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111 超御役立ち 幽霊魔法
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俊也はミネットを連れて、上野へ出た。半野生児だった彼女に、動物園はどうかと思うが、アメ横なんて、いいんじゃない? と思って。
こちらでは七月の平日、学校は夏休み直前で、カナは学校へ行っている。
親しい友達は、平気で話しかけてくるそうだが、そうでもない者は、遠巻きで見ているだけで、近寄ろうとしない。
カナや琴音は、質問攻めされるよりずっと気楽だ。
「ずいぶん暑いですね。それに、びっくりするほど高くて四角い家がいっぱい。
東京はずいぶん栄えてるんですね」
俊也の腕に、しっかりしがみつきながらミネットが言う。
仲間から噂は聞いていたが、実際見たら驚きの連続だった。
「何か食べる? 飲み物にする?」
俊也はミネットの、なかなかのおっぱいを、左腕で楽しみながらそう言った。
静香の店は、まだ開店時間前だ。初めてこちらへ来た嫁に東京見物させ、昼過ぎに店に寄る、と伝えてあるから、ゆっくりするつもりだ。
「スイーツが美味しいと聞きました。甘い物が食べたいです」
「了解」
俊也は少し迷う。和菓子系? 洋菓子系? 俺、両方共まるで知らない系。「食べログ」なんて検索しない系。
とりあえず、目に付いたおしゃれそうな店に突撃。俊也はそう決めた。
東京で生き残れる店に、ほぼ外れはない。
「これ、なんという食べ物ですか?」
ミネットは、注文の品が置かれ、若干しり込みする。全然わからないから、注文は俊也に任せたのだが。
「パンケーキだよ。実は俺も食べたことない。写真で君が好きそうだな、と思ったから。
どうしたの?」
俊也は甘い物が苦手だった。よって注文はアイスコーヒーのみ。
「この空に浮かんでる雲のような白いやつ(※生クリームを喩えていると思われる)。
そりゃ、たまに空を見上げて、雲を見て、あれ、食べたらおいしいかもしれない。
そう思う時はありましたよ。
だけど、ルラさんから教えられました。雲は水蒸気だって。下の方、超柔らかい……」
延々とミネットの食前レポは続く。
俊也はほほえましくてならない。時折相槌を打ちながら、黙って聞いている。
デートというより、超かわいげのある妹とお出かけ気分。
いっそう生意気さを増す、実の妹では、絶対こんな感じにならない。
「俊也さん、前から思ってました。
お父さんみたい。
食べなきゃ始まりませんよね。
俊也さん、思ってますよ。
俊也さんを食べられてよかった。
あれって絶対女が食べるんですよ。
なんか男が言うでしょ? あの女、食べちゃった、なんて。
食べられたくせによく言うと思います。
だって女には下にも……」
ミネットの食前レポは、あらぬ方向へ曲って行った。王国語だから、誰もわかるわけないけど。
純朴さって、なんだか怖い。
二人は昼食をとり、銀座の画廊へ向かった。昼食は『ザ・ニホン的なもの』というミネットのリクエストに応え、若干お高い目のすし店を選んだ。
もちろん回る方。庶民感覚が抜けない俊也は、間違っても「銀座×兵衛」的な店に足を踏み入れない。
イスタルトの国土は、ほとんどが内陸なので生魚はどうかな、と思ったが、嫁たちは俊也に全幅の信頼を置いている。
他の嫁と同じように、ミネットはバクバク食べた。見事に食べた。驚くほど食べた。
ブルーぐらい食べた。
俊也は思った。
回っててよかった。
俊也は静香の画廊へ入った。あれ? 一番目立つ所にあったルラの肖像画が見当たらない。静香に売った作品だ。
「いらっしゃい。久し振りね」
静香が気づき、二人の方へ歩み寄る。
「あのルラの肖像画は?」
俊也は気になったので聞く。
「相談っていうのは、それなのよ。物騒だから店で置けなくなったの。どうぞ」
静香はテーブル席に誘った。なるほど。プレミアがついちゃったのか。俊也は相談内容の想像がついた。
「まず最初にお礼を言う。とんでもない相場に吊り上げてくれてありがとう」
静香は苦笑を浮かべてそう言う。
「どうもすみません。やっぱりバレましたか?」
「ルマンダさんの実力をなめちゃダメ。
あの騒動の前から、知る人ぞ知る、ではなくなってた。
絵に強い興味がある人のほとんどが、知るようになってたの。
投機や転売目的のバイヤーも含めて。
本当に絵が好きな人に買ってほしかったから、ルマンダさんの肖像画以外は、まだ売ってない。
ところが、あの幻の個展、作品カタログが、どこかから流れたみたい。
それにあの騒動でしょ?
しかも、ローランちゃんとユーノちゃんは、テレビでばっちり顔出し。
そんでもって、アメリカ、中国、ロシアでのデモンストレーション。
もう頭が痛い。どうしよう?」
静香の話を聞いて、俊也は深くため息をつく。どうしましょ?
あ、レジ形態の俺だと気づいてるの?
