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113 静香の部屋で
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静香のマンションでの「今夜の飲み会」。
ミネットとフミは、言葉が通じない割に、なんとかコミュニケーションしている。
二人が仲良くなったきっかけは、ミネットとの「大食い競争」に、無謀にもフミが挑んだことだった。ミネットのスリムな外見にだまされたのだ。
ミネットが父親に教えられたのは「食べられるときには食べろ」だった。
もちろん、人間に「食いだめ」はできない。しかし、猟師生活には、獲物がまるで入手できないこともある。肉は塩漬けや干し肉にもできるが、どうしても限界がある。
ミネットは父親の教えを忠実に守り、「いざ」という場合には、驚くほど胃の中に詰められる。
ミネットにとって、俊也との異世界デートは「いざ」という場合だった。
早い話、「スシ、スキヤキ、今度いつ食べられるかわかんない。よって、食う!」ということだった。
もちろんフミは、五分でギブアップした。
それから二人は一生懸命ボディーランゲージや絵で、意志の相互伝達を図っている。
「で、相談とは?」
かわいい大食い競争から「飲み会」に移行してすぐ、俊也は弥生にそう聞いた。
「フミの名前、出生届にはカタカナ書きしたけど、本当はこんな漢字を当てるんです」
弥生は紙にこう書いた。「巫見」。
「私は特殊な血統なんです。そしてフミも」
そう前置きし、弥生は語り始めた。彼女たちの特殊性について。
その血統は、平安時代から始まり、フミまで連綿と続いた。もちろん、それ以前にも先祖はいるわけだが、「口伝」として伝わっているのは、平安時代だということ。
その血統の「特殊性」とは、一種の超能力だ。
つまり、異様に勘が鋭いこと。とりわけ、特に秀でた術者には、意識して見れば、他人の思考まで見える力があった。
この能力は使い方によって、途方もなく役立つ。
たとえば、交渉においてこの能力を持っていると仮定していただきたい。相手の腹の中がわかるのだから、思う通り交渉が進められる。
あるいは、責任ある役職を、だれに任せようか迷っていると仮定していただきたい。
すくなくとも、大失敗の人選はない。
そして「特に秀でた女性の能力者」に与えられるのが「巫見」という名前だ。
その判定は一族の長、「巫見」だけが可能だ。フミは七十年ぶりで一族に生まれた「巫見」だった。
この一族、特に女性は異様に勘が鋭いこと、前記の通りだ。そのためときの権力者に重用され、巨大な財を蓄え、現代では自らも事業を興し、日本の政財界を陰で牛耳る地位を築き上げた。
だが、その反面、一族、特に女性の寿命は両極端であった。
きわめて短命に終わるか、あるいは非常識なほど長命か。
俊也と出会うまでフミは、前者の運命だった。
「巫見」誕生の朗報は、心臓の欠陥が判明した時点で、一族関係者を落胆させることとなった。
「なるほど。それで納得しました。どうしてフミちゃんが、あれほど虚無的だったのか。
極度の人間不信だったんですね?
つまり、見えることの不幸」
俊也の言葉に、弥生は大きくうなずき、言葉をつづけた。
「幸いなことに、私の力は、フミに比べたら月とすっぽんです。
そんな私にも見えたんですから。あなたの本質が。
フミがあっさりあなたの治療、受け入れた理由もわかったでしょ?
後でフミは言ってました。
あの魔法使いさん、超エッチだけど、超優しい。
好きな人を守ることしか考えてない。
どうしよう。私も魔法使いさんに気に入られちゃった。
ね、フミ?」
弥生はフミに振る。
「そうよ。魔法使いさん、私の居場所は、あなただけなの。お嫁さんにしてね」
フミはさらっと答える。
「フミはわかってるんです。自分が守ってもらえるのは、あなたと、あなたのファミリーだけだと。
特にローランさん。
フミが言うには、まさしく聖なる乙女。
そして、あなたとなら、りっしんべんの性なる乙女になれるそうですけど。
フミの理想だそうです」
「わかりました。ルラと相談しますが、善処する方向で。
あちらで暮らしますか?
あの館なら、どんなに見えても大丈夫です」
俊也は腹をくくり、そう答えた。
「フミがもう少し大人になったらね。それまでは、かわいそうな父親の下へ置いておくことにします。
それで、私はどうしましょうか?
夫と離婚してもいいです。
どうして私の乳がんがわかったのか、見当はついてるんですけど?
超エッチな魔法使いさん」
弥生は澄まし顔で言う。
参ったね。おっぱい透視したの、バレバレか。
「どうか野本さんを、妻と娘をもっていかれた、超かわいそうな男にしないでください。
一つ聞いていいですか?」
「どうして野本が、野辺さんの秘書なのか、ですね?
