改訂 勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

文字の大きさ
129 / 170

129 アリスパーティのお仕事

しおりを挟む
 ジャスミンは、ケーンと共に冒険者ギルドへ向かう。装備の詳細を説明され、彼女は卒倒しそうになった。
 どれもこれも国宝級、あるいはそれ以上。……多分としか言えないが。

噂に聞いたことがあるのは、ドラゴンバスターぐらいだ。超一流冒険者でも垂涎(すいぜん)の的。

アルティマソードって何? そんなの、聞いたこともない! 直剣では、この世界最高の武器らしい。

ファンタジー級って説明されても……、なんだそれ?

なんでも、刃筋が正しければ、衝撃波だけで、オーガでも真っ二つにできるとか……。

そんなの、おっかなくて使えないよ~~~!

それに、なに? 魔法のバッグ? ケーンの最高傑作らしい。

容量無制限、時間停止、オートソート機能。念じるだけで利用可能?
ふざけんな、と言いたい。

もっとも、キキョウさんとユリさんは、夜の王宮倉庫と互換性がある不可視のアイテム庫を、与えられているらしいけど。
かの有名なミレーユ様の、最高傑作らしい。

とにかく、ジャスミンは落ち着かなかった。彼女はBランクの冒険者だが、クエストはCランク相当を選んでいた。仲間の安全を考えて。

したがって、経済的にゆとりがあるとは、決して言えなかった。高額所得者には、Bランク以上のクエストを、マメにこなしたらなれる。
仲間を守りながらだから、せいぜい平均的サラリーマン程度の収入だった。

「先に市場で食料品買い込もう。
そのバッグに入れておいたら、新鮮そのものだから。
一月分ぐらい大人買いしよう」
 ケーンは、隣を歩くジャスミンに言った。

「はい。喜んで」
 完全にあきらめたジャスミンだった。ケーンに合わせるしかないよね?
 とんでもない男の、嫁になっちゃった……。


 ケーンとジャスミンは、ギルドに到着。
 朝、メアリーに念話を飛ばしていたので、彼女とアリスのパーティがギルドで待っていた。
 ジャスミンとアリスを引き合わせ、メンバーとの顔合わせをさせる。
その間、メアリーに、ドラゴンに関する情報収集を依頼。

メアリーは快諾。不良ドラゴン等の討伐は、本来勇者パーティの仕事だ。元勇者パーティだったメアリーは、自分たちの怠慢を恐縮していた。

 さてと……。ケーンは教会に向かうメアリーを送り、お食事処のコーナーへ。

「アリス、午前中は君たちの仕事、見学させてもらうから。
査定、厳しいぞ」
 ケーンは、アリスの肩をポンポンとたたいた。

「はい! まだまだ頼りないと思いますが、頑張ります!」
 アリスは元気よく答えた。他のメンバーも力強くうなずく。

 若いって、いいよね!


アリスをリーダーとするパーティは、彼女の他、槍使いのミントとダン、それに弓使いのナーラで構成されている。

中衛と後衛に偏った、ややいびつなメンバー構成だ。もちろん、高ランクのクエスト以外なら、大きな問題はない。

だが、ヘイトを稼いで、弓使いに余裕を与える、前衛がいた方が望ましい。
戦士のジャスミンが加わることは、その意味でも大きな意義がある。


 一行は黄の森に到着。

「ジャスミンさん、隊列はどうしますか?」
 アリスがそう聞いた。

「あんたがリーダーだろ?
指示に従う」
 ジャスミンはそう答えた。

「でも……」
 アリスは若干とまどう。

「しっかりしろ! ケーンの嫁になれないぞ!」
 ジャスミンは、半笑いで檄を飛ばす。ケーンの女に関する趣味は、実に幅広い。私のようなオバサンや、平凡そのもののイモ娘まで……。

 もっとも、筋は通っている。他の嫁を阻害するような、性悪の女は一人もいない。
 
「はい!
ジャスミンさんが慣れるまで、いつものようにいくよ。
ダンが先頭、次いでミント。
ナーラは私の後で。
ジャスミンさんは、しんがりをお願いします。
慣れてきたら、前衛をお願いすることになると思います」
 アリスは、現状ベストだと思われる指示を与えた。

