135 / 230
135 過剰防衛?
しおりを挟む
夏休み最終日。
朝陽の部屋に、なっちゃんと二人の男子が来ている。
口実は、夏休みの宿題をいっしょにやるためだ。
実際は、朝陽のプリントを見せてもらうこと。意外かもしれないが、朝陽はマメで成績は超優秀だ。
朝陽は、男の子二人からの「貢物」ハー×ンダッツを食べながら、監督していた。
「リョータ君、読書感想文写すのは、どうかと思うよ。
阿部先生をなめちゃダメ!
怒ったら怖いんだから」
朝陽が、リョータ君に注意を与える。
「ですよね~……。なんだったら、書いてもらえる?」
「ばれないと思う?」
「思わないけど、感想文なんて、どういうふうに書けばいいんだかわかんない」
「大人が、書いてほしそうなことを書けばいいの」
「大人は、どんなことを書いてほしいの?」
「一言で言えば建前ね。
自分の『本音』とうまく対比させるわけ。
たとえば、命の尊さとか?
命の価値と言い変えようか。
一人の盗賊がいました。
盗賊はある家に、空き巣狙いに入ろうと思いました。
ところがその家には、恐ろしい罠が仕掛けられていました。
盗賊は罠にかかり、死んでしまいました。
どう思う?」
朝陽は昨日の事件のことを知っていた。
隣の家に、パトカーや救急車が止まったら、いやでも気づく。
事情聴取の後、カナに詳しい話も聞いた。今朝の朝刊によれば、死んだ犯人は六十二歳で無職。
窃盗の常習者で、強盗傷害事件も引き起こしている。いわゆる居直り強盗だ。
死因は「急性心不全」。留守宅に忍び込む直前、狭心症の持病がある犯人は、発作を起こしたと報道されている。
朝陽は何かで読んだ。「急性心不全」は、便利な病名だそうだ。
どんな病気や怪我が原因でも、最後には「心不全」で死ぬのだから。
死因を「急性心不全」で片づければ、検死官を虚偽記載に問えないとか。
「やりすぎ? 罠を仕掛けた人の」
リョータ君が答える。
「それが建前ね。そのことを結論にすればいいの。
たとえば、犯人の人権も侵してはならないとか。
だけど、こんな場合は?
その盗賊はナイフを持っていたの。
家の人が急に帰ってきて、発見されたら、その盗賊はどうする?」
「あ~、ナイフで襲うかも」
「じゃあ、盗賊がナイフを持ってなくて、家にお腹を空かせた子どもが五人いました。
どう?」
「やっぱりやりすぎじゃん!
盗賊がかわいそう」
「結果を見たら、そうなっちゃうよね?
家の人はその結果を知らない。
どんな盗賊が襲ってくるかわからないから。
じゃあ、自分や家族を守るため、罠を仕掛けることは悪いことなの?」
「ほどほどの罠?」
困ったリョータ君は、テキトーに流そうとした。
「ほどほどって?
罠にかかってまだ行動できたら、盗賊は怒り狂うよ」
朝陽は許さなかった。
「そんなこと俺に言われても、分かんない!」
リョータ君は癇癪を起し、逆ギレ気味。
「そう。わからないの。
だけど、少なくてもこれだけは言える。
他人の家に盗みに入るのは悪いこと。
しかも、見つかったら、家の人を傷つける可能性がないと証明できない。
ならば、悪いことをするなら、自分が傷つけられる可能性も覚悟するべき。
それでこそ、犯人と家の人は、対等の命の価値を持っているといえる。
私はそう思う。
だけど、感想文はそこまで書いちゃいけない。
大人が困るから」
「朝陽ちゃん、話難しすぎ。
こんなボーヤたちにわかるわけないよ」
なっちゃんが、大人顔で言う。
もちろん、彼女にもわかっていない。
朝陽は、ときどきこんなふうに、わけのわからないことを言う。
彼女はそのことに慣れていた。
「そうだね。こら、ケンスケ!
算数丸写ししてどうする!
最初に言ったでしょ。三分の一。
それ以上はダメ!
あっ、なっちゃん、ナイトのぬいぐるみはいじらないで」
なっちゃんは、しっぽが二本生えた、黒猫のぬいぐるみを抱きかかえていた。
そのぬいぐるみの中身は、魔石と猫又ナイトの抜け毛が詰められている。
強力な魔力を持った攻撃型の、魔法のぬいぐるみだ。
いわば朝陽のボディーガード。
心配症の兄は、暇な妊婦嫁が開発した、色々な防犯グッズを、妹やカナに授けている。
世の変態さんは、間違っても朝陽やカナを襲ってはいけません。「命の保証はできない」と、俊也は申しております。
ちなみに、過剰防衛否定派の琴音は、雷魔石が仕込まれたブレスレットを、ためらいなく受け取っている。
朝陽の部屋に、なっちゃんと二人の男子が来ている。
口実は、夏休みの宿題をいっしょにやるためだ。
実際は、朝陽のプリントを見せてもらうこと。意外かもしれないが、朝陽はマメで成績は超優秀だ。
朝陽は、男の子二人からの「貢物」ハー×ンダッツを食べながら、監督していた。
「リョータ君、読書感想文写すのは、どうかと思うよ。
阿部先生をなめちゃダメ!