あれは父の課題です。昔から縁があった、野辺一族の長子を総理にしろ。
私と結婚する時の条件です。
もう果たせているのですが、夫は野辺さんを放っておけないんです」
俊也はすっきり。なんとなくもやもやしていた謎が完全解明。
ミネットとフミは、言葉が通じない割に、なんとかコミュニケーションしている。
二人が仲良くなったきっかけは、ミネットとの「大食い競争」に、無謀にもフミが挑んだことだった。ミネットのスリムな外見にだまされたのだ。
ミネットが父親に教えられたのは「食べられるときには食べろ」だった。
もちろん、人間に「食いだめ」はできない。しかし、猟師生活には、獲物がまるで入手できないこともある。肉は塩漬けや干し肉にもできるが、どうしても限界がある。
ミネットは父親の教えを忠実に守り、「いざ」という場合には、驚くほど胃の中に詰められる。
ミネットにとって、俊也との異世界デートは「いざ」という場合だった。
早い話、「スシ、スキヤキ、今度いつ食べられるかわかんない。よって、食う!」ということだった。
もちろんフミは、五分でギブアップした。
それから二人は一生懸命ボディーランゲージや絵で、意志の相互伝達を図っている。
「で、相談とは?」
かわいい大食い競争から「飲み会」に移行してすぐ、俊也は弥生にそう聞いた。
「フミの名前、出生届にはカタカナ書きしたけど、本当はこんな漢字を当てるんです」
弥生は紙にこう書いた。「巫見」。
「私は特殊な血統なんです。そしてフミも」
そう前置きし、弥生は語り始めた。彼女たちの特殊性について。
その血統は、平安時代から始まり、フミまで連綿と続いた。もちろん、それ以前にも先祖はいるわけだが、「口伝」として伝わっているのは、平安時代だということ。
その血統の「特殊性」とは、一種の超能力だ。
つまり、異様に勘が鋭いこと。とりわけ、特に秀でた術者には、意識して見れば、他人の思考まで見える力があった。
この能力は使い方によって、途方もなく役立つ。
たとえば、交渉においてこの能力を持っていると仮定していただきたい。相手の腹の中がわかるのだから、思う通り交渉が進められる。
あるいは、責任ある役職を、だれに任せようか迷っていると仮定していただきたい。
すくなくとも、大失敗の人選はない。
そして「特に秀でた女性の能力者」に与えられるのが「巫見」という名前だ。
その判定は一族の長、「巫見」だけが可能だ。フミは七十年ぶりで一族に生まれた「巫見」だった。
この一族、特に女性は異様に勘が鋭いこと、前記の通りだ。そのためときの権力者に重用され、巨大な財を蓄え、現代では自らも事業を興し、日本の政財界を陰で牛耳る地位を築き上げた。
だが、その反面、一族、特に女性の寿命は両極端であった。
きわめて短命に終わるか、あるいは非常識なほど長命か。
俊也と出会うまでフミは、前者の運命だった。
「巫見」誕生の朗報は、心臓の欠陥が判明した時点で、一族関係者を落胆させることとなった。
「なるほど。それで納得しました。どうしてフミちゃんが、あれほど虚無的だったのか。
極度の人間不信だったんですね?
つまり、見えることの不幸」
俊也の言葉に、弥生は大きくうなずき、言葉をつづけた。
「幸いなことに、私の力は、フミに比べたら月とすっぽんです。
そんな私にも見えたんですから。あなたの本質が。
フミがあっさりあなたの治療、受け入れた理由もわかったでしょ?
後でフミは言ってました。
あの魔法使いさん、超エッチだけど、超優しい。
好きな人を守ることしか考えてない。
どうしよう。私も魔法使いさんに気に入られちゃった。
ね、フミ?」
弥生はフミに振る。
「そうよ。魔法使いさん、私の居場所は、あなただけなの。お嫁さんにしてね」
フミはさらっと答える。
「フミはわかってるんです。自分が守ってもらえるのは、あなたと、あなたのファミリーだけだと。
特にローランさん。
フミが言うには、まさしく聖なる乙女。
そして、あなたとなら、りっしんべんの性なる乙女になれるそうですけど。
フミの理想だそうです」
「わかりました。ルラと相談しますが、善処する方向で。
あちらで暮らしますか?
あの館なら、どんなに見えても大丈夫です」
俊也は腹をくくり、そう答えた。
「フミがもう少し大人になったらね。それまでは、かわいそうな父親の下へ置いておくことにします。
それで、私はどうしましょうか?
夫と離婚してもいいです。
どうして私の乳がんがわかったのか、見当はついてるんですけど?
超エッチな魔法使いさん」
弥生は澄まし顔で言う。
参ったね。おっぱい透視したの、バレバレか。
「どうか野本さんを、妻と娘をもっていかれた、超かわいそうな男にしないでください。
一つ聞いていいですか?」
「どうして野本が、野辺さんの秘書なのか、ですね?
あれは父の課題です。昔から縁があった、野辺一族の長子を総理にしろ。
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