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147 幸運の妹 悲運の兄

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サーシャは目覚めた。隣では安らかなケーンの寝息が。

サーシャは色々な意味で驚いていた。

一度の…一度ではなかったが、男との交わりで得られた強烈な快感。なにより、男とつながることの一体感。

彼女はずっと孤独だった。おそらく魔族の王族や有力貴族も同じ。安心して身をゆだねられる存在なんて皆無。

ただ一人、母親は頼れる存在だったが、彼女の立場上、切るべき時が来たら切られる。そのことは、幼いながらもわかっていた。

だから彼女は焦っていた。自分の力を母親に見せつけたい。その一心で、勇者パーティを崩壊させた。

結果は魔王城破壊、そして、自分は囚われ人に。

息子のケーンの嫁になれ? そう言われ、サーシャは内心泣いた。だが、彼女は誇り高き女性だった。

いいでしょう。母親を追い詰めた元勇者の息子。私の前にひざまずかせてやる。

魂が分断されても、その決意は変わらなかった。

今、肉体に宿っている魂は、すぐれて理性的な部分だ。だから、夜の女王に全面協力し、ケーンや他の嫁たちと共に戦うことは、正しいと認めている。
それでも、ケーンを服従させることは、絶対だと思い詰めていた。

ところがどうだ。ケーンと自分の関係は、上下ではないということを実感している。

ケーンは嫁に対し、服従を求めない。また、決して唯々諾々と、嫁に従うことはないだろう。

魔族の価値観は、他者に対し上か下か。それがすべてだ。対等の関係なんてありえない。上の者は下をいかに押さえつけるか。下の者は上をいかに追い越すか。

よって心の平穏もありえない社会だ。社会の上位に属する者は、自分の真名を明かせないほど。
サーシャは、あえて自分の真名を明かしていた。精神魔法で自分をしのぐものはいないという、自負心の証として。

呪いをかけてくるものがいたら、跳ね返してやる。事実、それは可能だっただろう。

今にして思う。疲れる社会だ。

そして今にして思う。ケーンと一つになれ、私は幸せだ。

サーシャがもう一つ驚いたこと。

夜の女王にとらわれている魂も、喜びを感じている。ケンイチの弱虫魂に、ほだされかけていたようだけど、今は息子にメロメロ?
サーシャの魂は、分断されているが、もちろんつながってもいた。

私のひねくれ魂。またあの快感と安心感を、味わわせてあげる。

サーシャは、安らかに眠るケーンに、覆いかぶさった。

魔族はあくまで肉食系属性だった。


第一王子は、盛大な見送りを受けていた。

彼の正妃や側室、そして子供たち。

水の将軍をはじめとする西の城塞すべての兵。

城塞内で下働きをする臣民。

もう逃げられない……。

「魔族は戦に死してこそ魔族。
今、我が臣民に残す言葉はこの一言のみ。
さらばだ!」

絶叫ともいえる喚声。

やけくそ第一王子は、翼竜に騎乗し、出発を操竜兵に命じた。

彼が選んだ最期の舞台は、クオークの町中。町中で高威力の魔法は放てない。
民間人の混乱にまぎれたら、相当の戦果が挙げられるだろう。人族の中に、接近戦で自分に伍する者が、いるはずはない。
その自負心だけが、今の彼の支えだった。
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