怒ったら怖いんだから」
朝陽が、リョータ君に注意を与える。
「ですよね~……。なんだったら、書いてもらえる?」
「ばれないと思う?」
「思わないけど、感想文なんて、どういうふうに書けばいいんだかわかんない」
「大人が、書いてほしそうなことを書けばいいの」
「大人は、どんなことを書いてほしいの?」
「一言で言えば建前ね。
自分の『本音』とうまく対比させるわけ。
たとえば、命の尊さとか?
命の価値と言い変えようか。
一人の盗賊がいました。
盗賊はある家に、空き巣狙いに入ろうと思いました。
ところがその家には、恐ろしい罠が仕掛けられていました。
盗賊は罠にかかり、死んでしまいました。
どう思う?」
朝陽は昨日の事件のことを知っていた。
隣の家に、パトカーや救急車が止まったら、いやでも気づく。
事情聴取の後、カナに詳しい話も聞いた。今朝の朝刊によれば、死んだ犯人は六十二歳で無職。
窃盗の常習者で、強盗傷害事件も引き起こしている。いわゆる居直り強盗だ。
死因は「急性心不全」。留守宅に忍び込む直前、狭心症の持病がある犯人は、発作を起こしたと報道されている。
朝陽は何かで読んだ。「急性心不全」は、便利な病名だそうだ。
どんな病気や怪我が原因でも、最後には「心不全」で死ぬのだから。
死因を「急性心不全」で片づければ、検死官を虚偽記載に問えないとか。
「やりすぎ? 罠を仕掛けた人の」
リョータ君が答える。
「それが建前ね。そのことを結論にすればいいの。
たとえば、犯人の人権も侵してはならないとか。
だけど、こんな場合は?
その盗賊はナイフを持っていたの。
家の人が急に帰ってきて、発見されたら、その盗賊はどうする?」
「あ~、ナイフで襲うかも」
「じゃあ、盗賊がナイフを持ってなくて、家にお腹を空かせた子どもが五人いました。
どう?」
「やっぱりやりすぎじゃん!
盗賊がかわいそう」
「結果を見たら、そうなっちゃうよね?
家の人はその結果を知らない。
どんな盗賊が襲ってくるかわからないから。
じゃあ、自分や家族を守るため、罠を仕掛けることは悪いことなの?」
「ほどほどの罠?」
困ったリョータ君は、テキトーに流そうとした。
「ほどほどって?
罠にかかってまだ行動できたら、盗賊は怒り狂うよ」
朝陽は許さなかった。
「そんなこと俺に言われても、分かんない!」
リョータ君は癇癪を起し、逆ギレ気味。
「そう。わからないの。
だけど、少なくてもこれだけは言える。
他人の家に盗みに入るのは悪いこと。
しかも、見つかったら、家の人を傷つける可能性がないと証明できない。
ならば、悪いことをするなら、自分が傷つけられる可能性も覚悟するべき。
それでこそ、犯人と家の人は、対等の命の価値を持っているといえる。
私はそう思う。
だけど、感想文はそこまで書いちゃいけない。
大人が困るから」
「朝陽ちゃん、話難しすぎ。
こんなボーヤたちにわかるわけないよ」
なっちゃんが、大人顔で言う。
もちろん、彼女にもわかっていない。
朝陽は、ときどきこんなふうに、わけのわからないことを言う。
彼女はそのことに慣れていた。
「そうだね。こら、ケンスケ!
算数丸写ししてどうする!
最初に言ったでしょ。三分の一。
それ以上はダメ!
あっ、なっちゃん、ナイトのぬいぐるみはいじらないで」
なっちゃんは、しっぽが二本生えた、黒猫のぬいぐるみを抱きかかえていた。
そのぬいぐるみの中身は、魔石と猫又ナイトの抜け毛が詰められている。
強力な魔力を持った攻撃型の、魔法のぬいぐるみだ。
いわば朝陽のボディーガード。
心配症の兄は、暇な妊婦嫁が開発した、色々な防犯グッズを、妹やカナに授けている。
世の変態さんは、間違っても朝陽やカナを襲ってはいけません。「命の保証はできない」と、俊也は申しております。
ちなみに、過剰防衛否定派の琴音は、雷魔石が仕込まれたブレスレットを、ためらいなく受け取っている。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる