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135 過剰防衛?
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夏休み最終日。
朝陽の部屋に、なっちゃんと二人の男子が来ている。
口実は、夏休みの宿題をいっしょにやるためだ。
実際は、朝陽のプリントを見せてもらうこと。意外かもしれないが、朝陽はマメで成績は超優秀だ。
朝陽は、男の子二人からの「貢物」ハー×ンダッツを食べながら、監督していた。
「リョータ君、読書感想文写すのは、どうかと思うよ。
阿部先生をなめちゃダメ!
怒ったら怖いんだから」
朝陽が、リョータ君に注意を与える。
「ですよね~……。なんだったら、書いてもらえる?」
「ばれないと思う?」
「思わないけど、感想文なんて、どういうふうに書けばいいんだかわかんない」
「大人が、書いてほしそうなことを書けばいいの」
「大人は、どんなことを書いてほしいの?」
「一言で言えば建前ね。
自分の『本音』とうまく対比させるわけ。
たとえば、命の尊さとか?
命の価値と言い変えようか。
一人の盗賊がいました。
盗賊はある家に、空き巣狙いに入ろうと思いました。
ところがその家には、恐ろしい罠が仕掛けられていました。
盗賊は罠にかかり、死んでしまいました。
どう思う?」
朝陽は昨日の事件のことを知っていた。
隣の家に、パトカーや救急車が止まったら、いやでも気づく。
事情聴取の後、カナに詳しい話も聞いた。今朝の朝刊によれば、死んだ犯人は六十二歳で無職。
窃盗の常習者で、強盗傷害事件も引き起こしている。いわゆる居直り強盗だ。
死因は「急性心不全」。留守宅に忍び込む直前、狭心症の持病がある犯人は、発作を起こしたと報道されている。
朝陽は何かで読んだ。「急性心不全」は、便利な病名だそうだ。
どんな病気や怪我が原因でも、最後には「心不全」で死ぬのだから。
死因を「急性心不全」で片づければ、検死官を虚偽記載に問えないとか。
「やりすぎ? 罠を仕掛けた人の」
リョータ君が答える。
「それが建前ね。そのことを結論にすればいいの。
たとえば、犯人の人権も侵してはならないとか。
だけど、こんな場合は?
その盗賊はナイフを持っていたの。
家の人が急に帰ってきて、発見されたら、その盗賊はどうする?」
「あ~、ナイフで襲うかも」
「じゃあ、盗賊がナイフを持ってなくて、家にお腹を空かせた子どもが五人いました。
どう?」
「やっぱりやりすぎじゃん!
盗賊がかわいそう」
「結果を見たら、そうなっちゃうよね?
家の人はその結果を知らない。
どんな盗賊が襲ってくるかわからないから。
じゃあ、自分や家族を守るため、罠を仕掛けることは悪いことなの?」
「ほどほどの罠?」
困ったリョータ君は、テキトーに流そうとした。
「ほどほどって?
罠にかかってまだ行動できたら、盗賊は怒り狂うよ」
朝陽は許さなかった。
「そんなこと俺に言われても、分かんない!」
リョータ君は癇癪を起し、逆ギレ気味。
「そう。わからないの。
だけど、少なくてもこれだけは言える。
他人の家に盗みに入るのは悪いこと。
しかも、見つかったら、家の人を傷つける可能性がないと証明できない。
ならば、悪いことをするなら、自分が傷つけられる可能性も覚悟するべき。
それでこそ、犯人と家の人は、対等の命の価値を持っているといえる。
私はそう思う。
だけど、感想文はそこまで書いちゃいけない。
大人が困るから」
「朝陽ちゃん、話難しすぎ。
こんなボーヤたちにわかるわけないよ」
なっちゃんが、大人顔で言う。
もちろん、彼女にもわかっていない。
朝陽は、ときどきこんなふうに、わけのわからないことを言う。
彼女はそのことに慣れていた。
「そうだね。こら、ケンスケ!
算数丸写ししてどうする!
最初に言ったでしょ。三分の一。
それ以上はダメ!
あっ、なっちゃん、ナイトのぬいぐるみはいじらないで」
なっちゃんは、しっぽが二本生えた、黒猫のぬいぐるみを抱きかかえていた。
そのぬいぐるみの中身は、魔石と猫又ナイトの抜け毛が詰められている。
強力な魔力を持った攻撃型の、魔法のぬいぐるみだ。
いわば朝陽のボディーガード。
心配症の兄は、暇な妊婦嫁が開発した、色々な防犯グッズを、妹やカナに授けている。
世の変態さんは、間違っても朝陽やカナを襲ってはいけません。「命の保証はできない」と、俊也は申しております。
ちなみに、過剰防衛否定派の琴音は、雷魔石が仕込まれたブレスレットを、ためらいなく受け取っている。
朝陽の部屋に、なっちゃんと二人の男子が来ている。
口実は、夏休みの宿題をいっしょにやるためだ。
実際は、朝陽のプリントを見せてもらうこと。意外かもしれないが、朝陽はマメで成績は超優秀だ。
朝陽は、男の子二人からの「貢物」ハー×ンダッツを食べながら、監督していた。
「リョータ君、読書感想文写すのは、どうかと思うよ。
阿部先生をなめちゃダメ!