ジャスミンは、メンバーの特色を知らないし、メンバーも同じ。
 
 見守るケーンは、内心合格点を与えた。

「了解!」
 メンバー全員、力強く答えた。


 黄の森へ突入。アリスのパーティは、きわめて用心深く進んでいる。
ベテランのジャスミンが、先頭に立つようになったら、もっと効率的に狩りができるだろうが、仕方がないことだとケーンは思う。

長く冒険者をしていたら、自然と魔物の気配に敏感となる。それは教えようとしても、教えられない能力だ。
 冒険者には、戦闘力以外にも経験が、大きくものをいう。

 おっと、少しでかめの気配を、ケーンは感知。ジャスミンもまだ気づいていないようだ。

 ケーンは、教えたいという衝動をぐっと我慢。

メンバーは木々で覆われたけもの道をたどり続けた。

「あっ……」
 ジャスミンが気づいたようだ。さすがベテラン。

「ジャスミン、どうかした?」
 ケーンはとぼけて聞く。振り向いたジャスミンに、パチンとウインク。
 その心は、もちろん何事も経験、ということ。いよいよ危ないとなったら、今日は自分がいる。

ケーン、きびし~……。ジャスミンは、苦笑を浮かべて、かすかにうなずいた。

フー、フー、フー……。あの息遣いはイノシシのたぐいだ。足音から推定して、多分大牙イノシシ。

そろそろ気づけよ!

ケーンは少しいらつく。大牙イノシシが突進してきたら、やばいでしょうが!
 ジャスミンが、心配顔でケーンに顔を向ける。

辛抱堪らん! ケーンは、こくんとうなずいた。

「もうすぐ接敵する。各自武器を準備」
 ジャスミンが指示を飛ばした。

 メンバーに緊張が走る。槍士二人は、腰を落として身構え、弓士二人は矢をつがえる。

 ザッ、ザッ、イノシシは下草を踏み分け、ドドドドド!

 人間の匂いを感じたか、突進してくる気配。

見えた! 体長三メートルはありそう。

大丈夫? ケーンは、嫁たちの気分が痛いほどわかった。

ダンとミントが、突進をさっとよけ、槍を突き刺す。腰が十分入っていない!

イノシシは構わず猪突猛進。

すかさずアリスとナーラが矢を放ち、突進をかわす。

イノシシは、がくんと膝を屈する。

「ふんっ!」
 ジャスミンが、ドラゴンバスターを一閃。イノシシの首がふっとんだ。

「お見事です!」
 メンバーが、称賛の目でジャスミンを讃える。

「見事なのは、この剣だよ。
すげ~~~!」
 ジャスミンは、ドラゴンバスターを、うっとりと見つめる。

カ・イ・カ・ン……。

「ダンとミント、解体の間見張って。
ナーラ、大物だよ!」
 興奮気味に目を輝かせたアリスは、そう命じて解体にとりかかった。

 うん……。まだまだだね。戦闘も解体も。ジャスミンを加えてよかった!

 暖かい目で見守るケーンだった。


 なんとか解体を終え、アリスは肉の高く売れる部位と、牙をポチバッグにしまう。

うん。あのバッグ、大いに役立っているようだ。

普通大物を狩ったとき、換金部位をどう持ち帰るかが、大きな問題となる。
ポチバッグの容量は少ないが、彼女たちの獲物を収納するには十分だろう。今のところは。

だけど、甘やかしすぎてはならない。

『ジャスミン、そのバッグ、当分は秘密で』
 ケーンはジャスミンに、そう耳打ちした。

『あの子に優しいんだか、厳しいんだか、わかんないよ。
あの子が使ってるバッグも、魔法のバッグだね?』
 ジャスミンが小声で返した。

『あれは俺が修行のとき作った三級品だ。
そんなに入らない』
 ケーンの返事に、苦笑して肩をすくめるジャスミンだった。

 三級品? ケーン、魔法のバッグのお値段知ってる? 

あれだけ収納できるなら、金貨五十枚はするよ?

 ケーンの金銭感覚に、物申したいジャスミンだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...