寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini

文字の大きさ
5 / 18
帰郷

第五話

しおりを挟む
 一時間ほど経って僕の手はすっかり握力を失っていた。今の自分の体力の無さを実感し、道場の片隅に座り込む。本音を言えば三十分ほどで限界だったけれど、有馬の手前すぐに音を上げるわけにはいかなかった。意地で、一時間……もう駄目だった。

「休憩っスか」
「久しぶり過ぎて手がワナワナしてきた、力入んね」

 爽やかに汗をかいた有馬がやってきた。持参した水のペットボトルを開けようとしてするっとそれが滑り落ちた。それをひょいと有馬に取られた。まごまごしていたのが分かってしまったらしい。有馬は一瞬で蓋を開けて、黙ってそれを僕に寄越した。

「お通夜の時もそれされたけど、ほんとなんかムカつくのな」
「え?」
「年下なのに生意気ってこと」
「……それは智さんが非力だからっスよ」

 そんなことも言えるのか。いや、そう思う自分がおじさん化してしまってるのではないか。そんなことを考えつつ、相変わらず物静かで無愛想な有馬との距離感は心地がいいと再び思う。

 僕は有馬の横顔を盗み見た。こめかみから汗が細く顎に伝う。耳下にかけての顎のラインがとってもシャープだ。兄の将馬もそんな顔をしていた。しかし同じくシャープではあるが、それよりももう少しがっちりした体格なような気がする。

 そう言えば将馬はとてもモテたな。大学生になってからは必ず合コンに呼ばれていた。優しいから女の子受けもよかった。きっと有馬もモテているはずだよな。

「男前なんだからもっと愛想よくなればいいのに」

 有馬が目を丸くしてこちらを見た。

「そうしたら、俺は何の得がありますか?」
「えっ?」

 真っ直ぐな目で僕を見ている。声に出してしまっていたらしい。慌てて水を飲んで時間稼ぎをしてみるが、良いアイデアなんてそう簡単には浮かばない。

「なにって、……モテるんじゃない?」
「別に誰彼構わずモテたくないっス」

 振り絞って出た僕の言葉に、有馬は静かに答えるだけだった。そんな有馬に僕は少し好奇心が湧いた。もしかして有馬は今恋をしていて、それに悩んでいるのかもしれない。

「……てことは、好きな子いるんだ?」
「……」
「ふふ、そう」
「……なんすか」

 ふっと微かに有馬が笑った。それがとても可愛らしく思えて、つい顔を覗き込むと有馬が恥ずかしそうにするのが面白い。

「ねぇ、それって本当にいるってこと?」
「好きな人は、います」
「誰だよ」
「え?」
「あぁ、聞いても分からないか」
「……」

 有馬は視線を反らして練習を続けている剣士たちを見やった。こういう話はしたくないか、まぁ自分も聞かれたところで何も話すようなこともない。

「智さんは、いるんですか?……恋人」
「えっ」

 案の定、聞かれてしまった。

「僕は、恋人なんていないよ、好きな人もいない。出会いもないしね」
「あの、もし嫌だったら答えなくていいです」
「ん?」
「恋人いたこと、ありますか」
「え……」

 確かに答えたくない質問だった。

「すいません、忘れてください」
「あっ、いや、大丈夫。ひとり、付き合ったことある。けど、うまくいかなくてフラレた」
「……」
「聞いたくせに、リアクション無しかよ!」

 僕は有馬の腕にパンチするふりで拳を当てると、有馬は申し訳なさげに眉を下げて笑った。

「お前こそ、彼女いんのかよ」
「いませんて」

 はにかみながら、有馬がそっと僕の拳に触れた。ゴツっとした指先に無性に胸がざわめく。

「智さん、マメ」
「え?」

 僕の手のひらをまるで大切なものみたいに両手で扱って、マメがあるところに、有馬の親指が触れる。

「ま、マメくらい……っ」
「智さんの手のひら柔らかいんで、終わる頃には皮が向けちゃいそうです」
「覚悟しているよ」

 微笑みながらも僕のもう片方の手のひらもマメが出来たか確認し始める。なんだか妙なむず痒さを覚えるも、僕は有馬のしたいようにさせた。

「智さん、道着はどうしますか?」
「え?……あ、有馬は道着はどこで買ってるの?」
「隣の駅にある──…」
「え? まだあの店あるの? 次の休みにでも行ってみようかな」

 昔将馬と一度行ったことのある店だ。すっかり忘れていた。有馬は僕の手を離すと俺も付き添いますと言った。

「え? いいよ、医大生は忙しいでしょ」
「いえ、気分転換にもなりますし」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陽キャと陰キャの恋の育て方

金色葵
BL
クラスの人気者と朝日陽太とお付き合いを開始した、地味男子白石結月。 溺愛が加速する陽太と、だんだん素直に陽太に甘えられるようになっていく結月の、甘キュンラブストーリー。 文化祭編。

しろへび先生は熱い肌がお好き

煮卵
BL
急に冷え込んだ秋の夜、白蛇の頭を持つ医師・綿貫は、冷たい体温のせいで倒れてしまう。 そんな彼を、あたたかい手で必死に抱きしめて温めてくれたのは、人間の看護師・根岸だった。 それ以来、綿貫は彼の「熱い肌」を忘れられなくて……? 様々な獣人種族が暮らす現代社会で、冷たい体温を持つ医師と、ふつうのヒトの看護師が、少しずつ「同じ温度」を探していく冬のラブストーリー。 ほっこり甘め、ハッピーエンド。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

君の1番にならせて‼︎

小麦
BL
【ツンデレ一途微執着年下攻め×無意識翻弄鈍感年上受けの幼馴染BL】  高2の夏希には学校に憧れであり推しの男子がいる。その男子の恋路を応援したものの、推しが幼馴染と付き合い始めたのを見て夏希はショックを受ける。  そんな夏希は、推しの彼女の弟であるもう1人の幼馴染・晴に話を聞いてもらうことにする。1つ歳下でツンデレ気味な晴が不機嫌ながらに夏希に告げた言葉は──?

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

琉海
BL
 不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。  しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。  迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。  異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

【16話完結】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」

処理中です...