【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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2 公爵令嬢ルラ

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少女は息を切らせて庭に帰った。両手には袋包みを抱えている。

兄の服を洗たくかごからこっそり拝借してきた。上下一着程度なら気づかれないだろう。

あれっ? さっきの黒猫だ。

あの人、裸のまま逃げ出したの? じゃないでしょうね……。

猫の姿に還ったんだ。

これは好都合かもしれない。

少女は黒猫を抱え、自分の部屋へ帰った。

道中侍女たちに聞かれたが、「ペットにするの」で押し通した。

侍女たちは、少女が大の猫好きだと知っていた。親友のエレン様にでももらったのかな、と解釈し、何も言わなかった。

彼女は愛猫を失ったばかりで、ずいぶんふさぎこんでいたから。


 少女は自分の部屋にたどりつき、荷物をソファーに下ろす。開け放したドアノブに「危険 魔法実験中」の札を掛け、バタンと閉める。そして施錠。

あの札を付けておいたら、誰もドアを開けようとしない。


少女は王立魔法学校、開校以来の天才だった。さすがに部屋で攻撃魔法の訓練はしないが、目下転移魔法に取り組んでいる。事故でどこかに飛ばされたりしたら、大変なことになる。

少女は自分が作った魔法陣が、消えていることに気づいた。そういえば、庭に用意しておいた、転移予定地の魔法陣も消えていた。

何らかの形で魔法は発動したということだ。

彼女は仮説を立てた。実験段階の転移魔法が不都合を起こし、あの男と猫を、どこかから招きよせてしまったのではないか。

これも魔法の不都合で、あの男と猫が合体する形になった。寝ているときは猫の姿。

そして…私が鼻ツンしたら人間の姿に。

試行回数は一回だが、かなり確率は高いだろう。

少女は思い切って猫に近づいた。そして、鼻と鼻をくっつけてみる。

瞬間、あの裸の男が現れた。

やっぱり! って、普段はこの程度なんだ? 

少女はちょっとがっかり。あの元気印を期待していたのだが。

なにせ、好奇心満載のお年頃ですから。

少女と俊也の目が合った。俊也は自分が真っ裸であることに気づいた。

「いや~ん、エッチ!」
 膝を曲げ、片手で股間を隠し、なぜだか腕で胸を隠している。

「どうか服を着て、お話を聞かせて下さい。
服は足もとに落とした包みに入っています」
 少女は、こいつ、変態かも、と思いながら背を向けた。

もちろん、自分が元気印未満に注目したことは別問題。


 服を着た俊也は、少女と並んで話し始めた。少女はソファーの端に座っている。

まあ、無理もないだろう。二度もマッパをご披露したのだから。

少女の名はルラ・リラーナ。公爵家の長女だという。

「もしかして、あの黒猫といっしょにいませんでしたか?」
 お互いの自己紹介を簡単に済ませ、ルラは身を乗り出した。

俊也はどぎまぎしながら応えた。
「そうなんだ…そうなんですよ。
ナイトという名前なんですが、ちょっと寒いと、すぐ布団にもぐりこんでくるんです」
 こう見えて、普通の俊也はバリバリの優等生だ。公爵は五等爵の第一位であることぐらい知っている。

功績のあった王族が、分家した場合などに与えられる場合が多いのだろう。

要するに、とんでもない名門だ。とりあえず、敬語を使うことにした。

「やっぱり……。
シーツは使ってますよね? 
丸の中に記号が入った模様、ありませんでした?」

「ああ、ナイトが時々丸を描いて、猫スタンプをシーツに押すんです。
そしたらなんか変なことが起こる。
ネズミが飛び出してきたり、小鳥が飛び出してきたり。
あいつ、ひょっとしたら魔法使いかな? 
なわけないか。
ハハハ、ジョークとして流して下さい」

「あなたの出身は、どちらですか?」

「日本です。東京の……」

「やっぱりそうか……。
俊也さん、まことに申し訳ありません。
この世界には日本という国は存在しません。
私の至らない魔法で、あなたをこの世界に引き寄せてしまったようです。
多分間違いありません。
そしてこの世界のほとんどの者は、初級魔法なら普通に使えます」

 えっ、え~~~! 

まさか、夢の異世界ものが現実に! 

なんてラッキー! 

大東京大なんて、くそくらえだ! 家族や学校の期待を裏切りたくないから、大人しく受験生してたけど。

チートな特殊能力あり~の、超美少女との恋あり~の。

俺の人生、おもしろくなってきたぞ!
 
御覧のとおり、俊也は抜群の記憶力や計算力を持っていたが、超楽天的、超お調子者の男だった。

自覚は薄いが、超単純思考のナイトの影響を受け、目も当てられないほど、現在のお調子者属性は際立っていた。


ちなみに、俊也のベッドでは、白猫のぬいぐるみがきちんと寝ていた。もちろん、ルラが実験台として使ったものだ。

翌日、青形家がひっくり返るほどの大騒ぎになるであろうことは、興奮する俊也の頭にはなかった。


 ルラがナイトと鼻ツンし、俊也は人間に還った。

三度目なので俊也は悠然と服を着た。俊也がイメージする、襟元フリフリの貴族衣装とは違っているが、刺繍が丁寧に施された、お高そうな衣装であることは間違いない。

「もういいですよ」
俊也はルラに呼びかける。

さっき魔力を量るため、ルラは俊也のおでことおでこをくっつけた。俊也は息がかからないようにと呼吸を止めていたが、念入りに量られたようで、最後の方では息が苦しくなった。

ルラは普通に呼吸をしていた。

ちょっと顔を動かしたら、チューができる距離。俊也の体全体はフィーバー!

ルラの吐息、最後の方に、ちょっとだけいただきました!

美少女の吐息、断じて甘いのです!

魔力測定、サイコー!


その後「猫になって下さい」と言われ、即ソファーに横たわった。

びっくりするほど、あっさり眠りに落ちた。


「やっぱり、というか、残念なお知らせがあります。
俊也さんの魔力量はゼロです。
この世界では希少な存在ですから、少しなら誇っていいと思います」

 俊也は愕然とする。俺のチートな特殊能力は?

「私はある程度、ステイタスが読み取れます。
ほとんどのステイタスはカスですが、知力は大魔導師級に優れております。
そして、ナイトに変身したときは、私では量れない膨大な魔力を秘めております」

 な~んだ、やっぱりチート能力はあったんだ…って、どう役立てるの? 

魔法発動には、魔法陣と呪文の詠唱がお約束のはず。さっき猫モードで試してみたが、ニャーとしか発音できなかった。思考は普通にできたけど。

「あの~、ニャーとかフーで発動できる魔法ありますか?」

 ルラは目をそらして答えた。
「残念ながら」

「意味ないじゃ~ん! 
俺、この先どうやって生きていくの!」
 超楽天、超お調子者属性俊也も、さすがに目の前が真っ暗になった。

「すべては私の責任です。
私のペットとして生きてください。
あなたの世界で魔法陣を描ける者がいない以上、お帰しできる方法はありません」

「あなたのペット……、なります、なります。
ずっと猫のままでもいいです。
ニャンニャン」
 俊也のお調子者属性が発動し、招き猫のポーズをとる。

ぼふん……。白い煙が……。

あれっ? 
「俺、今猫の体ですよね?」

「ナイトがしゃべった! 
寝てないのに変身しちゃった! 
どんどん魔法教えますよ!」
 ルラは興奮して、ナイトの体をギュッと抱きしめた。

ナイトはルラの胸の中で失神した。歓喜と酸欠によって。
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