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66 美しすぎるゴースト
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ブルーとアンリは、屋根から暗視スコープを使って宿を偵察。
俊也が防衛省に「協力」を要請し、手に入れたものだ。
本来は「魔石探索」のため、使われるはずの装備だった。
政府は極秘裏に魔石を使い、多くの命を救った。ところが、認知症元大臣の患者が、魔石を外して壁に投げつけてしまった。
魔力をいっぱいに込めた魔石は、非常にもろい。政府としても公にできず、困りはてていた。本当に魔石は粉々になってしまったから。
俊也はお代りを求められたが、あれだけもったいをつけた以上、ほいほいと出すわけにいかない。
コ〇ナ患者が減っている現状を踏まえ、二か月程度しかもたない、小さな石を俊也は提供した。
その代り、「探索」の役に立つ便利グッズを要求した。「この石は非常時に備え、用意したものです」と言われたら、「どうぞどうぞ」と政府は極秘で放出した。「故障廃品」という形で。
「すごい……壁越しでも人がわかる」
ブルーは赤外線暗視スコープを見ながら、そうつぶやいた。
「あら……、あの魔導師さん、いい年して」
アンリはポナンが女を買っていると思った。ベッドの上では、バックスタイルでピストンしている。
昼間確かめたが、一行は全部で十五名。全員男だった。
「男だろ。お付きはみんな美形だった。さあ、いくぞ」
猫又ナイトは、窮屈なリュックサックから飛び出した。アンリが背負っていた物だ。
ブルーが「猫、侵入します」と、インカムにささやき、ナイトに続いた。
「了解」と馬車の前線基地から応答。
アンリは最新鋭の、サイレンサー付きアサルトライフルを構える。「探索」は「夜間、危険地帯を通る」ことになっている。
インカムや無線機、ライフルも、俊也が先日手に入れたものだ。
多分ライフルは使用されることはないだろう。
猫又ナイトは、魔法陣を描き、人形(ひとがた)を放り込む。肉球スタンプ。「フラワーの肉体」と低く詠唱。
素早く物影に隠れ、同じ作業を三度繰り返す。作戦完了。
周囲を警戒するブルーと共に、元いた屋根に引き返す。
「どうする? 様子を見るか?」
ナイトは後方支援のアンリに聞く。
「見逃す手はないです」
アンリは不敵に笑う。「じゃ、おやすみ」とナイトは言い、アンリのリュックへもぐりこんだ。
青白い顔のフラワーが、ポナンの部屋へゆっくり近づく。
ドアの前には、護衛が一人イスに座っていた。まだ四十歳(見た目三分の一のイメージで)を過ぎていないだろう。
一言で形容すれば美童。
「誰だ!」
美童がフラワーをとがめた。護衛は思わず杖を強く握りしめる。そのあまりに美しい女は、生気が一切感じられなかった。
「ここはシャネル侯爵領です。
わたくしはフラワー・シャネル。
シャネル家次女。
縁あって、あのお方の巫女となりました。
あなた方は、侯爵領へ何のために来たのですか?
あのお方とルラ様の暗殺。
違いますか?」
「何を……。とんでもないことだ」
護衛は明らかに動揺した。だが、どう見ても不気味な、フラワーから目が離せなかった。
「本当、ですか?」
フラワーは、ぞくっとする笑顔を見せた。
「本当……、そのとおりです。わけのわからない魔導師と、ルラを殺しに来ました」
護衛は意思に反し、そう答えてしまった。
「いますぐ王都へ帰りなさい」
フラワーは氷の声で言う。
「それは…ポナン様が決めることです」
護衛は理性を振り絞って反論した。
「ポナンを呼びなさい」
「はい……」
護衛は、また意思に反し、部屋のドアをノックした。
「なんの用ですか? 失礼ですよ」
美童2が素裸でドアを開けた。少年にしては、なかなか立派なジュニアが大元気状態だった。
「シャネル侯爵次女、フラワーです。ポナン、ただちに帰りなさい。
二度とシャネル領内に、足を踏み入れてはなりません」
ポナンが体を起こした。
四百歳越えとは思えないほど、引き締まった肉体を持っていた。
さすがに落ち着いている。だが、ジュニアは落ち着いていなかった。親指より、少し長くて太いジュニアだったが。
「これはこれは。『あの方』の巫女になったとうかがいましたが」
ポナンは毛布で前を隠しながら、平然とそう言った。こめかみに青筋がはっきり浮いていた。目には狂気の光が宿っている。
「もうわたくしの命は尽きております。
館に引っ越して間もなく、事故にあって……。
ですが、死してもあの方や他の巫女を守ります。
この者がはっきり申しました。