怒ったら怖いんだから」
朝陽が、リョータ君に注意を与える。
「ですよね~……。なんだったら、書いてもらえる?」
「ばれないと思う?」
「思わないけど、感想文なんて、どういうふうに書けばいいんだかわかんない」
「大人が、書いてほしそうなことを書けばいいの」
「大人は、どんなことを書いてほしいの?」
「一言で言えば建前ね。
自分の『本音』とうまく対比させるわけ。
たとえば、命の尊さとか?
命の価値と言い変えようか。
一人の盗賊がいました。
盗賊はある家に、空き巣狙いに入ろうと思いました。
ところがその家には、恐ろしい罠が仕掛けられていました。
盗賊は罠にかかり、死んでしまいました。
どう思う?」
朝陽は昨日の事件のことを知っていた。
隣の家に、パトカーや救急車が止まったら、いやでも気づく。
事情聴取の後、カナに詳しい話も聞いた。今朝の朝刊によれば、死んだ犯人は六十二歳で無職。
窃盗の常習者で、強盗傷害事件も引き起こしている。いわゆる居直り強盗だ。
死因は「急性心不全」。留守宅に忍び込む直前、狭心症の持病がある犯人は、発作を起こしたと報道されている。
朝陽は何かで読んだ。「急性心不全」は、便利な病名だそうだ。
どんな病気や怪我が原因でも、最後には「心不全」で死ぬのだから。
死因を「急性心不全」で片づければ、検死官を虚偽記載に問えないとか。
「やりすぎ? 罠を仕掛けた人の」
リョータ君が答える。
「それが建前ね。そのことを結論にすればいいの。
たとえば、犯人の人権も侵してはならないとか。
だけど、こんな場合は?
その盗賊はナイフを持っていたの。
家の人が急に帰ってきて、発見されたら、その盗賊はどうする?」
「あ~、ナイフで襲うかも」
「じゃあ、盗賊がナイフを持ってなくて、家にお腹を空かせた子どもが五人いました。
どう?」
「やっぱりやりすぎじゃん!
盗賊がかわいそう」
「結果を見たら、そうなっちゃうよね?
家の人はその結果を知らない。
どんな盗賊が襲ってくるかわからないから。
じゃあ、自分や家族を守るため、罠を仕掛けることは悪いことなの?」
「ほどほどの罠?」
困ったリョータ君は、テキトーに流そうとした。
「ほどほどって?
罠にかかってまだ行動できたら、盗賊は怒り狂うよ」
朝陽は許さなかった。
「そんなこと俺に言われても、分かんない!」
リョータ君は癇癪を起し、逆ギレ気味。
「そう。わからないの。
だけど、少なくてもこれだけは言える。
他人の家に盗みに入るのは悪いこと。
しかも、見つかったら、家の人を傷つける可能性がないと証明できない。
ならば、悪いことをするなら、自分が傷つけられる可能性も覚悟するべき。
それでこそ、犯人と家の人は、対等の命の価値を持っているといえる。
私はそう思う。
だけど、感想文はそこまで書いちゃいけない。
大人が困るから」
「朝陽ちゃん、話難しすぎ。
こんなボーヤたちにわかるわけないよ」
なっちゃんが、大人顔で言う。
もちろん、彼女にもわかっていない。
朝陽は、ときどきこんなふうに、わけのわからないことを言う。
彼女はそのことに慣れていた。
「そうだね。こら、ケンスケ!
算数丸写ししてどうする!
最初に言ったでしょ。三分の一。
それ以上はダメ!
あっ、なっちゃん、ナイトのぬいぐるみはいじらないで」
なっちゃんは、しっぽが二本生えた、黒猫のぬいぐるみを抱きかかえていた。
そのぬいぐるみの中身は、魔石と猫又ナイトの抜け毛が詰められている。
強力な魔力を持った攻撃型の、魔法のぬいぐるみだ。
いわば朝陽のボディーガード。
心配症の兄は、暇な妊婦嫁が開発した、色々な防犯グッズを、妹やカナに授けている。
世の変態さんは、間違っても朝陽やカナを襲ってはいけません。「命の保証はできない」と、俊也は申しております。
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