものだ。
エリックは俺を探っていた、下級バンパイアに殺された。
犯人は母ちゃんの眷族が殺した。
詳しい事情が知りたいならすべて話す」
「そんなにむごい死に方だったのですか?」
魂が抜けたようなメイは、そう聞いた。
「苦痛は一切なかったはずだ。
むしろ陶酔の中で死んだと思う。
バンパイアに血を吸われたらそうなる」
「そう…ですか。それ以上は結構です」
メイはうつろな表情で、そう応えた。
ある程度は覚悟していたのだろう。ただ、実感が伴っていないという感じ。
「俺、二度と来ないから。
メイにどんな顔をして会ったらいいかわからない。
ホントごめん!」
ケーンはメイの部屋を飛び出した。
部屋の外では、レミが茫然とたたずんでいた。
「メイのことはレミに任せる」
涙でぐしゃぐしゃになったケーンは、そう言い残し、レミの家を去った。
「そんなわけにいかないでしょ。
ケーンさんには、一人ぼっちになったメイのすべてを、引き受ける義務があります。
まあ、しばらくは会わない方がいいかな」
そう呟いて、レミはメイの部屋のドアをノックした。
「エリックが通っていたのは『花の館』という娼館でした。
彼の相手をしていたのは、ジョディーという娼婦です。
ジョディーもエリックと同じ日に失踪しています。
ジョディーは花の館一番の売れっ子。
たいそう美人で、ひどくセクシーな女だそうです。
妖艶という形容がふさわしい。
そう聞きました。
二人の行方は、全くてがかりもありません。
明らかにおかしいです」
「キキョウでもつかめなかったの?」
ケーンは驚いて聞く。
キキョウはニンジャスキルを持っている。人探しなどはお手の物のはず。
「ジョディーという女、普通ではないと思います。
娼館には見張りが付いています。
エリックと二人で、見つからずに抜け出すことは難しい。
それに、エリックと駆け落ちする理由もありません。
彼女は店に借金をしていないから、辞めようと思ったらいつでも辞められます」
ケーンの頭に、一つの答えが浮かんだ。
「どこかの密偵?」
「私もそう思います。
調査対象は多分ケーン様。
ジョディーは客に、ケーン様や嫁のことを、さりげなく聞いていたそうです。
そして、エリックが初めて店に訪れたとき、彼女は他の娼婦を押しのけてエリックについたそうです」
キキョウの調査には抜かりがなかった。
ジョディーが密偵だということは、ほぼ間違いない。
どこの国から送られた?
どうして身を隠した?
残る疑問はその二点だった。
そのころジョディーは、魔王領を目指し、ひたすら馬をとばしていた。
光の神殿関係者が彼女の姿を見たら、こう気づくはずだ。
神殿から指名手配されているジャニスだ。先の聖神女を暗殺した犯人。
彼女が慌てて身を隠したことには理由がある。
ケーンを探った結果、彼はどうも夜の女王の息子らしい。うわさ話とエリックの話を総合したら、そうとしか考えられない。
夜の女王だけはまずい。不死身のジャニスを、殺す方法を知っているから。
彼女のような下級バンパイア族は、月一程度人族の血液を補給する必要がある。
普通は数パーセント程度。
その場合は血を吸われた人間に、軽い貧血以外、ほとんど影響はない。
かみ痕も魔法できれいに消せるし、被害者も被害にあったことには気づかない。
だから、娼婦の仕事はうってつけだった。
夜の女王も、その行為には目をつぶっている。
バンパイアが眷族として、他者を使役するには三割以上、自分の血液と混ぜる必要がある。
新しい体に入れ替わるには、百パーセント血液を吸収する。
ジャニスの体を乗っ取ったときも、その方法を使った。
ただし、その二つの禁呪を使ったことが、夜の女王に知れたら、ジョディーは絶体絶命のピンチに陥る。
夜の王宮から「狩人」が派遣され、身を滅ぼされる。
夜の女王と光の女神は仲が悪い。神殿内の出来事が、夜の女王にばれる可能性は低いはず。
そう考え、彼女は魔王から、聖神女暗殺の依頼を受けた。
また、夜の女王に息子がいるなどと知らなかったから、ケーンを調査する依頼も受けた。
ケーンが保護していたエリックに手を出した。そのことが知られたら、魔王領内でも安全とは言えない。
藪をつついて、とんでもない蛇を出してしまった彼女は、証拠を消すしかなかった。
エリックは、すべての血液を彼女に吸われ、灰になっていた。
ジョディーの行く手を、真っ黒なローブを羽織った五人の女性が遮った。
ジョディーは天を仰いだ。ばれちゃったか……。
もう終わりだね。
「取引をしましょう。エリックをどうしました?
想像はついていますが、素直に答えたら、安らかな死が待っています。
答えなかった場合は、あなたの魂をブラッドソードに封印します。
ご存知ですね?
ブラッドソードに封印された魂は、永遠の苦痛を味わい続けます」
ローブの女性の一人が冷ややかに言った。
「想像通りよ。血を全部吸って灰にした」
ジョディーは固く目を閉じ、死を待った。
ケーンは重い気持ちをひきずって、メイの部屋を訪ねた。
「メイ、エリックのことについて話がある」
ケーンはそう切り出した。
「死んだのですか?」
メイはケーンの様子から、兄の死を直感していた。
「うん……。
俺がエリックを殺したようなものだ。
エリックは俺を探っていた、下級バンパイアに殺された。
犯人は母ちゃんの眷族が殺した。
詳しい事情が知りたいならすべて話す」
「そんなにむごい死に方だったのですか?」
魂が抜けたようなメイは、そう聞いた。
「苦痛は一切なかったはずだ。
むしろ陶酔の中で死んだと思う。
バンパイアに血を吸われたらそうなる」
「そう…ですか。それ以上は結構です」
メイはうつろな表情で、そう応えた。
ある程度は覚悟していたのだろう。ただ、実感が伴っていないという感じ。
「俺、二度と来ないから。
メイにどんな顔をして会ったらいいかわからない。
ホントごめん!」
ケーンはメイの部屋を飛び出した。
部屋の外では、レミが茫然とたたずんでいた。
「メイのことはレミに任せる」
涙でぐしゃぐしゃになったケーンは、そう言い残し、レミの家を去った。
「そんなわけにいかないでしょ。
ケーンさんには、一人ぼっちになったメイのすべてを、引き受ける義務があります。
まあ、しばらくは会わない方がいいかな」
そう呟いて、レミはメイの部屋のドアをノックした。
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