【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

文字の大きさ
186 / 230

186 里帰りなんてするんじゃなかった

しおりを挟む
 研修生嫁四人は、王が手配した馬車に乗り、それぞれの実家を目指していた。

猫又ナイト君に、新転移魔法を使ってもらったら一瞬で着けるが、あの魔法を大っぴらに使うわけにいかない。

フレアは馬車に揺られながら思う。窓から見える景色が、なんとなくよそよそしく感じられる。

もう館の人間になったのかな、という気がする。根性無しだった自分は、すっかり変わってしまった。
なによりこの体。レジの野性的なセックスにはまった結果、しなやかな筋肉で、武装した女戦士一丁上がり。

今の肉体も美しいと思う。ただ、皮下脂肪がもたらす柔らかさは、もう望めない。

俊也さんは何も言わないが、抱き心地のバリエーションがきっと少なくなった。

アンさんも、日本の女性にお気に入りができたそうだ。大学の研究室に出入りするようになり、あちらの世界で滞在することが多くなった。

ちょっぴり寂しい。

馬車が急停車した。

「フレア様! 絶対外に出ないでください。
前の馬車が、ブラックコヨーテの群れに襲撃されています」
 御者が大声で叫んだ。

フレアは携帯用の魔法ステッキを取り出し、馬車の外に飛び出した。

前の馬車が立ち往生し、八頭のコヨーテが馬を襲っていた。御者は長剣で追い払おうと、必死で抵抗している。

「氷の矢!」
 フレアは、御者に跳びかかろうとするコヨーテを射抜く。
氷の矢をネコマで連発。

五頭倒したところで、生き残ったコヨーテは、文字通り尻尾を巻いて逃げだした。

フレアは一層神経を集中させる。

「氷の矢!」
 逃走する三頭のコヨーテも、瞬殺された。

前の馬車とフレアの馬車の御者は、口をぽかんと開けて、その様子を見ていた。

スゲー……。


 前の馬車を牽く馬二頭は、助からなかった。その馬車の御者も、腕と足に、噛み傷があった。

フレアは、一般的な治癒魔法で手当てを施した。

「フレア様、危ういところを助けていただき、ありがとうございました」
 馬車の中にいたのは、アラン・ジェファーソン。ギース屈指の貿易商、トーマス・ジェファーソンの長子だ。
フレアも何かのパーティーで、何度か会った記憶がある。

「アラン殿が、御無事だったのは何よりです」
 フレアは貴族スマイルで応える。

あの箱型馬車の中でいたら、多分彼は無事だっただろうが。あのコヨーテに馬車を壊すほどのパワーはない。

「イスタルトで、魔法の研鑽を積まれているとうかがっております。
すばらしい腕をお持ちだ」

「師が優秀ですから、多少上達したと自負しております。
よろしければ、わたくしの馬車で、ギースまでお送りしましょうか?」

「そうしていただければありがたいです。
家の者に後始末を命じます。
フランク、馬車の中なら安全だろう。
迎えが来るまでここにいろ」
 アランは御者にそう命じ、フレアの馬車に乗り込んだ。


「以前お会いした時より、なんと言いますか、引き締まっておられるような」
 フレアは領事の娘。アランはぶしつけな視線を避けながらも、すっかり変わったフレアの印象に驚いていた。

「山中で、修業三昧に明け暮れております。
魔物を相手にするのも、慣れてしまいました」
どうせわたしゃ筋肉少女ですよ。フレアは内心ふてくされながらも、貴族スマイルを絶やさない。

「それであれほどの腕を……。
さぞ過酷な修練を」
 アランは本気で尊敬する。あれほどの魔法が使えるのは、ミストでそうはいない。

「わたくしなど、まだまだです」
 メンドクセ~。フレアは内心鼻じろみながら、貴族の品位を保つ。

「フレア様のお師匠は、どのような方でしょう?」

「さる高貴なお方です。
ゆえあって、隠棲なさっておられます」
 自分の言葉ながら、『高貴なお方』に、フレアは吹き出しそうになった。俊也はきわめて庶民的な若い老け顔。もっとも、あれは誰も憎めない顔だとも思う。
その俊也の嫁になっていることは、もちろんマル秘扱い。

「もしや、ナームの魔導師部隊を、全滅させたという……」
「アラン殿、これ以上詮索なさるのは、お父上の立場を悪くなされるかと。
この馬車は王家の馬車であること、紋章でお気づきでしょう?」
 フレアはガツンと釘をさす。

アランはびびった。王は頑として謎の魔導師のことを明かさない。
つまり、国の重要機密に抵触するのだ。

アランはギースに着くまで、黙りこんでしまった。

「フレア! 聞いたぞ。
八頭ものブラックコヨーテを瞬殺したそうだな!」
 里帰りの挨拶をしに、父親の書斎を訪ねたところ、さっそくそう言われた。

「王と父上の暖かい御配慮で、そこそこの力は蓄えました」
 フレアは皮肉交じりに笑った。完全に結果オーライだったけど。

「俊也殿、といったか? 優しくしてくれるのか?」
 父親は重ねて聞く。
「それはもう……」
 だから魔力が超アップしてるのよ!
 フレアは心の中で叫ぶ。

「そうかそうか、それはなによりだ。
魔法を見せてもらえぬか?」
 旅の疲れをねぎらいもしないで……。相変わらず無神経でいらっしゃること。

「何か不要なものはありますか?」
「不要なもの?」

「この館ぐらいなら、一発でこなごなにして差し上げますが」

 父親はドン引き。
「そんなに?」
「そんなに、です。ルラ様をはじめ、館三幹部の方からお墨付きをいただいております。
攻撃魔法は、平均的な上級魔導師をしのぐと」

「そ、そうか……。
ゆっくり休むとよい」
「そうさせていただきます」
フレアは思う。里帰りなんてするんじゃなかった。館の方がずっと気楽。


他の研修生嫁たちの感想も、似たり寄ったりだった。
今ではすっかり館の一員。つまり、秘密の共有者なのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

処理中です...