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96 おしゃべりミネット
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ミネットは、とん、という音で、後ろを振り向いた。荷台にはイザベルが、にこやかに立っていた。
「どうやったんですか!」
「ん? どうやったって、ジャンプしただけだけど」
イザベルは、きょとんとして応えた。
「後ろの馬車から?」
「そうだよ。あなたの背中が、たまらなく寂しそうだったから。
馬車の手綱、私が預かる。いいから泣きなさい」
イザベルはそう言って、前に移った。
「泣きません!
泣いたら熊やオオカミに食べられちゃうんです」
ミネットは、目に涙をためながら笑った。
「そうか。うん。そうだよね」
イザベルは、優しい笑顔でうなずいた。
ミネットは夢中でイザベルに話し始めた。自分でもあきれるほどお喋りになっていた。
イザベルは時折相槌を打つだけで、黙って聞いてくれた。生きていた時の父親のように。
父親は、ミネットが魔法を使えるようになっても、猟に連れていってくれなかった。
ミネットは、父親の役に立つ自信があったのに、「まだ早い」と応えるだけだった。だから、ミネットは待つしかなかった。
父親が帰ったら、もう夢中でしゃべった。
「イザベルさんも、なんかの秘儀で、そんなに強くなったんですか?
走っている馬車から、走っている馬車に飛び移るなんて信じられません!」
「秘儀? ブルーから聞いたの?」
イザベルは、少し驚いて聞いた。
「ローランさんからです。杖を使わないで、魔法を見せてくれました。どうやったんでしょうね。
今でもわかりません。
イザベルさんも、あんなことできるんですか?」
「私は魔法専門じゃないし。まあ、できることはできるけど、ローランには全然かなわないよ」
「ローランさんは……」
「馬車には、飛び移れないと思うな。死ぬ気でやったらできるかもしれないけど。適材適所ってやつ?」
「ブルーさんは……」
「目をつぶってでもできる。間違いない」
「ハハハ……みんなすごいや。で?」
ミネットは食い入るような目で、イザベルを見つめる。
彼女は、何が何でも強くなりたかった。
「秘儀?」
ミネットは、はっきりうなずく。
「ローランが、資格ありと認めたか。そうだね。資格はありそうだ」
イザベルは、改めてミネットを見た。ローランが清浄魔法を施したのだろう。汚れは見られない。
着ている物は、はっきり言ってボロだが、俊也さんのストライクゾーンに、十分入っていると思う。
この子、どういった出自なのだろう? 整った、みるからに貴族顔だ。
髪も手入れしたら、見事な金髪だろう。目も大きく青い。
要するに、三大貴族に通じる外見だ。王族も含め三大貴族の血を引く者の多くは、金髪碧眼。
そして、その特徴を持って生まれた者は、魔力の器が大きいのが普通だ。
ウチの幹部三人のように。
なんとなくエレンさんに似てるかな? まさかね……。
なるほどね。ローランが「秘儀」を口にしたわけだ。
「ローランと、おでこくっつけた?」
「はい。内緒ですよ。ときめいちゃった」
ミネットは少しはにかむ。あの切れ長な大きな黒い瞳、思わず引き込まれちゃうんだもん。
どこまでも澄んでまっすぐ。
そういえば、エンランさんとは姉妹なのだろうか? 少し感じは違うけど、あの目はよく似ている。
ミネットの肉体はローランと同じぐらい。実年齢はエンランと同じだった。
本格的に魔法を勉強していなかったから、その差はついたと思われる。
「あなた、処女?」
イザベルはドストレートに聞いた。
「えっ……。それはそうですけど。たまに買い物で、父と街へ出たくらいですから。
男は父が怖くて、寄ってこなかった」
ミネットは何を言い出すのかと笑った。全然意味わかんね~。
「セックス、チャレンジする気ある? たとえば、俊也さんと」
「俊也さんとですか? 会ったばかりだし。俊也さんとは、どんな関係ですか?」
ミネットは逆に聞きたい。直前の馬車に乗っている三人の女性と、イザベルさんたち、はっきり言えば物が違う。
聞けば前の六人は、シルバーストーン近くの村から拾ってきたそうだ。
ならば、少なくともシルバーストーンまでは、俊也さんと、イザベルさんたちだけの旅だったはず。
「俊也さんが秘儀を授けてくれるの。
俊也さんはね、十三人の嫁がいるの。
絶対秘密よ。
秘儀とは、俊也さんとセックスすることなの」
何か考えている様子だったイザベルが、奇妙なことを言った。
さすがの「おしゃべりミネット」も、開いた口がふさがらず、言葉を失った。
「どうやったんですか!」
「ん? どうやったって、ジャンプしただけだけど」
イザベルは、きょとんとして応えた。
「後ろの馬車から?」
「そうだよ。あなたの背中が、たまらなく寂しそうだったから。
馬車の手綱、私が預かる。いいから泣きなさい」
イザベルはそう言って、前に移った。
「泣きません!
