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210 常夏のサミア

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 俊也は護衛のパトラン、転移魔法要員エンランを伴い、ヤン将軍の宿営地へ跳んだ。

「俊也殿、相変わらず突然ですな」
 ヤン将軍は接収した宿の二階から下りてきた。
俊也はすでに、フリーパスのVIP待遇となっている。

ヤン将軍の主力は、チャム城砦に程近い、大きな街に宿営している。
チャム城砦には、まだ無視できないほどのサミア軍が、立てこもっているからだ。サミア王族のほとんども、城砦内で健在。

今のところ、サミアと交戦中という体裁を保つ必要があるので、この地から動くわけにいかない。

「どうも申し訳ありません。本国からの補給、まだ滞っていませんか?」
 俊也は頭を掻きながら言う。

「まだ? 相応の補給は受けていますが……」

「カムハンで、ある小細工をしました。
もう少ししたら泣きが入るはずです。
当分は無理だと。
とりあえず」
 俊也はクレオを目で促す。クレオは肩に担いでいた箱をテーブルに置く。
軽そうに扱っているが、実は重い。クレオが箱を開けると、ぎっしり金貨が詰まっていた。

「当面の軍資金にあてて下さい。
軍資金は十分に用意していますが、荷物になると思います。
警備も面倒でしょうから、小出しで供給します」
 将軍は目を見張った。

「どこから出ているのですか?」
「まあ、知らない方がいいです。カムハンの刻印は、お気になさらないように」
 俊也はニヤッと笑う。

将軍は考え込んだ。これほどの量の金貨。しかもカムハンで流通している貨幣……。

領主か大商人か……。

これでも一部という口ぶり……。

将軍はふと思い当る。

「まさか……」
「そのまさかです。方法は秘密です。
皇宮に帰ったら、おおよその見当はつくでしょうが。
カムハンのお金、真にカムハンのためになるよう、お役立て下さい。
後二カ月程度、この地で粘って下さい。
皇帝は、国中から資金をかき集めるはずです。
そうなれば…おわかりですね?」
 将軍は苦笑してうなずいた。

戦は金食いだ。皇帝はかなり無理をして軍資金を集めている。
その無理が大無理になったら、くすぶっていた不満は爆発する。

「私の方から、軍や実力者に根回しはできません。
手始めにカムハン南西部の有力者。
そして、北面軍の総司令、リュウ将軍とよくご相談なさってください。
では十日後のこの時間また来ます。
一か月間で必要な経費を試算してください。
すぐに準備します。
あ、将軍が帰国なさる時、露払いに、多少は役立てると思います」
 俊也はクレオを促し、宿から出ていった。

将軍は思う。『多少は役立てる?』。謙遜も度を過ぎたら嫌味というもの。
そうではないですか? 天下一の大泥棒殿。

将軍は大笑いした。

笑っちゃうしかないよね!


 エンランが俊也とパトランを転移魔法で跳ばしたのは、サミアのとある海岸。エンランが最後に魔法陣を抜ける。

「海岸に着きましたよ。転移魔法陣、五つ用意しました
跳んできてください」
 エンランが、魔法陣で念話を飛ばす。
『了解!』
 と、ルラから返事があった

 五つの魔法陣に、日よけテントやパラソル、クーラーボックス等が送られてきた。

 もう目的は、お分かりだと思う。館勢力は今のところ血を一滴も流していないが、臨戦状態であることには間違いない。
 戦いの緊張感はほとんどないにしろ、多少気分はささくれ立つ。

 そんなときにはバカンスでしょ!

