スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第18話 もぬけの殻

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 深夜、巡回の目をかい潜り住民がクレハの家を訪ねてきた。

「頼むっ、ここから出たいんだ」
「どうぞ中へ」

 扉が開かれ男と妻、そして子どもが建物の中に入った。

 男がクレハに詰め寄る。

「本当に助かるんだよな!? もう空腹で限界なんだっ」
「もちろん助かりますよ。あちらの扉から中へ」
「はあ? あの扉から入るのか?」

 男は地下通路でもあると勘違いしたのか扉を開き呆然とした。

「え? は!? 外!? いや、なんだこれっ!?」
「おお、やっぱり来たか! 早く入って来いよっ。飯食えるぞ!」
「な、なにっ! わかった!」

 男とその家族が入ってきた所でレイは扉を閉める。

「な、なあ。ここは一体なんなんだ」
「レイって冒険者のスキルらしい。ここは世界のどことも違う空間にあって中で暮らせるらしいぞ」
「スキル!? こんなスキルがあるのか!?」
「あるみたいだぜ。俺もびっくりしたよ。ほら、お前らの分の食事だ。温かい内に食べな」
「あぁぁ……、こんな具沢山のスープに串焼き肉にパンまで……! ありがてぇっ!」

 男は涙を流しながら食事を口に運んでいた。それを見届けレイはクレハの家に戻った。

「戻った。他に誰か来た?」
「いえ。あ、今来ました! どうぞっ」
「はぁはぁっ、ここを出られるって本当か!?」
「はい。さ、あちらからどうぞ」
「助かるっ!」

 レイの作戦はこうだ。

 まずレイが籠を片手に町にある家を一軒一軒食事をもらうフリをしながら回る。そして中の住民と会えたら籠の中に書いた字を読ませる。

「あ、あんたにやる食い物はねぇんだ。悪いな」
「いえ……。では僕は他も回りますので……」
「俺も知り合いに食い物がねぇか声を掛けてみるよ」
「よろしくお願いします……では」

 籠の中にはこう記されていた。

『ここから出たいなら深夜、兵士に見つからないようにクレハの家に来てくれ。来たら食事とこの町から必ず脱出させる。俺と町長婦人のクレハを信じてくれ。そしてできたら知り合いにも声を掛けて欲しい。皆で助かろう』

 これを読んだ男が自分の知り合いに知らせ毎日少しずつ住民が箱庭の中に迎え入れられた。住民は戸惑いながらも温かい食事と久しぶりに安心して寝られる状況に安堵していった。

「クレハ、あとどれくらいいるかわかる?」
「わからないわ。もしかすると何人か捕まったかもしれないし、餓死者が出たかもしれないもの」
「わかった。明日最後に全ての家を回る。確認が終ったら深夜ここを脱出する。それで構わないな?」
「ええ、町の中だとまだ不安が残るから」

 翌日、レイは一人で各家を回り住民が残っていないか確認していった。するとそこに兵士が現れレイを突き飛ばした。

「物乞いがっ! そんなに食い物欲しいのか? ああん?」
「も、もう何日も食べてないんですっ。何か食べ物を下さいっ!」
「けっ。お前にやる飯なんかねえよ。黙って家の中で死んどけや」
「そんな……酷すぎるっ!」
「トーレ様に逆らうのか? お前も町長みたいにされたいのか!」
「ひっ。それだけは……」
「ならさっさと消えろ!」
「は、はい」

 一通りの確認は終わった。エスタの住民およそ五千人が今箱庭の中に避難している。後は兵士が言った通り消えるだけだ。

 レイはフラフラから演技をしながらクレハの家に入った。

「ど、どうでした?」
「大丈夫だ、もう町に住民はいない。いるのはトーレの配下達だけだ」
「で、では!」
「うん、今夜ここを脱出する。さあ、君も箱庭の中に」
「は、はいっ!」

 そして深夜、潜入した方法と同じ手段で外壁を飛び越えエスタの町を離れた。

 その翌朝、レイは駐留していたエルドニア軍の陣に向かった。

「止まれ! 何も……お前は確か……」
「はい。半月前に会った冒険者のレイです」

 兵士はエスタから王都に向かっていた時会った男だった。

「君か。今またエスタ方面から来たようだが……」
「はい。エスタの一般市民を全員救出し終えましたのでその報告に」
「……は? き、君は何をいっている?」
「ですからエスタの住民を救出したのですよ。今あの中には反乱軍の関係者しかおりません」
「い、いやいやいや! そんなバカな!」
「少々お待ち下さい」

 レイは兵士にバレない様に林に入り箱庭の入り口を開く。そしてエスタの住民全てを箱庭から外に出した。レイはその住民達と共に男の前に戻った。

「この方々がエスタの市民です」
「ど、どこから現れた!? この近くに隠れていたとでも!?」
「そんな感じです。これで何の憂いもなくあいつらの兵糧が尽きるまで入り口を封鎖できるでしょう?」
「あ、ああ。ちょうど突入するか迷っていた所でな。いや、待て。町長はどうした?」

 そこにクレハが並び兵士に嘆願した。

「町長の妻クレハでございます。夫は反乱軍によってたかって撲殺され、今も町の広場で晒し刑にっ! こんな非道が許されて良いのですかっ! 兵士様、お願いします! 必ずあいつらを処刑して下さいっ!」
「ち、町長を撲殺した上に晒し刑だと!? ド、ドーレめっ! あいわかった。後は我々エルドニア軍に任せてくれ。君達は危険だ。兵士を一人付ける。王都に向かい報せを待っていてくれ」

 そこでクレハが兵士に問い掛ける。

「あの、私達が休める場所などあるのでしょうか? およそ五千人ですよ。全員が王都に向かってしまえば城にある食糧の備蓄が足りなくなってしまうのでは?」
「そ、それはだな……う、う~む……」
「教会の支援などは?」
「あまり期待できぬだろう。孤児のための施設があるゆえ……」
「ですよね。そこで私達は決めました」
「ん?」

 兵士の首が傾く。

「私達は王都ではなくレイさんと共にアクアヒルに向かいます」
「アクアヒル? あんな遠くまでか?」
「はい。ですので兵士の方は必要ありません。少しでも早くエスタを陥落させて下さいませ」
「うむ。中に反乱軍しかいないのであれば正面から突撃もできよう。わかった、ではもうエスタには戻らぬのだな?」
「はい。エスタの頑強さは素晴らしいですが敵が内側にいた時の怖さを知りました。もう戻る事はありません」
「そうか。止めはせんが道中気を付けてくれ。町長の遺体は戦後にアクアヒルへと運ばせよう」
「はっ。では私達はこれで。レイさん、行きましょう」
「んんん?」

 レイは突然の事で混乱していた。クレハが兵士に一礼しレイの腕を引きその場を離れていく。

「何故アクアヒルまで……」
「王都に私達の住めるスペースなどありませんし。アクアヒルに着いたら希望者だけ外に出し、他の者は引き続き箱庭の中に住まわせてはもらえないでしょうか」
「な、なに!? い、良いのか?」
「はい。数日箱庭の皆さんと色々お話した上で決めました。箱庭の中は外の世界より人に優しい世界です。王都でひもじい思いをするよりは箱庭に住まわせて欲しいのです」
「わ、わかったよ。じゃあ希望者を募っておいてもらえるかな? その間に僕とリリーの二人でアクアヒルに向かうからさ」
「はい。かしこまりました、主さまっ」
「やめてくれよ、あなたまで……」

 こうしてエスタの民およそ五千人を箱庭に一時預かりとし、レイはリリーと共に王都向かい馬車でアクアヒルへと向かうのだった。
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