【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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138 隊士の健闘を祈る

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 俊也は久しぶりにカントの街へ降りた。ルラに転移魔法で送ってもらって。

「お久しぶりです」
俊也は魔法陣がある隠し部屋から出て、店のオーナー夫婦に挨拶。

ここラブミーテンダーは、酒場と娼館を兼ねている。従業員はすべて娼婦と男娼だ。
ただし、みんな客を選ぶ権利を持っている。したがって、二階の愛の部屋に通される客は、カントの街で一種のステイタスを持つことになる。
その点、江戸時代の高級遊郭に似ている。

「あら、俊也君、一月ぶりぐらい?」
 アンリの母親であるイヴが笑顔で迎えた。

「そんなになりますかね? 
ドリンクの売れ行き、どうですか?」
 
俊也が今日降りてきた目的は、妊婦嫁が調合した健康食品の市場調査だった。
この店では、健康ドリンクと強壮ドリンクの販売を委託している。

「店の子とお客には好評なんだけど、結構高いから。まずまずってとこ?」
イヴの歯切れは悪い。やっぱりね。

あれはぜいたく品に属する。都市部ならかなりの需要があるだろうが、カントの生活水準では、多く望めない。

だが、俊也の本命は、日本での販売だった。

薬事法や食品衛生法の縛りがないこちらで、いわばモニタリング(早い話が人体実験)するため、販売している。

叔父に依頼した実験は順調だし、俊也は大いに有望視している。

「傷薬や風邪薬は、売れていると聞くが」
 アンリの父親、アダムが気の毒そうな顔で言う。

 顔なじみの、何でも屋に置いてもらっている薬の販売は順調だった。
この街では、唯一の病院に、薬師も兼ねたへっぽこ治癒魔導師が、二人いるだけだ。

いくらへっぽこでも、医療従事者としては、貴重な存在だ。

俊也は彼らの生活を脅かさないよう、ずいぶん気を使っている。
アンリ以外の嫁に、治癒魔法を禁じているのは、その意味もある。

「アンリの顔は、新撰組の忘年会以来見てないけど、元気にしてる?」
 イヴが母親の顔で聞く。

「元気ですよ。この店に顔を見せたら、ずいぶん時間とられちゃいますから。
隊士の訓練は、けっこうまめにやってるみたいですが」

「そうなのよね。顔見知りの人に頼まれたら、断りにくくって」
 イヴは申し訳なさそうに言う。アンリの治癒魔法を頼り、この店の夫婦に泣きつく人が多いからだ。
両親に頼まれたら、アンリも断りにくい。

「俊也さん、飲んでく? ばっちりサービスするよ」
 店のおねえさんたちが寄ってきた。

「バカね。俊也君は、お姫様達のお相手で手一杯」
 イヴが苦笑して防波堤になってくれる。

もっとも、おねえさんたちは本気で誘っているわけではない。いわば挨拶のようなものだ。

「えっと、これ、お土産です。みなさんで召し上がってください」
 
俊也は、おねえさんたちの狙いも心得ている。ここへ来たとき、俊也はお土産を必ず持ってくる。

「わ~お! トーキョーバナ×だ!」
 古株のおねえさんは、日本語が読めないくせに、商品名を知っていた。

「これ、日本酒です。ご家族で」
 俊也は桐の箱に入った日本酒を舅、姑に渡す。

「わ~お、ダッサ×だ!」
 イヴも日本語が読めないくせに、高級日本酒の名前を知っていた。日本人でも日本酒党以外「獺」という字が読める人、少ないだろうけど。
 ちなみに、「獺祭」とは、カワウソが捕獲した魚を広げること。転じて詩文を作る時、参考書をいっぱい広げることをいう。
 いや~、勉強になるでしょ?


 俊也はドリンク愛飲者の意見を聞き終えた。

効果は抜群とのこと。

とくに男娼の二人のおにいさんは絶賛。強壮ドリンクを飲んだら、無理気味でもパオーンだという。

俊也は、そんなもの飲まなくてもパオーンなので、モニターとして、全然参考にならなかった。

健康ドリンクの方は、おねえさん方に好評。

睡眠不足や、少々飲み過ぎても、体がしゃっきりするらしい。

上々の結果を得て、俊也は新撰組頓所に寄った。

「こんにち…わ~!」
 
俊也はドアをあけてびっくり。隊士の上に、おねえさんが乗っていた。

「わ~! 局長!」
 隊士はびっくりして跳ね起きた。気の毒におねえさんは大股を広げてひっくり返った。

「ごゆっくり。さよなら」
俊也はドアを閉めようとする。

「待って下さい! 
副長には絶対内緒で!」

「そりゃ、内緒にするけどさ、場所が悪くない?」
 俊也はドアを閉めて中に入る。

おねえさんは、仮眠用ベッドの毛布を体に巻いた。

「申し訳ございません! 
ここ、暖かいですから」
 なるほどね。光熱費の節約か。

頓所の壁は、断熱ボードを張り、窓も二重サッシを入れている。
暖炉も、薪代は俊也の懐から出ているから、惜しみなく使える。

「士道不心得ってやつ? 
ブルーにばれたら、切腹ものだよ。
あ、あなた、俺、すぐ出ていきますから。
毛布を巻いたままでいいですよ」
 慌てて下着を身につけようとする、おねえさんをちらっと見て、俊也は言った。

なかなか雄大な、お尻の持ち主だ。

「はい……。どうもすみません。私が誘ったんです」
 おねえさんは、パンツをはいただけで、再び毛布を体に巻いた。
ちらっと見えたおっぱいも雄大だ。しゅんと落ち込んだ顔も、ごく庶民的でいらっしゃる。

まあ、人は良さそうだ。

「新人を募集してると聞いたから、どうかな、と思って。まあいいよ。帰るから。
これ、二人で飲んで」
 俊也はウイスキーをテーブルに置き、頓所を去った。

隊士の健闘を祈る!
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