「あれって俺だとバレバレですか?」
「気づかないわけないでしょ? 顔は変えてたけど、私の目をなめないで。
おまけにお供はローランちゃんとユーノちゃん。
残念ながらニュースでは、ぼかしが入ってたけど」
ですよね~……。俊也は赤面して、しばらく顔を上げられなかった。
「ところで、お連れの方は?」
静香が話題を変える。画廊に客が入ってきたからだろう。
「ミネットといいます。最新の嫁です。ハハハ……。
あ、俺たちに遠慮なく。どうぞ接客してください」
「あれはペケ。なんだったら撃退してくれる?」
静香は、こそっと言う。
「いいんですか?」
「いいのよ。カネ儲けオンリー。超粘る困ったチャン客」
ですか……。さて、どう撃退する? お供は新人ミネットだし、幻惑魔法は無理だろう。
「更衣室、ちょっと貸してもらえます?」
俊也の依頼に、静香はニタリと笑った。
「どうぞ。楽しみにしてる」
静香は客に一礼しただけで、二人を更衣室へ連れて行った。
客は何か言いたげだったが、俊也とミネットに遠慮したのだろう。目礼を返しただけだった。
「エガ、スキナンデスカ?」
客は突然話しかけられ、びくっとした。きれいなソプラノボイスだが、冷っとした響きだった。
「まあ……。え~っと、ルラさん、ですか?」
客はびっくり。あの絵のモデルだ。しかも一番人気の。
「ソウデス。エノナカハ、キュウクツナノデ。シカモ、ソウコノナカジャ、タイクツスギ」
「絵の中では? 倉庫の中? どういうこと?」
意味不明の言葉に、客はとまどう。
「スコシ、フクカエテミタ。ドウ?」
「はあ?」
「ココニズットイタ。ナガクイタ。オナジフクデ。
アキタ?」
「あの~……」
「アキタノ? エハスキ?」
「いや~……すき?」
「アキタノネ? エガスキジャナイノネ?
デテイッテ。モウコナイデ。
ワタシヲ、アイシテクレルヒトニシカ、ミラレタクナイ。
デテイッテ。コナイデ」
「そう言われても……」
「ノロウヨ。デテイッテ。コナイデ。
ノロウヨ。
ノロウヨ……」
ルラ、ぼっと燃え、小さな火の玉に。
「ぎゃ~~~!」
客はフルスピードで逃げ出した。猫又ナイトを抱いたミネットが、更衣室から出てきた。
静香はうつむいて肩を震わせていた。
「おい、静香。怖がらなくてもいいだろ? 魔法だよ、魔法」
ナイトは心配になってそう言った。
「わかってるわよ。もうおかしくて、おかしくて。
店で笑い転げるわけにいかないでしょ?
ウククク……、ヒー……、苦しい」
ですよね~。あんなことでビビるタマじゃない。
こちらでは七月の平日、学校は夏休み直前で、カナは学校へ行っている。
親しい友達は、平気で話しかけてくるそうだが、そうでもない者は、遠巻きで見ているだけで、近寄ろうとしない。
カナや琴音は、質問攻めされるよりずっと気楽だ。
「ずいぶん暑いですね。それに、びっくりするほど高くて四角い家がいっぱい。
東京はずいぶん栄えてるんですね」
俊也の腕に、しっかりしがみつきながらミネットが言う。
仲間から噂は聞いていたが、実際見たら驚きの連続だった。
「何か食べる? 飲み物にする?」
俊也はミネットの、なかなかのおっぱいを、左腕で楽しみながらそう言った。
静香の店は、まだ開店時間前だ。初めてこちらへ来た嫁に東京見物させ、昼過ぎに店に寄る、と伝えてあるから、ゆっくりするつもりだ。
「スイーツが美味しいと聞きました。甘い物が食べたいです」
「了解」
俊也は少し迷う。和菓子系? 洋菓子系? 俺、両方共まるで知らない系。「食べログ」なんて検索しない系。
とりあえず、目に付いたおしゃれそうな店に突撃。俊也はそう決めた。
東京で生き残れる店に、ほぼ外れはない。
「これ、なんという食べ物ですか?」
ミネットは、注文の品が置かれ、若干しり込みする。全然わからないから、注文は俊也に任せたのだが。
「パンケーキだよ。実は俺も食べたことない。写真で君が好きそうだな、と思ったから。
どうしたの?」
俊也は甘い物が苦手だった。よって注文はアイスコーヒーのみ。
「この空に浮かんでる雲のような白いやつ(※生クリームを喩えていると思われる)。
そりゃ、たまに空を見上げて、雲を見て、あれ、食べたらおいしいかもしれない。
そう思う時はありましたよ。
だけど、ルラさんから教えられました。雲は水蒸気だって。下の方、超柔らかい……」
延々とミネットの食前レポは続く。
俊也はほほえましくてならない。時折相槌を打ちながら、黙って聞いている。
デートというより、超かわいげのある妹とお出かけ気分。
いっそう生意気さを増す、実の妹では、絶対こんな感じにならない。
「俊也さん、前から思ってました。
お父さんみたい。
食べなきゃ始まりませんよね。
俊也さん、思ってますよ。
俊也さんを食べられてよかった。