 ということで、周囲が崖に囲まれ、プライベートビーチに等しい遠浅の海岸を見つけておいたのだ。
 もちろん、ドローンを利用して。

ヤン将軍を心底ビビらせた熱波作戦にも、ドローンは大活躍した。
 ただでさえ酷暑が続くサミアの気候を、さらにひどくするわけにいかない。熱波の範囲を正確に見極めるため、ドローンは必需であった。

 軽装の嫁たちや子供たちが、次々と転移してきた。愛人枠の琴音、芙蓉、さくらも混じっている。なんと巫見も。
 そしてなぜだか、朝陽と菜摘も。
 俊也の「関係者」の中でいないのは、妊婦嫁だけだ。

「俊也さん、どこで着替えたらいいんですか?
色っぽい水着、用意してるんですが」
 どうして朝陽となっちゃんが? 首をかしげていた俊也に、なっちゃんが聞く。

「更衣室用意してないんだけど……」
 俊也はとまどう。「関係者」には、今さらでしょ、ということで、俊也は着替えのことを考えていなかった。

「そうですか?
別にいいですけど」
 なっちゃんは、いさぎよくTシャツを脱いだ。
 お~~~! ずいぶん成長したね! ピンクのブラに包まれた……。

「アニキ! なっちゃんだけは見ちゃダメ!」
 そう言って、朝陽はTシャツを脱いだ。

 妹もなかなか……、って、見ちゃだめだってば!

 俊也は慌てて嫁や愛人たちの着替えシーンに、集中するのであった。
 なっちゃんと妹の着替えは、視界の端にぼんやりと、だけであった。
 あくまで、ぼんやりと、だよ?

 朝陽はさすがに後ろ向きで着替えていたが、なっちゃんは堂々と。

あの子、大丈夫なの? 

 見なければ大丈夫だろ? そんな失礼なことできません!


 海水浴初体験の嫁や愛人たちは大はしゃぎ。館前のレマン湖でも、短時間なら泳げなくもないが、夏場でも水が冷たすぎる。
 スカートを持ち上げて、膝程度の水に入り、きゃっきゃ遊ぶだけだった。
 あの、スカートを持ち上げて、っていうの、案外いいんだよね……。
 水着姿は? 野暮なことを聞くなと言うしかない。
 
 色とりどり、色々な形状の水着美女、美少女がわちゃわちゃと。
 
 俊也は何をしているのかといえば、もちろん鑑賞です!
 実を言えば、俊也はほとんどカナヅチに近かった。

こちらへ転移するまで、純然たる勉強オタク。朝陽に引っ張られ、何度かプールも行ったが、引率者の立場を守り続けた。

 そして転移事故で合体したのが猫。ご存じだと思うが、ほとんどの猫は水が大嫌い。
 そして俊也もナイトも、水着姿の女の子が大好き! 
 
 鑑賞者の立場を守り続けるのは自然だ。……でしょ?

「俊也さん、海へ入らないんですか?」
 白のビキニから、水を滴らせながら、なっちゃんが歩み寄ってきた。

「俺は監督だから」
 俊也はなっちゃんの水着姿を横目でとらえながら、苦しい言い訳。

「よっこいしょ」
 なっちゃんは、体が振れない程度の距離をあけ、俊也の隣に腰をおろす。

「大学、どうするの?」
 俊也は無難な話題を振った。
「おかげさまで選び放題です。
興津根様効果、すごいですね。
お肌がきれいになるだけじゃなくて」
 なっちゃんの成績は、中クラスだった。今や朝陽に次ぐ席次となっている。それほどガリ勉の必要はない。
授業で聞いたこと、一通り解いた参考書の内容が、容易に定着する。

「朝陽は早慶の政経受けるそうだけど……」
「そんな野暮な話、やめません?
水着少女と話す内容じゃないですよ?」

「それもそうだけどさ、なっちゃんは小さいころから知ってるし……」
「やだ! あの下着姿と比べてる!
私の黒歴史、忘れてください!」
 なっちゃんの言う「黒歴史」とは、ロリコン高校生の毒牙にかかりかけたことを指す。

「そんなの忘れてるから」
「忘れたんですか!
赦せない!」
 菜摘は悪い顔をして、俊也に寄り添った。

 俊也は触れた彼女の素肌が、やけに熱く感じられた。
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