スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第17話 救出作戦

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 レイは闇に紛れ空から外壁内に侵入した。時刻は深夜、見回りも最低限しかいなく、その見回りも主に門を中心に巡回していた。

「よし、無事に潜入できた。さてここからどうするか……」

 一気に住民が姿を消せば流石にバレてしまう。そこでひとまず日中の様子を見るため一旦箱庭の中に戻った。

「あれ? どうかしたなの?」
「潜入できたからちょっと休みにね。朝になったら町に戻って少し様子を見るよ」
「町はどんな感じなの?」
「夜だからかな、凄く静かだったよ」

 するとリリーは首を傾げた。

「おかしいなの」
「何が?」
「エスタにも冒険者ギルドがあったはずなの。冒険者がおとなしくしているとは思えないなの」
「なるほど。それは確かに……。いや、もしかすると捕まってるのかも」
「ありえるなの」

 レイは椅子に腰掛け身体を休める。

「それも明日確認してみるよ。とりあえず装備は外して平民服で聞き込みしてみようかな」
「気をつけるなのっ」

 そして翌朝、レイは再びエスタに戻り町の様子を観察した。

「あまり外出してる人はいないな。それに元気がなさそうだ」

 町の中を歩いている人はまばらで、その誰もが下を向いて歩いていた。そんな町の住民にレイは住民を装い話し掛けた。

「おはよう」
「ん? ああ」
「まいったよな。いつになったら解放されるのかね」
「解放? そんなもん無理だろ」
「え?」

 男は溜め息を吐き空を見上げながら呟いた。

「冒険者ギルドの連中はいち早く放逐された。俺らが残されてる理由は一つよ」
「理由って?」
「放逐された冒険者ギルドから国に反乱が報告されるだろ? そしたら軍隊が来る。その軍隊が門を破り攻め込んで来たら俺らは盾にされるだろうよ」
「そ、そんな!」
「ドーレの野郎ならやりかねねぇよ。あいつは国民の命を何とも思っちゃいねぇ。ただのクズ野郎だ」

 男はフラフラと家の扉に手を掛けた。

「男は仕方ないにしてもよ、女子どもだけは逃してやりてぇよな。けどそれを直訴しに行った町長は……どうなったか知りたいなら町の広場に行って……いや、知ってるか」
「お互い生きような」
「はっ、もう希望も何もねぇさ」

 そう呟き男は家の中に入っていった。

「町長か。どうなったんだろ」

 気になったレイは町の中心にある広場に向かい、そこで絶句した。

「ひ、酷い……」

 町長は顔もわからないほど殴られ磔にされていた。全く動かないところを見るに既に事切れているのだろう。女子どもを助けるために直訴したばかりに町長は撲殺され晒し刑に処されていた。