あなた方は、あの方や、ルラさんの命を狙っている。
絶対許しません!」
ポナンは隠していたナイフを投げた。フラワーの心臓に命中。
フラワーは小さな火玉となり、すぐ燃え尽きた。
「たわいない幽霊だ」
ポナンは冷ややかに笑って、護衛を見た。硬直している。
ポナンは、その笑顔のまま、柱に刺さったナイフを抜く。ポナンはその護衛を強く抱きしめた。
そして、やさしくキスをする。
護衛は危険を感じた。殺される! ウグ……。護衛は毛布をかぶせられ、心臓に刺さったナイフを抜こうとし、前のめりに倒れた。
ナイフは、より深く護衛の心臓に刺さった。ポナンの夜伽を務めていた少年は、真っ青になり、がたがたと震えていた。
「気を強く持て! わしも殺したくて殺したのではない。
ヨハンはわしを裏切……」
ポナンの口は固まった。ドアの外に、フラワーが立っていた。
「わたくしは死者です。もう死ぬことはありません。
何度でも来ます。
毎夜毎夜来ます。
魔力は悲しいほど衰えました。
でも、これぐらいの魔法は使えますよ。
アイスアロー!」
裸の少年の肩に、氷の矢が刺さり、貫通した。フラワーは小さな火玉となり、また燃え尽きた。
ポナンは真っ青になった。これは幻術の類ではない。幻に魔法が使えるわけがない。
では、なんだ?
また「幽霊」フラワーが登場。
「情けないですよね。今のわたくしは、一度魔法を放ったら、肉体を保てません。
でも、わたくしの魂は、何度でも来られます。
次はあの世の門の前でさまよう、仲間を伴います。
今晩はとりあえずご挨拶ということで。
アイスアロー!」
隣室から夜着のまま、供の者が飛び出した。フラワーは、またしてもその供の者の肩を貫き、燃え尽きた。
暗視スコープで、様子をうかがっていたアンリは、背筋がぞくっとした。
中の詳しい様子はわからない。だが、人の動きはわかる。
フラワーさんには絶対逆らえない。えげつな~……。
俊也が防衛省に「協力」を要請し、手に入れたものだ。
本来は「魔石探索」のため、使われるはずの装備だった。
政府は極秘裏に魔石を使い、多くの命を救った。ところが、認知症元大臣の患者が、魔石を外して壁に投げつけてしまった。
魔力をいっぱいに込めた魔石は、非常にもろい。政府としても公にできず、困りはてていた。本当に魔石は粉々になってしまったから。
俊也はお代りを求められたが、あれだけもったいをつけた以上、ほいほいと出すわけにいかない。
コ〇ナ患者が減っている現状を踏まえ、二か月程度しかもたない、小さな石を俊也は提供した。
その代り、「探索」の役に立つ便利グッズを要求した。「この石は非常時に備え、用意したものです」と言われたら、「どうぞどうぞ」と政府は極秘で放出した。「故障廃品」という形で。
「すごい……壁越しでも人がわかる」
ブルーは赤外線暗視スコープを見ながら、そうつぶやいた。
「あら……、あの魔導師さん、いい年して」
アンリはポナンが女を買っていると思った。ベッドの上では、バックスタイルでピストンしている。
昼間確かめたが、一行は全部で十五名。全員男だった。
「男だろ。お付きはみんな美形だった。さあ、いくぞ」
猫又ナイトは、窮屈なリュックサックから飛び出した。アンリが背負っていた物だ。
ブルーが「猫、侵入します」と、インカムにささやき、ナイトに続いた。
「了解」と馬車の前線基地から応答。
アンリは最新鋭の、サイレンサー付きアサルトライフルを構える。「探索」は「夜間、危険地帯を通る」ことになっている。
インカムや無線機、ライフルも、俊也が先日手に入れたものだ。
多分ライフルは使用されることはないだろう。
猫又ナイトは、魔法陣を描き、人形(ひとがた)を放り込む。肉球スタンプ。「フラワーの肉体」と低く詠唱。
素早く物影に隠れ、同じ作業を三度繰り返す。作戦完了。
周囲を警戒するブルーと共に、元いた屋根に引き返す。
「どうする? 様子を見るか?」
ナイトは後方支援のアンリに聞く。
「見逃す手はないです」
アンリは不敵に笑う。「じゃ、おやすみ」とナイトは言い、アンリのリュックへもぐりこんだ。
青白い顔のフラワーが、ポナンの部屋へゆっくり近づく。
ドアの前には、護衛が一人イスに座っていた。まだ四十歳(見た目三分の一のイメージで)を過ぎていないだろう。
一言で形容すれば美童。
「誰だ!」
美童がフラワーをとがめた。護衛は思わず杖を強く握りしめる。そのあまりに美しい女は、生気が一切感じられなかった。
「ここはシャネル侯爵領です。
わたくしはフラワー・シャネル。
シャネル家次女。
縁あって、あのお方の巫女となりました。
あなた方は、侯爵領へ何のために来たのですか?