あれって絶対女が食べるんですよ。
なんか男が言うでしょ? あの女、食べちゃった、なんて。
食べられたくせによく言うと思います。
だって女には下にも……」
ミネットの食前レポは、あらぬ方向へ曲って行った。王国語だから、誰もわかるわけないけど。
純朴さって、なんだか怖い。
二人は昼食をとり、銀座の画廊へ向かった。昼食は『ザ・ニホン的なもの』というミネットのリクエストに応え、若干お高い目のすし店を選んだ。
もちろん回る方。庶民感覚が抜けない俊也は、間違っても「銀座×兵衛」的な店に足を踏み入れない。
イスタルトの国土は、ほとんどが内陸なので生魚はどうかな、と思ったが、嫁たちは俊也に全幅の信頼を置いている。
他の嫁と同じように、ミネットはバクバク食べた。見事に食べた。驚くほど食べた。
ブルーぐらい食べた。
俊也は思った。
回っててよかった。
俊也は静香の画廊へ入った。あれ? 一番目立つ所にあったルラの肖像画が見当たらない。静香に売った作品だ。
「いらっしゃい。久し振りね」
静香が気づき、二人の方へ歩み寄る。
「あのルラの肖像画は?」
俊也は気になったので聞く。
「相談っていうのは、それなのよ。物騒だから店で置けなくなったの。どうぞ」
静香はテーブル席に誘った。なるほど。プレミアがついちゃったのか。俊也は相談内容の想像がついた。
「まず最初にお礼を言う。とんでもない相場に吊り上げてくれてありがとう」
静香は苦笑を浮かべてそう言う。
「どうもすみません。やっぱりバレましたか?」
「ルマンダさんの実力をなめちゃダメ。
あの騒動の前から、知る人ぞ知る、ではなくなってた。
絵に強い興味がある人のほとんどが、知るようになってたの。
投機や転売目的のバイヤーも含めて。
本当に絵が好きな人に買ってほしかったから、ルマンダさんの肖像画以外は、まだ売ってない。
ところが、あの幻の個展、作品カタログが、どこかから流れたみたい。
それにあの騒動でしょ?
しかも、ローランちゃんとユーノちゃんは、テレビでばっちり顔出し。
そんでもって、アメリカ、中国、ロシアでのデモンストレーション。
もう頭が痛い。どうしよう?」
静香の話を聞いて、俊也は深くため息をつく。どうしましょ?
あ、レジ形態の俺だと気づいてるの?
「あれって俺だとバレバレですか?」
「気づかないわけないでしょ? 顔は変えてたけど、私の目をなめないで。
おまけにお供はローランちゃんとユーノちゃん。
残念ながらニュースでは、ぼかしが入ってたけど」
ですよね~……。俊也は赤面して、しばらく顔を上げられなかった。
「ところで、お連れの方は?」
静香が話題を変える。画廊に客が入ってきたからだろう。
「ミネットといいます。最新の嫁です。ハハハ……。
あ、俺たちに遠慮なく。どうぞ接客してください」
「あれはペケ。なんだったら撃退してくれる?」
静香は、こそっと言う。
「いいんですか?」
「いいのよ。カネ儲けオンリー。超粘る困ったチャン客」
ですか……。さて、どう撃退する? お供は新人ミネットだし、幻惑魔法は無理だろう。
「更衣室、ちょっと貸してもらえます?」
俊也の依頼に、静香はニタリと笑った。
「どうぞ。楽しみにしてる」
静香は客に一礼しただけで、二人を更衣室へ連れて行った。
客は何か言いたげだったが、俊也とミネットに遠慮したのだろう。目礼を返しただけだった。
「エガ、スキナンデスカ?」
客は突然話しかけられ、びくっとした。きれいなソプラノボイスだが、冷っとした響きだった。
「まあ……。え~っと、ルラさん、ですか?」
客はびっくり。あの絵のモデルだ。しかも一番人気の。
「ソウデス。エノナカハ、キュウクツナノデ。シカモ、ソウコノナカジャ、タイクツスギ」
「絵の中では? 倉庫の中? どういうこと?」
意味不明の言葉に、客はとまどう。
「スコシ、フクカエテミタ。ドウ?」
「はあ?」
「ココニズットイタ。ナガクイタ。オナジフクデ。
アキタ?」
「あの~……」
「アキタノ? エハスキ?」
「いや~……すき?」
「アキタノネ? エガスキジャナイノネ?
デテイッテ。モウコナイデ。
ワタシヲ、アイシテクレルヒトニシカ、ミラレタクナイ。
デテイッテ。コナイデ」
「そう言われても……」
「ノロウヨ。デテイッテ。コナイデ。
ノロウヨ。
ノロウヨ……」
ルラ、ぼっと燃え、小さな火の玉に。
「ぎゃ~~~!」
客はフルスピードで逃げ出した。猫又ナイトを抱いたミネットが、更衣室から出てきた。
静香はうつむいて肩を震わせていた。
「おい、静香。怖がらなくてもいいだろ? 魔法だよ、魔法」
ナイトは心配になってそう言った。
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