泣いたら熊やオオカミに食べられちゃうんです」
ミネットは、目に涙をためながら笑った。
「そうか。うん。そうだよね」
イザベルは、優しい笑顔でうなずいた。
ミネットは夢中でイザベルに話し始めた。自分でもあきれるほどお喋りになっていた。
イザベルは時折相槌を打つだけで、黙って聞いてくれた。生きていた時の父親のように。
父親は、ミネットが魔法を使えるようになっても、猟に連れていってくれなかった。
ミネットは、父親の役に立つ自信があったのに、「まだ早い」と応えるだけだった。だから、ミネットは待つしかなかった。
父親が帰ったら、もう夢中でしゃべった。
「イザベルさんも、なんかの秘儀で、そんなに強くなったんですか?
走っている馬車から、走っている馬車に飛び移るなんて信じられません!」
「秘儀? ブルーから聞いたの?」
イザベルは、少し驚いて聞いた。
「ローランさんからです。杖を使わないで、魔法を見せてくれました。どうやったんでしょうね。
今でもわかりません。
イザベルさんも、あんなことできるんですか?」
「私は魔法専門じゃないし。まあ、できることはできるけど、ローランには全然かなわないよ」
「ローランさんは……」
「馬車には、飛び移れないと思うな。死ぬ気でやったらできるかもしれないけど。適材適所ってやつ?」
「ブルーさんは……」
「目をつぶってでもできる。間違いない」
「ハハハ……みんなすごいや。で?」
ミネットは食い入るような目で、イザベルを見つめる。
彼女は、何が何でも強くなりたかった。
「秘儀?」
ミネットは、はっきりうなずく。
「ローランが、資格ありと認めたか。そうだね。資格はありそうだ」
イザベルは、改めてミネットを見た。ローランが清浄魔法を施したのだろう。汚れは見られない。
着ている物は、はっきり言ってボロだが、俊也さんのストライクゾーンに、十分入っていると思う。
この子、どういった出自なのだろう? 整った、みるからに貴族顔だ。
髪も手入れしたら、見事な金髪だろう。目も大きく青い。
要するに、三大貴族に通じる外見だ。王族も含め三大貴族の血を引く者の多くは、金髪碧眼。
そして、その特徴を持って生まれた者は、魔力の器が大きいのが普通だ。
ウチの幹部三人のように。
なんとなくエレンさんに似てるかな? まさかね……。
なるほどね。ローランが「秘儀」を口にしたわけだ。
「ローランと、おでこくっつけた?」
「はい。内緒ですよ。ときめいちゃった」
ミネットは少しはにかむ。あの切れ長な大きな黒い瞳、思わず引き込まれちゃうんだもん。
どこまでも澄んでまっすぐ。
そういえば、エンランさんとは姉妹なのだろうか? 少し感じは違うけど、あの目はよく似ている。
ミネットの肉体はローランと同じぐらい。実年齢はエンランと同じだった。
本格的に魔法を勉強していなかったから、その差はついたと思われる。
「あなた、処女?」
イザベルはドストレートに聞いた。
「えっ……。それはそうですけど。たまに買い物で、父と街へ出たくらいですから。
男は父が怖くて、寄ってこなかった」
ミネットは何を言い出すのかと笑った。全然意味わかんね~。
「セックス、チャレンジする気ある? たとえば、俊也さんと」
「俊也さんとですか? 会ったばかりだし。俊也さんとは、どんな関係ですか?」
ミネットは逆に聞きたい。直前の馬車に乗っている三人の女性と、イザベルさんたち、はっきり言えば物が違う。
聞けば前の六人は、シルバーストーン近くの村から拾ってきたそうだ。
ならば、少なくともシルバーストーンまでは、俊也さんと、イザベルさんたちだけの旅だったはず。
「俊也さんが秘儀を授けてくれるの。
俊也さんはね、十三人の嫁がいるの。
絶対秘密よ。
秘儀とは、俊也さんとセックスすることなの」
何か考えている様子だったイザベルが、奇妙なことを言った。
さすがの「おしゃべりミネット」も、開いた口がふさがらず、言葉を失った。
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