寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini

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帰郷

第二話

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「え?」

 まさかの問いに、僕は男の顔をマジマジと見た。やはり懐かしい気がしていたのは思い過ごしではなかったらしい。しかし、なかなかに思い出せない。おばちゃんはさっき『あの子』と言っていた。同じ剣友会だったに違いないんだ。

 このまま思い出せないのは失礼だ。なんとしても思い出さなくては。僕のここでの思い出なんて三年しかない。記憶の引き出しを手当り次第に開けていると、ふと急にこの眼差しに、ある面影がダブる。そうして次第に、夏の学生服を着た真面目な横顔と重なった。

「もしかして、……有馬?」




 自分の名前が出てホッとしたような表情を浮かべ、先程までとは明らかに違う親しみのある笑顔をくれた。

 ──あぁ、その顔は、有馬だ。

 有馬は正座をし直して膝をこちらに向ける。

「改めてお久しぶりです。佐々木 有馬です」

 そう言って頭を下げた。

 きゅっと、胸の奥が締め付けられる。

 有馬は僕より六歳下で、初めて会った当時十歳だった有馬は既に小学生の頃から優勝するほどの腕前で、道場一の剣士だと言われていた。

「そんな改まらないでよ、久しぶりでびっくりした。最初分からなくてごめんね」
「いえ」
「僕のことよく気がついたね」
「はい、すぐに分かりました」

 思いがけない返答に、少し困惑した。

「すぐ? 僕、あんま変わってないのかな」
「そんなことないです。俺が、あん時ガキでしたから……分からなくて当然です」
「そう? 有馬は成長期だもんね。今は? えっと……僕がニ十六だから有馬は……二十歳ハタチ?」
「はい、合ってます。二十歳です」

 ぎこちなくはにかむ有馬だが、その表情は明らかに大人びていて、月日を感じさせた。

「最後に会ったのは……中学生か」

 夏服の制服を着た有馬が蘇る。

「はい、十四でした」
「分からないわけだ、もうすっかり大人だね、かっこいい」
「そんなことは、ないです」

 硬い表情ながら少し耳が赤くなるのが昔と変わらない。

「そっか、もう六年経つんだね」
「……」

 ついそう呟くと、有馬も少し表情を固くしてそれを隠すように前を向き直した。






 有馬には将馬という兄がいた。その兄と同い年だった僕は将馬のほうと仲が良かった。言ってしまえば有馬との関係は、僕から見れば『将馬の弟』で、有馬から見れば『兄貴の友達』だっただろう。

 高校一年で剣友会に入った時に兄弟と出会ったのだが、僕と将馬が大学生になってこの地を離れるまで、三人は幼馴染みのように一緒にいた。将馬は纏わり付く弟の有馬を疎ましく思うこともあったが、ひとりっ子の僕にはそれさえ羨ましくて、兄を慕ってくっついてくる有馬をかわいいと思っていた。六歳下の無口な弟 有馬。

 しかし、将馬が二十歳になったある日、バイクの事故で突然この世を去った。いきなりの悲劇に誰もが順応出来ず、やがて疎遠になっていった。



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