あのお方とルラ様の暗殺。
違いますか?」
「何を……。とんでもないことだ」
護衛は明らかに動揺した。だが、どう見ても不気味な、フラワーから目が離せなかった。
「本当、ですか?」
フラワーは、ぞくっとする笑顔を見せた。
「本当……、そのとおりです。わけのわからない魔導師と、ルラを殺しに来ました」
護衛は意思に反し、そう答えてしまった。
「いますぐ王都へ帰りなさい」
フラワーは氷の声で言う。
「それは…ポナン様が決めることです」
護衛は理性を振り絞って反論した。
「ポナンを呼びなさい」
「はい……」
護衛は、また意思に反し、部屋のドアをノックした。
「なんの用ですか? 失礼ですよ」
美童2が素裸でドアを開けた。少年にしては、なかなか立派なジュニアが大元気状態だった。
「シャネル侯爵次女、フラワーです。ポナン、ただちに帰りなさい。
二度とシャネル領内に、足を踏み入れてはなりません」
ポナンが体を起こした。
四百歳越えとは思えないほど、引き締まった肉体を持っていた。
さすがに落ち着いている。だが、ジュニアは落ち着いていなかった。親指より、少し長くて太いジュニアだったが。
「これはこれは。『あの方』の巫女になったとうかがいましたが」
ポナンは毛布で前を隠しながら、平然とそう言った。こめかみに青筋がはっきり浮いていた。目には狂気の光が宿っている。
「もうわたくしの命は尽きております。
館に引っ越して間もなく、事故にあって……。
ですが、死してもあの方や他の巫女を守ります。
この者がはっきり申しました。
あなた方は、あの方や、ルラさんの命を狙っている。
絶対許しません!」
ポナンは隠していたナイフを投げた。フラワーの心臓に命中。
フラワーは小さな火玉となり、すぐ燃え尽きた。
「たわいない幽霊だ」
ポナンは冷ややかに笑って、護衛を見た。硬直している。
ポナンは、その笑顔のまま、柱に刺さったナイフを抜く。ポナンはその護衛を強く抱きしめた。
そして、やさしくキスをする。
護衛は危険を感じた。殺される! ウグ……。護衛は毛布をかぶせられ、心臓に刺さったナイフを抜こうとし、前のめりに倒れた。
ナイフは、より深く護衛の心臓に刺さった。ポナンの夜伽を務めていた少年は、真っ青になり、がたがたと震えていた。
「気を強く持て! わしも殺したくて殺したのではない。
ヨハンはわしを裏切……」
ポナンの口は固まった。ドアの外に、フラワーが立っていた。
「わたくしは死者です。もう死ぬことはありません。
何度でも来ます。
毎夜毎夜来ます。
魔力は悲しいほど衰えました。
でも、これぐらいの魔法は使えますよ。
アイスアロー!」
裸の少年の肩に、氷の矢が刺さり、貫通した。フラワーは小さな火玉となり、また燃え尽きた。
ポナンは真っ青になった。これは幻術の類ではない。幻に魔法が使えるわけがない。
では、なんだ?
また「幽霊」フラワーが登場。
「情けないですよね。今のわたくしは、一度魔法を放ったら、肉体を保てません。
でも、わたくしの魂は、何度でも来られます。
次はあの世の門の前でさまよう、仲間を伴います。
今晩はとりあえずご挨拶ということで。
アイスアロー!」
隣室から夜着のまま、供の者が飛び出した。フラワーは、またしてもその供の者の肩を貫き、燃え尽きた。
暗視スコープで、様子をうかがっていたアンリは、背筋がぞくっとした。
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