「うっうっ……あなたぁ……っ」
「パパ……ッ! ぐすっ……」

 遺体の前で涙を流す女と子どもがいた。

「またお前らか! 煩わしいから消えろ! お前らもこうなりたいのか!」
「こ──」
「す、すいませんっ! ほら、行こう。兵士さんに逆らっちゃダメですよ奥様っ」

 兵士に口ごたえしそうになっていた女を慌てて止め、兵士の間に割って入った。

「なんだ貴様は」
「と、通りすがりの者です。人死にはあまり見たくないのでつい」
「は、離して! こいつらが夫むぐぅっ!?」

 レイは慌てて手で口を塞いだ。

「こいつらだと? 貴様……」
「く、空腹で気が立ってるんですよっ。勘弁してやって下さいっ!」
「ダメだ。我らを舐める奴は処す!」
「~っ、ここは一つこれで!」

 レイは兵士に最後の金貨を一枚手渡した。兵士は手の中を確認し、金貨をポケットにしまった。

「今回だけは見逃してやる。次はないからな!」
「あ、ありがとうございます。さ、行こう」
「むぐっ、むぅぅぅぅっ!」
「マ、ママァ~! 待って~!」

 レイは暴れる女の口を塞ぎながら路地裏に引き摺っていった。そして周りに兵士がいない事を確認し手を離した。

「何するのよっ!」
「何するのじゃないっ! 馬鹿かあんたはっ!」
「な、何よ……」

 レイは騒ぐ女を叱りつけた。

「あんな騒ぎ方したら殺されるだろっ。あんた一人ならまだ良い。そこの娘さんまで一緒に殺されていたかもしれないんだぞ!」
「あ……あぁぁ……っ!」

 言われて正気に戻ったのか、女は娘を抱きかかえ涙を流した。

「愛する者が殺されて悲しい気持ちはわかる。だが愛した者が自分のせいで死んだと知ったら死んだ町長も浮かばれないだろう。あんたは娘のために生きろ。な?」
「うっ──うぅぅぅ~っ」
「ママ~……」

 ひとしきり泣いて冷静になったのか、女は頭を下げ謝罪してきた。

「申し訳ありませんでした。夫を殺され動揺していたようです。私は町長の妻で【クレハ】と申します。この子は娘の【マリー】です。あなたは……」
「冒険者のレイだ。昨夜この町に潜入した」
「……え? 潜入!? ど、どうやってですか!?」

 レイは少しだけ空中に浮かんで見せた。

「こうやって外壁を越えてきたんだ」
「お、お兄ちゃん空に浮かんでる!」
「まさか……風魔法使い?」
「違います。けど空は飛べます。そして僕のスキルで皆さんを救出する事ができます」

 その言葉にクレハがすがる。

「それは本当なのですか!? この町の人達全員を!?」
「もちろんです。これから僕の力を見せます。あなたの家に行きましょう」
「わ、わかりました。町長宅はドーレが占拠しているので私の実家になりますが」
「そこで構いませんよ」
「はい。ではこちらへ」

 クレハに付いて町を歩く。日中はやや巡回する兵士が多いがそれでも門を中心に巡回している。そして昼近くになっても家から出歩く人は少ない。だが特に兵士達が生存確認している節はないため、数日かければ救出は可能だとレイは考えていた。

「ここです。さ、中へ」
「お邪魔します」

 中に入ると少しやつれた老夫婦がテーブルに着いていた。

「クレハ! あなたどこへ行ってたの!」
「お母さん……っ。夫が……うっうぅぅっ!」
「惨い事をする奴らじゃ……っ。ん? 君は……?」

 レイは老夫婦に頭を下げた。

「冒険者のレイです。あなた方の娘さんが兵士に楯突いていた所を止めたんですよ」
「っ! クレハ! お前またっ! マリーの事も考えろと言ったじゃろうにっ!」
「だ、だって! あいつらは悪魔よっ! 私の夫をあんな惨い殺し方してぇっ! 許せるわけないじゃないっ」
「だからと言ってな──」

 そこでレイが割って入った。

「そこまでです。今はこの状況を脱する話を進めます」
「だ、脱するじゃと? 無駄じゃよ。町の出入り口は兵士が固めておる。門に近づけば威嚇され、脱走しようものなら斬り殺されてしまうのじゃ」
「確かに警備は厳しいですね。でも僕には意味を成さないんですよ」
「なんじゃと?」

 そこでクレハが父親に言った。

「彼は空を飛べるみたいなんです」
「なにっ!? 本当なのか!?」
「ええ。昨夜潜入したらしく……」
「……ふむ。となると……夜中の内に住民を抱えて逃げるのかの?」

 その問い掛けにレイは首を横に振った。

「違います。脱出には僕のスキル箱庭を使います」
「箱……庭? なんじゃそれは? 初めて聞くスキルじゃが……」
「今見せます。そして脱出が成功すると思ったら僕の案に乗って下さい。乗ってくれたら必ず皆さんを救出してみせますよ」
「凄い自信じゃな。どれ、その箱庭とやらを見せてもらえぬか?」

 そして箱庭を見た一家は呆然とし、すぐさまレイの出した案に乗ったのだった。
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