【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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205 そして私も、きっと

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 やっと静かになった……。カエデは俊也の寝室の前でたたずんでいた。

 エリーナ様の首尾を確かめる。それはカエデの重大な使命だった。三幹部に断り、彼女はドア一枚隔て、聞き耳をたてていた。

 超順調のようだ。彼女は未経験者だ。だが、聞く限りトラブルがあったとは思えない。

 よかったですね、エリーナ様……。カエデの両目から滂沱の涙。気づけば、彼女の娘さんからは滂沱のお汁。
 
 ほっとした彼女は全身の力が抜けた。ドアにもたれ、座り込んでしまった。

「大丈夫?」
 女性から声をかけられた。もっとも、この館の住人は俊也以外全員女性だ。

「はい……。なんだか腰と足に力が入らなくて」
 楓は力なく応える。見上げたら…たしかミーナ様? ミスト王の正室だったと聞く。

「そうですか。聞くだけでも感じちゃうよね?」
 ミーナはカエデの隣に座った。カエデは赤面して応えられない。

「次はあなたの番ですね?」
「はあ……。私など、お相手していただいて、よろしいのでしょうか?」
 カエデはうつむく。

「いいのですよ。俊也さんは好みに合って、条件が整っている女性はみんな抱く。
抱いて守ろうとする。
抱かれて守られればいいの」
「はい! あの~、すぐに部屋へ入って、よろしいのでしょうか?」
 カエデは遠慮がちに聞く。

「俊也さんは猫になって寝てるはず。
エリーナさんは、……かけた時間から推して、しばらく動けないでしょうね?
お代わり求められるかもだし、私の部屋へ来なさい」
 そう言って、ミーナは立ち上がり、カエデを助け起こした。


「そうですか……。大変だったんですね。
ほうじ茶、というそうです。
どうぞ」
 ミーナは急須から注いだ湯呑を、カエデの前に置く。
「いただきます。……香ばしいですね。
 カエデは一口飲み、そう感想を述べた。ヤーポンで親しんだ番茶の茶葉に似ている。番茶の味とは違っているが。

 カエデはミーナに問われるがまま、自らの境遇を語っていた。カエデはヤーポンという島国出身だ。その国のとある国主が派遣した、カムハン朝貢使節団の一員だった。
 身分は国主五番目の娘のお付き。
 
 ヤーポンは、日本でいえば戦国時代。下剋上成り上がり国主は、権威付けのため、巨大帝国皇帝に媚びを売ろうとした。そのための朝貢。
ありていに言えば、娘はカムハン皇帝へのお土産の目玉。

 ところが、使節団の船は、嵐に巻き込まれ難破してしまう。漂流していたカエデは、通りがかったアルス商船に救助され、現状にいたる。
 アルスは通商貿易の盛んな国である。自然と様々な情報が集まる。

彼女の他、生き延びた者の話は聞かない。それに、彼女の主君は攻め滅ばされたとのこと。カエデには、帰る場所がなかったのだ。

「エリーナさん、まっすぐで一途な方だと見受けました」
 そういって、ミーナは自分の湯飲みに口をつける。二人が使う湯飲みには、複雑な文字がデザインされている。「カンジ」と呼ばれる文字らしい。全部魚の名前だとか。
一文字で魚名を表せる。覚えるのは大変だろうが、便利な文字ではある。
 猫又ナイト君や、ベテラン嫁たちが使う魔法詠唱にも「カンジ」は利用されている。

「アルスの政情、ご存じでしょうか?」
 カエデは恥ずかしそうにうつむく。

「ある程度は……」
 ミーナはお茶を濁す。アルスは豊かな国である。多分ミストと国力は匹敵するだろう。
 ところが、現王は病がち。隣国タクトとは国境をめぐって長年犬猿の仲。
そして、次期王位を争い、第一王子と第二王子は、取り巻き派閥を作り……。
 つまり、国政はガタガタなのだ。

「エリーナ様は、身を挺して……、いや……」
 カエデは情けない王室の犠牲者だと、エリーナを見ていた。つい先ほどまでは。
 あの喘ぎ声は、演技だとは思えなかった。エリーナ様は、そんなに器用な女性ではない。

「私とエリーナさん、ここへ来た動機は似ていると思いますよ。
私は身から出た錆だったけど。
だけど、結果オーライ。超オーライ。
安心して俊也さんに抱かれなさい」

「はい」
 カエデは、まっすぐミーナを見つめた。エリーナ様も、ミーナさんのような笑顔を浮かべられるだろう。
 そして私も……、きっと。

 一時間ほど、雑談していただろうか。ミーナのデスクに置いてある何かの魔道具? 
 ポンと音がして……。

『メールが届きました』
 魔道具?から、音声が聞こえてきた。カエデが知るどの言葉でもない。

『カエデサン、マイゴニナッタ?
シュンヤ、ダクキマンマン。
イルナラ、シュンヤノヘヤヘドウト、ツタエテ』
 メールはルラからだった。この館のすべての部屋は、屋内ランで結ばれている。パソコンも全室装備。イスタルトは表音文字を使用している。イスタルトの文字と、ローマ字を置き換え、意思疎通が可能となっている。
 上級もしくは、大魔導師の域にある嫁は、念話で話せるが、まだパソコンでのメールは必需である。

「俊也さん、空いたみたいよ。
俊也さんの部屋へどうぞ、だって」
 ミーナがにやついてそう言った。

「それ、魔道具ですか?」
 カエデはビビって聞く。ガラスみたいなものに、なにか文字のようなものが映っている。

「まあ、俊也さんの母国の魔道具?
詳しくはゆっくり勉強すればいいのです。
あなたにはいくらでも時間ができる。
これ、慣れたら便利なものよ。
複雑な計算なんかも、一瞬でできる」
 ミーナはどや顔で応える。

「はあ……。とりあえず、俊也さんの部屋へ行けばいいのですね?」
「そうよ。抱かれてきなさい。
きっと天国が体験できます」
 ミーナは優しい笑顔でそう言った。
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