【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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125 運転免許合宿

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 俊也は短期間で運転免許を取得するため、合宿生活を送っている。

それというのも、新しい大使館が、田んぼに囲まれた辺鄙な場所にあるからだ。
ちょっとした買い物でも、車が必要だ。転移魔法でカナの実家に転移してもいいのだが、一々変身しなければならない。
一人のときは変身できないし。

もっとも、考えてみたら、一人のときなんて滅多にないが。

教習所合宿は、その滅多にない一人の生活だった。

あ~ん! 嫁たちの肌が恋しいよ~!


「青形、飲みにいかねえ?」
 ロビーでぼんやりしていたら、合宿で知りあいになった太田が声をかけてきた。

皇都大学の二年だと聞いた。太田は小太りでメガネをかけたさえないやつ。

もうおでこが広がりかけている。気の毒だが女には縁が、いかにもなさそう。

「暇だよね~。行こうか」
 
教習を終えたら何もすることがない。俊也は付き合うことにした。

「どこまで進んだ?」
 太田が聞いてくる。
「次から路上」
「路上か。緊張するだろ?」
「まだ走ってないからなんとも」

俊也はちょっぴりウソをついた。実は合宿に入る前、特訓を重ねていた。大使館周辺の路上で。

あのあたりは夜になれば、ぱったりと通行が途絶える。
よくあんな場所があったものだと思う。
そして、よくあんな場所にラブホを建てる気になったものだと思う。

なんでも、土地成金のおっさんが、オリンピック景気をあてこんで昨年建設したらしい。

ところが例のコ〇ナ騒動。ラブホといえば、これ以上ないほどの三密現場。
色々工夫をこらした「愛の部屋」も、ほとんど使われずじまい。

そして、その他もろもろの投資に失敗したおっさんは、破産してしまった。

フミの母親野本弥生が、経営コンサルタント会社を経営していたころ、そのおっさんは上得意だったらしい。
おっさんは、ぼろ儲けさせてくれた昔の栄華を思い出し、経営を再開した弥生に泣きついた。

おっさんの杜撰過ぎる経営感覚に、あきれた弥生は「立て直しは不可能です」と、突き放すしかなかった。

その関係で、弥生はそのラブホを買いたたいたわけだ。俊也君がいかにも好きそう、という理由で。

その話を聞いた俊也は思った。オリンピックが予定通り開かれていたとしても、こんな場所のラブホにまで、景気が波及するわけがない。

だが、おかげでラブホ…もとへ、大使館は俊也と嫁のパラダイスとなっている。

俊也と嫁たちは、「いかにも好き」者ぞろいだから。


話を戻そう。俊也と太田は、教習所が契約しているビジネスホテルを出た。

教習所の広い敷地が確保できるぐらいだから、周辺には色物の飲み屋はない。

だが、太田は色物付きの飲める場所を、ないものねだりした。

「俺、タクシー使ってまで、キャバクラに行く気ないよ。どうしてもと言うなら、一人で行けよ」
 
俊也は冷たくあしらう。

「お前、女が嫌いなの?」
 太田は不思議な動物を見る目で言う。

「嫌いなわけないだろ?」

「彼女が怖いとか?」
「怖いね~。変な女と飲んじゃったら、たちどころにばれちゃう」
 俊也はニヤリと笑い、小指を立てた。左の小指は一本しかないので、きわめて不正確な表現だが。

「彼女、いるの?」
「いるよ」
「ふ~ん……。彼女にお友達、いるよね? 紹介……」

「まだ高校生だよ。紹介しない」
 俊也はあきれて突き放す。こんなやつと近づくんじゃなかった…、って、批判できる立場じゃなかった。

「ほほ~……、高校生と付き合ってるくせに、友達は紹介できないと?」

「彼女の友達にも、選ぶ権利がある。俺の責任で予選アウト」
 太田はがっくり。だけど、たしかに……。太田は自分が、女子高生にもてるとは思えなかった。

「せっかく大学へ行ってるんだろ? 大学で何とかしろよ」
 ちょっぴりかわいそうになった俊也は、発破をかけてみる。

「工学部なんだよ! しかも機械学科しか合格できなかった」

「結構気の毒な境遇?」

「相当気の毒な境遇。文系とは学舎が別なんだ。女もいるにはいるって感じ」

「女が多くいたら、いいってものでもないだろ? この店にしよう」
 俊也はけっこうキツく締め、居酒屋ののれんをくぐった。

太田は後に続きながら思った。こいつ、なんだか思い切りリア充の匂いがする。

太田のリア充へのひがみ嗅覚は、案外鋭かった。


「え~、お前、バイトやったことないの? 親の脛かじり?」
 酔っぱらった太田は、大声でしゃべる。

話題は太田の愚痴からだった。免許を取るため、昨年の長期休みや夏休み前半を、バイトでつぶしたことの。
おかげで彼女を作る暇がなかったとのたまう。

原因は別にあると思うが、もちろん俊也は口にしない。

「別に脛をかじってるわけじゃないけど。
ちょっとした事業をやってる」
 正確に言えば、カナの家庭教師を謝礼程度で一年勤めたから、バイトを全然やってないわけではないが。

「事業? そうかそうか、実業家だったんだ?」
「そんな大袈裟なものじゃないけど、まあね」
 俊也は久々に冷酒を飲んでいる。太田に勧められた。

「どんな仕事?」
「仲買いって感じ? 運送業が近いかな?」
 
俊也は自分の仕事の定義に困る。宝石や金貨をカナの父親に卸しているだけだから。

他には金相場の利潤、魔法の布や治癒魔石、あるいはルマンダの絵で得た資金を、こちらでの活動費に充てている。

考えてみたら、嫁の脛をかじっているようなものか。

俊也はちょっぴり自嘲する。そろそろこちらでの、本格的な仕事を考える必要があるな、とぼんやり思う。

嫁たちは大使館の生活が大のお気に入りだから。交替で二三人は、大使館に常駐している。どうしても円がいっそう必要になってくる。

「そうなんだ? やっぱり人に使われるのはいやだよな?」
「どうかな? ある意味使われる方が楽かもしれない」 
「そうかもしれないな。まあ、飲めよ」
 太田は冷酒を勧める。

「眠くなったらやばいから、この辺で」
 眠ってしまったら猫に変身してしまう。俊也は固辞した。

「付き合い悪いやつだな。俺はもう少し飲む」
「悪いね。これで多分足りると思うけど、足りなかったら明日にでも請求して」
 俊也は五千円札を置いて店を出た。

俊也の計算によれば、自分の分は三千円少々。割り勘にすれば割に合わないが、これも付き合い。

あいつ、酒だけは強い。
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